えげれす通信 vol.59

えげれす通信vol.59 ■ラビリンス■ 24th/Nov/2003

<火災>モスクワの大学寮で173人が死傷 日本人3人は無事 

 【モスクワ杉尾直哉】モスクワにあるルムンバ民族友好大学の学生寮で
24日未明(日本時間同日午前)、火災が発生し、5階建ての寮をほぼ全焼した。
地元警察によるとこの火事で外国人留学生ら33人が死亡、約140人が負傷した。

 インタファクス通信によると、この寮では100カ国以上の学生約280人が生活していた。
死者には中国、バングラデシュ、ベトナム、アフリカ諸国からの留学生が含まれているという。
また在モスクワ日本大使館によると、同大学では日本人留学生が3人学び、
うち2人がこの寮に入っていたが、いずれも無事が確認された。

 地元当局で火事の原因を調べている。同大学は旧ソ連時代の1960年に創立され、
主にアフリカなどの途上国からの学生を受け入れていた。(毎日新聞)
[11月24日21時17分更新]




モスクワの大学寮で火災があった。
留学生が大勢、死傷したとのこと。

ロシアとえげれすでは、
様々な事情が違うとはいえ、
ちょっと怖くなった。

そもそも欧州の建築物は、
よく言えば「歴史的」、
然し、その実は「古臭い」ものが実に多い。
近代的な建物の大学などは殆ど聞いたことがないし、
僕が、えげれす初年度に住んだロンドン大学の学生寮なんかは、
一説によると、随分昔に病院として使われていた建物が、
改装されて使われているらしい。
2年前に住んでいた家は、
普通に150年前のものだったし、
とにかく、半端じゃなく古い建物が多い。

同じ「欧州」でも、
やたらに地震が起きるトルコなんかでは、
また事情も違うんだろうけど、
石造り、煉瓦作りの建造物が多い国ってのは、
地震で潰れる可能性がないからこそ、
そんな危うい(と、地震大国の日本人からは映る)建材を使って、
建造物を作っているわけだ。
壊れる要素がないから、
建物は、何もなければ異様なほど長持ちする。
ぶっ壊れないから、
いつまでも、いつまででも、
適当な手入れを施されて利用され続ける。
耐震材である木材を使った建造物が、
100年も持てば凄いことだけど、
石材建造物は、その2倍も3倍ももつ。

今回のモスクワの大学寮火災が、
いかなる理由で起きたのかは知らないけど、
さらに、ロシアは地震が頻発する国なのかどうか、
つまり、石材建造物が多く、
さらに古臭い建造物がやたらに多い国なのかどうかは知らないけど、
今回の火災の直接的な所見とは別問題として、
我が身に些か不安を覚えたのは確かである。

例えば、古い建造物が改築されて別な用途に使われる例はえげれすでは多く、
大学なんかもその一例なんだけど、
こういう建物、恐ろしく内部構造が複雑にできている。
切ったり貼ったり、削ったりくっつけたり、伸ばしたり縮めたりしているからだろうけど、
通路が恐ろしく複雑だったりする。
入り口入ってから、目的の部屋まで、
迷うこと無しに辿り着くのが至難の業だったりする。

「私は今何処にいるのでしょう?」

「am」を使った疑問文なんて、
文法的には蓋然だけど、
実際に使うことなんてあるんかいなと疑問に思っていた中学時代。
こう、真顔で縋って聞いてくる人を見て、
なんだか深く納得してしまう。
どう見ても、

「あんた、毎日、ここにおるんとちゃうんかい!」

そう、ツッコミたくなるような
そこに日常的に常駐しているように見える人が、
おろおろしながら助けを求めてくることもある。

「ティーカップを洗おうと一寸部屋を出ただけやのに。それが命取りになるとは・・・」
「素直にトイレに行って洗っておけば良かった。給湯室なんて初めて行ったのよ・・・」

そう、切々と目で訴えながら、
給湯室の前で、洗ったカップと食べかけのポテチを手に持ち、
自分が帰り着くべき場所を必死で探す受付のおねえちゃんに出会ったりもする。
こちらも自分が辿ってきた通路の記憶を思い出すことで精一杯なので、
再びお互いの目的地を求めて迷路の中に彷徨い出ることになる。
そんな時には、お互いがお互いの心の中で、

「達者でな・・・。餓死だけはするなよ」

そう呟いて相手の幸運を祈るのである。

そんなだから、
もし、火事にでもなったら、
非常口をさくっと見つけて速やかに逃げる、どころか、
開けるべきドアさえ間違って、
開けてみたら給湯室だった、みたいな、
本当に洒落にならんような事態も十分に考えられるのだ。

初年度に僕が住んでいたロンドン大学の学生寮は、
構造が、「天文学的に(笑)」複雑怪奇。
僕は3日に1回は確実に迷っていた。
僕だけじゃなく、全員が迷ってるので、
「迷い人」は至る所にいるんだけど。

そうして、さらに、
火災報知機の誤作動がやたらと多い。
アホか、と言いたくなるほど、
いっつも鳴ってる。
だから、報知器が鳴ったくらいでは、
みんな本気にしないのだ(笑)。

さらにさらに、
火災訓練も、突発的かつ連続的に行われる
あまりに多すぎて、
有り難味もないどころか、
普段の誤作動と相まって、
誰も真剣に捉えないのだ。

今回のモスクワの大学寮がどういう状況だったのかは知らない。
けれど、これがもし、ロンドン大学の寮で起きた火災だったら・・・?

・・・怖わ。

報知器、鳴る。
誰も真面目に考えない。
「どうせ、また、どこぞの学生が鍋でもしたんやろ」

さらに、鳴る。
誰も真面目に捉えない。
「また、訓練かい。ええ加減にせえよ。何時だと思ってけつかんねん」

もっと、鳴る。
しぶしぶ、外に出て見る。
煙、もうもう。

「ぎゃぁ!」

しかし。
出口がわからぬ。

「これや!」

確信して或るドアを開けると、
そこには、半地下に下りる階段があった。

「アホか。ここは一階(G)やで。降りてどうすんねん。ほんじゃ、こっちは?」

別のドアを開けると、
そこには、階上への階段が。

「だから、上がってどうすんねん!外に出させてーや!」

三つ目のドアを開けると、
そこには、これまた古めかしい給湯器が。

「・・・」

ティーカップを胸に抱いた受付のおねえちゃんが、
飢え、痩せ細った身体でそこに蹲っている。

「到々帰り着けなかったのか・・・」

避難する時にたまたま手に持っていたソルトビネガー味のクリスプスを、
彼女と一緒に齧っているうちに・・・あぼーん。

洒落、ならんで。
本気で、ありえる。
皆さん、日ごろから、カップを洗いに行く時には、
命綱とポテチを持っていきましょう。
・・・あ、味はソルト&ビネガーで、ひとつ。


 



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