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電解研磨の基礎知識

電解研磨には研磨方法や電解液の違いによって多くの方法がある。本書では燐酸を主成分としたステンレスの電解研磨について説明する。

F-13 電解研磨はファラデーの法則に従う

電解研磨はファラデーの法則に基づいています、即ちN (g-eq) =Q/F 
ここでN (g-eq)は化学変化をおこした物質のグラム当量数 Qは電気量、Fはファラデー定数
(基礎定数で物質の種類に関係なく一定)
電気量QはQ=I t 即ち電流(A)×時間(秒)ですので、電流×時間が2倍になると化学変化
を起こす物質の量も2倍になり、電解研磨の場合はステンレスから溶出する金属イオン量が
2倍になります。
ファラデーの法則によると、ステンレスの溶出量は電流×時間のみで決まる量ですので、
電解研磨液や電解温度などで変化するものではありませんが、電解研磨液や電解温度などはステンレス表面の艶やかさ、ピンホールの発生、その他の電解研磨の仕上がり状態に重大な影響を与えます。
また、機械的研磨と電解研磨を併用する手法(例えば電解複合研磨など)は機械的な研磨と電解研磨の両方が作用しますので、ファラデーの法則には従いません。

ここで、電解液中に含まれるHSO4 は水の導電率を高める電解質として働き反応はしない。

○アノード側での反応=HO→1/2 O+2H+2e− 
即ち酸素ガスと水素イオン及び電子が発生する、酸素ガスは空気中に放出される。
このほかステンレス中の鉄やクロム等の金属(カソード材料よりイオン化傾向が大きい物質)は金属イオンとなって電解液中に溶け込む。

○カソード側での反応=2H+2e− →H 

アノード側で発生した水素イオンはカソード()に引き込まれ、電子をもらって水素ガスとなり空気中に放出される。

参考文献

基礎化学コース 電気化 著者 渡辺 正、金村 聖志、益田 秀樹、渡辺 正義 共著

発行所 丸善株式会社 平成18年6月30日 第9刷発行
参考文献によれば、2002年以降の電気分解の説明ががらりと変わって過去おそらくは50年以上正しいと信じられていた理論が実は真っ赤なウソだと言う、俄には信じられないことが起きていると記載されている。




F-12 電解研磨技術の特徴
電解研磨は油や研磨材を使わず、ステンレス表面に一切の物理的力を加えないで研磨する。
研磨面は緻密で均一な不動態皮膜に覆われ、その不動態皮膜中のクロム濃度は鉄の1.5倍以上に濃縮されているので、実質的に錆びない表面が得られる。(通常のステンレス中のクロム濃度は鉄の0.26倍程度
しかしながら、実際に物を作る場合には溶接や曲げ加工など多くの加工が加えられるので、その表面は決して均一なものでなく、むしろ不均一な表面になる。
ところが電解研磨は不均一な表面に沿って一様に研磨するので、電解研磨をする前に不均一な部分を機械的研磨により取り除いて均一な表面にしてから電解研磨をする必要がある。

F-11 電解研磨の目的
脱脂:ステンレス表面には圧延やプレス、絞り加工、機械切削、研磨など殆どの工程で油が必要であり、かつその油は表面のみならず、僅かではあるが金属内部にまで押し込まれている、この押し込まれた油は脱脂洗浄では完全に取り除くことは不可能で、長期間汚れとして検出される。電解研磨はステンレス表面の20μ〜30μを溶解して取り除くので、油も一緒に取り除き完全な脱脂が可能となる、実測で1uあたり0.06mg以下の検出限界以下となる。

バフ粉の除去:
バフ粉も非常に取れにくい汚れである。バフ研磨は酸化アルミニュウムなどの研磨材を脂肪酸、油、金属石鹸などと一緒に練り込んで棒状に成型したものをフエルトなどの布に塗りつけ、これをステンレス表面に押し付け、モーターによる回転でステンレス表面を研磨し、つやを出しをする、これらの研磨材と油はステンレスの微小な凹凸や研磨によって凸部が倒れた裏側に残留し、洗浄を非常に困難にしている。
参考までにメーカーから提出されているバフ研磨剤の製品安全データシートの抜粋を記載する。

1、化学物質等情報
製品名 Uライム 白
用途  中仕上げ用研磨剤
2、組成、成分情報
単一製品・混合製品の区分  混合品
主成分 化学名 酸化アルミニュウム
示性式 Al2O3
含有量 81.1%
組成、その他の成分 脂肪酸、硬化油、金属石鹸

図―1 バフ研磨の断面摸式図
バフ研磨によって倒れた凸部の裏側にバフ粉や油脂類が残留し、これが少しずつ長期間にわたって出てくるので洗浄は非常に困難となる。

十分な電解研磨を施すとステンレス表面は20〜30μm程度溶出するので、バフ研磨時に表面に埋め込まれたバフ粉は完全に除去される。

F-10 表面のなだらかな平滑化
機械的な研磨では例え12000番のラッピングフイルムを用いたとしても電子顕微鏡で観察すれば非常に細かい条痕が見えるが電解研磨では600番程度の固定砥粒による研磨のあと電解研磨すれば全く条痕は見えない。
平滑化といっても機械的な研磨では条痕が無くなる訳ではなく、それが小さくなるだけでギザギザの小さな凹凸は残る、しかしながら大きな平面全体を平坦に研磨するのは機械的研磨のほうが優れている。例えば直径300mmのシリコンウエハーに許される平坦度は1ミクロン以内で局部的な凹凸は10ナノメーター(0.01ミクロン)であるが機械研磨では十分達成できる。(酸化膜のスラリー研磨など)
電解研磨では滑らかにうねった表面をつくる事は出来るが、平坦化は出来ない。
図−2に市販されているサニタリ管の表面粗さプロフィ−ルを示す。図−3は同じサニタリ管を電解研磨した表面粗さプロフィ−ルを示す。
測定デ−タ:高さ方向倍率2000倍、長さ方向倍率100倍(長さ方向倍率も2000倍にするとチャ−トの長さがこの20倍の1.6mも必要となるので実用的でない、従って実際の表面凹凸プロフィ−ルは長手方向を20倍して、見た目よりなだらかな形状である)
測定した方向:研磨条痕に直角  測定した長さ:0.8mm

測定結果
サニタリ管:Ra=0.719μm Rmax=4.87μm  (国際的にはRaが使わ        
電解研磨 :Ra=0.155μm Rmax=1.50μm   れている。)
サニタリ管のプロフィ−ルは長手方向に20倍拡大して考えたとしても、激しい凹凸が有りこの溝に入り込んだ微粉末を洗浄して取り去る事は容易な事では無い、電解研磨のプロフィ−ルは20倍拡大すると殆ど滑らかな平面と考えられる。
写真1に#320で研磨した板材表面のレ−ザ−顕微鏡による立体写真を示す(この場合の縦、横比は1:1)写真2に電解研磨した板材表面のレ−ザ−顕微鏡による立体写真を示す(縦、横比は写真1に同じ)

図―02

図―03

写真―01

写真―02

F-9 クロムの濃縮と不動態化[オージェ電子分光(AES)分析]
電解研磨によりステンレス中の鉄成分が優先的に溶け出し、結果としてクロムが濃縮すると共に、鉄及びクロムが完全に酸化して不動態化する、その結果極めて錆びにくい表面となる。
電解研磨ステンレスのオージェ分析は1993年2月22日にSEMATECHから技術移転された91060573B-STDにより一般化され1995年頃から主として米国の半導体用継ぎ手メーカーが商取引に用いるようになった。

図ー4 クロム濃縮グラフ (測定は米国RJ LeeGroup,Inc)
縦軸は原子数パーセント 横軸は深さ(ゼロが表面で右に行くほど深い)
Max Cr/Fe 1.6 @10.4Ang は表面より10.4オングストロームのところでクロム濃度が
鉄の1.6倍になっている事を示す。  深さ45オングストロームあたりから急激
に酸化されて表面では酸素原子数が54%となっていますが、これはクロム、鉄が完全
に酸化していることを示す。
硝酸などによる化学的な不動態化は金属(固体)と薬品(液体)の接触によって不動態
化するので金属表面の小さな凹凸、気泡や油、異物などの妨害によって接触確率は
左右される。電解研磨では金属表面を溶解する作用と酸化(不動態化)する作用が
同時に行われるので妨害要因は排除される。また、不動態皮膜の薄い部分が優先的
に不動態化されるので緻密で均一な不動態皮膜が形成される。


下の図と説明は更新前に使っていた図と説明で、1997年12月23日に名古屋市工業研究所で電解研磨管として、多分日本で始めてAES分析されたデータである。酸素の濃度が含まれていないので金属の比率が大きく見える。(図ー5)

クロム濃縮:燐酸系の電解研磨液中ではステンレス中の鉄成分が優先的に溶け出すので、結果的に最初18%程度であったクロムが60%以上に濃縮する。
クロム濃縮の目的は、より錆びにくいステンレス表面をつくることであり、正規の電解研磨後、キレート剤処理、硝酸または亜硝酸ナトリュウムによる不動態化処理をすると実質的に錆びないステンレス表面を得る事が出来る。
図ー5 クロムの濃縮(SUS316L)

F-8 実表面積の低下:
圧延したままのステンレス材や機械研磨した表面は微小な凹凸があるのでその表面積を合計すると結構大きな面積となるが電解研磨では微小な凹凸が無くなり、大きなうねりが残る、その結果、実表面積は幾何学的表面積に近くなる。洗浄性、ごみの発生、異物の混入、交差汚染などの問題は全て表面積に比例することなので実表面積の低下は大切な要素である

表ー1 実表面積の測定
     サンプル 幾何学的表面積
   (cm²)
実測表面積
  (cm²)
比表面積
2B     16    33   2.1
#320バフ研磨3rdRun     16    21    1.3
#320バフ研磨4thRun     16    21   1.3
2B+電解研磨     16    16   1.0

BET法 Krガス吸着法、誤差6%以内

F-7 洗浄性の向上
電解研磨の目的は、異物の付着を防止し、有害微生物や不純物の除去を容易にし、洗浄の時間と回数を減少するなど洗浄性の向上が目的の一つである。
金属に異物や汚れが付着するメカニズムは、機械的付着、化学結合に分類されるが、電解研磨はそのどちらにも作用して、付着を防止する。機械的付着力に関しては表面の平滑性が優れている電解研磨面が圧倒的に有利であることは歴然としている。
化学結合については、例えばクロムや鉄に汚れが化学結合で付着する場合、電解研磨をしていない場合は酸素と結合していないクロムや鉄原子がステンレス表面にも若干存在するので、この原子と汚れ成分の原子がイオン結合などの化学結合により付着し汚れとなる。然しながら電解研磨をするとステンレス表面に存在するクロムや鉄原子は完全に酸素と結合して酸化物となるので汚れ成分の原子がイオン結合する相手(結合手と言う)が無いので結合のしようが無い、つまりは汚れないと言うことになる。
残るはファン・デル・ワールス力であるが、これは元々原子内の電荷が瞬間的に均一でなくなった時発生する一種の電荷結合なので、その結合力は弱く、電解研磨した表面積は他の表面に較べて小さいので、発生するファン・デル・ワールスも小さくなるので他の結合ほど重要な汚れではない。
この他、静電気的付着に関しては電解研磨した表面とバフ研磨した表面の差異がどのくらいあるか定量的な知見は無いが、錠剤や粉末を取り扱うホッパーの壁や、ベルトコンベアーを電解研磨すると、粉末の付着が少なくなると言われている。

各種サンプルの洗浄性比較 (表ー2)                      

    仕上げ面

 表面粗さRa(μm)

 残留放射能(CMP)

    2B材(素材)

 0.20〜0.50

    611

    サニタリ研磨

 0.20〜0.30

    124

    鏡面研磨

 0.01〜0.03

     71

    電解研磨

 0.18〜0.22

     72

測定方法:放射性同位元素P32 を含むバクテリアを同一手法にてサンプルに付着させ、各サンプルを同一手法にて洗浄後、残留放射能を測定。
鏡面研磨と電解研磨では表面粗さが1桁違うが、残留放射能が同じである、このことは前述の原子(この場合はバクテリアの細胞分子)がイオン結合する相手(結合手と言う)が無いので、付着出来なかったことを意味する。或いはファン・デル・ワールス・力が殆ど働かないことを意味する。
Jorge Villafranca and Eva Monroy Zambrano Pharma-ceutical Engineering Vol 5No 6 Nov 1985 より引用


 2B板材、サニタリ研磨、鏡面研磨、電解研磨、の表面比較写真(レーザー顕微鏡写真)

 2B材、スキンパスにより、山がつぶれている   バフ研磨面、研磨条痕がくっきり見える
 鏡面研磨の表面 (凹凸0.03μm)  電解研磨の表面 (凹凸0.3μm)


F-6 発塵性の改善

表ー3
2B材 バフ研磨品 電解研磨品
全量(個) 個/ml 全量(個) 個/ml 全量(個) 個/ml
  1回目
(合計10分)
5μ以上
10μ以上
50μ以上
1.5×105
3.6×104
7.7×102
300
72
1.5
1.0×105
1.9×104
1.3×102
200
38
0.3
1.5×104
4.9×103
4.1×102
30
10
1
  2回目
(合計20分)
5μ以上
10μ以上
50μ以上
2.8×104
6.6×103
2.7×102
56
13
0.5
9.0×104
1.5×104
1.6×102
180
30
0.3
1.3×103
3.0×102
26
2.6
0.6
0.0
  3回目
(合計30分)
5μ以上
10μ以上
50μ以上
8.6×103
2.4×103
1.0×102
17.2
4.8
0.2
7.2×104
1.0×104
81
148
20
0.2
9.4×102
1.9×102
9
1.9
0.4
0.0
  4回目
(合計40分)
5μ以上
10μ以上
50μ以上
7.0×103
1.7×103
49
14
3.4
0.1
4.3×104
6.0×103
98
86
12
0.2
5.0×102
1.2×102
9
1.0
0.2
0.0
  5回目
(合計50分)
5μ以上
10μ以上
50μ以上
2.3×103
6.3×102
19
4.6
1.3
0.0
3.4×104
6.5×103
90
68
13
0.2
6.2×102
1.0×102
6
1.2
0.2
0.2

測定方法:大きさ30mm×150mm×2tの試料1枚を2-propanol 500mlを入れた容量1000mlのメスシリンダーに入れ、超音波洗浄槽に入れて超音波をかけたあと、2-propanol 中の粒子を測定した。超音波の照射時間は10分間とし、粒子数測定後同様な操作を繰り返し、合計5回(50分)照射した。(超音波発生器の出力400W、周波数28KHz、洗浄槽の大きさ25×31×15 cm)

F-5 2B材の特殊性
2B材は見た目に少し光沢があって綺麗なので、得てしてクリーンな材料と勘違いされがちですが、実態は大違いです。
2B材はこのテキストの中でも、洗浄性の向上、発塵量の低下、実表面積の低下など全ての比較データに含まれておりますが、見た目の綺麗さに係わらずその性能は決して良い結果では有りません、特に洗浄性は極端に悪くなっています。
これは2B材製造方法の特殊性にからむ根本的な理由があります。
ステンレス板は圧延したあと1100℃まで加熱して、水で一気に急冷しますが、この時表面に厚い酸化膜が出来て真っ黒になるので、これを硝酸、弗酸の混酸中で酸洗して黒い酸化物を取り除きますが、加熱、急冷、酸洗の工程で表面が荒れて光沢が失われます。この状態の板を酸洗肌又はAP肌(=Acid Pickling)と呼びます。規格名ではNo1材等がこれに相当します。
見掛けの光沢を取り戻すためスキンパスを行います、スキンパスは板厚は変わらない程度に鏡面仕上げした圧延ロールで圧延し、凸の部分だけを押しつぶして表面を平らにする技法です、この方法によりAP肌は光沢を取り戻し、見た目に綺麗な板になります。これが2B材です。押しつぶされた凸部は凹部にめり込み、非常に複雑な表面を形成します。

酸洗肌の断面
1100℃の熱処理後、
水による急冷、
硝酸+弗酸の混酸
による酸洗で表面が
荒れている。


2B材の断面
圧延ロールによるスキンパスで
凸部が押しつぶされて平らになるが
複雑な窪みが出来て非常に洗浄し難い。

F-4 ステンレス素材の問題:
ステンレス素材の良否が電解研磨の良否を決定する。日本のステンレス製造技術は世界的にも優れていると言われている。しかしながら日本は原材料の鉄、クロム、ニッケル、など全ての原材料を輸入しなければならない。従って、日本のステンレス製造技術は、スクラップステンレスを大量に使っていかに良質のステンレスを製造するかと言う技術に優れていると考えるべきである。
更にステンレス業界の慢性的な低価格化により一層スクラップの混入量が増加している。当然日本のステンレスは非金属介在物などの介在物を大量に含む結果となる。これが板材やパイプを電解研磨して、表面に光を当てると同一方向に無数に走る微小な条痕に見える。もっと介在物が多くなると明瞭な条痕が現れ、更に多くなると全体にざらついた電解研磨表面となる。大量の介在物を含んだステンレス(介在物はステンレスの溶鉱炉中でも大きく偏在し一般に炉の中心部に多い)は「ザク」と呼ばれる。この部分を含む板を巻いて製造したパイプで、僅かな内圧で直径5cm位の穴があいた事故事例が有る。
スクラップステンレスの混入は必要であるが30〜40%位が適当で、そのうち10%程度は素性の判った自家発生スクラップを使用する。しかしながら製造コストを下げるため、70%以上のスクラップを混入した素材も市販されている。
非常に多くの介在物を含む材料は板材としてBA(光輝焼鈍)材にすると、通常の光沢が出ない。その為機械研磨による艶出しを行うケースがある(機械研磨の有無を判定するためには100倍程度の金属顕微鏡で観察すると研磨条痕が見える)。このような材料を電解研磨すると、元のざらついた表面が現れる。
ステンレスメーカーは介在物が非常に困る原子力産業用、半導体業界用に極端に介在物の少ないステンレスの供給技術を保有している。しかしながら実際に製造されているのは僅かな板材と棒材、パイプに限られ、価格的には一般的な材料に較べ2倍〜7倍の価格になっている。

写真ー3 非金属介在物の多い電解研磨面。
中央部の白い小さな2つの点が非金属介在物。
上下に走る線は圧延時に介在物が原因で発生した空洞。左の薄い線は1μm程度表面に近かったため電解研磨により溶解し、介在物が飛び出した跡が残っている。
点在する小さな穴は、更に溶解が進んで線が消え、介在物のあった部分に痕跡だけが残っている。
この画面から計算すると介在物は1平方センチメートル当り18000個となる。(画面上に介在物が2個あるとして計算)
1インチ×4mのパイプでは5100万個存在する計算になる。
写真ー4 非金属介在物の少ない電解研磨面。
VIM+VAR 真空二重溶解材を電解研磨したもの。
上と同じ条件で撮影しているが、介在物が原因で発生した空洞や痕跡は殆ど見当たらない。


F-3 梨地の発生:写真ー3で説明した「介在物が原因で発生した空洞」は直径2〜10μm、長さは写真に写っている範囲でもおよそ90μmで、おそらく全長は150μ〜250μmはあると考えられる。このような空洞が無数に走っている丸棒を輪切りにすると、その断面には、無数の空洞が見えるはずである。

図ー5
インゴット(圧延前)
介在物は粒のままで空洞を作っていない。
丸棒(圧延後)
圧延すると介在物が原因で微小な空洞を無数に作る
丸棒断面:を電解研磨すると、直径2〜10μm、
深さ90〜150μmの空洞の入口が無数に見える、これが梨地である。

F-2電解研磨のグレード:日本の電解研磨製品は欧米に較べてかなり遅れていたが、更にその差は大きくなっている。その原因はステンレス鋼メーカーにあるが、更に根本的な原因は規格の範囲内であれば安ければ安いほど良いと言うユーザーの購入姿勢にある。316Lの規格内製品でも、用途によっては全く使えない316Lも市販されている。
良い例が半導体工場で使われている電解研磨ステンレス管である。発売当初、ユーザーは金に糸目を付けず、より良いものを求めたのでステンレス鋼メーカーも電解研磨業者も更なる高品質を目指して開発することが出来た、その結果、現在では量産効果により非常に高品質のものを比較的安価に供給しているが、当時開発の遅れた欧米のメーカーは、日本のメーカーから原材料の供給を受けなければ高品質(特に超低サルファー)の半導体向け電解研磨管が製造困難な状態になっている。
電解研磨のグレードを分類するとおおよそ下記の様に分類出来る。

綺麗な電解研磨であるが、医薬品製造設備には使用出来ない電解研磨
1、殆ど電解研磨がかかっていない電解研磨
光沢を出すため、バフでピカピカに磨き、僅かな電流を流して電解研磨と称するもの。
見た目には結構綺麗に見えるが、光沢はバフ研磨によるものであり、実際に使ってみると不溶性微粒子(バフ粉)や砥粒成分から出てくる溶出物(アルミ、クロム、鉄、シリコン、油など)が大量に出ている事が、微粒子測定やホワイトグローブテスト、その他の分析で確認出来る。
しかしながら、このような電解研磨は最初から業者が手抜きを意図した訳ではない。介在物が非常に多い粗悪な材料を使ったものや、電解研磨を良く知らない設計者が設計したタンクなどに正規の電解研磨をかけると、全面的に、あるいは部分的に電解研磨をかける前よりかえって光沢が悪くなる場合があり、客先からクレームの対象になる、このような経験を一部の電解研磨業者が積み重ねているうちに、見た目に綺麗な仕上がりで、引渡し時に問題の出にくい「バフでピカピカに磨き、僅かな電流を短時間流して電解研磨と称する手法」
但し、引き取った客先は汚れや錆びの発生で工場の稼動が遅れ、それに伴う人件費などの莫大な出費を迫られる。

2、間違った電解複合研磨
電解複合研磨の特性を良く知らない業者(例えば従来バフ研磨を業としていた業者など)が電解複合研磨装置を購入又はコピーした機械で研磨すると今までのバフ研磨に較べてはるかに手早く、衛生的で、しかも綺麗に研磨が出来るので、電解複合研磨の特性を一切無視して仕事をしている場合がある。
電解複合研磨の場合は電解研磨の理論にある図―8、図―9、図―10の初期酸化物や不動態皮膜を砥粒で研削し、取り除きながら電解研磨をするので、不動態皮膜の厚さが律則になって表面の平坦化が阻害されること無く、砥粒の大きさを十分小さく選べばどこまでも表面粗さを小さくする事が出来る。
但し、不動態皮膜は砥粒により、相当部分が取り除かれるので、ステンレス表面の不動態化やクロム濃縮などの効果は電解研磨ほどは期待出来ない。
その為、正規の電解複合研磨会社は研磨のあと、硝酸などを用いて不動態化処理を施して耐食性を維持しているが、特性を良く知らない業者は面倒くさくて危険な硝酸不動態化処理は省いて出荷する事があるので、客先でピュアスチーム洗浄などをするとたった1ヶ月の間に赤錆が出る様な事態が発生する。

図ー6 電解複合研磨の略図

ステンレスの表面は砥粒による研磨と電解による研磨が同時に進行する、電解研磨の最終工程では不動態皮膜の厚さが電流の律則となるのでステンレスの表面の平坦化はそれ以上進まないが、電解複合研磨では常に不動態皮膜を砥粒で削り取りながら電解研磨するので砥粒が十分小さければ非常に平坦になり得る、ただし不動態皮膜は殆ど取り除かれ、クロム濃縮も殆ど無い。
例えばステンレス表面の凹凸が1μmとして、その表面の凹凸に沿って厚さ20Åの不動態皮膜が形成されていて、砥粒の大きさが0.5μmとすると、砥粒の大きさは不動態皮膜の厚さの250倍になる、しかも弾力性のあるスポンジ中で、砥粒はステンレス表面に押し付けられながら高速で回転しているので、凹凸の谷の部分に不動態皮膜が残る可能性は否定しきれないが、ステンレス表面の殆どの部分の不動態皮膜は削り取られる。

電解複合研磨面(硝酸不動態化なしで
ピュアスチーム暴露前)
硝酸不動態化なしで121℃ピュアスチームに
24時間暴露。赤い部分は不動態皮膜が取れた
部分が錆びているのではないかと思われる。

不適切な電解研磨。
電解研磨前の脱脂洗浄不適当。電解液の寿命。温度、電流密度、時間、等の管理、カソード設計の不備。電解研磨後の処理不適当。本質的に十分な電解研磨がかけられない設備。これらが原因で十分な電解研磨がかけられず、不適切な電解研磨をしているいる場合。
仕上がりは全体に白っぽく、光沢が十分でない場合が多い。電解研磨特有の光沢があってもクロムの濃縮率や酸化膜厚、粗さの改善が不十分である。また実表面積の低下。洗浄性、発塵性、耐食性などが不十分となる。但し脱脂に関しては薬液による脱脂洗浄に較べるとはるかに優れている。

優れた電解研磨
材料の選定:ステンレスメーカーに電解研磨仕上げであることを説明し、購入後テストピースによる電解研磨をして問題が無いことを確認する。
設計上の留意点:丸棒の断面、角材の断面が決して電解研磨されない設計であること。これらの断面を電解研磨すると必ず真っ白に梨地が発生する。ヘルールはほぼ100%丸棒から製造されているので、ヘルールの表面には電解研磨はかけられない。どうしても電解研磨する場合は日本製では1社だけ十分な電解研磨が可能である。へルールは板から製造すればこの問題は回避できる。
電解研磨液の管理:最高の結果を期待するのであれば、電解研磨液1リットルあたり150平方インチ以下の電解研磨面積に管理する。これ以上の面積を電解研磨すると少しずつ結果が悪くなる。
電解研磨条件(燐酸主体の硫酸との混酸)。温度60℃〜80℃。電流密度1.5A〜5A。電解量:電流密度(A/平方インチ)×時間(分)>12(例2A/平方インチ×6分=12A・min/平方インチ )。 研磨後の処理。60℃以上の温水洗浄。→35%常温硝酸処理20分以上。→(キレート材処理)。→60℃温水洗浄。.→60℃純水洗浄。→乾燥空気による強制乾燥。

電解研磨の良否判定方法
SEMATECH(米国半導体製造設備技術基準)によれば電解研磨の評価は下記4つの試験方法及びこれ等の試験方法で得られた結果が満たす条件が明記されている。

SEMASPEC 90120401B−STD  

ガス供給システム部品に関して、金属表面を
SEM分析するための、SEMASPEC試験方法

SEMASPEC 90120403B−STD

ガス供給システムに関する、電解研磨したステンレス管の表面組成
及び、化学的性質。XPS分析するためのSEMASPEC試験方法

SEMASPEC 91060573B−STD

ガス供給システム部品に関する、電解研磨管の表面及び酸化物組成。
オージェ電子分光分析するSEMASPEC試験方法

SEMASPEC 90120400B−STD

ガス供給システムに関して接触式断面曲線測定によって。
表面粗さを決定するためのSEMASPEC試験方法。

これらの試験方法による評価が最も信頼されているが残念ながら日本では未だ完全に試験してくれる機関が少ない。米国の分析機関(Charles Evans & Assoociates, Evans Sunnyvale, Surface Science Laboratories, RJ LeeGroup,incなど)に依頼するのが仕事が早くそして割安である。
米国の半導体製造会社、及び設備製造会社は、上記の試験方法で試験した結果が、下記の条件を満たす事を要求している。 

図―4の電解研磨は表ー5の条件を完全に満たしている。 
表―5

酸化
膜厚

カーボン層

Cr/Fe
  比

CrO/FeO比

最大Cr/Fe
 比の深さ

表面の
カーボン

表面の
汚染

酸化鉄
の剥離

表面
粗さ

表面
欠陥

要求値

25Å
以上

10Å
以下

1.5
以上が
望ましい

1.5
以上が
望ましい

9Å以上

NONE。

N0NE。

NONE。

Ra=5μ
inch以下

20以下

上記の数値の出し方は各SEMASPECに細かく規定されている。

然しながら、この方法はテストピースによる分析であり、医薬品製造設備の電解研磨を毎回この方法で評価することは時間的、経済的に無理なので、簡易的な評価方法を提唱している。
簡易的な評価方法ではFe/Cr比等は求めない。(将来的にはAUGERに因らないでFe/Cr比の簡易分析装置を開発できる可能性がある。)
電解研磨面の顕微鏡写真を撮影することで電解研磨が十分かかっているか否かを判断するものである。

写真−5 胴部内面EP面  写真−6 上部鏡板EP面 写真−7 下部鏡板EP面
写真−8 胴部内面EP前(バフ) 写真−9 上部鏡板EP前(バフ) 写真−10 下部鏡板EP前(バフ)


F-1電解研磨の理論

図―7
黒の斜線部分がステンレス(陽極)
青の斜線部分が銅などで作ったカソード(陰極)
赤の一点鎖線部が電解研磨液
ステンレスとカソードの距離は3cm程度
(30000μm)この状態でステンレスに+、カソードに−を接続すると電解研磨液を通じて電流が流れる。

図―8
通電して数秒後に厚さ10μm程度の初期酸化物(黒の点線部)が形成される。初期酸化物は電解研磨液に較べて電気抵抗が十分大きい。その為、電解研磨液の抵抗は無視されて、あたかもカソードが初期酸化物の直近まで近づいたのと電気的に等価になる。従って電流は初期酸化物の薄い部分(Aの部分)により多くの電流が流れステンレスが早く溶出する、それに較べ初期酸化物の厚い部分(Bの部分)の電流は少ないので溶出速度は遅い。

図―9
溶出速度の違いにより、ステンレスの表面は次第に平坦化する。この時ステンレス表面では鉄が優先的に溶出する。その結果クロムが濃縮する。
ステンレス(陽極)での化学反応
M→M++e− (金属溶解)   
4OH−→2H2O+O2+4e−(酸化力の非常に強い発生期の酸素が発生しM+と結合する
カソード(陰極)での化学反応
2H+2e−→H2(水素の発生)

図ー10
陽極反応で酸化したステンレス表面は強固な不動態皮膜(緑で塗りつぶした部分)を形成する。不動態皮膜はステンレスより非常に電気抵抗が大きいので不動態皮膜の薄い部分に優先的に電流が流れ。その結果、薄い不動態皮膜の部分が厚みを増し、結果として不動態皮膜の厚さが均一になる。陽極では金属溶解と酸化反応が同時に起こっていると考えられる。

電解液および初期酸化膜の電気抵抗値実測データ
テストに使用した角型容器 24cm×24cm×深さ45cm  カソードと容器の距離5cm、
カソード面積19cm×40cm×4面+底部19cm×19cm×1面=3401cm2  
電解液 85%燐酸 60 Vol%、98%硫酸 30Vol% 添加剤 5Vol% 純水 5Vol%
電解液温度 75℃〜80℃ 強制循環による攪拌
電圧10V、初期電流1490A、
電解研磨時安定電流 1080A
初期抵抗(初期酸化膜が未だ出来ていない状態)  R=10V/1490A=6.7×10−3Ω
電解研磨時抵抗 R=10V/1080A=9.3×10−3Ω 
従って初期酸化膜の抵抗は(9.3×10−3Ω)―(6.7×103Ω)=2.6×10−3Ω
初期酸化膜の厚さを10μmとすると1cm当りの抵抗は2.6×10−3Ω/0.001cm
=2.6Ω/cm
電解研磨時の電解液の抵抗は1cm当り9.3×10−3Ω/5cm=1.86×10−3Ω/cm
すなわち、初期酸化膜の電気抵抗は電解液の電気抵抗の約1400倍である。(2.6Ω/1.86×10−3Ω=1398)

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