えげれす通信 vol.47
遥か上空で小鳥の囀りが聞こえる。 コンバトラーVのマイケルは、鳥好きらしい。 突如、彼が下界に顔を下ろしてきて言った。 ごー、と音がする。 「そうだ。玲。来週の土曜、パーティーしたいと思うんだ。 よかったら、誰か友達連れてきなよ」 ありがとう、と礼を言うと、 彼は再び、雲海の彼方に消えていった。 前にも言ったように、 この家は、フラットシェア形式である。 つまり、全くの赤の他人5人が、 5つのベッドルームを占拠し、 台所・バス・トイレ・玄関などの部分を共有する。 その住人の一人が、 巨大なアメリカ人、マイケルであることは前回書いた。 愈々、今回、新たに二人の登場人物が出てきます。 ひゃっほー。 僕はそんなに英語ぺらぺらじゃないし、 更に悪いことに、日本人の、然もオトコの典型、 「話し掛けるのが苦手」なもので、 彼らが、例えば、共有スペースの台所とかに溜まって しゃべっているところへは、 なかなか行けないのだ。 怖いやん。 いかんこととは分かっていながらも、 なかなか難しい。 恥ずかしさが抜けないのですね。 アホになれない。 これ、語学習得の敵です。 だから、実は、他の面々とは、 そないにしゃべったことはなかった。 女性が二人いて、 一人はエミリー、一人はアビという。 両方えげれす人。 で、この近所出身らしいが、 訛りはなく、綺麗な英語をしゃべるところを見ると、 ええとこの育ちなんでしょう。 エミリーは、ブロンドの可愛い子。 性格も可愛く、声も甲高い。 至って気さくで、 僕がモジモジくん状態になってると、 「どうしたの、坊や?」 と、まぁ、デパートのおねぇさんみたいなもんである。 会話をリードしてくれる優しさも持ってる。 あるとき、ノックの音がするので出てみると エミリーがいた。 僕は半裸だったので、ちょっと待ってくれと言って、 スウェットを穿いた。 「いやいや、半裸やってん(笑)」 「(笑)」 彼女は、一寸思案げにこっちを見て言った。 「お願いがあるの」 「なんでしょ?」 「あなた、パソコン詳しいわよね?」 「ええ、まぁ。」 「私、今からロンドン行きたいんだけど、列車の時間がわからないのよ。 もし良かったら、調べてくれないかな?」 「いいよ。一寸待っといて。」 GNERという会社のIC(インターシティー)が先日、 ハットフィールドで起こした脱線事故を重く見た当局は、 全鉄道会社に、線路の総点検を命じ、 結果、ダイヤが乱れまくり、遅れが出まくりになっている。 さらに、全土を襲っている洪水のため、 えげれす交通体系は最悪の状態にある。 今現在、ダーラムからロンドンに行くのは、 結構難しいのであった。 「素敵。じゃ、お願いするわね」 「ええよ。台所で待ってなよ」 僕はさくっと終わらせると、 大声出してエミリーを呼んだ。 コンコン 「はい」 「今度は全裸?(笑)」 「いつも素っ裸なわけやない(苦笑)」 という軽いジャブを交わした後、 彼女は入ってきて、 僕の部屋を、興味深そうに眺めてる。 「何でもあるのね」 「そんなことないやろ」 「Faxまである!」 「珍しい?」 「なんか、別なことやってるんじゃないの?闇のビジネスとか!」 エミリーは、なかなかラブリーな子なのであった。 さて一方、アビはというと。 こちらは、典型的なえげれす女性。 人見知りするのかどうかは知らんけど、 基本的にえげれす人は、 自らあまり他人の領域に入ってこようとしない。 友人になってしまえば違うけど、 初対面とか、あまりまだ話してない時などは、 「気さく」な人は珍しい。 エミリーは例外。 アビは、なんちゅうか、確り者なのね。 結構掃除機とかかけたり、 トイレに工夫をしたり、 バスマットが塗れたままで敷いてあったら、 それを干してみたり。 なんちゅうか、えげれす人っぽくない神経、 つまり、言うてみれば、「おかん」タイプなのだ。 当然「息子」である我々は、 おかんが怖い。 夜中に腹へって、台所でごそごそしてたら、 「あんた、何してんの。夜は寝るものと、昔から決まっとんのや。 やーやーせんと、早よ、寝!」 とか言われても可笑しくない雰囲気(笑)。 さて、登場人物が揃ったところで。 土曜日になった。 僕は、色々考えて、逃げモードに入ってた(笑)。 タダでさえ、ネイティブ4人に包囲されて 手も足も出んのに、 何人来るかわからんやないか。 怖いよー。 助けてー、おかん。 は! おかんアビも英語やー。 巨人マイケルには、招待されたとき、 誰か友人を連れてきたら、と言われた。 そんもん、まだおるわけがないんで、 それもあって、単身乗り込む勇気はなかった。 なので、夜がふけて、 どんどんキッチンに(会場はキッチンだった)集まってくるえげれす人の群れを見て、 僕は、子羊の如く、怯えていた。 既に、腹が減っても、台所へはいかれへん。 何食おうかなー。 買いに行くか? そう思ったとき、ノックの音。 「マイケルから聞いてると思うけど、今晩、パーティーがあるのよ」 エミリーだ。こんな親切心をもってるのは、 彼女ぐらいしかおれへん。 「え、ああ、うう。知ってる、よ。一応は」 「まだ早いんだけど、もう少ししたら始まるわ」 「オレ、招待されてるんかな?」 「何言ってるのよ!貴方はここの住人でしょ。当然じゃない」 嬉しさ半分、お節介さ半分、と云った所か。 「わ、わかった。あと少ししたら行くわ。ありがとう」 僕は、部屋に戻り、また仕事を始めた。 暫くして、ノックが再び。 「何してるの!早くおいでよ!」 エミリーだ。 誘ってくれる、 というか、この不安げな気持ちを後押ししてくれるような強引さは、 嬉しいようで、哀しいようで。。。 しょうがないので、行ってみる事にした。 ビバリーヒルズ青春白書とか、 その他、もろもろの青春映画とかで、 「ホームパーティー」なるものがよくありますわな。 あれって、はっきり言って、日本では想像つかんし、 現実的でもない。 先ず、そんなスペースがない。 一人暮らしの大学生は、 大体、ワンルームマンションとかに住んでるんで、 そんな会場を提供できない。 で、自然、少人数飲み会とか、鍋とかになる。 仮に有ったとしても、 あんなに近所迷惑になるほどの大音量で音楽をかけ、 あんなに大人数を招待し、 まるで「クラブぅ」のような状況を、 一個人の家で演出するというのは、 日本的ではないわな。 しかるに、この台所は、まさにその「クラブぅ」状態になっていた。 音楽、うるせえうるせえ。 人、うじゃうじゃ。 酒瓶、転がりまくり。 食い物のカス、散らかり放題。 ねぇちゃん、やっぱりもろ肌脱ぎ系(但しここは屋内だから許す)。 僕は、こういう煩い飲みは好きやないって言うてるやんか。 身の処し方に困りつつ、突っ立てると、 エミリーがあちこちに紹介し始めた。 僕は段々と状況を掴めてきた。 人類学徒は、eventに参加しつつ、 はたまた客観的に観察しなければいけないのだ。 どうやら、全員知り合いというわけではないらしい。 というか、それぞれ、知らん人の方が多いらしい。 これは、ひとえに、このパーティーの主催者である、 巨人マイケル小鳥好き、パツキンエミリー、おかんアビの三人が、 自分の友達を誘い、彼らがまた誰かを誘い、、、というふうに、 ねずみ講式に参加者が増えていく仕組みになってるらしい。 その証拠に、全ての参加者の、扇の要である三人が、 至る所で至る人間を至る人間相手に「紹介」してるのだ。 なるほど。 よーできてるわ。 これなら、知らん人のパーティーでも、 その場で知り合いになれればええわけや。 そして、その際最も重要になる「ホスト」役の務めを、 エミリーはなかなかきちんと果たしていた。 さて、僕は、というと、 初めての雰囲気に押されながら、 まず、勝手知ったるコンバトラーVの元に行き、 嘗て戦った敵の話とか、 自分の超合金がデパートで売られていてどう思うか、とか、 身長57m、体重550トンは、この世界では「太りぎみ」には当たらないのか、とか、 まぁとりとめのない話をしてた。 そこに入ってきたのが、ジンバブエ出身のおにぃちゃん。 すかさず、ホスト・マイケルが、紹介してくれる。 「こっちは、玲」 「こっちは、高山(註:酔っ払ってたので記憶違い有るかも)」 一寸待ってと、僕は言った。 「『高山』って何よ?」 こっちの世界では、ファーストネームで呼び合うのが常なので、 「TAKAYAMA」は彼のファーストネームやろ。 ちょ、まて。その前に、彼は、ジンバブエ人やで! 高山て。。。 「ほんまなん。それ?」 「ほんまやねん」高山氏、曰く。 笑うマイケル。 彼も、どうやら、これが、日本でメジャーな苗字だということを 知ってるらしい。 さて、この高山氏、陽気である。 ブラックで陰気な人っておるんかな? まぁ、リズム感悪い黒人とか、 辛いもん食べるとすぐ下痢する泰人とか、 暑さに弱いアフリカ人とか、 おることはおるんやろけど。 で、僕が成程と思った第二の点は、 こういうパーティーでは、適当に動いて、 適当に輪の中に入って、 適当にあちこち話し掛けるんやってこと。 で、初対面だと、お互いが紹介し合い、 一人共通の友人がいれば、 紹介するのはその友人氏の義務であり、 そのようにして、いろいろな人間と話をしていくんやね。 ふぅむ。 なかなか良く出来てるやないか。 お見合いパーティーみたいなもんか。 人類学徒の観察は続く。 ここらで、こっちも実践に移りますか。 多少、ガソリンも補給して、 アタマはええ感じにどんよりしてきた。 隣に金髪の、むっちゃ美人がおった。 彼女に目を向けて会釈すると、 話し掛けてきてくれた。 まぁ、僕は、いわば、あの場においては、「ままっこ」みたいなもんやね。 こっちも、また、ぎこちない「初心者光線」を出してたし。 「ハイ。私は○○(煩いのと、あまり多くの人間を紹介されたのとで、名前失念)」 「僕は玲」 で、そこから、とりとめのない話を繰り返した。 彼女は、なかなか優しく、かつ綺麗やった。 で、結構盛り上がってるところに、 おかんアビ登場。 手には、買い物篭をぶらさげてる。 篭の中には、551の豚マンが入ってる。 「ハイ。玲!」 実は、おかんとまともにしゃべったことはあまりなかった。 だって、怖いんやもん。 えげれすの若い女性は、なんちゅうか、結構怖い人多いねん。(サラ話、参照) おかんのアビは、実はいい人のようだった。 この、金髪ねぇちゃんは、アビの友人らしい。 「私はないけど、アビは日本に行った事あるのよ」 「え?そんなん、聞いたことないでぇ。アビ、ほんまなん?」 「え。うん。実はね。小淵沢に行ったのよ」 初めてのえげれす旅行で、北の果ての「John O'Groats」に行ってる僕も 自分でなかなかのもんやと思うけど、 小淵沢って、、、(^^; さすが、おかん。ただものではないらしい。 アビ曰く、 「日本食は素晴らしいわ。ただ、味噌汁だけ、苦手なのよ」 彼女は、「miso soup」と言いつつ、肩をそびやかした。 「そうか。今度、何でも作ってあげんで」 「いいわねー。じゃ、てんぷらお願い」 おかん、流石に痛いとこを突く。 てんぷらは素人料理やないってことを心得た上での発言なのか? 若干怯む僕。 「あ、、、、うん。ほんなら今度ね。あ、きみもおいでぇな」 一応、金髪おねぇちゃんにも言っておいた。 おかんとの戦いは、今後も続く。。。 みんな、へろへろになりだした。 人数も、増えたり、減ったり。 まぁ、パーティーで、オトコとオンナが入り乱れ、 することは、どこの国も一緒やねんな。 僕は、今回は観察者に徹底したけど、 機会があったら、試してみてもええかもしれん(何をや(笑))。 あ、でも言っておきますが、ここは僕らの家なので、 ややこしいことはできまへんで。 スペースがない(笑)。 チューのみね。 僕は、いろんな子と結構しゃべり、 いろんな奴とも結構しゃべり、 なかなか満足して、部屋に戻った。 なんか、欧米式の、所謂「パーティー」って奴が ちょこっとだけ分かった気がした。 そして、、、案の定、 今朝の台所は、恐ろしい惨状である。 西欧人恐るべし。 汚すことにかけては、天下一品やな。 おかんアビが、掃除の号令をかけることになるのだろうか。 今、様子を見つつ、これを書いてます(笑)。 |
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