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沈黙の森
菊池 好純
人は、だれでも心の中に闇を抱えている。 わだかまりが あった。 それは、わからない。 彼も、持っていた。彼の揺れは、私より大きかったが、それは、根元では 微小な差であったと思う。 イターだった。だが、他人とつきあう態度において、彼は能動的にやや傲慢 に接する「陽」であり、私は受動的にややシニカルに接する「陰」であり、性 格を見れば、彼と私とは、まさに対照的で、誰も同類とは思わなかっただろう。 いう言葉だけでは捉えきれない何か。・・・・・・カインの末裔のしるし。 あるときは、ゆずり、いつの間にか、仕事以外の話もできる間柄になっていた。 親友と呼ぶには遠慮があり、知人と呼ぶには親しすぎる、そのような間柄に。 人に対する聞くに耐えない悪口を、私は何度も聞かされた。よく言えば、完全 主義。わるく言えば、わがまま。苦笑する私に対しても、彼は苛立ちを覚えた ことだろう。 身をもさらに深い孤独へと押しやっていた。躁状態の過激な言動が身を潜め ると同時に、寡黙な鬱状態がやってくる。 勢を張っているだけにその落差が激しい。彼は少し照れ臭そうに、心の葛藤や 悩みの一端を話してくれた。 た。 と格闘しながら、哲学、心理学、宗教書を渉猟した。語りうるものと、語りえな いもの。意識のトワイライトゾーンへのまなざし。そして沈黙の森の向こうから 立ち上がってくる革命を、当時、夢想した。 巡らすことは少なくなった。形而下的な多忙に気を紛らわし、魂との戦いは 休戦状態であった。 場所を真摯に、ずっと探し求めていた。 本をたくさん読み、それらの思想に対してシンパシーを感じつつも、そこに解 決がないことも認識し、彼は苦しんでいた。どのような書物も、役に立たない ことを感じていた。 葉は届いたであろうか。形而上的な命題に安易な決着をつける「大人の方便」 に聞こえたであろうか。 闇を切り裂く言葉を、きみもぼくも探している。言葉の力。ひろがり、むすび、 たばねて、ナイフのように鋭い言葉を、時代の喉元につきつけて。 魂を解放してくれない。それほど、いま闇は深い。 の森に分け入った。途中できみは、ぼくと違う道を選び、いつしか、ふたりは、 はぐれてしまった。 迷子になっている。 できれば、いい。ふたりで見上げる空に、鳥が飛んでいれば、もう最高だ。 ぼくはきみが死んだことを、まだ認めていない。きみは、ただの迷子なんだ。 |
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初出3/4(スリークオーター)創刊号 1999/09/01 |