この日の対戦カードは、悪魔の妹・フランドールと
密疎の鬼・伊吹萃香だ。
鬼は幻想郷とは違う「鬼の国」に住んでいるので、幻想郷には存在しない。
だが、私の主人、八雲 紫はその鬼と知り合いだ。
「紫様、あの萃香という少女とお知り合いのようですが?」
観客席で眠そうにしている主人が欠伸をしながら答えてくれる。
「ふぁ・・・ふ、ん、そうよ?それがどうかしたかしら?」
「鬼と言われても、正直よくわからないんです。」
私は聞いてみることにした。
「そうねぇ・・・暇だし、教えてあげるわ。」
そう言うと、紫の表情から眠気が消える。
「鬼ってのは、元々、死んだ人間のことだったんだけど、土蜘蛛やら山ノ民などと言われた
迫害されて隠れ潜む人間達・・・いや、人間として扱われなかった者達の事を言うのよ。」
「へぇ・・・、では、あの少女も隠れる理由があったのですか?」
「もちろん。
鬼達は全て必ず隠れる理由があるわ。
人の世界では人に非ず、幻想郷では彼らは妖怪でないと言うわ。
そりゃあそうよね、人間なんだもの。
ならば鬼とは何なのかしらね?」
紫がなぞなぞを出すように藍に問う。
「え・・・、すみません、わからないです。」
「だからあちらの世界からも、幻想郷からも隠れ住んでいるの。
鬼の国にね。
まぁ、今となっては、手段が目的になってしまっているみたいね。
・・・そうそう、鬼自身にも、隠している事があるのよ。」
「隠している事?」
「ふふ、彼女、可愛いところがあるのよ?」
何か面白い事を思いついたという表情で紫は、少女――萃香を見つめた。
ステージ上では、投票開始直前の現在、フランドールが自己紹介をしているところだった。
司会を挟んで隣には萃香が座っている。
常に酔っ払っているようで、頭をぐわんぐわん揺らしながら、
足をフラフラ揺らしながら、自分の番を待っていた。
時折、ケタケタと笑い出す。
完全に酔っ払っている。
まぁ、いつも酔っているんだけれど・・・
藍は彼女を見て、「少しふざけすぎではないですか?」と何とも真面目な事を言う。
彼女の事だから、大方勝負の意味の無さに笑っているのだろう。
この戦いは個人の力、能力で勝負が決まるのではない。
第三者の票をどれだけ 集 め れ る か に決まっている。
そして、彼女の能力
――疎と密を操る能力――
自分への票を密に、相手への票を疎に。
私は、試合開始前の会話を思い出す。
「こんなトーナメント、勝負なんかじゃないわ。
遊びですらないわね、だって結果がわかってるんだもの。」
彼女はふふんと笑うと酒を瓢箪から直に飲む。
「んぐ、んぐ、ぷぁ〜・・それじゃ、行って来るわ。」
ひらひらと手を振って、彼女は控え室を出て行った。
思い出したら少しイヂワルしたくなってきた。
「・・・・藍ちゃん、」
「(藍ちゃん!?)・・・は、はい」
「これからあの子の様子、みててね」
紫がスキマを作って手を突っ込む。
「あ・・あの、なにをしてるんですか?」
「ふふふ・・・じゃーん♪」
スキマから手を出すと、瓢箪が握られていた。
「あ、それはッ」
「ふふ、これを取り上げた状態で・・・・境界を弄ってあげると・・・」
そう言って紫が境界を弄る。
―――泥酔と素面の境界を。
「ん?」
椅子に座ってフラフラしていた萃香が動きを止める。
(・・・お酒が・・切れたのかしら?)
控え室を出てから一口も飲んでいなかったっけ。
酔いが醒める事程怖い事は無い。
腰に吊るした「酒が無限に湧き出る瓢箪」を手に取ろうとする。
(・・・あれ?)
手は空を切る。
どんなに手で腰の辺りを探っても
瓢箪に触れない。
(・・・あれれれれ?
お・・お酒が無い!!?
ど・・どうしよう、このままじゃ・・・)
そうこうしている内に、どんどん酔いは醒めていき・・・
「はい、フランドール・スカーレットさんでした〜。
それでは、次は伊吹萃香さんです!」
司会のレイラ・プリズムリバーが萃香の名を告げ、マイクを向ける。
「あ、紫様、萃香の顔色が、」
「ふふふ、素面でどこまで頑張れるかしらね・・・」
ガクガクと足が震える。
握った手は汗をかいている。
そして、
マイクを向けられた萃香の顔は真っ青だった。
挙動不審に、周囲を見渡す。
「ぁ・・・、ぅ・・・うぅ・・(ひッ・・・人が、いっぱい・・)」
観客の視線。
興味の視線。
視線、視線、視線、視線。
萃香は、周囲の視線が一身に集まっている事に恐怖を感じた。
(こ・・怖い、怖い・・・み、みんなが・・・見てる・・見てる・・)
「あれが”青鬼”の正体よ、フフフ」
蒼白な顔でガタガタ震える萃香を指差して、藍に教える。
「は、はぁ・・」
藍は正直気の毒に思えてきた。
(あんなにも脂汗をかいて震えてる・・・)
「萃香さん、大丈夫ですか?」
心配そうにレイラが覗き込む。
「は、はヒッ、!」
優しい言葉と、顔を覗かれた事にビックリして、いきなり立ち上がり、直立不動で固まってしまう。
「じゃあ、自己紹介をどうぞ〜。」
ぐぃ、とマイクが口元に向けられる。
「ぅ・・」
向けられた拍子に退いてしまう。
「ぁ・・・そ、その、・・えっと、・・・」
支援者やら観客は幻想郷にはいない鬼の自己紹介を聞き逃すまいと、視線、耳、全てを萃香に注いでいた。
更なる観客の視線。
「・・・・・・です・・」
ポソポソと、呟くように名前を告げる。
萃香の顔が赤くなってゆく。
「ちょっと、聞こえないわよ」
隣に座っているフランドールにすら聞こえない声。
「あ・・・萃香さん、もう少し、大きな声で・・・」
小声でレイラが再度の自己紹介を促す。
そう言われた萃香の目に涙が溜まる。
それでも、勇気を振り絞って声を出す。
「・・・ぶき、・ぃか・・・」
硬くにぎった両方の拳がブルブル震える。
「あの・・もう少し・・・」
レイラが困った表情で再度促す。
「い、伊吹・・・伊吹萃香よ!」
茹蛸の様に真っ赤になって大声で怒鳴る。
そして、
「ぐすッ・・・(ぅう・・・もう、やだぁああああッ)」
遂に決壊。
その場にペタリとしゃがみ込むと、
「、ぐすッ、うわぁあああああん、ぐすッ、えぐ、ふぇえええん」
普段、酔うことで「極端な人見知り」を「隠していた」萃香。
トーナメント会場という大勢が集まる場所で酔いが醒めてしまい、
遂に泣き出してしまった。
「え、あ、ちょっと、す、萃香さん?」
突然泣き出され、レイラも困惑する。
対戦相手のフランドールも目を丸くしている。
「ひぐッ、ひっくッ、ゆかりぃ〜、たすけてよぉ〜、ぐしゅ、ふえぇえええん」
幻想郷で唯一の友人である紫の名前を呼んでわんわんと泣きじゃくる。
「うふふ、お顔が真っ赤ね〜。
あれが赤鬼よ〜。」
「ゆ・・紫さま、そんな事より、だ、大丈夫なんですか?
彼女泣いちゃってますよ!」
藍が慌てふためく。
「もう、萃香ったら・・」
そのセリフと共に、空間が裂ける。
「あ、あれ、紫様?」
一緒に観ていた主人がいつの間にかステージにいる。
「っく!、ゆかりぃい〜」
突然現れた紫に泣き付く萃香。
「ぅく、お酒、切れちゃって・・・人がいっぱいで・・ぐしゅ、ひっく、」
「よしよし、もう大丈夫よ・・・」
紫が優しく萃香の頭を撫ぜてやる。
「あ・・あの〜、紫さん、乱入はちょっと・・・」
紫の乱入に、司会であるレイラが困惑しながらも注意を促す。
近寄るレイラを警戒して紫の後ろに隠れる萃香。
「あぁ、すぐ退散するわよ。
萃香、忘れ物よ。」
とスキマから
チャポン、と音を立てて萃香の目の前に瓢箪が転がる。
「あ、お酒!」
片手で紫のスカートを掴んだまま、瓢箪を拾うと、一気に喉に流し込む。
「んぐ、ごくごくごくごくごくッ、ぱふぁ、うぅ、ぐすッ、」
飲んでいる最中に、泥酔と素面の境界を元に戻しておく。
「ダメじゃない、お酒忘れていっちゃ・・・」
「う、うん、ありがと、紫・・」
「(いつも可愛いわね〜、素の萃香は・・)うふふ、
じゃあ、頑張ってね。」
萃香を引き剥がすと、スキマを開く。
「う、うん・・」
「そうそう、ズルしちゃだめよ〜
ズルしたら、お酒切れた時に助けに行かないわよ?」
「・・・わ、わかったわ・・ありがとね、紫。」
手を振りながらスキマへ戻ってゆく。
そして、観客席。
「ただいま〜」
「もう、何が忘れ物ですか・・」
「まぁまぁ、」
萃香の自己紹介が再開される。
今度は適度に酔いが回ってきたようで、いつもの通りの萃香だ。
「結局、萃香は素面の自分を隠していたって事なんですね?」
「ふふ、可愛かったでしょ、素の萃香。」
ステージを見ると、調子を戻した萃香が元気に酔っ払いながら自己紹介をしているところだった。
周囲からドッと歓声が沸き起こる。
もう彼女は票を操作する気も起きないだろう。
「さ、これで面白くなるわね・・」
クスクスと胡散臭い笑い方をして、目を細める紫だった。
あとがき!
今更最萌2の支援ssですが^^;
みんな、少し聞いてくれ。
萃香はいつも酔っている。
これは、「素の状態で居られない」と解釈する。
そして、酔いが抜けると、
実はとても人見知りで恥ずかしがりやで、とっても素直な子になる。
と推測できる。
つまり・・・
萃香たんは人見知り属性があったんだよ!(AA略
鬼の由来と、
鬼たちが人間界からも、幻想郷からもいなくなった理由と、
青鬼は緊張による顔面蒼白
赤鬼は恥ずかしくて赤面
常時酔いを素面にしたら?
のごちゃ混ぜな感じで。