えげれす通信 vol.56
ロンドンの中心部にあるターミナル駅、チャリングクロス。 そこから東へと伸びる大通りを「Strand」という。 通りに「st.」や「rd.」がつかない珍しい名前で、 周辺には、多くの劇場や、コベントガーデンなどもあり、 観光客が絶えないエリアである。 僕は、ロンドン在住2年目の年、 チャリングクロス駅からこの道を歩いて大学へ通っていた。 途中には、世界的に有名なホテルの「サヴォイ」などがあるが、 サヴォイの少し手前に、古ぼけた建物がある。 そこには「Strand」という文字と、 なにやら馴染みのあるマークが記されている。 これは何かというと、 現在使われなくなった、ロンドン地下鉄(通称チューブ)の廃駅なのである。 100年経っても、それほど何かが変わるわけではない国、イギリスにおいて、 チューブの駅は、とりわけ「変わらないもの」として挙げられることができる。 駅舎は何処も此処も古めかしく、 基本的に、路線地図のデザインは不変であり、 勿論、「UNDERGROUND」とロゴの入った、 あのお馴染みのマークも同じである。 (多少のマイナーチェンジはある) 今ではめっきり少なくなったが、 周辺部には、未だに、「木のエスカレーター」が稼動している。 (90年代にキングスクロスで起きた大火災の為に漸くエスカレーターの付け替え工事が始まった) さて、その「Strand」駅。 勿論、鍵がかかっており、 中に入ることはできないのだが、 僕は、こういう「廃駅(an abandoned station)」というものが存在し、 かつ、現存するということに些かショックを覚えたのだった。 日本の感覚で言えば、 「地下鉄」というのは、少なくとも、かなりの建設費を要し、 然も都市部にある近代的なものだというイメージが強い。 国鉄時代、北海道の赤字ローカル線が「廃止」されたのとは訳が違う。 日本の感覚で言えば、 地下鉄(駅)が「廃止」されるなど、一寸考えつかない事態なのである。 然し、「Strand」駅は、かなりの歴史を感じさせる外観を曝し続けているのである。 僕は、この「abandoned stations」に興味を持った。 ある日、「交通博物館」に行った僕は、 「The abandoned tube stations」とかいう本を見つけた。 だって、惹かれるタイトルでしょ? その本は地図付きで、 チューブの路線の変遷が事細かに載ってるのだが、 それを見た僕は、激しく驚いた。 一つや二つではない。 何十という数の駅が「廃止」されているのである。 然も、「路線」の方も、廃止されている箇所が異様に多い。 そう言えば、不可思議なことがあった。 前述の、ロンドン在住2年目時代、 僕は、自分の家の最寄駅より、 地下鉄の「Jubilee Line」に乗って、大学に通っていた。 然し、この時は、ミレニアムブームの真っ最中。 そして、この「Jubilee Line」は、 イーストエンドに新しく開発されていたミレニアムドーム周辺の再開発地区への、 アクセス手段としての位置付けを担い、 急ピッチで延伸工事が進められていたのであった。 当時は、チャリングクロス止まりだったのが、 テムズ川を越えて、イーストエンドに向かう、長大路線に生まれ変わろうとしていた。 ここで問題なのは、 これまで、主に、北西部の、「お金持ち地帯」のみを走る、 「お上品路線」だったJubileeが、 東の治安の宜しくないところへ延伸されたために、 「客層が激しく変わる路線」になることへの懸念ではなく、 さらにまた、「急ピッチ」という名の下に進められたは良いが、 「急ピッチ」で完成したことなんて一度もないイギリスの公共工事のことでもない。 実は、チューブの中でも一、二を争う新しい路線の筈のJubileeの、 グリーンパーク−チャリングクロス間が、 延伸工事完成と共に、「廃止」になるってこと。 廃止て、おい。 テムズを渡るルート上の問題なのか何なのか、 今まで終着駅だったチャリングクロスと、 その一つ前の駅であるグリーンパーク。 その間の路線が「廃止」になるんだそうだ。 そして、新路線は、グリーンパークから、ぐぐいと右に逸れて、テムズを渡り、 ウェストミンスター駅に繋がることになる。 Jubilee沿線在住、チャリングクロス(略してチャリクロ。どう?これ)利用の僕は、 同じような境遇の友人たちと、しばしばこの問題について、以前から話していた。 「工事中」なのは知ってる。 延伸されて、東に延びるのも知ってる。 そして、新路線はグリーンパークから「分岐」するらしいのも知ってる。 然し、「abandon」の実情を目の当たりにしたことのない僕らは、 なんぼなんでも、こんな都心の路線が「廃止」されるなんてことはないだろうと思い、 この一区間の事後処理について、ああでもないこうでもないと互いの意見を言っていた。 然し、急報は、余りにも突然に、然も呆気なくやってきたのである。 ある日の立て看板より。 「某月某日より、Jubileeラインは、チャリクロに行かなくなります」 「つきましては、Oxford Stのユニクロでも使ってやってね はぁと」←若干時代のズレあり 慄く我々。 「廃止」の実態を初めて見たぞ。 なんぼなんでも、巨額の投資を行って、折角掘った穴を「廃止」するんかい。 そりゃ、一駅分だけちょこんと残しても、 電車走らせるのは難しいのかもしれないけど、 然し、「廃止」せんでも、他に何か解決策はなかったんかい? と、その当時は、激しく不思議に思ったのであった。 然し、件の「The abandoned tube stations」を読むと、 実に夥しい数の駅が「さくっと廃止」され、 実に隅々に至る区間が「こそっと廃止」されてきたのがわかる。 と、言うことはだよ。 ロンドンの街の地下って、 物凄い数のトンネルがあって、 めちゃめちゃ多くの「廃駅」があるってことやんか。 ここで、 「だって、使わないなら、埋めたりしてるでしょうに」 とか思うあなたは、「えげれす素人」(笑)。 200年経っても、「大してそれほど変わらない国」えげれすにおいて、 そんな気の利いたことがされるわけがない。 現に、「Strand」駅だって、野ざらしのままなのだ。 あんな一等地にねえ・・・。 そんなわけで、僕は、以来、 地下鉄の「廃駅」に興味を持って来たわけだが・・・。 前フリ、終わり(長ぇ)。 いやあ、見てきました、007最新作「Die Another Day」。 何と、日本では、上演は来年なんだって? かなり得した気分。 だって、ここはフィジーよ?(笑) (註:筆者は2002年12月現在、フィジーにてバナナを食べています) ストーリー展開的には、 ここ数作の007シリーズを踏襲し、 適当に盛りあがり、適当に色っぽいシーンあり、で、 かなり面白かった。 映像的には、先ずは最初のサーファーのシーンが圧巻。 それに、僕の行きたい場所の一つであるアイスランドの、 冷凍チップスや冷凍パイの棚が並んでたり、・・・いや、もとい(←一寸濃いネタだ)、 全く綺麗な氷のシーンがあったりとか、 氷上のカーチェイスがあったりとか、 先ずは、いつものボンドシリーズという感じなんだけど、 僕が一番入ったのは、 随所に見られる「イギリス度」の部分だなあ。 上空から映るハイドパークの杜 二階の乗客を振り落としながら走るバス キャミ着たごついねえちゃん 情景もさることながら、 対比的に描かれている、軽薄な感じの米語と、 綺麗なブリティッシュアクセントの違い。 どんな時でも決して取り乱さない「紳士的」振舞い。 今回は、葉巻シーンが復活したというのが、 一つのトピックになってたけど、 矢張り、小道具は、コネリーボンド以来の、必須アイテム。 ブロスナンは、回を追う事に、苦味走った渋さが出て来て、 僕が最初に抱いた軽い印象を払拭してきていると感じた。 時々映る、ロンドンの街中のシーンにも、 結構来るものがあったけど、 一番痺れたのは、何と、冒頭に書いた、 チューブの廃駅が舞台になったこと。 Mと密会するボンド。 ある、古ぼけた鍵を渡される。 ウェストミンスターブリッジの袂にある古ぼけたドアを、 その鍵で開けると、 そこは、チューブの廃駅なのだ。 僕は、このシーンは、 Mとボンドの会話そっちのけで(笑)、 映像ばかり目で追ってしまった。 だってさあ、凄いんだよ。 あれ、実際、撮影で使った場所(「Vauxhall Cross駅」と読めた)に、 実際に訪れることはできないんだけど、 かなり古い駅構内や、ホーム、広告、それに切符売り場などがそのまま残っている。 すげえ貴重な映像だ・・・僕にとっては(笑)。 然し、天井が丸いトンネルの感じは、現在使用中の他の駅のものと大差ないし、 ホームも、行き先を示す電光掲示板がないだけで、ほぼ同じ。 その代わりに、壁に手書きで、 「行き先は・・・ごめんな、わからんし。運転手に尋ねてくれる?」 と、書いてある(←いつもかい。現ノーザンの方がマシ?)。 切符売り場が木枠で、1、2、・・・と番号が打ってある感じだけ、 今のものと違ったけど(流石に自動券売機はない時代なので、有人窓口らしい)、 基本的な構造というか、デザインというか、「空気」というか、 全部、今と同じなんだよなぁ。 木枠には手書きペンキで書かれた、 「Exact Money Only(つまり、釣りはないでっせ、の意)」 の文字もあり、微笑ましい限りである。 「イギリスらしい」ものが好きな僕としては、 あれは、かなり良かった。 何と言っても、300年やそこらでは、 「隣にいる羊の数」くらいしか変動するものがない国、えげれすである。 然し、やっぱり、穴は埋めないかな。 今すぐにでも使えそうだ。 その他、ボンドガールは、評判通り、 なかなか魅力的だったけど、 顔がアップになると、顔の輪郭が六角形に見えて仕方ない。 レーザーによる攻撃は、コネリーボンドの作品を思い出した。 ダイヤモンド絡みってのも同じ。 宇宙から攻撃するって話も、ムーンレイカーだったかでやってるし、 巨大な光熱系の装置は、確か「二度死ぬ」で、 富士山麓に作られたことがあったよな? 丹波哲郎と忍者たち(笑)が破壊しに行ったし。 ネタ切れなところは否めないが、それはそれで良い。 許す。 Qが今回から変わったのかな? 前作まで演じ続けていたあの俳優さん。 名前忘れたけど、残念だったよなあ。 でも、今回のQも、なかなか味わいがあります。 最後の、007のお決まりのシーン。 仕事を終えたボンドが、女性と結ばれる、って奴。 今回の「ラスト」。 ・・・これにはやられた。 007と、その登場人物の人となりについて、 それなりに知ってる人だと、 かなり意表を突かれると思う。 因みに・・・、僕は、声を出して笑ってしまった(笑)。 かなり、不意を突かれて、不覚にも笑ってしまった。 久しぶりに、僕の大好きな「えげれす光線」を存分に浴び、 充実した気持ちで外に出ると、そこには、 延々連なる椰子の木 レゲエをガンガン鳴らして走るバス アフロのおばちゃん うう。 フィジーに帰ってきてしまった。 僕は、マンゴーを齧りながら家路についた。 |
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