えげれす通信補遺 ex-14

えげれす通信補遺ex-14 ■臨時運び人■ 7th/Jan/2003

今、僕は、泣いている。
ダーラムの寒々しい部屋で、独り、泣いている。

咽び泣き。
啜り泣き(一寸違)。
貰い泣き(違)。

何故か?

それは・・・、
「ひらめ」「ほたて」「鯛」の刺身が
あまりにも日本酒とマッチしてるから。

僕は昨日、倫敦に「買い物」に行ってきた。
目的は買い物。これのみである。
他に、図書館で調べものがあるとか、
友人と会う約束があるとか、
観光したいところがあるとか、
そういう理由は一切無い。
買い物。これ一点のみである。

ロンドンは遠かった。
果てしなく遠かった・・・。
嘗て、ダーラムから倫敦まで、
自分で車を運転して行ったことは勿論あるし、
列車で行ったことも何度もある。
だから、距離感は掴めている。
然し、今回は、初の「コーチ(長距離バス」。
これが、予想以上の難行苦行だった。

日本の事情に鑑みるに、
例えば、大阪−仙台間の長距離バス「フォレスト号」は、
所要時間12時間かかる。
12時間!

何らかの交通手段を使っての移動時間以外で、
一つのことを12時間やり続ける機会って、
日常生活では、一体どれくらいあるんだろう?

「僕は、もうかれこれ12時間も、耳掻きをしてるんですよ。でもまだどんどん取れます

明るくそう言って、
空いているもう片方の耳に挟んである面棒を弄びながら、
屈託なく笑う人に出会ったら、
確かに相当なインパクトを受けるだろう。
ある意味、耳穴を見てみたい(怖)。

兎に角、耳カスはおろか、
脳みそもちょろっと出てくるくらい、
長い時間なのだ、12時間とは(異)。

字面のインパクトは確かにある。
然し乍ら、10年前くらいから、
日本の長距離バス事情は飛躍的に進歩した。
路線の充実に加え、
バス車体そのものの、居住性における快適さが増した。
例えば、3列セパレートシート。
今までの、「バス=4列二人がけ」という伝統的概念を打ち破る、
この画期的システムは、
さらに素晴らしい機能性を付加したのだ。
航空機のビジネスクラスにも匹敵するような、
ほぼ180度近い傾斜のリクライニングシート&足あて。
これによって、椅子は簡易ベッドに早代わりする。
隣を気にしなくとも良い、快適な居住空間を実現したのだ。
そして、バスの中では、飲み物は無料サービス。
有線も聞けるし、ビデオもある。
まさに、日本の得意とする、
「至れり尽せり」状態の極致が今の長距離バスなのである。

だから、仙台大阪間の12時間も、
実はそれほど苦痛ではない。
揺れてるところでも寝られる人なら、
はっきり言って、問題は何もない。
(若干、値段が高いけど>大阪−仙台片道12000円)

さて、えげれすの長距離バス、コーチ。
倫敦までの距離は、大阪→東京より若干近いくらい。
所要時間は6時間。
行きは夜行便。帰りは昼行便の予定である。

この国は、そして欧州は、
本当にに素晴らしいまでの長距離バス網があり、
然も恐ろしく安いのだ。
今回の値段は往復3800円程。

然し、バスの快適性は、
日本の「至れり尽せり」に慣れている体には、
少々、いやかなり、厳しいものがある。
ハイデッカーの、比較的新しい車体ではあるけれど、
セパレートシートではなく、2×2の旧来方式。
リクライニングは、10度あるかないかである。
尤も、この国の交通機関においては、
リクライニングが存在すること自体が画期的だけど。

シートピッチは狭いし、
兎に角所要時間がかかり過ぎる。
運転席の6時間はあっと言う間だが、
助手席の6時間は鬼のように長い。
そして窮屈なバスシートの6時間は拷問に近い。
まだ、初めての景色が見られるとか、
あるいは、綺麗な景色があるとか、
そういう刺激でもあれば別なんだろうが、
えげれすのM道路(高速道路)は、素晴らしくつまらない景色である。
然も、何度も何度も通ったことのあるところでもある。

そして、この辺がえげれすっぽい。

「車内アルコール禁止。マクド&バーキン禁止。KFC禁止」

おい。
食ったらいかんのかい。

なので、寝るしかない。
でも、6時間はひたすら長い。
尻も痛いし。

結局、その難行苦行夜行便にて、
倫敦に早朝5時過ぎに着いた。

5時ておい。
何せえ言うねん。
サウナとか吉牛とか用意してみんかい、えげれす。
(註:サウナというと怪しげな浴場を指す)

ふらふらになりながら時間を潰した。
店の開店時間まで、気の遠くなるような暇な時間をやり過ごし、
漸く10時、店へ直行。
買うものは、勿論、アレとアレである。
そのため「だけ」に来たのだ。
そうでなきゃ、わざわざ倫敦なんか来ぇへんわ。

戦利品は、

日本酒4升(因みに一升瓶は6000円くらい)
刺身(鯛+ひらめ+ホタテ+〆鯖)

今、これらの戦利品を目の前にして、
今日の、あの難行苦行鬼行を思うと、

だって、涙がでちゃう。美味しいんだもん♪

然し、7升を運ぶ、日本からの「本家・運び人」と、
一体どちらが鬼行なのだろう・・・?

(Nov/2000頃執筆→7th/Jan/2003更新)


 



Copyright(C) (Ryo)1998-2006