えげれす通信 vol.52

えげれす通信vol.52 ■慣らし運転■ 4th/Jun/2001

新車のエンジンパフォーマンスを上げるのに「慣らし運転」が必要な様に、
日本帰国にあたっては「準備運動」が必要である(嘘)。
いや、ほんまは、単にこじつけの理由に過ぎんのやけど。

思えばダーラムに引っ越してからの9ヶ月間、
ロンドン時代を思えば、
相当程度、暮らしの中のニッポン指数が下がっていますわな。

去年は、食材はすぐに手に入る、
日本酒&刺身も苦労せず、
周りはニッポン人だらけ。
ほんまに、ここはえげれすやろかと、
本人も首をかしげることしばしば。
然し、逆にいうと、ロンドンってとこはそういうところなんですな。
つまり、日本人に限らず、
色々な人種のコミュニティーが存在し、
それなりに故国のものが手に入ったりするのが、
人種の坩堝、ロンドン。
そういうところに2年もいると、
適当に日本の物が手に入ることにも、
さして感動しなくなる。
それが「日常」に思えてくる。

然し、矢張りそれは、そこが「ロンドン」だったからで、
ロンドンを離れれば、そう言うわけにはいかなくなるのは当然ですな。
「日本指数」を同レベルに保とうとすると、
「2年もの」のラッキョウやら、
「をいに」の香り芳しい刺身やら、
あるいは、一升瓶数本をリュックに背負い、
コーチで6時間の苦行に耐える「買出し」やら、
まぁ様々な難儀が待ち構えてるわけである。

そやから、僕の今年の「日本指数」は、
悲しいかな、相当程度下がったわけである。

現在、「Japan 2001」なる企画が進行中で、
先日は、ハイドパークで、
出店が並んだり、イベントが行われたりしたそうな。
そこでは、来英中だった皇太子とチャールズ皇太子が、
共に阿波踊りを踊ったとかがニュースになっておりました。

チャールズって、妙に、はっぴとか似合いそう。。。
鉢巻系、いけてそう(笑)。
一寸「祭り顔」ちゃうかな。

こんなイベントも、
ロンドンにいればこそ、堪能できるというもの。
地方暮らしは、そういうところが実に辛い。

因みに、皇太子は、その晩は、
「ウィンザー城にお泊り」したとか。
まるで「B&Bのノリ」である。
朝食もついてるんやろか?
矢張り、ビーンズとイングリッシュソーセージが出てくるのだろうか。
どんなもん食ってるのかなぁ。
気になる。

さて、そんな訳で、
最近は日本指数が下がり気味の僕ですが、
このたびの帰国に際して、
「慣らし運転」モードにそろそろ入らないといけない。
上手い具合に、ロンドンに行く用事が出来たので、
日ごろの鬱憤を晴らすべく、
気合入れて行って参りました。

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今回の用事は、えげれす撤収の荷物運搬と、飲み会参加(笑)。
前回の「ヒッコシ」は国内移動だったから、
全ての荷物を運搬しないといけなかったけれども、
今回は、日本に送り返すものが殆どなので、
郵便局に運ぶだけでよい。
車の荷室の大きさとかにも悩む必要がないので、
だいぶ気は楽である。
然し、郵便局に、ダンボール10数箱運んで、
列に並んで、宛名ラベル書きして、
重量計って・・・etc.という作業を、
全くの一人でやらなければならないのは、
流石に気が重い。
これまた、ロンドンなら、ヘルプ頼める人間もいるのに、
ここにはそういう知り合いはいない。

色々考えた結果、
田舎の郵便局に行くことにした。
ダーラムの中央郵便局は、
街のど真ん中にあって、混んでるし、
大体、車で横付けできないところにある。

田舎の郵便局へは車で10分くらい。
入ると、気の良さそうなおっちゃんが一人、
ぽつねんと座ってる。

「まいど」

とりあえず、声だけかけておいて、
僕は黙々と、13箱ものダンボールを車から運び出した。
おっちゃんは、みるみる増えていくダンボールを見るや、
段々と顔つきが変わってきた。
宛先の「Japan By Ship Mail」の文字を見るや、
奥のほうからマニュアル本を引っ張り出してくる。
狭い店内にうずたかく積み上げられた箱の山を見ては、
なんだか恐ろしい勢いで、色々なことを考えてる雰囲気。

搬入が終わって、僕は説明した。
全部日本へ、船便でお願いします。
おっちゃんは、溜息一つつくと、

「よっしゃ。ほんなら始めようか」

と言って、先ずは重量を量ろうとした。
然し、そこにある量りは、10kgまでしか量れないもの。
僕の荷物は、殆どが、日本へ送れる限界値、20kgに近いものばかり。
おっちゃんは、早速、壁にぶちあたり、悩み始める。

暫し考えた後、
おっちゃんは、奥に消えると、
家から(郵便局と家が合体してる)もってきたと思しき体重計をもって、
再び現れた。
それはそうやろね。
僕も、何を隠そう、それだけのために、前日、体重計を購入したのだ。
そんなところから、ヒッコシってのは大変なのである。

僕が作業を見守っていると、
おっちゃんがふと顔を上げて、こう言う。

「あ、宛名ラベル、書かんとあかんで」

げ、そうなのか。矢張り。
Parcel出すの、久しぶりなので、忘れてた。
箱にマジックで書いたのに。
それじゃ駄目なのか。

おっちゃんは、ニヤリと笑うと、
若干たじろぎ気味の僕にこう言った。

「分業しよか。にいちゃん、待ってる間、これ書いといてな」

悠々と、おっちゃんの汗だくの姿を見守ろうと思ってた僕は、
思わぬ逆襲にうろたえた。
13枚。
日本語って画数多いねん。
然も、箱の搬入作業でくたびれ果てていて、
握力も残ってないやん。
かー。なんてこった。

そんな訳で、昼下がりの、田舎の郵便局は、
恐らく開局以来初めてかもしれない忙しさに巻き込まれることになった。

然し、このおっちゃん、ほんまに親切やったね。
他のお客さんが、散発的に来るけど、
そっちを捌くと、またすぐにこっちに戻ってきて、
なかなか手際よく、計測→ラベル記入→ラベル貼り、をこなしていく。
30分くらいかかって、漸く全部終わると、
おっちゃんは再びニヤリとして一言。

「さぁ。ショックのお時間です」

計840ポンド。
ヒッコシってのは大変なのである。

次は、ロンドンに運ぶ荷物を車に積み込む作業。
幸運にも、前の道に車を止められたので、
運ぶ距離はさして遠くない。
えげれすの道は、特に住宅地の場合、
路駐が合法的にOKなので、
ずらっと車が並んでて、止めておけない場合が多い。
去年のヒッコシがそうだった。

因みに、習慣的に路駐が認められている大阪でも、
この同じ問題は生ずると思われます。
然も、大阪の場合、夥しい数の「ちゃり」とか、
公道に何故かレイアウトされている「植木鉢の大群」とか、
同じく公道に置かれている「物干し竿」とか、
そういう障害物が異様に多いので、ヒッコシは大変でしょうなぁ。

積み込みを終え、とりあえずロンドンへ。
時間に余裕があるし、
えげれすを離れる日も近いので、
とりあえず色々と回り道をしながら進んだ。

今回借りたワゴン車は、なんと、CDプレイヤーが付いてる。
僕は、谷村を聞きながら、ヨークシャーの田舎をドライブする。

「目を閉じてぇー、何も見えずぅー♪」
「目ぇつむったら、何も見えへんの、あたりまえやん」

僕は、ぼやき漫才のネタを繰りながら、ミッドランドの丘陵を走る。

人間、おかしなもんで、
左側通行、谷村の音楽、ぼやき漫才、と来ると、
なんとなく日本指数が上がってくる気がする。
どこまでも広がる緑の丘陵も、
点々と見える牛や馬も、
なんとなく北海道あたりの景色に思えてくる。
然し、さしものちんぺいさんも「奴ら」には敵わないらしく、
僕の指数は上がったり下がったり。

ロンドンで用事を済ませ、
久しぶりに車でぶいぶい走ることにした。
飲み会は翌日の夜。
ほぼ一日あるので、
僕は、デボンの方に行くことにした。

さて、デボンの田舎で、
地球に小惑星とかが衝突するような一大事のときでも、
恐らくいつものように、
悠々と食ってるのだろうと思わせるような「奴ら」の効果で、
僕の指数はかなり下がってきていた。
久しぶりにクリームティーなんぞをして、
久しぶりにパブ飯なんぞ食べて、
久しぶりにえげれすを満喫。

飲み会は夜からだったが、
僕は、「あたりや」という、ロンドン在住者なら誰でも知ってる、
日本食材屋さんに買い物に行った。
今回の家主殿が料理を作ってくれる上に、
刺身の予約もしてくれていたので、
それを取りにいったわけですな。

このお店は、「どこの商店街にもありそうな魚屋さん」って風情で、
お客さんも、買い物篭なんかを下げてふらりと来る奥さん系が多い。
子供連れも多く、店内は日本語しか飛び交わない。
どこをどう見ても、ここは日本なのである。
周りを見ると、一寸洋風な家とかあるけど、
多分ここは日本なんやろと思う。

メンバーが集まったので、
飲み会開始。
乾杯は、麒麟麦酒。
二杯目からは、菊水+久保田。
摘みは、刺身+素晴らしい手料理の数々、及び「チー鱈」系乾き物。
BGMは「北酒場」。
一寸歌いに行きますか?みたいなノリになってくる。

翌日は、オリエンタルシティーで買い物してから帰った。
ここは、僕が去年、週1〜2で通い続けた、
「刺身&日本酒」の聖地みたいなもんですな。
「あたりや」は近所の魚屋さん風情だが、
こっちは、本格的郊外型スーパーの様相を呈している。

日曜日ということもあって、
日本人率が異様に高い。
然も、皆、家族連れで、車で来てる。

えげれすは、アメリカ、ブラジルに続いて、
第三番目に在留邦人数が多いそうだけど、
ほんまにロンドンは多いわ。
なんというか、ロンドン暮らしの頃は、普通だと思ってた一つ一つが、
今は再び、最初渡英した頃のように、新鮮に感じられる。

「これ、ダイエーやで」

「一の市」とかの垂れ幕があっても良さそうなくらい、
そこは、「休日のスーパー」という風情である。
僕は、刺身と日本酒を買ってから、ふと思った。

「そうか。慣らし運転やし。もう少し『慣らし』とかな」

いつもは買ったことが無い飲料系に手を出すことにした。
別に、ヴィッテルとかで良いわけや。普通なら。
何も、高いカネだして、わざわざ買うこともないから、
手を出したことは無かった飲料系。
僕は、「慣らし」のために、
ひたすら「日本指数」を上げるために、
「伊藤園・金の烏龍茶」と「伊藤園・深煎り麦茶」の500mlボトルをゲット。
さらに、車で食べるための「鮨折り詰め」と「いなり寿司」もゲット。
思わず、ブラックのおばちゃんに、

「あ、しょー・・・、no no. Soy Sauce, please」

なんで英語話さなあかんねん。
逆キレ状態。

ちんぺいさんは、相変わらず、いい歌を聞かせてくれる。

「あー、日本のどこかにぃー、私を待ってるー人がいるぅー♪」

僕は、歌を口ずさみながら、寿司を摘む。
金の烏龍茶を飲む。
ここ、何処やねん。
なんで、ガイジンおんねん。
僕の日本指数は、ここにきて、
極限値に迫る勢いである。

***

我ながら、ほんまに思います。
この気持は、ロンドン在住者には決して分からない。
ロンドンには、寿司もある。
烏龍茶ペットボトルもある。
居酒屋もあるし、カラオケボックスもある。
坂本龍一も来るし、歌舞伎も来る。
Japan 2001などというイベントもあるし、
阿波踊りも、焼き鳥の屋台も出る。
全く、対照的な地方暮らしの人間にとってみれば、
「おらロンドンさ行くだー」状態になるのである。
「Japan Centre」に行けば、「ありがとう」に行けば、「らいすわいん」に行けば、
そこはどこからどう見ても日本なのである。
次第に、それは「日常」になってくる。

思えば、この3年間、
僕の中での日本指数は上がったり下がったりしてた気がする。
来たばかりの頃は、居酒屋に感動し、カラオケに感激していた。
争うようにネットで情報を手に入れては、
「だんご三兄弟」を歌ったりしていた。

2年目、「慣れ」が出てきて、感動することが少なくなった。
これは、日本指数だけではなく、
えげれす指数も同じなのである。
来たばかりの頃は、えげれすの独特の文化に驚いたり感銘を受けたり、
何かと刺激に満ちていた。
然し、「慣れ」と共に、その意味での「刺激」は余りなくなってきた。
つまりは、この「えげれす暮らし」という状態が「日常」になったのでしょう。
周りをきょろきょろして、好奇心に満ち満ちていた「思春期」が終わり、
「円熟期」に入ったのかもしれない。

然し、だからと言って、えげれすを「分かった気」になるのは危険であるし、
また本当に「理解」することは出来ないことは覚えておかねば。
「知識」と「理解」は違うのだ。

そして3年目。
生活に対する「慣れ」は継続している。
大体、「こういうときにはこうなるだろう」という予測がつくということは、
外国暮らしという「非日常」が「日常」のレベルに昇華したということだろう。
然し、ロンドンを離れてみて、
当然のことだけど、ロンドンだけがえげれすなのではないと気づくことになった。
「えげれす」には「えげれす人」が住んでいる。
この、当然過ぎる程当然なことを忘れさせてくれる街、
それがロンドンである。
日本人も含めて、ロンドンには、様々な人種が住んでいる。
果たしてそれは、良いことなのか、悪いことなのか。

然し、ダーラムには、えげれす人が多い。
ロンドンから来た人間の目には、
それさえ新鮮に映ったのだった。

この夏、僕は、一時的に、えげれすを撤収します。
再び一年後、戻ってくる予定なので、
あんまり感傷的にはなってないのですが、
なんとなく3年を振り返っている今日この頃。
長かったような、短かったような。
でも、今は、それよりも、日本帰国の「慣らし運転」が重要なので、
今晩も、日本酒&スモークサーモン(←このあたりがロンドンとダーラムの差)で、
エンジンを温めよう(笑)。

***

寿司を食べ終わり、
僕は再び車を走らせた。
日本なら、この辺で、一発、温泉でも攻めるところだが、
ここは似非日本。それは望めない。

「あなたはぁー、稲妻のようにぃー♪」

ちんぺいさんは絶好調。
僕も絶好調である。
もう、誰も、オレを止められない。
気のせいか、奴らもそれほど出現しない。
はっはっはー!日本だぜ!!

然し、えげれす指数を、突如上昇させるブツに出会うこともある。
これを見たとき、僕は、心の底から、えげれすが好きだと思った。
この感覚。素晴らしい!


 



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