奔流にさらされる外国籍住民の人権
        ──現状とこれから

渡辺英俊
(社)神奈川人権センター「人権センターニュース」
No.200. 2009年2月20日       

 

三つの奔流 

国籍住民の人権は、今、三つの奔流に揉まれています。

 一つは、「在留管理の強化」という奔流です。これは、「外国人」を常に「治安問題」と見て「管理・監視」の対象とする、日本政府の伝統的偏見の産物です。戦前には、外国人の在留管理は警察の管轄でした。戦後も、外国人に関する二つの法律─入管法(出入国管理及び難民認定法)と外登法(外国人登録法)─は、外国人を管理することを目的とした法律であり、外国人の人権を尊重したり、行政サービスを提供したりすることを目的とする法律はありません。近年は、「犯罪に強い社会実現のための行動計画」で5年間に「不法滞在者」を半減させつことが計画されたり(2003)、テロ対策の名目で入管法が次々に強化されたりしてきました。その極めつきが、2007年に施行された、すべての外国人入国者(特別永住者、16歳以下、外交官等を除く)から指紋と顔写真をとり、コンピューターで入国拒否該当者と照合する「日本版US-VISIT」のシステムです。

 これらの、偏見に満ちた「外国人包囲網」を完成するものとして、今年の国会に法案が準備されているのが、「在留カード」制度と、「外国人住民台帳」制度です(その詳細については、後掲の「NGO共同声明」をご覧下さい)。これによって、外国籍住民はすべての情報を法務省(入管)に一元管理され、在留資格のない人や難民認定申請中の人は、行政サービスの対象から除外されます。外登法が廃止されるので、外国籍住民の負担は軽くなるかと思ってしまう人もいるかもしれませんが、登録義務や、在留カード(特別永住者は別途交付される登録証明書)の常時携帯義務は、新しい法律に引き継がれ、よくなることは何もありません。「入管法」という法律が実情に合わなくなっているのに、実情に合わせて法を変えるのでなく、実情を無視して条文の規定を強行貫徹させようとしています。そこで苦しむのは人間だということが忘れられているのです。

 二つ目の奔流は、「労働力受け入れ提言」ラッシュという奔流です。人口減少と労働力不足の時代が迫っているという危機感から、「外国人労働力」の受け入れは必至だという判断が政府・財界筋に広がり、ここ2,3年各界からの受け入れ提言が相次ぎました。昨年は、政権与党の正式機関からさえ、「多民族社会への移行」とか「短期就労制度の新設」とかいう提言が出て驚かされました。

しかし、これらの提言に共通しているのは、「こちらの必要」という一面からだけ発想され、そこでどういう「人材」が好ましいかという論に終始していることです。そこでは、日本の産業構造のどこで人手不足が起こっているかとか、グローバル化した世界経済の構造がどんな事態を引き起こし、海外移住の動因になっているか、というような側面からの考察はほとんどなされていません。従って、日本もそういう世界経済の構造を作った責任の一端を負っているとか、それにより移住せざるを得なくさせられた人びとを受け入れる責任があるとかいうことは意識の外にあります。あたかも真っ白い手で、これから問題に手をつけるかのように論が立てられ、移住して来る人びとの人権の保障というような側面には、ほとんど考慮が及んでいません。その結果、すでに5年、10年以上も日本に住んで納税の義務を果たし、働いて経済に貢献してきていながら、在留資格さえ認められていない人びとについては、取り締まりの対象としてのみ考えられ、住民としての権利をどう保障するというようなことは、論外になっています。この人びとの多くは、日本語も堪能であり、就労現場での技術も高い人びとです。「これからどういう人材を入れるか」を考えるより前に、この人びとが安心して働けるようにすることが「受け入れ」の第1歩でなければならないはずです。法務大臣の権限である「在留特別許可」の制度を活用すれば、すぐにでもできることなのですが、それをやろうという提言は、政府・財界すじからはまったく出ていません。

 三つ目の奔流は、昨年秋から急激に表面化してきた米国発の「金融危機」です。これによって急激な業績悪化に直面した大企業が、雇用の削減でこれを凌ごうとしていることにより、いわゆる「派遣切り」が引き起こされました。20093月までに40万人が職を失うという数字も出されていますが、外国籍の労働者のほとんどが、1990年前後の来日当初は、偽装下請けによる違法の派遣業者を通して就労し、派遣業の業種拡大に伴って多くが合法派遣になったとはいえ、終始派遣労働者でした。特に、1990年前後に急激に「導入」され、以後増加の一途をたどってきた日系ラテンアメリカ人労働者は、在留資格は比較的安定していたものの、政府の施策がほとんど取られず、その就労は派遣業者によらざるを得なかったのです。そして、現在の雇用危機の最大のあおりを受けたのが、この部分でした。雇い止めと同時にこれまで提供されていた住居を追われ、野宿した家族の幼児が凍死したという悲痛な知らせさえ入っています。各地のブラジル人学校は、親の失職で軒並み生徒が半減し、閉校に追いやられるところが続出しています。

政府は、内閣府に「定住外国人施策推進室」を設け(2009年1月9日)、「定住外国人支援に関する当面の対策について」という文書を出していますが、この事態に対してほとんど実効は望めないような内容です。例えば、就学困難になったブラジル人児童生徒には、日本の公立学校に行けるよう日本語指導や相談窓口設置を行うというのです。しかし、もともと日本の公立学校に受け入れ体制がなく、子どもを行かせてもドロップアウトさせられてしまうという現実の中で、やむなく自前の学校を作ってきたのが大方の現実です。それを解決する具体的な施策がなくて相談窓口を設けたところで、何の助けにもなりません。当面、思い切った緊急奨学金制度を設けてブラジル人学校を助けるというような施策が立てられなければならないのに、金のかかることはまったく考えられていません。

 

奔流の行く先

表面的に見ると、第1の「在留管理の強化」の奔流と、第2の「受け入れ提言」の奔流とはぶつかり合うように思われます。しかし、実際には、多くの提言が一方で「受け入れ」を言いながら、同時に「在留管理と取り締まりの強化」を言っているのです。そして、実際に施策として具体化されるのは「締めつけ、取り締まり」ばかりです。受け入れなければ……という危機感が、逆に締め付けの強化をうながしているのです。おそらくそこには、永年の間、政府当局がみずから煽り立ててきた「ゼノフォビア」(外国人嫌悪)が、政府当局者自身の中に根を張っていて、外国人を受け入れると治安が危なくなるという恐怖感を呼び起こすのだろうと、私は思います。だから、この二つの奔流は、部分的にはぶつかっても、全体としては強め合って、ともかく外国人は厳重な監視下におくという政策が推し進められるのだろうと思います。そこへ第3の奔流、すなわち、金融危機のあおりで外国人が失業の最先端に立たされるという現実の中で、「だから外国人はいない方がいい」という潜在的な感情がゼノフォビアをいっそう増大させる恐れがあります。それに乗って、第1の奔流、すなわち在留管理のむちゃくちゃな強化という流れが、いっそう荒れ狂う時代になっていくのではないかと恐れます。

これに対して、わたしたちは人権の立場からきっちりと歯止めをかっていく必要があります。去る1月24日、外国人人権法連絡会(「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」と「人種差別撤廃法」の制定を求める連絡会)が主催して、東京で集会を開きました。この連絡会は、在日の運動を担ってきた諸団体と、移住労働者と連帯する全国ネットワークなどと、日弁連で外国人の人権と取り組んでいる弁護士グループとが合流して、2005年に結成されたものです。外国人の人権を保障する国内法がないために、憲法や国際人権条約の人権条項どおりに権利が守れられないという、制度的欠陥を改めるため力を合わせています。前記の集会のテーマは、「管理ではなく『共生』のための制度を!─入管法改悪『在留カード』制度に反対する外国籍&日本籍市民の共同集会」というもので、150人余りが集まって、シンポジウムや当事者、NGO代表などのリレートークがあり、後掲の「在留カード制度に反対するNGO共同声明」を採択しました。そこでは、「在留カード制度」と「外国人住民台帳制度」という一対の制度が、いかに外国籍住民の権利を侵害し、共生を阻害するものであるかが明らかにされました。このような動きが各地に広がり、「人権」のうねりでゼノフォビアを克服して行くことが、日本社会の将来にとって不可欠です。

また、地方自治体で実際に外国籍住民といっしょに暮らす者の立場からも、この問題を考える必要があります。今出されようとしている制度のアキレス腱ともいうべきところは、地方自治に抵触する点にあると思われます。

自治体は、地方自治法に定められた自治体の責任と権利において、「住民サービス」を行わなければなりません。そのためには、国籍にかかわらず「住民台帳」を作らねばなりません。外国籍者に関しては、これまで外登法に基づいて外国人登録を受け、それに基づいて登録原票を作り、それを基に諸サービスを行ってきました。一応、出入国管理は国、外国人登録の持つ住民登録的部分は自治体と、2元的だったからそれが成り立ってきていました。しかし、今度の制度では、外国籍住民の情報管理は国に一元化され、自治体は法定受託事務として住所情報の届け出を取り次ぐだけということになります。また、準備されている「外国人住民台帳法」では、自治体が作るはずの外国人住民台帳に載せる「外国人住民」に関する基本情報を、国に依存することになります。逆に、自治体が独自に情報を集めて台帳に載せた事項も、「情報提供の義務化」という形で、事実上入管に直結させられる可能性が大です。自治体が入管による在留管理の末端機能を担わされ、住民サービスのための情報が、在留管理に制限無く流用されるシステムが作られようとしているのです。これは、「地方自治」という憲法上の基本原則の侵犯ではないでしょうか。

私が「アキレス腱」と言ったのはこのことです。自治体は、地方自治の立場から、このような制度には抵抗する権利と責任があると思います。たとえば、在留カード制度では、在留資格のない外国人はカードが交付されず、外国人住民台帳にも載せらないことになっています。しかし、自治体は住民サービスと徴税の必要上、この人びとの台帳も作らなければならないでしょう。そしてそれは「法外」ですから、入管に情報を提供する義務の外にあると言えないでしょうか。また、外国人台帳に自治体が独自に集めて載せた情報に関しては、できるだけ国に提供しないよう抵抗することも可能ではないでしょうか。

そういうことを念頭におきながら、法務省が考えている新制度の実現に対してかっちり歯止めをかうような運動を展開して行けたらと思います。そこでは、自治体と、外国籍住民と、支援NGOとの協力の可能性が、大きく開けていると思うのです。

(外国人人権法連絡会共同代表、
 移住労働者と連帯する全国ネットワーク共同代表)