えげれす通信 vol.50

えげれす通信vol.50 ■おいに■ 4th/Mar/2001

近くのニューカッスルという町に
なんと、日本食材屋さんがあるらしいという情報が入ったのは、
およそ二週間前。
詳細を見てみると、
寿司の持ち帰りOKとか書いてある。

ニューカッスルには、
日本料理屋が二軒(知ってる限りでは)。
ニューカッスル以外、この近くの町に、
そういう、日本食材を扱ってる店がありそうなでかい町はないので、
絶対何かしら、そういう店はあるかと思ってたけど、
まさか、そのものずばり、日本食材屋があるとは。

僕はこの情報を聞いたとき、確かに熱狂した。

毎日刺身

こんな素晴らしいことが世の中にあるだろうか(いやない)。

思えば、去年。
オオヤとの共同生活で、
身も魂もすり減らせていた(もとい、「身」は大丈夫)僕は、
唯一の楽しみは、週一の「刺身&日本酒デー」であった。
腐ってもロンドン。
入手可能な刺身の数は、平均7、8種類はある。
日本酒も、カネさえ出せば、そこそこのが手に入る。

それがいまや、
「刺身」といえば、スーパーの、ぺたぺたになってる切り身を、
目をつぶって一気に飲み込む「ロシアンルーレット」系。
酒は、ロンドンに用事で行ったときに、
リュックに4升くらいを背負い、
往復6時間かけて運輸する「かつぎ屋」系。

何故、そこまでせんならんのか??

オレが聞きたいわ。

然し、ニューカッスルに刺身があるとなれば、
毎日でも買いにいけるがな。
うちからニューカッスルまでは、列車で15分。
去年、ロンドンで、家から店まで行くのと、
大して変わらんわけや。

毎日刺身

くぅ。
なんという、甘美なる響き哉。

というわけで、
ずっと、気になっていたこの店、
本日漸く偵察に行ってきました。

中央駅から地下鉄で三駅。
そこから10分くらい歩いたところに、
その店はあった。

感じとしては、
そこらへんにある、普通の雑貨屋みたいな雰囲気。
というか、広さ。
棚に、ちょこちょこと、色々なもんがおいてある。

ざっと見ると、
まぁ調味料系(醤油・味醂・だしなど)はほぼ網羅、
野菜は殆ど無し、
お菓子若干、
そして、そんなことより、
僕の一番気がかりな、刺身と日本酒を探さねば。

ところで、ここの主人と思われるおやじ、
これが、何と言うか、ちと怖い。というか不気味。
喩えるなら、

「桂ざこばが、芦屋雁之助に育った感じ」

関西人しかわからない喩えやな(笑)。
そして、もう一人の店員(恐らくは息子)。
これが、

「小林亜星が、やや血色悪く、若干若返った感じwith無精鬚」

要するに、どっちも肥えてるんですな。
さらに、雰囲気がなんとも怪しい。
この二人が、けだるい昼下がりの午後、
しーんとした店内で、
さして話をするわけでもなく、
二人、微妙に離れた位置で、
ぼーっと座ってるのである。

「刺身はないんでしょうか?」

僕が聞くと、ざこばが寄ってきて、
ぶっきらぼうに答える。

「今日はねぇ、サーモンが少しならあるよ」
「はぁ」
「あとは、そこの冷凍庫の中に、イカがあるね」
「はぁ」
「マグロは今日はないなぁ」
「そうですか」

「ときに、日本酒はあります?」

すると、亜星が、意外にも機敏な動きで寄ってきた。
前掛け(エプロンやなく、「前掛け」という感じ)が、妙に似合ってる。

「あ、こっちです」

僕はカウンター越しに眺めていると、
亜星がボソボソという調子で、数種類ある酒の値段を説明してくれた。

「・・・黄桜が19ポンドです」

黄桜、ね。。。
矢張り、この地で日本酒をゲットするのは
儚い夢であったか。。。

然し、うちにはまだ、
日本帰国の戦利品が残ってんねん。
刺身さえ手に入れば、文句は無い。

「じゃ、そのサーモン、もらえますか?」

僕は、店内を見回して、
最近ずっと食いたいと思っていた、らっきょう酢漬けも購入。
支払いのとき、ざこばに聞いてみた。

「刺身はどこから仕入れてるんですか?」
「サーモンは、スコットランドだね」

ざこばは、笑わないのである。
かといって、顔が引き締まってるわけでもない。
何と言うか、愛想を振りまきたい意思はある、しかし、
顔が言うこと聞かんのじゃぁ!しゃぁないやんけ、アホボケカス!みたいな感じやね。
なんか、勢いがない逆キレ状態、ってなところか。

僕は、かなり気持悪くなってきたが、
勇気を出して、もっと突っ込んでみた。

「他のんは?」
「マグロはスペイン」
「ニューカッスルには魚市場はないんですか?」
「あるよ。でも入(れ)ない」
「え?お店やってはっても、市場に入れないんですか?」
「いや、入らないんだよ。せいぜい鱈くらいしか、あの市場にはね。あと時々海老くらい」
「はぁ」
「イカが手に入るのはロンドンくらいじゃないかね」
「そうなんですか。。。」

これは有益な情報である。
と、同時に、長い間の有耶無耶が解けた。
ニューカッスルは港町である。
魚市場も有るらしいというのは知ってた。
そしたら、なんで、街中に、魚屋がないねん?

「鱈しか捕ってないんちゃうか?」

ネタでそう言ってはいたけれども、
事実やったんかい!

ふっとい声で、
然もなんともけだるい調子で、

「ありがとうございましたぁー」

という二人の声を背に、
僕は家に帰ってきた。

久しぶりの「刺身&日本酒」ぅ♪
全てをセッティングして、
らっきょ、漬物、鯛味噌などの副菜も設置完了。
さて。。。

よっしゃ。
旨い。
久々のモノホン刺身じゃぁー。

今回は、じっくりゆっくり食うことにしたので、
時間をかけて、あれやこれや、サイドメニューを攻めながら、
時々サーモンを口に運ぶ。

実は、一切れ目から、気になったことが一つ有った。
然し、それを意識すると、
そこから果てしなく妄想が拡大するであろうことを
僕は心底理解していたので、
えげれす人のように「Never mind」作戦にでていたのだ。
気づかないフリをすれば良い。
オレが指摘しなければ、
この問題は、「問題」として表面化しない。

然し、半分以降、声に出さずにはいられなくなった。

「・・・」
−なんか、このサーモン、臭うで。

問題は、遂に「顕在化」した。

「?」
−まぁ、ぷるんぷるん、身が踊るようなのんは無理に決まってるわな。
 ここは外国。然もロンドンやない。贅沢は敵や。完璧を求めてはならん。

言った手前、慰めないと。傷つくのはオレである。

「??」
−いやしくも日本食材屋で「刺身用」と言って買ってきてんから、
 えげれすスーパーの切り身@「絶対加熱せよ」を
 自衛山葵大量に塗りつつ、目をつぶって食うのとは訳がちゃうわな。

気づいた手前、慰めないと!不安におののくのはオレである。

「!」

−然し、この臭い、消えんな。
 恐らく、家に帰り着くまでに運んだのがよくないんやろ。
 少し、冷蔵庫に入れてみよう。
 冷やしたら、臭いも紛れるかもしれん。

んなわけあるかい!と言いたいのをこらえる。救済されたいのはオレ自身である。

・・・

「!!」

冷やしても、臭いやんけ<「当然や」とセルフ突っ込み
うまいもんは、うまい。
臭いもんは、臭い。
鶴瓶も、長いこと、そう主張しとるがな。

最初は喜んで食べてた刺身も、
一旦、疑念が生ずると、
妄想が次から次から襲ってくる。

なんか、糸引いてんのちゃうか。
ざこば、そういや、「今日はこれしかない」言うてたな。
あとは「冷凍しとくんです」言うてたし、
完全、残りもんやんけ。
亜星が持ってきたとき、
ラップがかかってたし、臭いは届かんかったんやわ。
ほんま、いけとんか?これ。
せやけど、山葵には「超強力な殺菌作用がある」って、
昔「試してガッテン」でやってたしなぁ。
山瀬まみも、最近いくら出番がないからって、
英国一人暮らしの学生を追い込むことはせんやろ。

然し、どう考えても、
この臭いは「古い」臭いやぞ。
味的には大丈夫やけど、
内臓最近、弱なってるしなぁ。
いくら山葵が「ハウス特選生わさび」だろうが、
「単純に古い刺身」の雑菌に、果たして通用するんやろか?
「暴れん坊将軍」はめっちゃ強いけど、
「水戸黄門」にゲスト出演して敵対したら、
助さん格さんの2トップには、矢張り敵わんやろ。
然し、「三匹が斬る」やったら、もっと強いんかな。
数では勝ってるし。
せやけど、小朝は戦力外やし、まぁ対等か。

・・・いやいや、要するに、
強力な一騎に、強力な二騎が当たったら、数の論理になるしな。
これは、矢張り、やめた方が無難ちゃうんか?

病は気から。
昔の人は偉いね。
不安感を覚えた瞬間から、
なにやら、腹の調子が悪なってきたような気がした。

「うぉぉ。ゴロゴロいうとるがな」

普段なら、牛乳の飲みすぎゴロゴロとか、
そういうしょうもない話になるはずのものでも、
一旦取り付いた不安感は、一寸やそっとでは追い払えない。
「えげれすスーパー@絶対火を通せよ通さんかったら一切知らんで」切り身も、
食うときの決死の努力と不安感があるので、
実は大丈夫なのかもしれんけど、
味覚を楽しむまでには至らないのですな。
まぁ、毒と知ってて毒を飲み、
いつ発病するか、いつ症状が出るのかと、
全神経を自らの体の変調察知にかたむけているような緊張感。
そういうギリギリの営みなのである>スーパー切り身を生食。
今回は、それはないやろと思ってたけれども、
どうやら、古かったらしい。

まぁねぇ、ロンドンやないしねぇ。

いくらかは仕方ないんやろとは思う。
それと、ざこばも言うてたけど、
毎日あるわけではないと。
つまり、仕入れと、捌く日ってのが、
割りと決まってるので、
来る前に電話で確かめてくれと言ってたわな。
まぁ、入荷が難しい上に、
売れるかどうかも分からない生もののことやし、
ある程度は仕方ないんでしょ。

僕は、そう自分に納得させて、
今回は、泣く泣く、サーモンをほかした。

「・・・気をとりなおしてぇっ、とぉーぉ♪(桂小枝ふぅ)」

らっきょうを摘む。
甘酢漬けらっきょうは、僕の好きな酒菜である。

「この『さくっ』感がええのんや。どれ、、、にゅる、う?」

だー。
歯ごたえないやんけ。
べしょべしょやないか。

まさかとは思いつつ、賞味期限を見ると、

99年2月27日

ざこば、ええかげんにせえ。


 



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