交換小説 「題未定」

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 第一回分 2007年12月15日 島田博樹 
真夏の、しかも昼過ぎているにもかかわらずカーテンも閉め切ったままの暗い部屋の中で、
彼は湿った毛布に下半身を突っ込んだまま、今見た夢を思い返していた。

不快な夢だった。しかも長い長い夢のようだった。
横向きに寝た姿勢からのものらしいその視線の先には、白衣のスカートが映っていた。
しかし、それはなぜか少しも動くことはなかった。そして壁を覆う水色のタイル。
耳のすぐ近くで金属のぶつかるような音もしていた。
今思えば、病院の手術室で手術を受けていたらしいが、それにしては辺りは薄暗く、人の動く気配も全く
しなかった。
けれども、終始彼の頭の中を占めていたのはそれらのことではなく、ただ一つの疑問だけ。
「自分はだれなのか…?」
自分の名前、家族、友人、恋人。それだけでなく、今日会った人や出来事、どのようにしてここに来たのか?
彼が見ている光景…、それ以前の記憶は完全に失われていた。

「記憶喪失―、その治療のために私は手術を受けていたのだろうか。」
夢は夢だ。前後関係など関係ない。彼はそう思いたかったが、それを容易に許さないほど、
その夢はリアルに彼を捕えていた。
寒々とした印象の手術室とは反対に蒸し暑いその部屋の中で、彼は動けずにいた。


島田から三日氏への手紙(一)
まあ、こんなん出来ました。夢落ちならぬ、夢始めだ。
短すぎる?それとも長すぎる?
一応、ジャンル的には幅を持たせられるように書きました。
感想、イチャモン、注文など、待ってます。

              
 第二回分 2007年12月31日 三日三民 
4時間。
習慣で彼は眠った時間を計算した。
頭上にある煙草に手を伸ばし、火を点ける。
大きく吸い、長く吐く。
煙は電灯の笠で渦を巻いていた。

電話がなる。
…5、6…8…12
受話器を取る。
「横山修次さん。おはようございます」
「…」
「神部雅史さんが死にました。どうぞ準備をして下さい」

彼は汗に濡れた足を布団から出し、床で冷ましていた。

三民から島田氏への手紙(一)
この欄があるおかげで、言い訳ができる。
少し短いとは思うが、この手紙の文章より、本文が短くならないことを望む。
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 第三回分 2008年1月7日 島田博樹 
木ノ内耀子は駅前の雑踏から視線を戻し、アイスオーレを一口飲んだ。
「誕生日に患者が亡くなるなんて、矢島さんもついてないな…」
気分を変えるために入った喫茶店だったが、これは無理だな、と溜息をつく。
矢島は耀子の同僚だが、仲が良いというほどではない。個人的な話はまずすることはなかった。
けれどここ数日は神部という患者についてよく話すようになった。
神部は耀子がアナムネをとったが、そのあと矢島に担当替えされたのだ。
その時、気になる話はしていたが、特に変わった患者という印象はなかった。
目つきの鋭い40を過ぎたその男は、肝硬変だった。

耀子は喫茶店を出て、暑さも峠を越えた街を家路についた。
矢島は誕生日だから、と誘いはしたものの、話題は患者のこと、それも神部のことがほとんどだった。
彼は愛想のない患者だったが、矢島は泣いていた。

重い脚を引きずって、アパートの階段を上がり、部屋の鍵を開ける。
ふと、ポストが気になって中を覗いてみると、ダイレクトメールに混じって一通の手紙が出てきた。
差出人は書かれていない。


島田から三民氏への手紙(二)
うーん、短いね。
アナムネは患者の病歴をまとめたものだ。バイ「おたんこナース」
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 第四回分 2008年1月31日 三日三民 
千里を覗いた彼の人を
神の子達は畏怖し
岩窟に閉じ込めてしまった
停止した漆黒の闇へ沈む前に
彼の人は自分の目を手形にして冥府の門を開いた

君は
震える僕の手を取って血を抜いた
君は
僕の目を暴いた
どうして

拡大鏡で見るのは目ではなくて
人の意思が為すものだ
君はその目で僕を見てはいけなかった

君と僕は同じものだ
人は人を理解してはいけない
君が再び間違える前に
僕の全てを君にあげよう

方法は矢島と横山が知っている
君は待っているだけでいい

僕はもう何も見えなくなるが
いつまでも君を見ているよ

神部

手紙には神部の手から滲んだような黄色いシミがいくつもあった。


三民から島田氏への手紙(二)
ごめん、ごめん。
種はもう十分蒔いてある。
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 第五回分 2008年2月9日 島田博樹
「ラブレター…、じゃないよね…。」
わざと声に出して言ってみた。
難解な文章ではあったが、その手紙を読み終えたとき、耀子は心の奥底に言いようのない恐怖のようなものを
感じたのだ。
「神部…って、あの神部さん?なぜ私に手紙なんか…。」
耀子は今朝、霊安室で見た神部の顔を思い出さずにはいられなかった。
「もしかすると意識が混濁しているときに書いたのかも知れない。」
自分のベッドに腰掛けながらもう一度読み返してみる。

彼女が神部と話したのはアナムネの時だけで、あとは挨拶をする程度だった。
後半の妙に親しげな言い回しが気にはなったが、神部は耀子が「してはいけない事」をしたと言っているらしい。
それを繰り返さないように、ということだろうか。
もちろんそれが何なのかはわからないが、彼女自身は待っていれば良い。ということらしい。
「何かは解らないけど、矢島さんが知ってるのね。明日にでも聞いてみよう。笑われるかなぁ。」
横山って誰だろう?と思っている時、携帯の呼び出し音が鳴った。
「もしもし、木ノ内ですが。」
相手は婦長だった。
「もしもし、木ノ内さん。あのね、3階の矢島さんのことなんだけど、あなた、知ってるわよね?」
「ええ。知ってますよ。矢島さんなら深夜勤明けでさっきまで…。」
「落ち着いて聞いてね。矢島さん、さっき交通事故でうちの病院に搬送されて来たんだけど…、
病院に着いた時には、もう、亡くなってたのよ。」


島田氏から三民への手紙(三)
やっちまったぜ。
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 第六回分 2008年3月14日 三日三民 

耀子が病院に駆けつけたときには、もう日付が変わっていた。
ICUに向かうか、それとも霊安室か・・・
エレベーターの前まで来ると、扉が開き、中に婦長が立っていた。
「ああ、木ノ内さん。霊安室よ」
頭を下げたまま、婦長はエレベーターを降り、暗い廊下を歩いて消えていった。
耀子はエレベーターに乗り込んだ。
霊安室のあるB3のボタンはすでに押されている。

霊安室の前の長椅子に男が座っていた。
大きな体躯、俯いた姿、男がこちらを向くまで、耀子はそれが何かすら考えていなかった。
「矢島は死にましたよ、木ノ内耀子さん。今日あなたがここにくるとは思わなかったが」
この人、私を知っている。
強張った耀子の顔を探りながら、男は言葉をつないだ。
「やはり、私のことは知らないのですね。私は矢島からあなたのことを聞いていたから。私は・・」
「あのっ、矢島さんは・・」
「そこにいます。でも見ないほうがいい。矢島もそう思っているでしょう。」
低く、覆いかぶさってくるような男の声に、耀子は支配されているように思った。
でも矢島さんはどうして、そして
「どなたなんですか、あなたは?何故私の顔を知ってるの?」
「何故?そうですね。確かにお会いするのは初めてです。でも私はすぐにあなただとわかりましたよ。
目ですかね?あなたの」
目。また私の目。この人たち・・神部さんとこの男は・・・
「私は横山修次というものです」
神部さんの手紙に書かれていた名前。私が会うといっていた人・・・
「それから・・」
「待って。あなたは矢島さんとどういう関係?神部さんからは何か言われているの?」
「矢島とは仕事上の付き合いですよ。私は葬儀屋ですからね。それと今かんべと言いましたか?
私は神部という人は知りません」
「知らない?神部雅史ですよ」
「ええ、知りません。誰ですか?何故私がその人を知っていると・・」
わからない。でも私が知らないこの人は私の事を知っている。
「それと、どうして矢島さんは私の事をあなたに・・」
質問をしながら耀子ははっとした。私はどうしてここに来たのだろう。矢島さんとはそれほど親しくない。
それに婦長も何で私に電話なんて。あの手紙のせい?そう、手紙に書かれていたのは私が待っていれば
いいということだった。
でも待っていたのは私じゃなくて、この人・・・
困惑する理性の渦で、耀子の表情は乱れていくが、体が硬直して、背筋は反り返るように伸びていた。
「またどうして?ですか。私が神部という人を知らないことが、あなたを驚かせたことの方が気になり
ますが。いや、質問は何故矢島が木ノ内さんのことを話したかですよね。
三日前です。
私はその日もここに座っていたのですが、そのときに矢島が来て話していったんですよ、あなたの事を
・・っどうしました?顔色が・・」
頭頂からつま先まで、一本の棒のように硬直した耀子の体は、すがるものなく倒れた。


三民から島田氏への手紙(一)
んー。「・・・」が多いなぁ。
婦長よ、生き残れ!
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