えげれす通信 vol.37
昨今巷をにぎわせていた言葉、「癒し」だの「カリスマ」だのがありますが、 流行ってると聞くと、すぐにやたらに使いまくるのがニッポン人。 僕は基本的にこの姿勢は嫌いなんですが、 今回は敢えて使わせていただきましょう。 「リベンジ」。 前回書いた通り、僕のスコットランド旅行は、 散々な目にあいまくりのものだった。 全体としては愉しかったんだが、 代償が余りにも大きかった。 で、現在えげれす訪問中の友人M氏の希望もあって、 この週末、またまた行って参りました。 スコットランドリベンジ旅行。 出だしが重要なのは、前回、身に沁みて分かっているので、 今回は、きちんと調べるものは調べ、 予約するものは予約をして、完璧やった。 結局、人数と燃費と行程を考えて、 エジンバラ往復を列車、エジンバラで車を借りる方が都合がいいことがわかり、 チケット、レンタカー共に、ネットで予約完了。 今回の主目的である「蒸留所」の資料も用意し、 はっきり言って、今回の旅は、戦う前から余裕の勝利、 野球で言ったら、阪神が開幕を戦うようなもの(負けてるやん)。 そうじゃなくて、大鵬が卵焼きを食いながら巨人戦を観戦するようなもの。 #よくわからん。 要するに、準備万端なのである。 GNERのIC(インターシティ)は、快速で突っ走り、一路、北の都Edinburghを目指す。 列車の中で地図を見ながら行程を決め、 到着したのは、15:00過ぎ。 レンタカー会社はNational。 オフィスのありかを「i」で聞き、 バスに乗って、Murrayfieldなるところまで行った。 そしたら、なんと、そこは、スコットランドラグビーのメッカ、 Murrayfield競技場の目の前であった。 折りしも、6NATIONSラグビーの最終戦、 イングランドVSスコットランドの試合が、翌日行われ、 しかもその会場が、ここだという。 なかなかシュールな看板なんかも出ていたりして、 我々はなかなか喜んだのであった。 一寸迷ったけど、無事オフィスに到着。 さて、出陣、と思いきや、 鍵がかかっている。 初陣敗退 の4文字が、アタマをかする。 これじゃ、戦わずして、負けやないか。 大体、ひとけがない。 電気も消えてる。 然も、エジンバラに二つあるオフィスのうち、 「City」って奴なのに、それにしては、若干都心から遠いのだ。 周りは、自動車整備工場のようなもんが並んでて、 とっても殺風景である。 然し、まだ我々は余裕であった。 千代の富士が隆の里と千秋楽で当たる、くらいの緊張感はあるが、 なにせ、こちらは、予約が完了しているわけで、 連絡がつきさえすれば、勝ちに持っていける。 電話や。 そう、それで完璧やないか。 我々は、BTボックスを探した。 然し、あんな寒村でさえ、僕を救ってくれた、 大概の場所にきちんと常備されている公衆電話が、 近くにはさっぱり見当たらないのであった。 僕は、もう一度、予約の紙を見直した。 ・・・そもそも、電話番号がないやんけ。 時間は、既に17:30をまわっている。 曜日は土曜日。 いくら日が長くなって、20:00でもまだ薄明るい季節になったとは言え、 土日の営業時間が、全く、資本主義国だとは思えない程短いこの国では、 今から何とかするには、絶対的に遅すぎる。 我々は、戦って敗れたわけではないこの事態を、 暫く考えないことにして、 次の方策を講じた。 で、代替案としては、 1.駅にある別会社のレンタカーに行ってみる。 2.車はあきらめて、蒸留所のメッカ、Islay島(アイラ島)に行く。 が挙がった。 うむ、悪くない。 駅に戻ると、懸念された通り、駅のレンタカー会社も18:00で終了していた。 必然的に、2案実行しか残ってない。 然し、よく考えると、この案は、相当いいものである。 蒸留所巡りという、今回の主目的で行けば、 当初行く予定だった、Speysideの蒸留所群と共に、 Islayモルトは、超メジャーなところである。 災い転じて福となす、 棚から牡丹餅、 犬も歩けば棒に当たる。(一寸違うか) 幸運なことに、エジンバラの「i」はまだ開いていた。 応対してくれたおねぇちゃんは、 とってもいい感じの、なかなか可愛い子。 風邪を引いてるらしい。 「Islay島の行き方、教えてくれへん?」 「どこって?」 「Islay島ですわ。『あちらです』なんていう古典的ボケ返しは無しやで」 「いつ行くん?」 「今日」 「いつって?」 「だから今日やて」 「今からって?」 ねぇちゃんは、洟をすすりながら、 「マジかいや、にぃちゃん」と目で訴える。 ねぇちゃんは、あれこれと資料を引っ張り出し、 他の人にも聞いたりしながら、 5分くらいかけて、調べてくれた。 そして、バスと船を数回駆使して、漸く到達できるIslay島が どんだけ遠いところかということを、 可哀想な位の鼻声で訴えた。 「・・・だから、羽でも生えていない限り、今日は無理ね」 僕らはあきらめざるを得なくなってしまった。 これで、二連敗か? 千代の富士が引退したのは、確か連敗後の三日目だったなぁ。 途方にくれた僕らを見て、 おねぇちゃんが、洟をぐすぐす言わせながら言った。 「車じゃないの?」 「いえね、予約していたんだけど、事務所が閉まってたんよ。どないなってるんやろ」 「どこの会社なの?」 「NationalっていうとこのCityオフィス」 「空港のオフィスが開いてるから、電話して聞いてあげる」 おお。なんて優しいおねぇちゃんなんや。 花粉症ではないやろけど、 コンタック鼻炎用カプセルでも持参してたら、 一箱奏上したくなるような親切さやないか。 電話してくれた結果、空港に行きさえすれば、 車が借りられることになった。 「風邪引いたの?」 「そうなのよ。」目をしょぼつかせながら、「で、どこ行くの?」 「まだ決めてないけど、北のほう」 「Islayじゃないのね ニヤリ」 この天使のようなおねぇちゃんのおかげで、 我々は初の勝ち星を挙げることができたのであった。 この日は土曜日。 夕方でもあったので、最初から、蒸留所見学はあきらめていた。 翌日、日曜日でも開いてるところを探し、 そこに近い場所に宿を取るつもりであった。 結局、ピトロッホリーにある、 スコットランド最小の蒸留所「Edrador」に当たりをつけ、 その近辺に投宿することに決め、 エジンバラを後にした。 前回、僕が、失意の下に泊まったホテルを過ごし、 グラスゴーを過ぎ、 ローモンド湖を過ぎた頃には、あたりは暗くなっていた。 その晩は、結局、二軒断られたあとの、 割とどうってことないB&Bに荷を解いた。 飯を食いに、近くのパブに行ったところ、 飯はなくて、飲むだけしかできなかったんだけど、 そこで、予習を兼ねて、いくつかのモルトウイスキーを堪能。 ここのパブのおねぇちゃんは、なかなかの働き者。 しかも、一寸シャイな感じで、然も愛想は悪くない。 アゴは二重なんだが、それは許せるくらい、なかなか可愛らしい。 えげれす人に多い、 「じぶん、自分の足元見えへんやろ」 っていうくらい、肥えてるタイプではなく、 なかなかいい感じである。 我々は、いいウイスキーと、感じの良いおねぇちゃんに囲まれて、 なかなかいい時を過ごした。 で、そろそろ腰を上げようかという時に入ってきた客を見て、 僕は唸ってしまった。 彼女は、 「何で首ないねん」 っちゅうくらい、首が肩にめり込み、 足元はおろか、下を向くことさえもできないんでないだろうかというくらいの えげれす人典型的体格をしているのであった。 出て行くとき、ちらと見ると、 奴のTシャツは、流行の漢字Tシャツだ。 何と書いてあるのかと思って、覗くと、 「朕」 うーむ。チンねぇ。 何と言うか、迫力は、確かにある意味、あるわな。 妙な満足感と共に、我々は帰路についた。 この連続勝利を本当に実感したのは、 実は朝になってからのことであった。 この、なんていうことのないB&Bは、 実は、絶景の下に建っていたのである。 我々はいい気になった。 「こんなに勝ちつづけていいんだろうか?」 「負ける気がしないですね」 雪は降っていたけど、それで趣を増してる景色を堪能しながら、 ゆっくりと朝食を取り、 我々は戦闘体制に入った。 初戦は、「Edrador」。目指すは、夏目漱石も保養に来たという街、ピトロッホリー。 早く着きすぎたので、 街をぶらつき、時間をつぶしてから、蒸留所に到着。 僕は二度目の蒸留所見学。M氏にとっては、初である。 ここは、最小の蒸留所であり、僅か3人のスタッフによって、 モルトウイスキーが造られているのだが、 ヴィジターセンターは、かなり立派で、スタッフも沢山いた。 一通り説明を聞いて、試飲をし、折角だからと、一本買う。 この調子で、行く毎に、試飲+購入を続けていくと、 きっと大変なことになるだろうと、 些か不安を感じつつ、次の場所へ移動開始。 二戦目は、前回、早く着きすぎたため入れなかった蒸留所、「Glenlivet」。 是非、潰しておかねばならない相手である。 ここは、数ある蒸留所の中でも、 相当程度整ったヴィジターセンターがあるもののうちの一つである。 ロケーションは抜群、 味も文句無し。 然も、今回は、ありそうで案外少ない、 一面雪景色という風景も見ることができたので、 絶好調、とどまるところなしという感じ。 時代は、既に、貴乃花に代わったのか? ここでは、モルトウイスキーの製造過程とか、 味の違いとか、細かな用語とか、 そういうもんは詳しくは書かないけど、 簡単に言うと、モルトウイスキーのメッカは、大きく4つある。 Highland、Lowland、Speyside、Islay。 スコットランドの北部地方は、山が多く、 そこはHighland地方と言われるんだけど、 その地方のモルトは、ハイランドモルトと言われる。 その中で、特に、Spey川流域には、蒸留所が密集しているので、 そこのを特にスペイサイドモルトと呼ぶ。 南部、丘陵地帯はローランド、 そして、前出のIslay島にある7つの蒸留所で使用されるものが 非常に特徴があるアイラモルトである。 今回は、ハイランド+スペイサイドに重点を置いた。 で、翌日の月曜日が、今回の主戦となる日になるはずだったので、 この日、日曜日の宿をどうするかが、非常に戦略的に重要である。 戦略に加えて、宿そのものでも勝たねばならない。 然し、我々は、負ける気はしてないのであった。 常勝明訓という感じ。 スペイサイドの中心地であるダフタウンは、 前回僕が泊まった場所なんで、 それは外すとして、実は前回、こんなこともあろうかと、 絶景B&Bをいくつかピックアップしていたのである。 はは。 どや、この完璧さ。 君は完璧さ。オレも完璧や。 ボーイジョージも真っ青や。 絶景B&Bの一つは、断崖絶壁の真下に、 海に張り付くように10数軒の家が密集している、 極小の村、Pennanにある。 道は、断崖の上を走っており、 そこへ行くためには、1マイルほど、 鬼のように狭く急な坂道を降りなければならない。 流石に二度目なので、最初発見したときのような驚きはないけど、 絶景に変わりはない。 でてきたにぃちゃんに聞いてみると、部屋はあるという。 然し、不運なことに、海に面した部屋は塞がっており、 然も値段は多少高い。 seafrontだったら決めてもいいと思ったけど、 そうでないなら、固執することもない。 我々には、「妥協」の二文字はないのだ。 次に、途中で目星をつけていたFarmのB&Bを攻める。 Farm系は、僕もまだ未体験である。 なかなかよさげなロケーションで、 期待は高まる胸躍る。 しかーし、 ひとけがないのだ。 まぁ、B&Bにはよくあることだけど、 流石に連続だったので、若干不安感がよぎる。 然し、まだ持ち札はある。 少し手前のBanffという町は、 海に面していて、なかなか大きい上に、 趣もある佇まいであるのを、既に確認していたのだ。 いくつか見つけたところで、 その中の一つを攻めてみると、 何と「No Vacancy」の文字が。 もしかして、落ち目なのか?! そういや、貴乃花は、最近優勝してないやん。 すると、一寸険しい感じのおばちゃんが出てきた。 僕らは、ベルを鳴らした訳ではない。 こういう、資本主義的行動は、えげれすでは珍しい。 彼女は、相当のやり手なのか? オレらは、罠にはまってしまったのか?? 「泊まるとこ、探してるの?」 「そうなんです」 「ここ行くといいわ。電話しておいてあげる」 こういう「紹介パターン」は、僕は二度目なんだけど、 まぁ、親切は有難く受け取って、行ってみる事に。 大体こういう場合、 「紹介されたら断れない法則」 #但し、ニッポン人に限る。 によって、値段や部屋の感じを知る前に、 決まってしまうものである。 紹介されたら、断るのは悪いと感じる日本人は、 たとえ、隣に、いい感じのB&Bを見つけたとしても、 なかなかそういう風には切り出せないのだ。 然も、B&Bについては、 「一軒見つけたら、近くにうじゃうじゃあると思えの法則」 により、こういう場合は、よく実際に起こる。 このときは、然し、 出て来た若奥さん風の、感じのよさと、 外観よりも、内装の素晴らしさに、若干感動を覚え、 決めることにした。 若奥さんは、去年のコースのアカデミックアドバイザーの、 エナルドというおばちゃんに似てる。 エナルドは、恐ろしく仕事ができる似非えげれす人である。 つまり、一般えげれす人は、 期日に不正確、時間にルーズ、仕事は遅い の三拍子が綺麗に揃ってるんだけど、 エナルドは、 期日に正確、時間は守る、仕事は恐ろしく早い 然も、 しゃべりも速い という、愛すべきオバチャンなんだけど、 そのエナルドに似てるのだ。 しゃべりは、弾丸トークのエナルドとは違って、 なかなかゆったりとしたしゃべりをするんだけど、 世間話で、大学の名前を聞いてきたり、 然も専攻を聞いてきたりするところを見て、 僕は、彼女は、中流階級であることを確信した。 後で聞いてみると、果たして、二人の子供さんは、 エジンバラ大学とグラスゴー大学に行ってるのだそうだ。 この国では、大学に行くってことは、 即ち、中流階級であることを意味するので、 そう思って聞いてみると、彼女のアクセントも、 かなりsophisticatedされたものであった。 さて、例によって、パブに出陣。 昼は昼で試飲を重ね、 夜は夜で、ろくに飯も食わず、モルトを飲む。 全く良い旅である。 最初のパブは若干ハズレだったので、 次の店に替えたところ、ここは、 何度かあったこの旅におけるクライマックスの一つになったのだ。 最初、応対してくれたおばちゃんは、とっても感じがよく、 シングルモルトが飲みたい旨を言うと、 次々薦めてくれた。 おかげで、色々試すことが出来たのだが、 途中で現れた、オーソンウェルズみたいなおっちゃんがカッコ良すぎ。 オーソンウェルズは、常に微笑をたたえ、 包み込むような暖かさを醸し出している。 顔は、白い髭に覆われ、アタマも些か薄くなってるんだが、 それが却って一層の貫禄を与えている。 色々と、モルト話をしていると、オーソンが突然、 「うーっす」 と言う。 なんや、なんていう英単語や? 聞き返すと、再び、 「うーーっす」 続けて、 「サケ」 「こんばんわ」 などと言う。 そうか、彼もまた、日本語を持ちネタにしてるガイジンなのか。 それにしても、なんで「うーっす」やねん。 もう少しまともな日本語を教えろや>彼に教えた日本人 でも、前に住んでた寮の、食器片付けの陽気な黒人おっちゃんに、 「おげんきですか」 と言われて、 「ぼちぼちですわ」 という返しを教えてしまった、僕の先輩(vol.18&19を参照)も 似たようなもんやな。 さて、うーっすオーソンと、暫くしゃべっているうちに、 隣で飲んだくれてた、地元オヤジ二人も、話に加わってきた。 というのも、彼らが、テレビニュースのスポーツコーナーで、 ラグビーのところで反応したからだ。 そう、この日は、6NATIONSの、イングランドVSスコットランドがあった日。 ラジオで途中経過は聞いていたけど、 結末は知らない。 で、どっちが勝ったのかを聞いてみると、 「勿論スコットランドや!」 という。僕らも興奮した。戦う前から、イングランドが当然勝つと思っていたし、 途中経過でも、イングランドがリードしてたので、 よもや、スコットランドが勝つとは思ってなかったのだ。 僕らは、 「郷に入ったら郷を褒めちぎれ、の法則」 「然し、ラテンの曲はカバーしてはいけない、の補則付き」 「街頭で歌うときは事前に届け出よう、のアドバイス付き」 により、満更お世辞のみではないながらも、 スコットランドを褒め称えた。 彼らは、大いに気をよくし、 スコットランド人特有のネタを連発し、 最後には、僕らに奢ってくれたのであった。 別に、奢って貰うのが目的ではなかったけど、 素直に嬉しかったし、何より、一等愉しい夜になったので、 とても満足したわけである。 さて、翌月曜日は、主戦が続く。 この日の成果如何で、この度の星取りが決まるも同然なのだ。 土日が閉まってる事が多い蒸留所の状況から、 わざわざ一日ずらして、土−火で予定を組んだのも、 月曜日に本格的に廻るつもりだったから。 最初に行った「Glendronach」は閉まってたので、 素晴らしい景色の中、 僕の憧れの一つ、「Strathisla」に向かう。 この名前は、サントリー系外食店の名前にもなっており、 なかなか色々なドラマが演じられてきたレストランバーなので、 前から行ってみたいと思っていたところの一つなのだ。 ここは、とっても整備がされていて、 自分で廻るセルフツアーの形を取ってる。 麦芽粉砕物(グリスト)を70度の温水に浸して でんぷんを糖に変える過程、 イーストを加えて麦汁をアルコールに変える発酵過程、 発酵終了液(ウオッシュ)を蒸留する蒸留タンク(ウオッシュスティル)、 出来上がった抽出液(ローワイン23%)を再度蒸留するタンク(スピリットスティル)、 蒸留が済んだウィスキーの品質をチェックするスピリットセーフ、 そして、バーボンをを貯蔵した樽、あるいはシェリー酒を貯蔵した樽を 修繕した樽に入れて、最低3年間(法律ではそうなってる)貯蔵・熟成させる行程、 等々を見て廻るのである。 説明をしてくれたおねぇちゃんを初め、 全てのスタッフが、愛想の塊か、いうくらい 素晴らしい応対である。 どうも、えげれすっぽくない。 商業的とも感じられるこの雰囲気は、 矢張り、カナダの資本が入ってるからなのだろうか。 シーグラム社に買収されたこの蒸留所は、 超有名なブレンドウイスキー「シーバスリーガル」の 主モルトウイスキーを造ってるところなんだけど、 今までの、 「蒸留所の仕事の傍ら、客にも見せている」 という雰囲気ではなく、 「客に見せることも、独立した部門として整備している」 という感じがある。流石にカナダ。 というか、流石に、えげれす以外の資本主義国だ。 でも、これは、なかなか複雑な気分やね。 整備されているのは、見るほうから考えると好都合だけど、 過度の観光化は、趣を損ねる。 Visitorの勝手な感想だけど。 次に、日本でも有名な「Macallan」。 ここは、日本にいるときに、 「蒸留所を訪ねてくる人々にまつわる、ちょっといい話集」 みたいなもんを、申し込んだらくれるってんで、貰ったことがあって、 それ以来、毎年誕生日になると、カードがえげれすより来ていた。 でも、残念なことに、次のツアーの時間まで、だいぶ間があり、 なかなかタイトなスケジュールだったため、 泣く泣くパスせざるを得なかった。 然し、テイスティングだけはさせてくれたうえ、 めちゃめちゃ感じのいいおっちゃんだったので、 我々の心には、深く刻まれた場所となった。 この日は、こんな北国のスコットランドにしても、 恐らく珍しいんではないだろうかというくらいの 大雪であった。 この国は、兎に角天気がころころ変わるのは有名で、 雨が多いのも有名だけど、 意外と雪は降らず、降っても積もることはそんなにないってのは、 知られてない。 然し、この日は、完全に積雪があり、 雹が降ったり、地吹雪になったり、嵐になったりと、 猛烈な天気である。 そんな積雪の中、 奴らは矢張りそこにいて、 いつもながらの行動を実践しているのだが、 流石に、掘り出して草を食うのはしんどいと見えて、 どこぞに連れ去られて、いなくなってるのも多い。 でも、そこはそれ、奴らは白いので、 保護色ということも考えられるし、 奴らに疑問を持っちゃいけない。 何があってもおかしくないのが、奴らである。 散々これまで書いてるけど、 然し、見たことない人には、も一つ実感できないと思うのだけど、 兎に角、どんなところにも、どんな体勢でも、どんな状況でも、 奴らはいるし、いるからには常に食ってるのだ。 M氏は、既に羊の虜と化してるらしく、 「うーん、いませんねぇ。流石にこの雪だからなぁ」 と心配の様子。 彼もまた、実際に目の当たりにして、羊に取り付かれた人間の一人である。 前出の先輩然り、矢張り、こればっかりは、 実際に見ないと、あの感覚はわからない。 どうか皆さん、羊を見に、えげれすに来てください(笑)。 でも、僕らの心配をよそに、 やっぱり食ってる奴はいた。 「一匹見つけたら、近くにうじゃうじゃいると思えの法則」 から、探してみると、果たしてうじゃうじゃ。 矢張り奴らには、雪なぞ問題ではないらしい。 でも僕らには問題だったらしく、 蒸留所が雪のため、閉まってるところが結構あった。 次の「Cardhu」、その次の「Glenfarcles」、そして「Tomatin」と 三連敗をしてしまった我々は、 マッカランで、待ってでも見学して、 勝ち星を増やしておくんだったと悔やんだけれど、後の祭り。 結局この日は、1勝3敗2分(MacallanとGlenfarclesは、試飲はしたので)。 暗雲が立ちこめてきた感じがしないでもないが、 それは大雪のせいと、「責任転嫁」をするのを忘れない我々は、 自らを鼓舞しつつ、気を取り直して、宿探しに目を転じた。 時間も時間だし、場所も場所である。 つまり、次第に我々は、蒸留所が、 「一箇所見つけたら、近くにうじゃうじゃあると思えの法則」 に拠ってる地方、スペイサイドを離れてしまっている。 そうすると、石を投げれば蒸留所にぶつかる、という これまでの楽観的な状況とは違ってきているので、 計画的に動かないといけない。 最終日である火曜日は、夕方までにエジンバラに着かなければならんので、 それも視野に入れて、作戦を練らないといかん。 そこで、フォートウィリアムスの町にある「Ben Nevis」に照準を定め、 そこに近い、ネス湖沿いのどこぞの村で泊まることにした。 僕は、このルートは二度目なので、 通った事のない、ネス湖の南側の道を行くことにした。 これが、また、偶然、絶景の連続。 もう、ため息が出るばかりである。 いくつかの湖を過ぎた後着いた、 ネス湖の西端の町、フォートオーガスタスに宿を取った。 この日は、今までで一番、余裕があった。 何せまだ、たかだか17時である。 日は高く、人も多い。 程々の規模の町なので、B&Bも多い。 我々は、一軒一軒慎重に検討した結果、 ネス湖畔の、絶妙の場所に経ってる、恐ろしく素晴らしいB&Bに目をつけた。 残念ながら、湖に面してる部屋は取れず、 裏側で、然も高かったので、 おカネがない我々は、泣く泣くこの絶景ポイントを見送った。 それで、次に聞きに行ったB&Bは、生憎満室。 すると、、、オーマイゴー。 「紹介してあげるから、そっち行ってみて。私の母親のところなんだけど」 紹介パターンや。 然も、親切に、車で案内してくれる。 なんてこった。 こんな優しくていいんか。みんな。 じわじわと逃れられなくなる、優しさの蟻地獄を感じつつ、 僕らは素直に従った。 果たして、外観は、隣のほうがよろしいみたい。 うーむと唸ってると、いきおいよく飛び出してきたのは、 えげれすの典型的おばあちゃん。 満面の笑みで、元気良く、さぁどうぞと言う。 この笑みやねん。 これを向けられると、断れなくなるねん。 えげれす人は商売っ毛がなく、 とっても資本主義的ではないんだけど、 よくよく考えると、この笑みが底支えしてるのかしらん、とも思えてくる。 外観とは違って、中はとっても綺麗で、 おばぁちゃんはとてつもなく感じが良く、 然も安かったので、 我々は決めることにした。 で、まだ日が高いけれど、パブで飯を食うことにした。 このパブは、先ほど目をつけておいた、なかなかええ感じの店。 夕食メニューも載ってる。 そういや、今回、食事を出すパブに入ったのは初めてであり、 まともな食事をしたのも初めてだった。 そこで僕は、鹿肉のキャセロールというのを頂いたんだけど、 これがまた旨かった。 臭みがそれほどなく、柔らかくて、滋味があり、 昔食べた「鹿刺し」を思い出させてくれる味。 これはなかなかのヒットや。 大いに気をよくした僕は、さて、勉強を始めようかと、 酒瓶を眺めると、なかなか品揃えも良い。 ただ、値段が若干高かった。 というか、倫敦よりは勿論安いし、 決して高いレベルではないんだけど、 前夜の「うーーっすパブ」が、信じられないほど安かったので、 我々極貧パーティーは、撤退せざるを得なかった。 我々は、 「徹頭徹尾節約倹約の事。然し、モルト購入に関してはこの限りではあらず」 という鉄則の下、行動している。 M氏は、旅先であり、僕には、ディーゼルクラッシュというburdenが残ってる。 要するに、おカネがない。 幸い、Bowmoreを買ってあるので、 部屋でそれを飲むことにして、撤収した。 帰ると、おばぁちゃんがニコニコして、 「暖炉の部屋にいらっしゃい」という。 で、そこで、暫く、もう一客の、フランス人男性とチリ人女性のカップル、 そして、おばぁちゃんと共に、世間話をした後、 部屋で飲んで寝ることにした。 さて、最終日。 なかなか感じの良いカップルと共に、 なかなか眺めの良い部屋で朝食を取った後、 最初の目的地、「Ben Nevis」へ。 スコットランド最高峰の山の名前から取ったこのウイスキーもまた、 僕の行ってみたかったところの一つ。 今回の旅で初めての、素晴らしい天気にも恵まれ、 いい気分で、見学を終了。 ここは、ニッカに買収されているとかで、 流石日本企業、痒いところに手が届く気配りのアトラクションは良かったが、 残念だったのは、試飲が、選択の余地なく、ブレンドものだったこと。 今回は、シングルモルト(単一の蒸留所でできたモルトを主原料に造ったウイスキー)のみを 標的にしてたので、ブレンドウイスキー(モルトウイスキーと、 トウモロコシが主原料のグレーンウイスキーとのブレンド)は 一切パスしてきた。 ベンネヴィスには、両方あるんだけど、どうやらブレンドの方に力を入れてるらしく、 製品の種類も、圧倒的にブレンドが多かったのは残念。 味見したら、買おうと思っていたのに、これじゃあかんやないか。 結局、最初の心配をよそに、 まだ三本(Edrador、Glenlivet、Strathisla)しか買ってない。 というか、買えてない。 ちと残念。次こそは買おうと思う。 若干ハードな行程だけど、 海沿いの町で、僕の長年の憧れである、Obanに行くことにした。 絶対に、エジンバラには、17時までには着かないといけない。 車はいいとしても、列車の時刻が17:30であり、 これは、倫敦行きの最終でもあるのだ。 しかも、我々の切符は、鬼のような割引率で購入したチケットなので、 変更は不可である。 それを考えると、Oban行きは、若干厳しいかもしれない。 でも、どうも戦績が芳しくないので、 フィニッシュは、綺麗に決めておかないと。 終わりよければ、全て良し。 いい言葉や。 それで、一路、西に向かった。 Obanは、とっても風光明媚な街であり、しかもとてもでかい。 イングランドレベルで考えれば、大きいとはいえない町だけど、 スコットランドレベルでは、間違いなく、 大きい町の一つに数えられ得るくらいの規模である。 蒸留所は、町の真中にあると説明にはあったので、 些か厭な予感がしていたのだが、 それは現実のものとなった。 そこは、これまでの、どの蒸留所よりも、 ある意味、商業的なところであった。 ある程度の数を見てきたので、 大体のところがわかってきたんだけど、 まず、有料/無料の違い、売店の有無、ツアーの有無、予約のみ/予約無しでも可、 こういった違いがあるんだけど、それ以外に、 上述した通り、「見学」というものをどう位置付けてるかが、 各蒸留所で違うのである。 製造のかたわら序に見せてるところ、 見学専用のスタッフをおいてるところ、 ヴィジターセンター&売店を完備してるところ、 そして、見学部門を一つの目玉として売り出してるところ。 Obanは、この後者の最たるものであった。 まるで博物館のような建物。 そこでチケットを買って、入ることになってる。 ツアーの時間も組織的であり、 マッカランのような、牧歌的雰囲気はまるでない。 試しに僕は聞いてみた。 「時間ないんですよ。試飲だけっていうのは駄目ですか?」 「どうも、申し訳ございません」 マッカランは、向こうが勝手にグラスに注いでくれた。 グレンファークラスも、言う前に注いでくれた。 どうも、そういうのとは違うシロモノらしい。 残念だけど、仕方ない。 我々には時間がない。 終わりは、、、うーむ。 でも、無駄足だったけれども、Obanの街自体は素晴らしかったやんか。 それを確認できただけでも、まぁ良しとしよう。 何だか言い訳が多くなってきたなぁと呟きながら、 そして、千秋楽に勝ち星を挙げられなかった事を惜しみながら、 あとは帰るだけになってしまった道を急ぐ。 途中、絶景の連続は言うまでもないところなんだけど、 どこか一つ物足りないものを感じた僕は、 一つの解決策を考えた。 そして、これは、単なる妥協策ではなく、 正反合の弁証法的発展を含む、素晴らしい案である。 車は、無事、エジンバラに到着。 懸念された時間も、かなり余裕を残して着く事ができた。 思えば、最初に挫けた、そして先行きに不安をもたらした元凶の NationalレンタカーCity事務所も、この日は開いてる。 返し終わった我々は、残りの一時間を利用して、 城の近くにある、ウイスキー博物館に直行した。 ここは、前に来た事があって、 地下のテイスティングコーナーには、殆どのモルトが並んでる。 「オレら、学生やんな?」 「そうですね」 「勉強せんなあかんし」 「復習も必要ですね」 「予習もかかせん」 「必修ですよね」 「終わりよければ・・・」 「全て良し!」 というわけで、最後のお勤めを果たした我々は、 列車の中で飲むための「Knockando」を、階上の売店で購入し、 ぎりぎりの時間まで、勉強を続けた。 僕は、アイラモルトのうち、6種類を堪能できたので、 大いに満足であった。 列車は、なかなかの混み具合である。 「ロンドンキングスクロス行き」というアナウンスは、 とっても旅情をかき立てる。 ロンドンの駅で、逆のアナウンスを聞くのも好きだけど、 こっちで、遥かロンドンの名前を聞くと、 改めて、遠い世界に自分がいることを感じる。 何と言っても、「国際列車」なわけだから。 向かいに、なかなかカッコいいおっちゃんがいた。 我々の席は、4人向かい合わせ、そして真中にはテーブルがある。 することは一つである。 「飲みませんか?」 「ん?ビールのほうが好みなんだ。でも、じゃ、一寸だけ」 おっちゃんは、途中の、New Castleまで行くという。 この名前が出ると、仕向けるべき誘い水はただ一つ。 大阪に行って、縦じまユニフォームの話を振るのと同じ理屈である。 然も、この町の球団のユニフォームは、奇しくも白黒の縦じま。 更に、ファンのガラ悪さも、トラと同じである。 僕が餌を投げると、おっちゃんは、見事に食いついてきた。 「アランシエラー(イングランドフットボールチームのキャプテンでNew Castle Utd.所属)は 素晴らしいですよね」 「彼は一番だ。彼は素晴らしい。彼は・・・(以下省略)」 「ボビーロブソン(New Castle Utd.の監督)は優秀ですよね」 「彼は、えげれす人で最も経験豊富な監督だ。アレックスファーガソン(ご存知Man U監督)なんて ラビッシュよ。彼は・・・(以下省略)」 やっぱりビールを奢ってくれたおっちゃんは、 我々をなかなか愉しませてくれる。 口角泡飛ばし。 なんていうても、アツい。アツく語る。アツ過ぎる。こうでなくっちゃ。 散々語り尽くして、彼は降りていった。 さて、取り残された我々。 まだ、New Castleからは、だいぶある。 誰かいないかなぁと思っていると、 発車前、タバコを吸いに来た、なかなかカッコいいパキスタン人のおにぃちゃんが、 再びやって来た。 そう、この車両は、喫煙車なのである。 そんなこんなで、あれやこれやしゃべってるうちに、 こっちは酔いが廻り、 気持ちよくなってきた。 パキスタンにぃちゃんは、ドンカスターという町で降りたが、 我々はその頃は、既に酩酊状態。 そして、、、お決まりの結末を迎えた訳である。 「着いたでぇ」 そういう車掌の声で目を覚ますと、 何時の間にか、列車はロンドンに着いており、 客は全員いなくなってる。 酒瓶は、、、殆ど空。 我々は、討ち死に状態。 僕は、M氏を揺り起こし、 ホームに降り立ったが、同時に自分の状態を理解した。 はっきり言って、すぐに動ける状態ではない。 めちゃめちゃキモチ悪い。 彼は、ぴんぴんしていたが、 僕は、蒸留酒特有の気持ち悪さを目一杯感じながら、 彼と別れて、家路についた。 めっちゃキモチ悪い。 ---------------- 現在、これを書いてるのは、水曜日、つまり、帰ってきた翌日なんですが、 僕には、また一つ、書き加えなければならない法則がある。 「蒸留酒の二日酔いは、復活まで鬼のように長い時間がかかるの法則」 溜息。 |
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