その日は私の誕生日だった。

その施設での生活は嫌いではなかった。
裸にされたり、色々なコードを取り付けられたりしたけれど、
そこの白衣の人達はみんな優しくて、たぶん、幸せだったと思う。

その力はいつ頃から使えたのかは覚えていない。
ある日、怒った拍子に変化がおきた。
それから、時間が経つにつれ扱いに慣れていき
人前で見せたりもした。
それが、いけなかった。
最初、奇異の目で見られ、そして容疑者扱い
畏怖、恐怖、阻害され、孤立し、孤独になった。
そして、研究材料として、施設の中へ。外の世界から隔離される事になった。


「今日の検査はこれでお終いだ。」
と白衣の男が告げる。
私はベッドから起き上がり、服を着る。
「さて、咲夜ちゃん、今日は何の日かわかるかな〜?」
と白衣の女性がにこやかに問いかける。
「誕生日!」
満面の笑みで私は答えた。

部屋を移って
「はい、12才になったプレゼントよ」
と、先ほどの女性が箱をくれる。
「あけていい?」
と聞くと、どうぞ、と帰ってきた。
なんだろ・・・・
「あ、お人形だ〜」
ぶかっとしたキャップとフリルをあしらった洋服の可愛らしい人形である。
「ありがとー」
「ふふ、じゃあ、僕からは懐中時計を」
ともう1人がプレゼントを渡した時
激しい物音がした。
「なんだ?・・・」
数人が走る音がする。
どうやらこの部屋の近くらしい。
白衣の男がドアを開き、注意を促そうとした
「ぐっ!!」
その瞬間、首から血を噴出しながら倒れた。
「きゃああああああ!!」
白衣の女性が私を抱いて悲鳴をあげる。
私はその時、何が起こったのかわからず固まっていた。
「いたぞ」
と黒服の男達が部屋に入る。
「ガキは殺すな、そいつが能力者らしい。」
そういうと、白衣の女性の背中にナイフを突き立てる。
大き目のナイフ、ナイフと言うより短刀だろうか
女性の体から突き出たナイフの先端が
丁度、持っていた懐中時計を串刺しにする。
女性が私に覆い被さったまま崩れ落ちる。
視界が赤でいっぱいになる。
この瞬間、やっと理解した。
これが
	死

「うわぁぁぁあああああああああああああ」

防犯カメラに残された映像には、
少女が叫んだ直後に、
血まみれで倒れている6人と血に染まった人形と
少女の叫び声の続きだけだった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
咲夜は無我夢中だった。
この施設内を走った。
無意識に抜いたナイフと壊れた懐中時計を握り締めて。

後になって解かった事だが、あの施設で私(の能力)を研究していた組織に敵対する組織が私(の能力)を強奪しようとしたらしい。

3人の黒服が目の前に出てくる。
「ん、能力者だぞ!」
「先に行ったやつらは何やってんだ」

山の中とはいえ、民家もある。
それに、強奪対象に傷を着ける恐れもあった。
それを考慮して、黒服達は銃器の類は所持していない。
しかし、警備員程度なら素手で殺せるような人間達だった。
現にそこにも、首を変に曲げて倒れている警備員がいる。

黒服3人が咲夜を捕らえようと近づく。
「こないで―――――――!」
この瞬間、黒服3人の動きが止まる。
いや、動けるものは咲夜を除いて他にはいない。
研究者達は、瞬間移動程度にしか考えてなかったようだが、
彼女の能力は時間の流れを操作する事。

時間とは距離である。
時間を操るという事は空間をも操れるという事。
しかし、今はまだ咲夜自身が未熟な為に、時間停止しか出来ないのだが。

時間の止まった世界で咲夜は自己防衛の為に血濡れのナイフを黒服達に突き立てる。

3人にナイフを突き立て、斬り付けた後その場から走り去る。
生き延びると言う本能のままに。
危険の無い場所にたどり着くまで。

そして、時は動き出す。

黒服達は死んだ事にも気づかない。


「ッあ、はぁ、はぁ、うわぁ!?」
無我夢中で走っていると、突然何かに躓いて転んでしまった。
施設の外、慣れない雑木林の中で足を取られたのだ。
「うっぅ・・・うぁぁぁああああ・・・・」
転んだ拍子に泣き出してしまった。
突然の身内(知人)の"死"と言う精神的なショックと、恐怖感という緊張が切れて感情が爆発した。
泣き疲れて眠ってしまうまで咲夜は泣いた。

眠りに落ちる寸前、体が沈んだような気がした・・・・


なにやら揺れている。
咲夜は目を覚ました。
「あ、起こしちゃいましたか?」
どうやら背負われているようだ
昨日の「恐怖」を思い出し、その背から逃れようとする
「はなせ!この!!」
持っていたナイフは今は無い。
それでも素手で背中を叩く。
「痛っ!あ、危ないですから、落ち着いて」
背負われたまま、家(屋敷)の中に連れて行かれた。
「あら、リトルどうしたの?ソレ」
「あ、おはようございますパチュリー様」
「ん、おはよう。」
「外で寝てたので拾ってきました。」
「ふーん・・・えっと、人間の子供を調理する方法は・・・」
「あぁ、駄目ですよ!パチュリー様」
「・・・・・冗談よ」
・・・・・・・なんなんだ?この2人は。
よく見れば背負ってくれてる(リトルって呼ばれて)女、頭と背中にコウモリみたいな羽が生えてるし
ジト目の同い年に見える(パチュリー様って呼ばれてた)少女は人間を調理するとか言ったな・・・・
「ねぇ、ここってどこなの?」
「「・・・・・・は?」」



「ふ〜ん、向こう側の人間、ねぇ・・・こちらに来れたのはどうやら隙間に偶然落ちたからね。」
話を聞いてそう呟く。
聞きなれない単語を聞いたリトルが隙間ってなんですか?
と質問していたが、私にはまったく解らない。
「ところであなた、何か出来る事は無いの?
ここに人間が住むって事は危険な事なのよ」
と隙間の説明を終えたパチュリーが聞く。
「できること?」
「え〜っとですね、例えば、魔法が使えるとか・・・」
リトルがフォローに入る。
「・・・・」
未だに信じられない。
ここが元居た世界じゃなく、幻想郷という世界で
リトルさんは小悪魔、パチュリー様は魔女・・・
夢でも見ているのだろうか?
「何もないの?」
「あ、あります。・・・・じ、時間を止めれます・・・」
「へぇ、珍しい能力ね・・・・見せてみて」
「はい。」
返事をすると
集中する。
「・・・・・・止まれ!」
周囲から雑音は無くなり、無音の世界になる。
成功したのだ。
「・・・・でも、何すればいいのかな?」
「とりあえず、リトルさんを後ろに向かせて」
「パチュリー様は・・・・持ってる本を机に載せてっと」
「時間よ、戻れ!」

「あれ?お二人がいません!?」
「リトル、後ろ」
「あれ?、あ、パチュリー様、本はどうしたんです?」
「あら?・・・机の上にあるわ・・・・」
「どうですか?」
「いいわ、メイドにしてもらえるようにお嬢様に掛け合ってあげる。」
「ありがとうございます」
「あと、時間が操れるって事は、空間も操れるって事だから、その能力をもっと扱えるようになりなさい。」
「はい。」
「・・・図書館も広く出来るし」
ボソリと呟く。
「パチュリー様、何かいいました?」
「何でもないわ」

その後、咲夜は紅魔館の掃除係として働く事になった。
それから2年が経った
この2年間、
仕事、この世界について、価値観の違い、自身の能力について、
知らなければならない事は、余りにも多かった。
特に、魔法について。
この館は周囲が湖でここの住人は"空を飛んで"移動するのである。
パチュリー直々に基本的な魔法の特訓を受けたりもした。
その忙しさが良かったのか、ここに来る前に受けた"死"の恐怖は心の片隅に追いやられていった。

とある日
「聞いた?お嬢様、血が不味いってお怒りになってたって。」
「最近は養殖ものばかりだし・・・・」
ふとそんな事を耳にした。
「そういえば、ここのお嬢様には1度も会ってないような・・・・」
レミリアは夜行性。
咲夜は昼間働いている。
それでは会えるはずも無い。
仕事の勤務時間が変わるかすれば見ることくらいなら出来そうだが・・・
「血、か・・・」
会うためにはどうすれば?
「あ、咲夜さん、お使い頼みたいんだけど?」
「あ、はい。」


「リトルさん、ちょっと出かけてきます。」
「あれ、何処行くんですか?」
「人間の集落までお使いです。」
「いってらっしゃい。」


「買い物はこれだけね・・・ん、葬式?」
「またやられた・・・・」
「(これは、チャンスかも・・・)ねぇ、どうしたの?」
「ん、あぁ妖怪がひっきりなしに来るんでな・・・」
「その格好・・・お嬢さん、紅魔館のメイドだな?」
「ヒィ・・・」
一歩引く人間達。
「何よ?」
「あんたの所がけしかけてるんじゃないだろうな?」
「はぁ?妖怪を仕向けるくらいなら、メイド達が直接派遣されるわ。」
「そ、そうか・・・」
「魔法使いでも雇うか?」
「雇うったって、金が幾らあっても足りないぞ?」
「(そうだ!)・・・・ねぇ、解決してあげようか?」


それから2ヶ月がたったある日
パチュリーは久しぶりにレミリアとお茶を楽しんでいた。
「そういえば、最近紅茶が美味しいわ・・・後、月に1度は人肉も出てるみたいだし」
「あぁ、咲夜のおかげね。色々頑張ってたみたいだし。」
「サクヤ?ふーん、貴女、サクヤをここに呼んで頂戴。」
と、メイドに命令する。

コンコン
「咲夜です。」
「入りなさい」
「失礼します。」
部屋に入り、目に入ったのはパチュリーと
「あ・・・・」
あの時の人形の姿とそっくりな少女。
「貴女、どうやって血を手に入れたの?」
人形の事を思い出していたため、すこし反応が遅れてしまった。
「は、はい、人間と契約をしたんです。」
これにはパチュリーも驚いたようで、本から顔を上げて、咲夜を見る。
「妖怪に襲われて困ってると言ってたので、夜だけ、町周辺の空間を捻じ曲げて町に近づけなくしたんです。」
「なるほど、それで結界用の符の作り方を聞きに来たのね」
「代価として、毎週新鮮な血液と月に1人の人間を提供してもらうようにしました。」
「町からここまで結構な距離があるけど、その間の血の保管はどうしてるの?」
「血液の時間を止めて運んでいますから、新鮮なままです。」
「そう・・・下がっていいわ」
「はい、失礼します。」
カチャリ、パタン
咲夜が部屋を出る。
「ふむ・・・・」
中々に有能である。
純粋な戦闘能力としては、以前の(パチュリーが倒した)メイド長、ファラ・シェプストよりも劣ると思うが、
自身の持つ超能力が規格外なモノであるため、それを補って余りある。
メイド長に必要な"強さ"は十分か・・・
「パチェ」
本を読んでいる少女に声をかける
「あのさ・・・」



そして、
「美鈴、何してるの?」
「あ、咲夜さん、おはようございます。」
「おはよう。」
「花壇の手入れですよ。もうそろそろ咲くと思いますけど。」
とラベンダーに水をやる。
水を撒いている少女は、咲夜がメイド長就任と同時に門番に就任した娘だった。
能力無しでの勝負なら五分五分だろうか?
門番を任されているだけあって、他のメイド達では太刀打ちできない実力を持っていた。

あれから10年がたっていた。
今では実質的に紅魔館の責任者である。
メイド長就任直後に2度ほど反発されたが、実力でこれを抑えた。
「さ、今日も頑張りましょう。」
「はい。」


今でもあの時の壊れた懐中時計は大事にしまってある。
あの時は無くしてしまった可愛らしい人形。
その代わりと言ってはアレだが、今はお嬢様がいる。

今度こそ無くさないように、
大切に、大切に。



あとがき! 咲夜さんの過去です。 10〜20年、メイドやってるらしい(うるおぼえ) +外見が若いので12歳から10年間で現在22歳にしました。 この話は、東方紅魔館の10年前〜少し前です。 時間は距離ってのは、時間の経過を表すと 1時―――2時―――3時 と線で表現できるから「距離」です。 中国の古い言葉で 宇宙の宇は空間、宙は時間を表すそうです。

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