結論からいうと、体重はあまり気にする必要はありません。競馬の場合は、馬を速く走らせることが目的なので、騎手の体重は軽い方が良いのですが、乗馬の場合は馬を乗り手の指示に忠実に動かすことが目的なので、逆に体重が重い方が好都合な場合もあります。欧米のオリンピック選手には体重が100キロを越す人もいますし、よほど小さなポニーにでも乗る場合以外は、乗り手の体重は問題になりません。
乗馬というのは奥が深いもので、極めようと思えばいくらお金があっても足りない反面、その気になれば気軽に安く楽しむ方法もあります。
各乗馬クラブには、初心者向けの「乗馬教室」や4〜12回程度の乗馬教室など、会員にならなくても乗馬のレッスンを受けられるようになっています。乗馬教室は4回コースで2万円程度ですから、ある程度乗馬の基礎を習ったら、旅先のクラブでビジター騎乗を楽しむという方法もあります。
乗馬クラブというのは、その性格上広い土地が必要ですし、馬は生き物ですから毎日エサを与えたり馬体を手入れしたり、馬房を掃除したりといった具合にいろいろと手間がかかるものなのです。そうした諸々の費用を、会員全体で負担するために多くの乗馬クラブが会員制をとっているわけです。
最初から揃える必要はありません。強いて言えば、乗馬ズボン・保護帽(ヘルメット)・長靴(ブーツ)、それに手袋といったところでしょうか。乗馬ズボンは1万5千円〜3万円程度、ヘルメットは1万円〜、長靴はゴム製で1万5千円〜、革製で4万円〜、手袋は2,3千円のもので充分です。
お金に余裕があるなら、最初から持っているに越したことはありません。しかし、最初は馬具の取り扱いや手入れの知識が乏しいのですし、ある程度クラブに通って慣れてからでも遅くはありません。また、クラブで練習用の鞍が用意されているなら、最初から無理に買う必要はありません。クラブのスタッフから「そろそろ鞍を買われては?」 と言われてから考えても遅くはありません。逆に、毎日練習するのでなければ、あえて自分の鞍を持たないという選択もあります。鞍は一般的なものでも一式20〜30万円しますし、その分を騎乗料に充てればかなりの練習ができるという考え方もできます。
(社)全国乗馬倶楽部振興協会認定ライセンス(技能認定審査)とは、騎乗技術・用語・馬装・馬の扱い等についての各レベルにおける到達の目安で1〜5級まであります。上位の2級以上を取得すると、(社)日本馬術連盟の競技資格B級に移行することができます。日馬連の競技資格とは、その名の通りの「ライセンス」で、日馬連が主催する大きな大会に出場するには日馬連に登録された人馬であることと同時に、競技の種目によって定められた資格を持っていることが要求されます。日馬連に加入していない人がB級へ移行するときは、同時に日馬連への加入が義務付けられます。
3〜5級は、特に「資格」としての効力はありませんが、その級を取得するための最低限の技術・知識を有しているという客観的な目安にはなります。たとえば、初めて訪れた乗馬クラブで騎乗経験を聞かれたときに「○級を持ってます」と言えば、馬匹選定やレッスン内容決定に際して参考にしてくれるでしょう。つまり、「最終的に1級を取る」という目標があれば、「励み」になりますし、5級だけでも、乗馬についての最小限の知識・技術は身につけたという目安として使うことができる、ということです。
各級の審査内容は下記の通りです。
| 5級 |
乗馬、下馬 手綱の持ち方及び索馬、馬上体操停止及び常歩で正しい姿勢がとれる。 誘導馬について小区画の馬場で軽速歩ができる。 内方開き手綱の操作 部班運動にて審査 |
(例) 馬の毛色(栗毛・鹿毛・芦毛等) 馬体の名称(頭・頸・胸・腹等) 乗馬、下馬 馬の取り扱い(馬に近づく方法、程度)等 |
| 4級 |
小区画の馬場で速歩までの単独騎乗、常歩で巻き乗り、半巻きを含む回転運動。速歩で90゜の方向変換及び斜手前変換 停止−常歩−速歩−停止 が大体スムースにできる。 軽速歩の手前が理解できること。 速歩運動にて正しい姿勢がとれ手綱、脚の操作がおおむねでき、部班運動(輪乗り程度)にて駆歩の発進、維持ができる。 |
(例) 同上 馬具の名称 馬装の適否の発見 初歩の号令 等 |
| 3級 | 5級、4級の運動を含め各個にて駆歩の発進、維持歩度の伸縮がおおむねでき、巻き乗り、半巻きができる。 駆歩の手前が理解でき、常歩、速歩を入れての手前の変換ができる。 扶助操作の適否 地上横木の通過 本協会3級経路を基に号令にて各個運動 |
5級、4級に加え馬場運動の図形等 |
| 馬場2級 |
日本馬術連盟第2課目1993 |
レッツエンジョイライディング(全乗協発行の参考書)より8割程度出題 馬事衛生及びJEF規程等2割程度出題 |
障害2級 |
小障害程度(障害数8〜10個程度、高さ100p程度の障害を2個以上びダブル障害を含む) 基準表Aにて採点 | |
| 馬場1級 |
日本馬術連盟第3課目1993 | |
| 障害1級 |
中障害B程度(障害数8〜10程度、高さ120p程度の障害を2個以上含む) 基準表Aにて採点 | |
確かにアメリカン・クォーターホースや、ハノーバーやセルフランセなど中半 血種の乗馬用に調教された馬にくらべれば、競馬上がりのサラブレッドは扱いづ らいことも否定できませんが、同じサラブレッドのなかでも、性格が温厚で素直 な乗馬向きの馬もいないわけではないのです。日本の乗馬クラブや大学の馬術部 で一番多く使われているのはサラブレッドである、という事実をしっかりと認識 する必要があるでしょう。
「競馬上がりのサラブレッドは悍性が強い」とか「横むいて走るなど変な癖が ついてるのもいる」などとよく言われますが、必ずしもそうとばかりは言えませ ん。競走馬はみんな気が荒くてイライラしているわけではないのです。なかには そういった馬もいますが、競馬場の雰囲気や日々の調教によってそうなってしま っているのです。「横むいて走る」馬もいますが、正確に言うと「横をむけて走 らせている」のです。掛かり癖のある馬は、乗り手がしっかりと抑えて調教をし なければいけないのですが、ガッチリと抑えると乗り手も疲れるので、手っ取り 早い方法として横向きで走らせているのです。馬だって正面を向いて走った方が 楽なのですから。しかし、これを単に乗り手の手抜きと非難することもできませ ん。競走馬の調教の現場は時間との戦いで、限られた時間で1頭でも多く乗るに はこうした「工夫」も必要悪として存在します。
競馬を引退した馬にすぐに乗馬の調教を始めるのは、ちょっと乱暴かも知れま せん。馬だっていままで住み慣れた場所を離れ、毎日世話をしてくれた厩務員か ら離れ、新しい場所へ移れば、初めはどんな馬でも混乱します。さらに、いまま で調教といえば小さな鞍を付けて全力疾走することだったのに、まったく違った 運動を要求されるという、この環境変化は馬にとって「大事件」なんですね。 だから競馬を引退した馬は、一度放牧に出してボケーっとさせて、周囲の状況の 変化をよく理解させてから乗馬の調教に取りかかるのが、馬のためにも人間のた めにも良いことなのではないかと思うのです。事実、競走馬時代に気の荒かった 馬でも、3か月も放牧に出してやればおとなしくなるものです。ただ、多くの場 合そこまで時間的・資金的な余裕が無いのですが。
馬にとってみれば、周囲の環境が変わって戸惑っているうちに、人間に勝手に 「乗馬に向く・向かない」と判断されてしまうのでは、あまりに可哀想ですよね。
「競馬でオープンクラスまで昇りつけたような馬は、気性が荒くてほとんど乗 用馬としては使い物にならない」という話は、過去のものとなりつつあります。 確かにかつての日本の競走馬の調教は嫌がる馬を後ろから竹竿で引っ叩いて動か すような、愛馬精神のカケラも無いようなものでした。しかし、最近では馬術競 技経験者が育成段階から馬術的な要素を取り入れた調教を行うようになりました し、競馬学校厩務員課程が創設されたことで、馬の扱いも良くなりました。欧米 では、超一流の馬ほどおとなしく、扱いやすいと言われています。今では逆に、 オープンクラスまで上りつめたくらいの馬の方が、ここ一番での勝負根性や馬体 の丈夫さを買われて、乗馬クラブ経営者の受けが良いようです。これは日本だけ の傾向ではなくて、アトランタ五輪・総合馬術にアメリカチームで出場したジル ・ヘンヌバーグ選手の騎乗したNIRVANA号も元競走馬でした。
日本での本格的な乗用馬の生産・育成が当分望めないのであれば、いかに競馬 上がりの馬を乗用馬に再調教するかがポイントとなるでしょう。選手の育成・強 化と並行して、調教技術者・指導者の育成が重要なのです。
競馬ウマを乗馬用に「再教育」する期間や手間ですが、これはもう 個々の馬によって条件が違うので一概には言えません。何をもって「乗馬用 の馬」とするかという定義を、「最低限の馬術的運動を理解し、乗り手に反 抗しない」とすると、少なくとも3ヶ月、一般的には半年以上といったとこ ろではないでしょうか。
もちろん競馬場から乗馬施設へやってきた馬がすべて乗馬用に向くわけで はないので、乗馬向きの素質があって、経験・技術を持った人間の管理下で の再調教という条件も付きます。
最近は競馬場へ入厩する前の育成段階で、馬術的な要素を取り入れた調教 を行っている牧場もあり、そういった馬なら少しは早く仕上がるかも知れま せんが、馬自身がそれまでの競走馬術を忘れて、基礎馬術を理解するための 期間として、最低3ヶ月は必要になると思います。特に使い詰めでイレ気味 の馬は、焦らずに少し長めに放牧してから再調教に取り掛かるのが良いと思 います。馬が充分に状況を理解しないまま乗馬用の再調教を始めても、なか なか成果があがらないと聞きますし、そういった状況で「乗馬向きでない」 と判断されて肉屋行きとなってしまうのでは、あまりにかわいそうだからで す。とはいえ、現実にはそこまでの時間的・資金的余裕が無いケースが多い のですが。
手間としては、毎日の馬房掃除・エサやり・引き運動のほか、馬に合わせ て少しずつ馬術的な調教をすすめていきます。最初はロングレーン(長手綱) を使ってゆっくりと一定の歩度で運動する訓練をして、次の段階として騎乗 して基礎的な運動や扶助を覚えさせるわけです。
費用ですが、再調教に必要な期間のエサ代と世話や調教をする人間の人件 費+法定予防接種等の獣医代、装蹄料です。まぁ、月に6〜10万といった ところでしょうか。3ヶ月なら18〜30万、半年かかるとすれば36〜6 0万といったところですね。(これも個々の牧場・乗馬クラブで差がありま すが)
98年9月にJRA馬事公苑で開催されたセミナーで、この件についての質疑応答があったのでご紹介します。
Q.電解質の摂取に人間用のスポーツドリンクを与える際の注意点は?
A.人間用スポーツドリンクを馬に与えるのは適切ではない。人間と馬とでは汗の成分に違いがあり、
人間用のものにはグルコースが多く馬に必要なナトリウム等が少ない。馬用に成分が調整されたものを使うべきである。
馬に与えるのに適した配分は、塩素イオン55%・ナトリウム24%・カリウム11〜12%ほどである。
市販されている製品の中には不純物の多いものもあるので、注意すること。
馬用の「ポカリスエット」は「ホースサイダー」等の製品名で売られています。競走馬の厩舎で
はよく使われています。獣医さんに問合わせてみてください。
馬は甘いものが好きなので、味を覚えてしまうとクッキーでも角砂糖でも食べます。勿論たくさ
ん与えると糖分の摂り過ぎになり良くありませんが、少量ならば問題ないと思います。できれば
人工甘味料でなく天然の原料で作られたものが良いと思います。その点、黒砂糖や金平糖といっ
た伝統的なもののほうがよいと思います。
「馬術家のためのスポーツ科学」特別セミナー受講レポート
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