Le Tombeau de Saint-Saëns
サン=サーンスの芸術と生涯
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 教会オルガニスト

 音楽院を卒業したサン=サーンスは1853年、 パリ市庁舎の裏手にそびえるサン=メリ教会 Saint-Merry のオルガニストとなる。 ここは、七世紀までその歴史を遡ることのできるほど、パリ市中でも最も由緒ある教会の一つであり、 1331年に作られた鐘楼の鐘は、フランス最古のものといわれている。 彼はこの教会から、以後長きに渡る音楽家活動を本格的にスタートさせるのだが、 かつて神童と騒がれた才能はいまだ健在であり、 瞬く間にパリを代表するオルガニストの一人として知られるようになる。


カヴァイエ=コル  サン=サーンスは、この頃オルガン製造家のカヴァイエ=コルと出会っている。 カヴァイエ=コル Aristide Cavaillé-Coll (1811-1899)は、 当時様々な新しい製作技術を導入したオルガン製造の第一人者であるが、 その非凡な才能を見込まれたサン=サーンスは、 彼から依頼を受け、数々のカヴァイエ=コル製オルガンを試奏している。 サン=サーンスの演奏によって、その優れた性能が証明されると、 オルガンはパリを始めフランス各地に普及していったのである。 現在サン=メリ教会にあるオルガンもカヴァイエ=コル製で、 かつてサン=サーンスが奏でた響きを今に伝えている。


 サン=サーンスと同時代の作曲家には、彼のように教会オルガニストから経歴を出発させている人々が多い。 フランク César Franck (1822-1890)やバレエ『コッペリア Coppélia』(1870)で有名なドリーブ、 Léo Delibes (1836-1891)そしてフォーレ Gabriel Fauré (1845-1924)らは、 作曲家として名を馳せる以前は、いずれも教会のオルガン奏者を務めた経験をもつ。


 1858年、サン=サーンスはサン=メリ教会を去ると同時に、 マドレーヌ聖堂 La Madeleine の首席オルガニストの職に就く。このパルテノン神殿を彷彿させる建物が、 幾多の変遷を経て、教会として機能するのは1842年以降だから、サン=メリ教会に比べてみても、 その歴史は浅い。しかしここは多くの信者が集う一大教区の中心であり、 当時この教会のオルガニストといえば、オルガン奏者としてパリで最も権威のある地位と考えられていた。 サン=サーンスは約20年間この職を務めていて、彼がいかに優れたオルガン奏者であり、 世の人々からの尊敬をかち得ていたかが分かる。 クララ・シューマン Clara Schumann (1819-1896) やパブロ・デ・サラサーテ Pablo De Sarasate (1844-1908)、そしてフランツ・リスト Franz Liszt (1811-1886)など、当代を代表する音楽家たちが、 このマドレーヌ聖堂首席オルガニストを訪問している。 ちなみにフォーレも、1896年から1905年までの間、マドレーヌ聖堂の首席オルガニストを務めている。


マドレーヌ聖堂  しかし18世紀半ばから19世紀にかけて、パリの教会における音楽状況は、悲惨を極めるものであった。 ミサの音楽ではなく、ワルツやオペラの楽曲など享楽的な音楽が、 教会というキリスト教にとって神聖な場所で平然と奏でられていて、宗教的な儀式自体、 ブルジョワ階級好みの豪華絢爛な見せ物と化してしまった。 オルガニストはその技量を見せびらかすことのみに熱中し、 神に奉仕するという心境に至る者は少なかったのである。


 このようなフランスにおける宗教音楽の嘆かわしい状況を改善しようと、 19世紀半ばに宗教音楽のための学校を建てたのが、ニデルメイエール Louis Abraham Niedermeyer (1802-1861)であった。 彼は当時忘れられつつあった教会旋法を用いることで新しい和声の道を開こうとしたが、 このことは、現在「フランス的」と形容できるあの独特な響きを生み出すに至っている (浅井香織)。 和声の可能性を極限まで追求したフォーレはこの学校の卒業生である。 教会においても、セザール・フランクのように、技術が高いだけでなく、 宗教的霊感にも満たされた真の教会オルガニストが現れて、優れた宗教音楽の作品を生み出したりしている。 サン=サーンス自身は、ほとんど信仰心がなかったと告白しているが、 音楽に対する真摯な態度に変わりはなく、その演奏をリストは「世界最高のオルガン奏者」と絶賛している。 つまるところ、フランクやサン=サーンス、そしてフォーレなど、 近代フランスの作曲家には、単に作曲面においてだけでなく、教会における音楽の実践面にも、 重要な役割を果たした人物が多いのである。


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