フィジー通信 vol.13

フィジー通信vol.13 ■にゅるにゅる■ 22nd/Jun/2002

ここんとこ、しばし、
「もやしのおひたし」だの、
「バターコーン」だの、
「野菜炒め」だの、
「ベジタリアン」かつ「ローコレステ系」生活が続いてたので、
今日、買い物で、スーパーの中をうろついてたら、
なんだか久しぶりに、がっつりと肉が食べたくなった。

僕の頭の中には、
先週、村で頂いてきて、
現在冷蔵庫の下の方に眠っている「タロイモ」の事がずっとあって、
なんとかしなきゃと毎日考えていた。
「冷蔵庫に入れれば一週間はもつわよ」と笑顔で言ってくれた、
村のおばちゃんの言をいくら信用するとしても、
この未知の食べ物、僕にとっては安心できないシロモノには違いない。
何を以って「腐った」と判断するのか?
熱を加えたらどうなるのか?
生で食ってもいいものなのか?
全ての基準が、全然全くさっぱりわからん。

残念ながら、彼らのように、
タロを主食(彼らは単に蒸かして食べる)にする気にはなれないので、
この、里芋と山芋のアイノコみたいな奴を使って、
何とか料理をしたいもんやとそればかり考える。
プランは沢山浮かぶが、イメージが涌かない。
「未来予想図」の無いまま始めるのは、パイオニアの宿命だが、
そこには常に、劇的な成功と悲劇的な結末とが隣り合わせ。

肉、ときて、何を初めに思いついたか?
・・・生姜焼き(笑)。

イモ、ときて、何を思いついたか?
・・・肉じゃが(笑)。

さらに、今日は木曜日。
マーケットで雲丹をゲットできれば、
「塩雲丹」を作ってみようと思い立った。
その為には、「ザル」が要る。

先ずは、大手のスーパー、MHへ。
ここは、食料品だけでなく、
台所用品も売ってる。
僕は、ザルと、それから、下ろし金を探した。
生姜焼きするためには、生姜をすらなきゃならん。
包丁でみじん切りにしてもいいけど、
それでは、生姜のジュースがこぼれてしまうし、
大体、切れ味の悪すぎるこの包丁使っていたのでは、
ストレスが溜まってしまう。

ザルは、前に、パスタ用に探したことはあったけど、
今回は、本格的に、もう一回探した。
すると、この前は見つけなかったところに、
なかなか手ごろなのがあった。
日本なら「ダイソー級」である。

予想はしてた。
予想はしてたけど、なんでこんなもんが、300円もするんじゃい。
輸入品は高いのだ(ザルは豪産)。

今回のザルの使用目的は、塩雲丹作り。
ザルに3倍の投資をしたとしても、
原料の雲丹が、日本の1/50くらいの値段だと思えば、
結果として安いもんだ。
ザルは買うことに。

下ろし金。
こいつも高いなぁ。。。
見たら、480円(豪産)。
これも、「ダイソー級」の製品である。
僕は、生姜焼きは、諦めることにした。
というか、別な手段を考えることにした。

続いて、韓国ショップへ。
下ろし金、ないやろかと思って探すも、
残念ながら無い。
この店には、「痒いところに手が届く系」の品物(勿論日本製)が結構置いてある。
かなり期待したけど、駄目らしい。
ザルも序でに見たけど、無し。
ここで買うものは、「かつおだしの素」。
理研の製品ね。
「ほんだし」は高くて買えない。

例によって、「ざるそば」とか「韓国冷麺」とかにそそられる。
「オタフクたこ焼きソース」の地点に立ち止まる。
「ククレカレーレトルト」の前で唸る。

蕎麦を楽しむ為には、醤油と出汁以外に「みりん」が要る。
僕は、この「みりん」だけには長らく手を出さないでいた。
これは言ってみれば、「自制」である。
醤油はある(刺身用その他)。
出汁(かつおだし)はある(汁とか雑炊とか用)。
然し、「みりん」にだけは、僕はまだ手を出していない。
こいつを手に入れると、和食モード全開になってしまう。
三種の神器の力は、まことに恐るべし。
今、食費が、そこそこのレベルで止まっているのは、
僕が、「本格的和食」じゃなく、「そこそこ和食(別名:なんちゃって和食)」のレベルで、
自分をかろうじて抑えられているからなのであった。
今日も、結局、900円近くする「みりん」を見送った。
僕の目には涙が。
僕は店内を一周した。
そして僕の頭は「赤いモヒカン」になっていた(ネタ)。

「ソース」。
うーん、惹かれる言葉である。
鉄板さえあれば、もうあの音だけで、心は天国、胃は満腹、かつぶしは踊る。

「う・・・ん、いかん・・・」

ここには鉄板も無いし、かつぶしも無い。
僕はB型。形から入る。
「ナニワのコナ物」を満喫するためには、
ハード面としては、鉄板、山芋にキャベツ、豚か烏賊、卵、かつぶし、紅生姜、天カス、
そして「ソース」と「マヨネーズ」が欲しい。
ソフト面としては、新喜劇の画像と音が欲しい。
出来れば土曜であって欲しい。
帰宅途中、耐え切れず、買ってしまったコロッケを見つけて、
激怒する「おかん」も欲しい。
チェリオなんかの、「100円なのに何故か500mlのロング缶」の飲料も欲しい。

ここまで空想して、それが実現不可能だと悟って、
僕は「オタフク」から撤退した。

「ククレカレー(レトルト)」は、一袋、約1000円もするのである。
カレーの物価は、レトルト、ルー共、
えげれすを余裕で越える高値水準。
インド人が多いから需要が無いからなのか。
でも、えげれすでも、インド人は多いやろ。
まぁいざとなれば、ルーを買って自作すれば良い。
なんぼなんでも、レトルトのコストパフォーマンスは悪すぎる。

危険地帯を通り過ぎて、
辺りには、「高麗人参ドリンク」だとか、「韓国系野沢菜漬物」だとか、
少しだけ心和らげる品物が多くなってきた。
「韓国モノ」は、日本で見ると「バッタもん」、
ここらで見ると「一寸こそばゆいモン」。
知らんメーカーの、然し、どう見てもパクリの、
「ポッキー」とか「かっぱえびせん」とか。
これらのものは、嘗て、試しに買ってみたこともあるんだけど、
大して心踊るものでもなかった。

然し。
僕は、最後の最後に、強力な罠にひっかかってしまった。

奴のモチーフは、大村昆にあるのか?
それとも、大村昆が、奴をパクったのか?
じっと、僕を見つめる視線がある。
奴は、常に、僕を見ていた。
僕はそれを知っていた。
そして、今日は、、、
僕は、店内を3週した後、奴をカゴに入れてしまった。

「ごはんですよ」→900円。

江戸ムラサキ、桃屋。
オレは大村昆は好きなんや。
嘗て、梅田ロフトのバイト中、彼に会ったし。
・・・然し、、、900円かい!きょうび、これも100均モノやで。

次に、Suvaのマーケットに行く。
雲丹を売ってるかなと思って、今日はわざわざ午前中、
暑くなる前に行ったのだ。
果たして、雲丹を売ってるおばちゃん発見。

「新鮮よ!」
「(ウソツケ)いつ獲ったん?今朝?」
「そうそう。朝9時のバスでここに来たのよ」

多分、彼女は、「いつ獲ったのか?」という質問の内容を理解してない。
というか、聞いてない。
というか、それは多分、大した問題ではない。
だって、今日も灼熱のフィジーで、炎天下の中、
生物の雲丹を置きっぱなしにしてるくらいなんだから。
何を以って「新鮮」というのか、それを聞き質したい。

でも、そう言っては角が立つし、
まぁ、なんだかよさげだったので、
先週に続き、雲丹を買いました。
今日は、分量が多少多く、3ドルだったので180円。
これで塩雲丹を作る。

というわけで、今日の成果は、
「ザル」→塩雲丹製作用、
「ごはんですよ」→酒のアテ
「かつおだし」→肉じゃが、もとい、肉タロ用。
「雲丹」→塩雲丹用。

然し、家に戻って考えた。

「『肉タロ』用の『肉』がないやんけ」

今日は止めようかと思ったけど、
「思い立ったが吉日系」のB型としては、
この流れを止めたくない。
今度は別のスーパーに向かった。わざわざ歩いて行った。
僕の中では、既に、あの、肉じゃが、もとい、肉タロの、
甘辛い独特の香りが鼻腔をくすぐり続けているのである。

「肉タロ」の肉は、羊がいいなぁと思ってた僕。
煮込むことを考えて、骨付きでもいいかと思い、
羊の首肉(骨付き)を買う。
然し、なんだか、牛がオレを読んでる気がする。
肉が食いてぇ。
肉って言えば、焼いてそのまま食う、ってのが本筋やないか。

「今晩は、焼肉にしよう」

速攻、この考えがまとまる。
僕は、サーロインステーキの部位をカゴに入れた。
(哀しいほどに脂身が無く、霜降りなんて夢のまた夢。だから当然安い)

店内を見て周る。
僕としては、今、最高に欲しいのは、

「エっバラー焼肉のタレ♪」

エバラ、もっと頑張れよ>import部門
仕方ないので、焼いた後にかけるソースを探す。

フィジー産は勿論ないので、
豪産になる。
当然そんなに安くは無い。
そして、その「味」のバリエーション。
僕は、えげれすでの悪夢を一寸だけ思い出していた。

「BBQ」---うむ。いいでしょう。
「steak」---いいんじゃないの。
「teriyaki」---この辺から怪しくなる。
「soy with honey and garlic」---ううみゅ。

聞こえはいいよ、確かに。
でも、冷静に考えてご覧。
「蜂蜜と大蒜風味の醤油」。
この「蜂蜜」が多分曲者なんだよなぁ。
多分、ヤケに甘いんだと思う。
そして、我らがsoyも、妙な味になってるんだろうなぁ。
えげれすでは、この手の、「似非和風味」にかなり凹まされた記憶がある。
期待を裏切るスープレックス級の筆頭は、「soy with なんとか」なのだ。
おまえら、一遍でもええから、野田と湯浅に修行に行ってこんかい。
それはもう、「武田鉄也と水前寺清子」のユニットよりも、
「前川清と福山雅治のタッグ」よりも、
「インパクト」と「腰の砕け度合い」から言ってモノの比ではない。

それならば、彼ら(西洋人)の生来の土俵である、
「steak」とか「BBQ」とかの方がまだマシやと確信した。
パイオニアは、「勘」を大事にせなあかん。
今回は、「steak」をゲット。
これで、今夜の「焼肉」は大丈夫。
序でに、羊の首肉をゲットしたから、「羊タロ」は大丈夫。
#どんどんオリジナルから乖離してゆく。

店内をさらに見ていると、
生姜の摩り下ろし瓶詰め、大蒜の摩り下ろし瓶詰めを発見。
両者、当然ながら高い(豪産)。
然し、下ろし金480円を考えると、
2回くらいまでならば、こいつらを買っても、
コストパフォーマンスは大丈夫だと試算。
試して見ることにした。

さて、準備は整った。
塩雲丹製作は24時間仕事だから、結果は明日。
生姜焼きからいってみよう。

雲丹を買ってきた時に、雲丹が入っていたタッパーを、
僕はちゃんととってある。
掃除のおばちゃんが、僕の部屋に来るたびに、

「なんで、こんな袋とか、紙袋とか、容器とか、とっておくの??」

と聞くのだ。
僕のロンドン時代の友人が、奇しくも言っていた事を思い出す。
共用のキッチンに、袋やら何やらを(結んで)取っておいたら、
隣室のEuropeanの住人から言われたのが、

「なんで、こんな袋とかとっておくの??」

然も、ここのキッチンを共用する日本人たちは、後に皆、次第に感化され、
こぞって、誰もが、何も深く考えること無く、
袋を取っておく様になったらしい。
一人が貯め始めたら、みんなが貯め始めたらしい。
そして、最後には、その、文句を言ったEuropeanも、
なんだか訳がわからないままに、取っておき始めたらしい(笑)。

僕のキッチンも、そうした趣がある。
袋も、紙袋も、タッパーも、あらゆる容器も、
ちゃんと洗って乾かして、とってある。
フィジアンのおばちゃんも、感化されて、取っておくようにならないかなぁ(笑)。

生姜焼きは、そのタッパーを利用して作る。
肉に先ず、一塩をして、胡椒もして、
包丁で筋を切る。
然し、恐ろしく固い。なんじゃ、こりゃ?
タッパーには、生姜の瓶詰め、大蒜の瓶詰めから中身をそれぞれ出して、
醤油とワインを加え、「かつお出汁の素」は勿体無いので、
牛のスープストック(コンソメの牛版)を少々加える。
本当はここで蜂蜜少々と、鷹の爪が欲しい。然し、無い。
そして、肉を浸す。一寸揉む。
これは、明日のお楽しみである。

フライパンで、羊首を炒める。切り口を下にして丁寧に焼く。
彼の目ん玉が、次第にどんよりしてくる(嘘)。
焼き色がついたら、鍋に移す。
人参も入れる。
今日は玉葱を買うのを忘れた。
「肉じゃが」には玉葱は不可欠。
でも、こいつは、既に、「肉じゃが」ではない。
「肉じゃが」は、「肉タロ」になり、
さらに、今では、「羊タロ」である。
料理の基本は創造性じゃ。

そう思いつつ、冷蔵庫のだいぶ下の方から、タロイモを引き上げる。
実際、村から持ちかえり、冷蔵庫に入れてから、
実に一週間ぶりの対面である。
どんな成熟を見せているのか。
はたまた、どんな惨状が待ちうけているのか。
タロの「行きつく先」を、僕はまだ知らない。

見ると、にゅるにゅるしてる。
なんや、これ?
臭いは、、、大丈夫らしい。
然し、「にゅるにゅる物質」は、それだけを表面からこそげ落とせるほどに、
ある「厚み」をもって、表面に付着している。

「いい・・・のか?これ、食って?」

自問するが、答え手はいない。
経験も何も教えてはくれない。
僕がタロを料理したのは、人生で二度目。
そのときは、にゅるにゅるはなかったぞ。

「臭くは無い」。
この一点で、勝負することにした。
にゅるにゅるも、山芋と里芋のアイノコみたいなタロのことだから、
粘着性は元々あるんでしょう。
パイオニアの使命は、自分の「勘」をひたすら信ずること。
後悔は、、、いやーーーーー。下痢ったくないよーーーー(笑)。

煮物も、カレーも、シチューも、
僕は、作ったその日には食べない人なので、
今もまだ、鍋は、ぐつぐつ言っている。
こいつを食うのは明日かな。
醤油はOK。充分に、惜しみなく入れた
出汁がちょっと足りない感じ。
みりんが無いのは仕方ないので、砂糖で代用する。
日本酒は無いから、ワインで代える。
なんか、濁ってきたけど。。。
まぁ、なんとか食えるでしょう。

さて、今晩食うものを作らねばならぬ。
今日の献立は、焼肉。
「エバラ」が無いから、「アチラモン」のステーキソースを使う。

こっちのウシは固い。
全く固い。
霜降りだとか、サシだとか、薄切りだとか、
そういう概念は全て吹っ飛ぶほどの、
なんというか、「赤身only」のかったい肉である。
肉汁とかいう概念も多分無い。
だから、「筋切り」が必須である。
それをしないと、固くて、噛みきれたもんじゃない。

期待の「steak」ソースは、なんというか、
ハンバーグソースのような感じだった。
まぁ、不味くは無いが、旨くもない。
然し、「アチラモノ」を買った場合、
「旨くも無いが不味くも無い」という絶妙の「バランス」を得ているものは、
殆ど無いに等しいので、これはもう、神に感謝である。

結局、焼肉はまずまず。
然し、あまりの肉の固さに、
僕の顎は、翌日、悲鳴を上げた。
翌日の、僕の顎は、「ひでぶ」状態になり、
歯という歯が、唸り声をあげている。
「めんどくせー、めんどくせー、息を吸うのもめんどくせー」の、ザコのように、
僕の顎と歯は、「北斗固牛拳」の餌食になってしまったらしい。
何かを噛むのも辛い程である。

塩雲丹は、大方成功でしょう。
もう少し、塩の量を増やしても良かった。
然し、こんだけの分量の雲丹を、
惜しげも無く「スプーンで掬って」食えるんだから、
まぁ、これまた、神に感謝でしょうな。

そして。。。
僕は鍋の蓋を開けた。
そこには、馨しい香りと、素敵な茶色の艶とを兼ね揃えた、
「肉じゃが」、もとい、「肉タロ」、もとい、「羊タロ」が、
一晩のうちに充分に味を染ませて、顔を覗かせている筈だった。

「・・・なんじゃ、これ?」

茶色くない。
やけに濁ってる。
やけにトロトロしてる。
やけに「固体」が少ない。

首肉と人参が「ええ感じ」にトロトロになってるのは流石。
これは予想の範疇である。
然し、、、タロは、ほぼ完璧に「溶けて」いる。
澱粉質特有の粘りは保っていて、
「妙なねばねば系スープ状」になっている。
一寸、かなり、キモチ悪い風景であるのは間違い無い。

僕は、「肉じゃが」、もとい、「肉タロ」、もとい、
「羊タロ」、もとい、「にゅるにゅる羊スープwithやや人参」を、
顔をしかめながら啜った。
こんな柔らかいものなのに、僕の歯は「ぐわし」と言った。


 



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