フィジー通信 vol.12

フィジー通信vol.12 ■パカパカ天国■ 13th/Jun/2002

食卓に醤油とわさびが載る時、
それは人生における至福の瞬間である。
古代ギリシャの詩人が言った言葉らしい。
(信じないでね)

日本が仮にWC決勝トーナメントに進んだら、
次の対戦国がどこなるのかが決まる重要な試合、
ブラジルvsコスタリカも見ずに、
僕は今、とってもシアワセなメシを食ってる。

***

今日は早起きして、村に日帰りで行って来ました。
近くの村に病院がオープンするというので、
今日は、盛大なセレモニーがあるという。
伝統的、かつ大々的な、これくらいの規模のセレモニーは、
最近では珍しいらしいので、見に行って来たというわけ。
主賓のトップはフィジーの首相(!)。
僕は、首相をナマで見てきたんだけど、
それは、まぁ、今回の話には関係ない。

行くと、村のオトコ衆が、何かを作ってる。
早速見に行くと、それは、「Qalu」と呼ばれる、
フィジーの伝統的なプディングなのだそうで、
ふかしたタロイモを擂り粉木で潰し、
砂糖とココナツで作ったタレをまぶすというもの。
団子状になった「タロイモプディング」は、
本来持っている粘着性が更に倍化されて、
なんだかとっても「団子」っぽい食感なのである。
僕は、波状攻撃をしかけてくる蚊に辟易しながら、
それでも、興味深く、その作業を見ていた。

実はこれにおめにかかるのは今日で二度目。
前に、Suvaのマーケットをぶらついてたら、
何やら、葉っぱに包まれた、加工品を売ってるおばちゃんがいた。

「知らない食いモンに遭遇したら、先ずは食って見ろ」

とは、戦国時代のどこかの殿様の言葉だが、
その子孫にあたると信じている僕は、
忠実に、ご先祖様の言を守ることにした。
(信じないでね、その2)

バナナの葉っぱにくるまれた中には、
なんだか団子っぽいものが、茶色のソースが塗されて5つほど転がってた。
食ってみると、なかなか旨い。
ソースの方は、僕には一寸甘すぎたけれども、
甘いもの好きなフィジアンには丁度良いのかも。
それより、この、モチモチとした食感が堪らなかった。
あんこを塗したり、はたまた黒蜜ときな粉で頂いたり、
そういう風情がとっても似合いそうな、このシロモノ。
然し、その時は、いくら考えても、わからなかった。
そうか、、、タロをすり潰したもんやったんか。

そもそも、その時、何故マーケットをうろついてたか。
それは、その前日、その時は目的無くうろうろしてた時、
見つけて買ったブツを、もう一度買うためだった。
残念ながら、このQaluを買った日には、
一番の目的だった、そのブツを買うことは出来なかったんだけど。

それは、多分、日本では「海ぶどう」と呼ばれているもの。
僕は、あれを見た時、咄嗟に「海ぶどう」や、と思ったんだけど、
帰って、辞書引いて見たら、その項目がなかったので、
「海ぶどう」なるものは存在しないのか、僕の勘違いかと思ってた。
でも、後で、「海に詳しい筋」から聞いたところによれば、
矢張り、それは「海ぶどう」らしい。

それは、実は、相当前から気になってた。

「さかな、さかな、さかなぁ〜♪(おさかな天国)」がヒットし、
着実に魚を消費し続ける美食系島国ニッポンから、
「おイモ、おイモ、おイモぉ〜♪(ジャガイモ地獄)」がチャートに乗っかり、
着実に魚の種の保存に貢献してる環境系島国えげれすへ移住。
そして、やってきました、またもや「島国」フィジー。
この地は、果たして、天国なのか地獄なのか?
僕の興味は尽きなかった。
海産物を売るおばちゃんが急増する週末。
そこで見つけた、この海ぶどう。
というか、その他も沢山の海産物が、
週末のマーケットで売られている事実。
僕が、嘗ての「通信」で書いた「望郷の思い」コーナーで、
真っ先に取り上げたのは「カツオ」でした。
英訳するのも難しい(というか、えげれす人にbonitoと言っても知らない)。
その単語を、シドニーで発見した時は、
僕は確かに、狂喜乱舞した。
然し、このSuvaマーケットでも、カツオを売ってることを知った時は、
確実に卒倒寸前だった。
僕の中で、「島→海が近い→魚がわんさかおる→魚をむっちゃ食う」という、
至極当然な方程式が成立しなくなってたえげれす生活。
それが、段々と、正常なレベルに復活していく音が聞こえるようや。
この島には、ようけ、魚がおる。
そして、むっちゃ豊富な魚介類をみんなちゃんと食ってるで。
それだけで、この国は、素晴らしい地、なのであった。

さて、海ぶどう。
おばちゃんに、「ナマでいいの?」って聞くと、

「ナマが好きなの?ああら、困ったわねぇ」

とは言わずに(笑)、そうよ、と答えてくれたおばちゃん。
然し、これのフィジー語の呼称は、何と「Nama」と言うのである。
僕は、すかさず、わさび醤油で食べる画を想像してコーフンした。
おばちゃんは、

「ココナツと一緒に、チリなんかも一緒に、ツナ缶なんかと食べてね」

と言う。
はいはい。
ココナツは一寸試してみたいけど、
わさび醤油の敵ではあるまい。

帰って試して見た。
思った通り。
むっちゃ、旨いやん!
この、なんともナマっぽい食感。
なんにもクセのない、自己主張のない味。
それでいて、醤油やわさびの個性を殺すどころか、
寧ろ相乗効果をあげている。
Seaweed(海藻類→英語には従って、各海藻を識別する単語がない)の妙というのは、
まさにここにあるんやね。
ノリだって、コンブだって、ワカメだって、そうやんか。
彼らは、主役にはならないけど、
黒子として、絶対的な役割を果たしている。
今回の海ぶどうは、彼が主役ではあるけど、
わさび醤油とのコンビネーションは抜群なのだ。
僕は、ハマった。完全にハマった。

さて、ここで、今日の夕方に場面を移します。
因みに、今日は木曜日です。
一応、土>金>木、という順ではあるけど、
今日あたりから、海産物がマーケットに並び出します。

僕は、例の、病院オープンのセレモニーから帰ってきた。
Princess Rd.をSuva市街に向かって車を走らす。
然し、その途中には、Suva在住者ならば誰もが知る、
「魚屋の総帥」、Cakaudrove Fishという魚屋がある。
なんとなく、「刺身が食いたい」と思った。

ここには、刺身にできる新鮮な魚がある。
前回は、カジキマグロ(だと思うんだがなぁ)を購入。
そして、このマグロの刺身は、
中華料理屋の「刺身」、韓国料理の「刺身」、
日本料理は行った事ないから未確認だけど(笑)、
兎に角、「刺身」といえばこれ、っていう位に、
メジャーな魚なのであった。

然し、こいつは、本マグロやキハダマグロと比べると、
あんまり旨くないのだ。
だから、この、「魚屋の教科書」のCakaudroveからも遠ざかってた。
カジキマグロしかないのなら、あまり食べたくもないし。

然し、久しぶりに寄って見て、大発見があった。
店員のおねえちゃんは、僕が日本人だとすぐに見破り、

「サシミ用のマグロはないわねぇ、、、今日は。。。」

ふうむ。仕方ないなぁ。
ふと、冷凍烏賊が目に付いた。

「この烏賊は新鮮?」
「ええ、勿論」
「サシミで食える?」

ねえちゃん、明らかにおののく。

「(暫し無言)・・・まさか」

この「まさか」は、烏賊がサシミで食えるほど新鮮ではないからやめといたら?
っていうことを言う「まさか」ではなく、
明らかに、

「烏賊をサシミで食うんかい!」

っという方の「まさか」だった気配がする。
その場で、イカソーメンにして食って見せてやろうかと思ったが、
生姜がなかったのでやめた。

途方に暮れていると、ねえちゃんが気を利かして助言してくれた。

「パカパカはどう?これはサシミでもいけるわよ」

Pakapaka。別名Onaga。多分「尾長」から来てるんだろう。
日本語の名前は、微妙に、色々な形で混入してる。
然し、見せられたPakapakaは、尾長鮪(ビンチョウマグロ)とは、
明らかに違うシロモノ。
確かに、尾は長かったが。
鯛、というよりは、イトヨリを全方向に4倍くらい拡大したような感じ。
全身ピンクの魚体からは、淡白そうな白身が想像され、
でかい目ン玉からは、目抜や吉次のようなコクが想像される。
でも、いずれにしても、かなり旨そうだ。

「(一匹丸ごと手に持って)これは貴方には充分かしら?」

どうも、和訳すると、感じがでないな(苦笑)。
とにかく、それを頼むことにした。
すると、おねえちゃん、流石に僕を日本人と見ぬいただけのことはある。
すかさず、

「下ろす?三枚?皮は取る?」

この三拍子。この観点。魚を扱うものの常識。
「ウサギ肉」などというものを売ってる、
えげれすの魚屋に、物申したいねぇ、まったく。
魚屋は魚だけを真摯に扱いなさい。
魚の食べ方を研究しなさい。
でも、ウサギは旨かったから、、、まぁええわ(笑)。

さらに、なんと、「アラ」まで別に包んで渡してくれた。
僕は、この、「正しい姿」に暫し感涙を流し、
「魚屋の鑑」Cakaudroveを後にした。

今度は、或る期待に胸膨らませて、マーケットに寄った。
今日は木曜日。
ひょっとしたら、海ぶどうが売ってるかもしれん。
今晩は、シーフード大会になるかもしれん。

予想通り、海産物系はかなり多かった。
僕は、魅力的なものを見つけてしまった。

ウニ

最近、先の「海に詳しい筋」が、しきりに、僕に、
ウニの素晴らしさを伝えてくる。
僕は、それを聞くたびに、身悶えする。
なんといっても、ウニは、僕の中で、

「不治の病に罹った時、毎食リクエストするものランク第1位」

のタイトルを、長年獲得し続けているツワモノなのである。
然し、えげれすでは、それは夢のまた夢。
夢心地にその辺で売ってるウニを買って食べたとしても、
現実の厳しさを身を以って知るってところが関の山である。

然し、フィジーでは、ウニを売ってる!
剥き身も、そのままもある。
あの、オレンジ色の、葉っぱみたいな剥き身は、
まさに「ウニ」、そうやない、「雲丹」である。
タッパーに、こんもり入っている。

僕は、それを横目で睨みながら、
矢張り、立ち止まらずにはいられなかった。
おばちゃん、すかさず、声をかけてくる。

「ウニ、ウニ(と、フィジー語で)」
「うんうん。わかっとるがな。わかっとんねん。でもなぁ・・・」
「わかってて何が問題やのん?にいちゃん、はよ、持ってって」
「一寸、古いんとちゃう?」
「そんなことあれへん。むっちゃ新鮮やって」
「いつ獲った?」
「昨日の晩」
「(いっそう考える)今、夕方やで」

フィジーというのは、「熱帯」にあるのである。
「熱帯」というのは、普通、「常夏」と訳される。
つまり、今はいくら「冬」であろうとも、
そして、多分、今の大阪や東京よりは涼しいかもしれないけれども、
やっぱり、日中は、日差しが凄まじく、「あっつい」のである。
現時刻は16:00。
おばちゃんは、絶対、朝早くから、ここで出店してる。
然も、海産物関係は、「屋外で売るべし」という決まりがある。
ということは、あのウニは、熱帯の、鬼のような太陽光線を存分に浴びて、
屋外30度の状態で長時間晒されているに違いない。

ウニはたんぱく質。
たんぱく質が劣化したら、
その、人体に与える悪影響は甚大である。
七転八倒は覚悟しなければならぬ。
然し、僕は、決断した。
オトコは、立つ時には立たなあかん。
七転び八起きという言葉もあるやないの。

「ウニはそこにある。何故食わない?」

これは、ナポレオンが、欧州統一を目指した時に、
部下に向かって叱咤激励した台詞である。
(ええかげんにせえ)

加熱すればええか。
簡単なことに気づき、ウニを買って見る。
さらに、隣に、申し訳程度にあったNamaも買う。

家に着いた。
食卓の準備をする。
タッパーに入ったウニを見つめる。

「これは、、、どっからどう見ても、雲丹や。。。」

剥き身の雲丹がタッパーに入っている。
日本なら、これと同じ分量なら、およそ6000円はすると思われる。
が、然し、このフィジーでは、僅か120円(!)なのだ。
そして、多分それは、ピシッと密閉できる、
このプラスチックの容器代の方が、高いのではないか?
どうも、そういう雰囲気がある。

でも、僕にとっては、「ナマで食えるのか?」が命題である。
食ってもいいのか?
たんぱく質の反乱と戦うべきなのか?
そんなに危険をおかして何を得る?
「危険と奇跡とは常に隣り合わせにある」
色々な言葉が頭をめぐる。

***

と、言うわけで、今晩の食卓は、
・Pakapakaのサシミ(with わさび醤油)
・一応、雲丹(with わさび醤油)
・申し訳程度のNama(with わさび醤油)

これにキムチがついて、気分は既にアジアである。
飲む酒が「白ワイン」ということで、
日本酒がないのが、些か不満ではあるけれども。

さて、期待の雲丹である。
尤も、一口食べて見て、駄目そうだったら、
すぐに撤退するつもりでもある。

食べた。



ほんまにこれは、雲丹、やんけ。

雲丹やで、おい。
然も、わさび醤油との、この絶妙なマッチング。
やっぱり、雲丹やねん。

 やっぱ雲丹やねん やっぱ雲丹やねぇぇん♪
 醤油がなきゃあかん サビはよう忘れられん♪

頭の中で、たかじんが熱唱してる。
120円やけど、雲丹やねん。
然も、あのおばちゃん、ちゃんと考えてるわ。
灼熱の日中を過ごさねばならない環境を想定して、
雲丹の剥き身には、ひと塩がされてる。
果たしてそれが、生食に向いてたのかどうかは、
明日の僕の腹の状態に聞くしかないけど(笑)、
タダのナマではなかった。
そして、、、今もこれを書きつつ、ひとつ食べたけど、
こいつは、間違い無く、雲丹やでぇ!

120円。
どや?
来たいでしょ?フィジーに。

僕は、一人、悦に入っていた。
「雲丹は雲丹やでどこででも」の雲丹を摘み、
「Pakapaka恐るべしむっちゃ旨いわ」のサシミを頂き、
「今日はそうでもないけど侮れない」Namaをつつく。
そして、ブラジルの爆発力と脆さが同時に出た試合をテレビを見てたら、
電話が鳴った。

フィジーの友人から。
僕は、知りたてのフィジー語の単語を使いつつ、
今日の出来事を報告した。
村に行ったし、色んな知らんモンを食べた。

「今日は村でQaluを食べたよ」
「それから、今は、わさび醤油で、Pakapakaのサシミを食ってる」

そして、僕は続けて言った。

「Namuって知ってる?これ、めっちゃ旨いよなぁ。今は、わさび醤油で食べてる」
「?!」

彼は一瞬絶句した後、爆笑して言った。

「リョウは、村に入って、ちょっとおかしくなったんかと思った」

訝しがってる僕に彼は一言。

「『Nama』の間違いやね。『Namu』は『蚊』やねん。村は蚊が多いから、思わず食ってしまったんかと思った(笑)」

母音は需要です。


 



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