えげれす通信 vol.62

えげれす通信vol.62 ■モネラー■ 3rd/Feb/2004

それは、ロンドンのとある日本食材店で見つけた「卵」から始まった。

「生食できます」

卵を生食する食習慣が殆ど無いガイコクにおいては、
卵の生産ラインにおいて、日本ほどの注意を払ってはいない。
よって、「卵の生食」は、いくつかある、

「日本人はついやってしまいそうやけど、 やったらいかんあかんおかんなこと」

の一つである。
然し、ガイコク生活に慣れてくると、
次第に皆、「まあ、ええやろ」という雰囲気に包まれる。

クタビレタ魚が不味そうにディスプレイされていたり、

「これはどっからどう考えても有り得ない肉やろ」

身体中のありとあらゆる感覚器官が総ツッコミを入れている肉が、
平然とスーパー売り棚に置いてあったりする生活に慣れてしまうと、
「生卵のひとつやふたつ」気にしていても仕方ない。
そんな空気が漂ってくる。

「どっからでもかかってこんかい」

ピンポンのラケット素振りしもって、卵を食ってやろか。
そんな強気モードになってくる。
郷に入ったら郷に従え。
「Never Mind」でいかねば。

僕もいつしか、
結構な頻度で生卵を食べていた。
・・・そう、フィジーに行く前までは。

フィジーの現状はそれなりに凄かった。

ヘナヘナな魚が露天で売られているとはいえ、
そこは一応北緯50度過ぎの「それなりに涼しい国」であるえげれすと、
カンカン照り直射日光の下でおばちゃんがニコニコしながら、

「兄ちゃん、新鮮やで、この魚」

と、甘い口調で語りかけてくる赤道直下のフィジーとでは、流石に状況が違う。
いくら「Never Mind精神」がそれなりに育ってきている僕とは言え、
なんぼなんでも「mind」してしまうやろ。

「おばちゃん、どんだけ新鮮やのよ?」

イジクリ目的で話に乗った僕に対して、
おばちゃんは、

「今朝持って来たところやがな」

そう言いながら、おばちゃん、
魚に水をピチャピチャとかけてるやないの。

騙しやろ、それ。

綺麗なオネエチャンに惹かれて店に入るや否や、
キラーカーンみたいなおっちゃんがソッコー現れ、


にいちゃん、ビール3万円な。


というようなボッタクリバーと構造は一緒やぞ。

然し、人間、慣れというものは恐ろしいもので、
僕もそのうち、クタビレタ魚介類でも気にせずに食べるようになった。
というか、気にしてたら、フィジーでは生きていけんし。

然しながら、フィジーでのそんな状況の中で、
僕が「慣れ」に任せて無頓着になるのを厳しく自戒していたものが、
卵の生食であった。

卵はほんまにやばかった。
かなりの確率で、腐っている卵にぶつかるのだ。
割ったら中身が濁っていた。
こんな経験は日常茶飯事。
だから卵を割るときは何時でも、
ロシアンルーレット系のドキドキ感を味わわなければならない。
本当にやばい状況を目の当たりにしてしまうので、
生食しよう等と言う料簡は、これっぽっちも出てこないのだった。

このフィジーでの経験が、
嘗てえげれすでは、がんがんに生卵を食べていた僕に、
一寸した躊躇を与えてしまったのだ。
日本ほどちゃんとしてはいないにしても、
フィジーでの卵の生産管理よりは、
えげれすはちゃんとしてるに違いない。
そうは思っても、
あの光景が脳裏に刻み込まれていて、
食べるのにかなりの勇気が要るようになってしまった。
それで、今回、二度目のえげれす生活においては、
生卵は一度も食べていなかったのである。

ところが。
「不可能を可能にする街、ロンドン」では、
当然のように「生食おっけー卵」が売られていたのである。

そういえば昔から、これはあったな。忘れとった。

「生卵」の絵が脳裏に浮かんだ瞬間、
僕の頭ン中では、




壇さん大和田さんで壇さん




が自動的に始まってしまった。

 生卵
 ↓
 卵かけごはん
 ↓
 ブー

ちょっとちゃう。
僕は卵かけごはんには、そんなには惹かれぬ。

 生卵
 ↓
 玉子酒
 ↓
 ブー

方向性は嫌いではないが、
なんか間違ってるやろ。

 生卵
 ↓
 スキヤキ
 ↓
 ピンポーン♪

(・∀・)ソレヤ!!
ニッポンジンなら、先ずスキヤキを食べたくなるってもんでしょう。

幸いここは、
「ドラえもんのポケットの中状態」の街、ロンドンである。
僕はすかさず、「生食おっけー卵」に加えて糸コン(シラタキの代わり)も買った。
構想としては、

 薄切り肉→最近スーパーで売り始めた「サンドイッチ用」という名の薄切り肉
 椎茸→スーパーで普通に買える
 白ネギ→スーパーで普通にリークを買う
 糸コン→用意済
 豆腐→ロンドンなら焼き豆腐もあるが日持ちを考え、地元で普通の豆腐を買うことに
 白菜→スーパーで普通に買える
 割り下→材料は揃っているので自作
 フィニッシュ饂飩→自宅にストックあり

よっしゃ。
何時でもできるやないの。
僕は意気揚揚とロンドンから戻ってきたのである。




〜〜〜(数週間経過)〜〜〜




論文執筆が少々きつく、
僕は二週間以上、買い物に行っていなかった。
食糧が尽きてくる。
米、麺、などの非常食は相当あるから飢えはしないけど、
流石に厳しくなってきたので、
僕は、むちゃくちゃ久々に、
昨日の夜、買い物に行った。

一番の懸案事項は言うまでもなく、
「生食おっけー卵」の安否である。

僕は真剣に考えた。

「生食おっけー卵」が数週間経ち「生食おっけーかもしれんが然し・・・卵」になっているとして、
それを敢えて生食するのと、
スーパーで普通に売っている、
「生食は知らんけど新鮮なことは新鮮やで卵」を生食するのと、
一体どちらがベターな選択なのだ?!

生卵がやばいのは、サルモネラ菌による食中毒の可能性があるからである。
フィジーの「見るからにやばい卵」は問題外として、
サルモネラは、見ただけではわからんから厄介なのだ。
きちんと加熱すれば菌は死ぬが、
微妙な加熱では菌は死なない。
発症は体調にもよるらしい。

因みに僕は、
このサルモネラにやられた経験がある。
その時の原因は卵ではなかった筈だが、
兎に角も、10日以上入院した「経験者」である。
僕はまあ、謂ってみれば、



サルモネラー



と呼ばれ得る資格をもつ人なのである。
その時僕は24時間連荘の点滴を受けていた。
然し、外科的には身体には不都合が無く、
要するに、下痢ピーと、

「24時間戦えますか?」状態(古)

だった、それだけが問題であった僕は、

まるで「another planet」に行ってしまったかのような肛門

を連れながら、
点滴器具を持ち上げつつ病院の廊下をトイレまでダッシュしていた。
仮に途中で、点滴のガラガラに引っかかって躓いたりなんかした日には、

噴霧

という、些か懐かしい響きをもつ言葉を実体験することになる。
サルモネラーというのは斯くの如し。
情けなくも、激しく真剣な生活を送った者のみに与えられる称号みたいなものなのだ。

真剣にあれこれ思案しながらスーパーの卵売り場に行った僕は、
改めてしげしげと、卵のラインナップを凝視した。

 フリーレンジのLサイズ卵(センズベリーブランド)

うむ。
これは、このスーパー(センズベリー)の自社ブランド商品で、
僕がいっつも買う奴だ。
値段も中くらい。

 ロープライスの卵(センズベリーブランド)

嘗ては「エコノミー」と言っていたこのレンジ。
比較的よく売れる商品において、
センズベリーは「ロープライス」レンジを設けて、
商品の差別化を図っている。
僕は例えば、トイレットペーパーなどは、
一番安い、この「ロープライス」レンジのものを買うことにしている。
品質は落ちるが無駄を省いて安いわけだ。
しかし、卵の「ロープライス」ってどやねん?
ちょっと怖すぎ。

 オーガニックの卵(センズベリーブランド)

オーガニックもまた、「ロープライス」と同様に、
一つの商品に存在する「差別化レンジ」の一つである。
僕は、買うならこれだろうかと思っていた。
然し、

 むっちゃ厳選された養鶏場で細心の注意を払って生産された卵(別メーカー)

というのを発見した。
さらに、

 それのオーガニックもあるでよ

これが最上やないか。
値段も、僕がいつも買う卵の倍近い。
「ロープライス」の三倍近い(笑)。
(どないやねん、これ↑)

然し、説明書きをいくら丹念に読んでも、
「生食おっけーのお墨付き」は見当たらなかったのだ。
ロンドンで買ってきた「おっけー卵」もまたえげれす産だったので、
ここへ来て僕の疑念は、

「『おっけー卵』には『お墨付き』が明示されていたのかどうか?」

という一点に絞られた。つまり、

 お墨付きが無いのにも関わらず日本食材店が「おっけー」と宣言しているという事は、
 それなりに高価な余所のオーガニック卵でも大丈夫であると言えるのかもしれない。

僕は件の「スーパーで買ったオーガニック卵」を家に持ち帰り、
日系ショップで買った「おっけー卵」と並べて見た。

値段は・・・ほぼ同じ。
お墨付きは・・・どちらも「明記」はされていない。
そして、両方、オーガニックである。

よっしゃ、決まった。
今夜はスキヤキや!





狂喜のウタゲは終了した。
肉は多少、というかめちゃめちゃ硬いが、
兎に角も、これは、スキヤキ以外の何物でもない。
僕は、満足のうちに就寝した。




〜〜〜(数時間後)〜〜〜




ん?


時計を見ると午前三時。
一旦寝たら途中で起きることは殆ど無い僕が、
こんな時間に目が覚めるとは!?

寝呆け頭が次第に覚醒していき、
僕はすっかり忘れていたことを突然思い出した。



モネラー
への「最初の一歩」は、
夜分、何度もトイレに起きることである。
そのうちに熱っぽくなってきて、
風邪かな?と思って安静にするのだが、
風邪の症状が無くなった後でも、
依然、下痢だけが収まらない。
そのうちに脱水症状で皮膚がカサカサになってくる。
こうなると、もはや、入院→献血→ダッシュ練習→噴霧(違)は免れない。




マタシテモキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!! のか?!




慄きながらも強引に寝た僕は、
翌朝の「一発目」に全てを賭けた。
妊娠判定の場合は、出る「色」でその結果が分かるが、
サルモネラー判定の場合は、出る「ブツ」で是非が分かる。
「残念な色」が出たのは「北の国から」の純くん(with ユウキナエ)。




僕の場合は、








ス ゴ イ 奴」が出た。






斯くして、僕は、
日英二カ国の、バイリンガルサルモネラーの称号は得損なった。
(註:多少不適切な表現がありましたことをお詫びします)


 



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