フィジー通信 vol.10

フィジー通信vol.10 ■おやくしょ■ 21st/May/2002

今日は、マーケット(市場)に買い物に行ってきた。
一山60円弱のナス、一山60円弱のインゲン、一山60円弱のニンジン。
安いし、良い感じなので、調子乗って、トマトも買おうとしたら、
にいちゃんが、顔を曇らせて、一言、

「トマトはね、、、kg当たり7ドル(420円)だよ」

この前、スーパーで買った時と同じ位の値段だ。
でも、ナスやインゲンやニンジンに比べたら、
べらぼうに高く感じる。

「これはね、、、ニュージーランドからの輸入だからね」

やっぱり、この地では、トマトは採れないらしい(作ってないのか?)。
「輸入品は高い」っていう、この当たり前の感覚も、
日本にいると、時々忘れそうになるけど、
ここでは、全く当然に、輸入物は高いのであった。

その後、スーパーで、ラム肉を買い、
「ちょっとそこらまで買い物に来たにいちゃん風情」で、
買い物袋をぶら下げたまま、帰ろうとした瞬間、
あることを思い出した。
日本大使館で、ヴィザ申請に必要な、無犯罪証明書の受け付けができるらしい。
その詳細を聞いておこう。
大使館は、すぐ目の前である。

大使館で申請ができるってことは知ってたけど、
どれくらい時間がかかるのかとか、
申請に必要なものは何か、とか、
そういう一般的な質問をしたかったので、
軽い気持ちで日本大使館に、「ちょこっと」立ち寄ってみることにした。

ちなみに、僕の格好は、
Tシャツ、短パン、雪駄、買い物袋4つ。髪、ボサボサ。

思えば、「大使館」なるものに入ったのは、
僕の人生、後にも先にも、東京のフィジー大使館だけなんですな。
えげれす時代は、悪評極まりないあのヤカタへ行くのは避けてたし、
大体、行かなくても用事は済んでしまうのがイギリス。
日本人多いからねぇ。
例えば、在留届なんかも、あまりみんな出してない。

東京のフィジー大使館は、

「観光案内所?」

くらいの「気軽さ」で、
事実、観光案内所は併設されている。
初めて行った時は、ふうむ、ある意味感心したんだけど。

そのあたりの記憶が頭をよぎりつつ、
僕は、大使館のあるビルのエレベーターに乗った。
ドアが開く。
「大使館はこっちやで」と矢印が出てる。
そっちに歩くと、先ずは、ごっつい身体のガード(フィジー人)がいた。
彼は、何も言わず、ドアを開けてくれる。
「ごっつい1号」を何とかクリアすると、
そこには「ごっついドア」があった。
中に入った途端、「侵入者」を告げる、けたたましいベルが鳴り響く。
おののく僕。

正面に、またもやフィジー人のガード(ごっつい2号)が座ってて、
彼は、受け付けを目で示す。
右側には、受け付けがあって、
おばちゃん(フィジー人)がニコニコしてる。
でも、僕とおばちゃんの間には、
硝子(多分防弾でしょう)がそびえている。
おばちゃんの愛想はいいが、ものものしい雰囲気であることは間違い無い。

おばちゃんは、それでも、ニコニコしながら、

「ええと、そこの用紙に、訪館目的とアポの有無を書いて出してくださいね」

という。

いや、、、ただちょこっと寄っただけなんですけど。。。
こんな格好だし、ラム肉とかぶらさげてるんですけど。。。

東京のフィジー大使館とのあまりの違いに、あたふたする僕。
オフィスに通じるドアの前には、
おどろおどろしい、金属探知機が設置されている。
僕の格好は、どう見ても、自爆テロとか、反乱者とか、
そういう物騒なものには見えないはずやねんけどね。。。

「訪館目的」って言ったって、
僕にも聞きたいことははっきりしてないのだ。
その書類の申請をするかどうかさえ、まだ決めてない。
あまりに時間がかかるようなら、
僕は「ただそれだけのために」日本に一時帰国することも考えてるから。
だから、色々とお話を伺いたいのだ、というと、
おばちゃんは、愛想良く、「おかけになってお待ち下さい」という。

然し、考えたら、大使館なんて、
「有事」の際には、最もアブナイ場所になるわけやし、
日本は大国だから、セキュリティも確りせなあかんのやろなぁ。
それにしても、フィジー大使館の「気軽さ」とは違って、
重々しいよなぁ。
僕は、「ガイジン」として、日本に入国したことはないけど、
日本の入管は、「最も厳しいとされるえげれすなんかも目じゃない程に」
鬼のように厳しいらしいしなぁ。
なんだか、妙な気持ちになってしまった(笑)。
案外、日本の事(外部から見ての)って、知らないもんだわ。。。

待ってる間、僕はトイレに行きたくなった。

廊下を出たら、その辺に適当にあるだろうと思い、
受け付けのおばちゃんに、「気軽に」トイレありますか?って聞くと、

「あなたは、トイレに行きたいんですね?」

と、改めて、「重々しく」念を押される。
へ?
なんか、アヤシイこと言うたか?オレ。
それとも、この状況のさらなる詳しい説明を求められてるのか?
大なのか小なのか。風雲は急を告げているのか。
昨日は毛布をかけて腹を冷やさないようにしてちゃんと寝たのか。
ちゃんと、ラッパのマークの正露丸は飲んだのか。
何も言えず、あれこれ考えてると、
おばちゃんは、電話で誰かに「通報」し、「トランシーバー」で誰かと連絡を取っている。

大使館でトイレ借りるって、そんなごっつい事なんか??
別な意味での「自爆テロ」だと思われたのか?
#尾篭な話ですんません。

そんな、死んでも死にきれないような、いや、寧ろ、
いっそのことオレを殺してくれ的「自爆テロ」は、嫌や。
確かに、腹は、「村祭りピーヒャララ」状態だったけれども。
#尾篭な話ですんません2。

そのうちに、「ごっつい2号」が「変身ベルト」と共に登場し、
案内してくれた。
彼は既に「"三四郎的"柔道着」だった<ノリ過ぎやね。すんません

成程。
トイレは、廊下にあるんじゃなくて、
オフィスの中にあるのだ。
だから、あの仰々しい金属探知機をくぐりぬけなければならないし、
カギが何重にもなってる重々しい扉を開けて入らなければならないのだ。
おまけに、中では、大きく「visitor」と書かれたIDパスを渡される。

「ごっつい2号」は、僕の目線斜め上45度くらいのところから声を発した。

「あそこの、2番目のドアです。どうぞ」

尾篭な話なんだけど、
少々腹を壊してた僕は、
ちょっと長いこと時間がかかった。
でも、トイレは、ゆっくり、落ち着いて、というのを「人生のモットー」にしてる僕は、
着実に、日頃の習慣を実践に移した。

すっきりして、出て見ると、
なんとそこには、「ごっつい2号」が僕を「待って」いた。
どことなく、「待ち焦がれた」風情だった。
一寸、「寂しげな漂い」さえあった。
ベルトの回転は、「止まって」いた。

僕と彼は、一度熱い視線を交わし、
デートでカップルがそれぞれのトイレに入り、
後から出た方が、先に出て待ってた方によく言うように、

「ごめん。待った?」
「大丈夫だよ。さ、行こうっか♪」

と、フィジー語で交わし、
腕を組んでオフィスの外に出て、
一緒にカヴァを飲みに行った(嘘)。

今でも・・・、あの夜のことは、忘れない(さらに倍。もとい、嘘)。

それにしても、、、
大使館でうんこするのも、なかなか大変なのである(苦笑)。
なにせ、IDカード、首からぶらさげて入るトイレやし。
「visitor for うんこ」である。<もう、ええ。
「うんこの為の訪問者」である。<訳さんでもええ。
「I just come here for UNKO(私はうんこをするためにここに来ました)」<基本文型言わんでええ。

さて、、、気を取りなおして。

肝心の証明書は、
なんと、ここで申請すると、2ヶ月以上はかかるそうな。
絶句してる僕を見て、担当官が申し訳なさそうに付け加える。

「なにぶん、役所仕事なもので。。。フィジーから日本の外務省への定期便は週1でして。
その後、外務省が事務処理をし、その後警察本部が事務処理をし、その後、漸く、
都道府県の警察本部に渡るのです。そして発行された後、今度は逆のルートで、
こちらに届くわけです」

まったく。。。
日本の官僚仕事のなんたるかを、
分かりやすく見せつけられた感じだわ(苦笑)。

幸い、担当官の方は、相当親切で、
僕の状況を把握した後、
一番都合の良い方法を探していきましょう、と言ってくれたので、
今後は、こちらの進展状況を、彼に知らせることで、
タイミングを計っていくしかないのだが。。。

僕の状況は、些か複雑で、
ここに、その詳細を詳らかにすることは避けるが、
要するに、ここで申請して二ヶ月待つのが得策なのか、
それとも、それだけのために、一時帰国するのがいいのか、
実に微妙な状況なのである。
少なくとも、県警で申請すれば、一週間くらいで発行される。
だから、僕としては、こちらで申請だけしておいて、
後から、もし状況が変わり、一時帰国する羽目になったら、
その時は、改めて、県警で申請しようと思っていたのだが。。。

悪いことに、一つの悪い予感が当たってしまった。

「二重申請は、できないんですよ。。。」

担当官は申し訳なさそうに言う。
大使館で申請してしまうと、
これは「公文書扱い」になる。
それ以降、僕が別に申請すると、「二重申請」になる。
基本的にそれはできないんで、「取下げ申請」をしないといけないらしい。

まさか、と思いつつ、聞いてみた。

「その取り下げ申請ってのは、簡単じゃないんですよね??」
「ええ。これまた、こちらから、外務省、警察本部、都道府県警察と渡って行く書類なので・・・」

なんてこった。
まったく、役所って奴は。

退館した時は、
既に、受け付けは終わってるらしく、
外の電灯は消えていた。
礼を言ってドアを開けようとすると、
「ごっつい1号」が、外から開けてくれた。
僕は軽く会釈しながら、
ラム肉と、ナスと、インゲンと、ニンジンの袋を持って、
大使館を後にした。


 



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