「ん・・・・、ぅ、」
なんだろう?
心地よい眠りから、急に意識が覚醒する。
奇妙な浮遊感を感じたせいだ。
眠っている時間は、
私、マエリベリー・ハーンが人生で最も至福の時間だと思っているのに・・・
二度寝しよう・・・と思ったけど・・・起きてみようかな・・・
「んぅ・・・、ふぁ〜〜ッ」
目を擦りながら大きな欠伸をする。
パチリと目を開けると、
「・・・・は?」
視界に入ったのは部屋の天井、壁ではなく、
流動し、歪み続ける極彩の暗黒。
私はそこに浮いていた。
上も下も、右も左も判らない。
そして、その暗黒に漂う異様な物体達。
瞼のようなものは、時折開いて、虚空を見据え、閉じる。
腕のようなものは、自分の手首を掴もうと躍起になっている。
時折開く穴は、見覚えのある存在を吐き出しては別の穴に吸い込まれてゆく。
「こ、ここは・・・?」
普通なら、場所を疑問に思うのではなく、自分の状況に驚くだろう。
しかし、私には境界を見る能力がある。
最近は夢の中で境界を行き来する事もできるようになって、色々な場所を探索してるんだけど、
今回のは初めてだ。
いつもなら、上下左右が判る場所に出るというのに・・・
「まぁ、いつもの様に境目を見つけて出れば帰れるよね。」
周囲のオカシナノは危害を加えないようだから気にしなくていいわね
早速周囲を見回す。
「・・・うぇ、なんでこんなにもスキマが多いの!?」
そこらじゅうに切れ目が見える。
さっきから開いたり閉じたりしてる穴もスキマのようだ。
ん〜、ま、どれでもいいか。
あのピンクのスキマにしよう。
「無重力状態っていうよりは・・・水中と同じと考えていいのかしら?」
空間を手で掻くと、体が変な方向に動く。
「あ・・あれ?」
目的地とは違う方向に体が流れていった。
あ・・・この方向にはさっきの手が生えてる・・・
「あ、うわッ、ウワッ!」
止まる事も出来ず、クネクネと動いていた手にぶつかってしまった。
反動で私の体は真下?に落ちる。
「キャッ」
途端に手が枯れて、花が咲く。
長いのか短いのか解らない時間落ちると、急に落下が横滑りになっていた。
「ひぁッ」
空間に開いた目と目が合う。
ぐにゃ、っと目が解けて、奇怪な笑い声が轟く。
「ゲゲッグハハハハハハハッ」
声が消えると、そこには歯車が一個浮いていた。
奇妙で不可解な現象がそこらじゅうで巻き起こる。
「ちょっと、なんなの?
ここはどこなのよ〜!」
今のところ、直接の被害は何も無いが気味が悪い。
今度は目の前にリボンが二つ現れる。
「ぅう〜、今度はなに?」
リボンとリボンの間がパクリと割れて、人が顔を出す。
女の人の顔だ。
あれ?・・・この顔・・・どこかで・・・
「あらあら、誰かと思えば、貴女だったのねぇ」
リボンとリボンのスキマからズルリと体を出すと、そのスキマの上に腰掛ける。
初めて意思の疎通ができる存在が現れた。
「あ・・・あなた、だれ?」
「ではまず、最初の質問に。」
腰掛けたスキマから、扇を取り出し、空間を指す。
「ここはスキマであり、」
今度は目や手を指す。
「結界であり、」
今度は腰掛けたスキマを指す。
「境界であり、」
最後に自らを指す。
「私自信よ。
そして、次の質問ね。
私、八雲 紫と申します。
以後、お見知りおきを、マエリベリー・ハーン」
八雲 紫と名乗った少女はペコリとお辞儀をする。
「あぁ、それと、あの出口は止めた方がいいわよ
元の世界に帰りたいならね。」
扇を開いて口元を隠しクスクスと笑う。
前を言われた。
まだ何も言っていないのに・・・
「どうして私の名前を知ってるの!?
うゎ?」
突然バランスを崩した私を、
傘の柄で引き寄せて体勢を直してくれる。
「それは、私と貴女は、精神的な双子、姉妹、親子のようなものだから。」
私の頬に手を添えて、優しく撫でる。
「え?」
「私は、境界を操れるの。
そして貴女は境界を見れる。」
蓮子にしか教えていない事まで・・・
「それが・・・」
「貴女は一瞬思ったはずよ。
あれ、この顔、どこかで見たような・・・って。
そりゃあ、毎朝みてるものね・・・フフフ」
「な・・・なんで?
どうして私と似てるの?顔が」
「親子は似るものでしょ?
・・・あ、姉妹の方が私としては嬉しいんだけど♪」
意味が解らない・・・
なんなのこの女性・・・とっても胡散臭いし・・・
「ふふ、貴女もここに100年程度住んでれば私みたいな立派なスキマ妖怪になれるわよ?」
「妖怪!?
そんなの嫌よ!」
怒る私を見てコロコロと笑う。
「うふふ、冗談よ。
でも、ここに来るのなら、相方も連れてきたほうがいいわね
まだ未熟なんだから、無理しちゃだめよ?」
・・・蓮子の事も知ってる・・・
「でも、夢の中じゃ一緒にこれない・・・」
「そんなの簡単よ〜」
え!?蓮子と夢の中でも一緒に居られるの?
方法を教えてもらおうと思った瞬間、
ジリリリリッ
空間中に時計のアラームが鳴り響く。
「・・・・あら、そろそろ寝る時間だわ・・」
スキマの中から時計を取り出してそんな事を呟く。
「え?
ちょっと待ってよ」
私の意見を無視して傘の先端で線を引く。
引かれた線が勝手に開く。
「さ、もう帰りなさい。
そろそろ夢も終わるわ。」
体を軽く押されて、スキマに流される。
「蓮子と一緒に、夢で一緒に会う方法は?」
「んー、仕方ないわねぇ」
ゴソゴソと腰掛けているスキマに手を突っ込む。
「コレをあげるわ。
あと、相方がくれた物は大切にしなさい。」
と、私の手に何かを乗せる。
私がそれを握ると、スキマがスーッと閉じてゆく。
「2人で来るのを楽しみに待ってるわ」
「あ、ありが、」
プツッ
△▼△▼△
「ん・・・・、ぅ、」
カーテンの隙間から射す光と、目覚ましの音で意識が覚醒する。
「あ・・さ・・?」
あれ・・・・?
誰かと喋ってたような・・・んぅ?
まぁいいや。
眠い目を擦って、欠伸をする。
「ふぁ・・ぁ・・ん?」
手に何か握っている。
「あ・・・あれ?
これって・・・」
私は、夢の中の出来事を思い出した。
「あ!そうだ、蓮子に連絡しなきゃ。」
△▼△▼△
「今日は5分11秒の遅刻よ、蓮子」
毎度毎度遅れてくる。
まぁ、それが彼女らしいんだけど。
彼女は宇佐見 蓮子。
秘封倶楽部の唯一の部員だ。
待ち合わせ場所は上海紅茶館って名前の喫茶店。
和洋中の組み合わさった妙な雰囲気の店。
「まったく、なんで早めに来るって事をしないのかしら?」
「ごめんごめん、露天商でへんなの見つけちゃってさ〜
メリーに選ばせてあげるから、許してよ、ね?」
テーブルに着くなり紙袋から二つの物を取り出す。
「キーホルダー?」
黒猫と、キツネのキーホルダーだ。
でも、なにかおかしい・・・
「そう、その露天商が胡散臭い女の人でね、とりあえず安かったから買ったんだけど」
カチャリとキーホルダーを持ち上げて
「これ、吊るす為の紐が無いのよ。」
そうか、穴は空いてるけど、紐が通っていない。
・・・・あ、それなら・・・
「騙されたーって思って振り返ったら、店ごと消えてたの。
不思議でしょ〜・・・で、どっちがいい?」
「んー、じゃあ、キツネでいいわ。
蓮子がキツネ持ってたら食べられちゃいそうだしね・・フフフ」
「む、どう言う意味よ?」
「そう言う意味よ・・・それより、私も丁度いいもの持ってるの。」
私はソレを差し出す。
「使って。」
赤い紐を。
「あ、吊るす紐持ってたんだ?
ありがと〜」
2人で黒猫とキツネのキーホルダーに赤い紐を通す。
「これで私は騙されなかったって事になるわね」
2人でクスクスと笑いあう。
「ふふ・・それより、昨日ね変な夢を見たの・・・その紐も、夢の中で貰った物なんだけどね。」
「へぇ、どんな夢だったの?」
秘封倶楽部の活動がようやく開始された。
探す場所は決まってる。
あぁ、今夜が楽しみだ。
△▼△▼△
マヨイガの一部屋。
食卓を囲む1人と2匹。
「紫様、あの人間に渡したのって何だったんですか?」
式神である藍がご飯をよそいながら聞く。
「もぐもぐ、んく、・・あぁ、あれ?
あれは縁を結ぶで有名な赤い糸の改良物よ」
漬物を口に運んでバリバリと音を発てて咀嚼する。
「縁があるから引き寄せるって事ですか・・・」
納得しながら橙の為に焼き魚をほぐして上げる
「ねぇねぇ紫様、私や藍さまの毛はどうしたの?
あ、藍さまありがと〜♪」
橙が嬉しそうにほぐれた身を食べる
「スキマ旅行の御守り代わりよ、ふふふ」
藍はようやく自分の食事を再開した。
「ん〜、厚揚げたっぷりのお味噌汁〜・・・ズズズッ」
目を輝かせ、嬉しそうに味噌汁を啜る。
八雲一家の和やかな団欒。
・・・成長したら2人とも我が家に迎えるってのもいいわねぇ・・・
そんな事を考えながら、食事をする紫だった。
あとがき!
最萌以来の秘封倶楽部です。(ネチョは含みません。
メリーと紫は精神的な親子みたいな存在じゃないかなーと思ってます。
なので、別の存在だけど、似たような能力と。
しかし、今回の紫様はいい人過ぎるナァ
今回も。
マエリベリーと蓮子はけしからん程仲がいいと思います。