◆◆創傷における「感染」の定義◆◆ |
|
|
|
「細菌がいること」と「細菌感染を起こしていること」は違います。例えば、皮膚には「皮膚ブドウ球菌」という常在菌がいます。これは健康なヒトにも動物にもいますが、皮膚に「ブドウ球菌」がいるからと言って、感染を起こしているわけではもちろんありません。例えば、腸の中には大腸菌や乳酸菌その他、沢山の細菌が生息しています。「無菌」のうんちをするヒトも動物も、普通はいないはずです。だからと言って、腸が「細菌感染」している、とは言いません。 傷もこれと同様で、体表面に傷が出来ると周囲の皮膚から常在菌が移動してきて、創面に侵入します。従って、無菌の傷、というのは存在しません。どんなに洗っても「消毒」しても、動物の体を「無菌」にすることは不可能ですから、傷には必ず「細菌」がいる、ということになります。しかし、だからと言って「感染」している、と判断するのは性急です。 パスツレラ菌や緑膿菌などの特定の病原菌を除き、通常のブドウ球菌などで組織が感染を起こすためには、組織1g中に細菌が10万個から100万個必要だと言われています。但し余程の免疫不全状態でもない限り、このようなことは普通は起こりません。しかし実際には、細菌数がこれより少ないときでも「感染」を生じることがあります。それは、傷の中に「異物」が存在するときです。「異物」には、土や泥、植物片、食べカスや口腔内汚染物(咬傷の場合)、絹糸(手術による)、痂皮、壊死組織、血餅などが含まれます。創内に「異物」があるとき、組織1gあたりの細菌数が200個程度でも、十分感染を引き起こすことが出来ると言われています。 |
|
<感染の定義> (1) 組織1g+細菌10万個=細菌感染 これらの「異物」は細菌増殖の格好の「培地」となります。健康な組織内では細菌は殆ど増えることができませんが、「異物」の中では細菌は旺盛に増殖します。従って、傷の中に「異物」が存在することが、「感染」を引き起こす上で非常に重要な因子となります。 ここで、上の式を使って、一体どうしたら一番確実に「感染」を防ぐことが出来るのか、考えてみましょう。(1)のようなケースは実際にはあまりありませんが、このような時には抗生物質の全身投与をして「10万個の細菌」を10万個未満に減らすとか、免疫抑制状態の原因となっている基礎疾患を治療する、ということになります。問題は(2)のケースです。 組織1g+「異物」≠細菌感染 となります。これで「感染を防ぐことが出来た」、と思うかもしれません。ところが、「細菌」は傷の周囲の皮膚に、無限に幾らでも存在しており、これを「無菌」にすることは不可能ですから、200個程度の細菌はすぐに供給されてもとの状態((2)の式の状態)に戻ってしまいます。 細菌(200個) ↓ 傷を「消毒」したときには、つまりこれと同じことが生じるのです。消毒により傷の表面の細菌は一時的にいなくなります。しかし、数秒から数分たって消毒の効果が切れると同時に、周囲の皮膚に分布していたブドウ球菌などの常在菌が創面に移動して来ます。このとき、「異物」が存在すれば、傷は元のように「感染状態」に陥ってしまいます。 そこで、この式から「異物」を取り除くとどうなるかというと・・・ (3) 組織1g+細菌200個≠細菌感染 となることが分かります。傷を乾燥から防ぎ、消毒などによって組織の細胞を痛めつけない限り、この細菌が10万個以上にまで増殖することはまず考えられません。壊死組織や絹糸などの「異物」を取り除き、(3)の式の状態を維持することで、傷に細菌がいても「感染」を起こさないでおくことが可能になります。このように、「細菌はいるけど感染ではない状態」をColonization(コロニー形成)と言って、Infection(感染状態)とは明確に区別することができます。 たとえそこにいる細菌がMRSAなどの悪名高い耐性菌だったとしても、Colonizationなら「感染」を引き起こしていないわけですから、バンコマイシンなどの抗生物質を使用する理由は全くない、無駄な行為ということになります。 |
| 但し、実際の臨床の現場では、傷の中に細菌が10万個あるかどうかを直接確認することは出来ません。そこで、炎症の4徴候:「腫脹」「発赤」「疼痛」「熱感」の有無で、その傷が「感染状態」にあるかどうかを確認します。幾ら大きな傷でも、炎症徴候を伴わなければ、(結核菌などの特殊なものを除いて)通常「感染はない」と判断して構わないのです。 |
|
|