「ん〜……、美味しいわね」
紅白の巫女が、縁側でのんびりとお茶を飲んでいた。
「それは美味しいだろうな……、勝利の後のお茶は……」
巫女の独り言に、隣で胡坐をかいて座る白黒の洋服に身を包んだ金髪の少女が皮肉って答える。
「ふふ……、魔理沙、今日も夕飯お願いね」
勝利者は敗北者にいつもの罰を言い渡すと、湯飲みを傾ける。
ここ、幻想郷で勝負といえば、弾幕ごっこだった。
お茶を飲む巫女と、魔理沙と呼ばれた少女はよく弾幕ごっこをして、その日の調理当番を決めている。
力量は五分と五分……なら良いのだが、巫女が七割と優勢なのが現状であった。
「へいへい……、それは良いとして……何人分だ?」
今神社に居るのは、
遊びに来ている白黒の少女――霧雨魔理沙と
神社に住む巫女の博麗 霊夢の二人だけ。
普段なら二人だけだが……
「そうねぇ……、そろそろ帰ってきそうだから三人分でお願い」
と、此処には居ない存在を追加する。
「まったく、いつもフラフラしやがって……、たまにはアイツにも飯を作らせないか?」
此処には居ない誰かに自分の罰を押し付けようとする。
「そうねぇ……、今度料理を教えるのも……」
霊夢は少しだけ思い浮かべてみた。
あの子が料理って……
「……ダメね」
想像するのを即座に中断し、即答する。
「なッなんで?」
驚く魔理沙に簡潔に霊夢が答える。
「食材とか」
あぁ、成る程といった表情をして、魔理沙も同じ言葉を呟いた。
「……食材か」
本当、今頃どこで遊んでるのやら……
霊夢はその少女の顔を思い浮かべながらお茶受けの煎餅に手を伸ばした。
§ § §
ソレはいつものように、ふわふわ、ふよふよと、空を漂っていた。
真っ暗な闇が、ふわふわ、ふよふよと、目的も無く。
時間にして、夕刻。
もう、陽も傾き、差し込む光も弱くなっていた。
「そろそろ日差しも弱いかな?」
闇の中からの呟きと共に、闇がすーっと薄まってゆく。
真っ暗だった闇の中から現れたのは、真っ黒な衣装を纏い、金髪に赤いリボンを結んだの少女――ルーミアだった。
「ん、んぅ……」
赤い夕日が眩しいのか、くしくしと目を擦る。
そして、やっと光に目が慣れたのか、周囲を見渡し驚きの声をあげる。
「……わぁッ」
辺り一面に、花が咲き乱れていた。
数日の間、暗闇の中で過していた為に“花が咲く異変”に今まで気がつかなかったのだ。
「すごい! すご〜い!」
ルーミアは花の群れの中にふわりと舞い降りる。
「きれい……、それに」
傍らの花を摘み取ると、鼻に近づける。
「んー……、良い匂い」
暫くの間ルーミアは、色や形の違う花を摘んではその匂いを楽しんでいた。
「あ、この花の事……、知ってるのかな?」
ふと、あの人の事が頭に浮かんだ。
――博麗 霊夢
偶にご飯をご馳走してくれる、博麗神社の紅白な巫女さん。
「そうだ、霊夢にお土産でも持っていこう」
花は沢山あって、私は冠の作り方を知ってる。
花の事も教えてあげれるし、お土産があれば、霊夢の喜ぶ顔が見れるかも……
うふふ……、うん、そうしようっと
ルーミアはその場にしゃがみ込むと、綺麗で良い匂いのする花を集め始めた。
§ § §
夕暮れの赤い空を背景に進む影。
「ふぅ、そろそろ小町も渡し終えているでしょう」
幻想郷の最高裁判長――閻魔である、四季 映姫・ヤマザナドゥだ
丁度、幻想郷を巡回していた帰り道だった。
巡回の目的は、罪ある者に善行を行うように説く事で、普段忙しく、暇の無い閻魔だが……
サボリ癖のある部下のお陰で、悠々と巡回ができていた。
「うん? あれは……」
見れば、狂い咲く花畑の真ん中で座り込んだ少女はうんうんと唸っていた。
こんなところで一人とは……
少し寄り道しましょうか
「むー、これが……こうで……、こっちが……」
見ると傍らには冠の出来損ないが2つほど
存外に不器用なようだ。
確か……、あの娘は……
罪ある者を見過ごすわけにはいきません。
映姫は、少女の元に降り立った
「ルーミアさん、こんばんは」
「むー……、ん? ……こんばんはー」
しゃがんでいる少女は、気の抜けた声で挨拶を返してくれた。
「花で遊んでいるのですか?」
「ううん、冠を作ってるの……、アレ?」
違和感にようやく気がついたらしい
「……なんで私の名前を知ってるの?」
「それは、私が閻魔だから」
「閻魔様!?」
閻魔と聞いて、ルーミアはビクリと身を震わすと、すかさずお腹を隠す。
「と……とらないで……」
「……それはカミナリ様。 私は閻魔、裁判官よ」
「……そーなのかー、で、なにかようなの?」
本当にわかったのかしら? まぁ、いいでしょう……
単刀直入に話題を切り出す。
「えぇ……、あなたは最近、人間を襲っていますか?」
「うぅん、霊夢に襲うなって言われてるから襲ってないよ?」
やっぱり……
霧の事件の時に調伏されて以来、巫女に近づいていると思っていましたが……
ルーミアを見つめなおすと、いつものとおり説教を始める。
「あなたは少し自分が妖怪であると自覚を持った方が良い」
「む……、私は妖怪だよ?」
「妖怪の本分は、人間を襲うこと。
それなのに、あなたは人を襲わなくなった。
その理由が、巫女に言われたからとは……
巫女はあなたを調伏したのですよ? 悔しくないのですか?
そして極めつけは、その巫女と仲良くなる始末。
それでもあなたは自分が妖怪だと言い張りますか?」
「うぅ……、人間襲うのも楽じゃないし、霊夢は……掃除手伝うとご飯くれるし……」
ふぅむ、完全に巫女に飼いならされているようですね……
「今のあなたの存在には、まるで意味が無い、生きている理由が無い」
理由が無いと言われてルーミアの顔が紅潮するが、続ける。
「そんな事だから、あなたの居場所は無いのですよ?」
居場所が無くなると聞いて、ルーミアの目に怯えの色が差し込む。
「ぇ……、居場所が無い?」
「そうです。 存在する理由が無ければ居場所を追われてしまいます。
理由とは、意味であり、役割でもあります。
従者達は、主人の為に。
主人達は、従者に道を――在り方を示す為に。
とある騒霊は、死んでしまった創造主の魂を慰めるために曲を奏でます。
今ではその目的も忘れていますが、それでも、奏で続けている為に存在を維持しています。
とある妖怪蛍は、蟲達を統率します。
それは、弱い蟲達を守るためでもあるからです。
とある魔法使いは、非力な人間であるのに人外と対峙します。
それは彼女が幻想郷の人間の代表――英雄だから。
そして、博麗の巫女は幻想郷で唯一規律を持ちます。
それ故に規律を守る役割があるのです。
全ての存在には、理由が、意味が、役割が、あるのです。
だから、居場所がある。
しかし、あなたは妖怪なのに人を襲わない。
それは役割を全うしない事でもある。
つまり、居場所は無いという事。
夜の一族として、宵闇を操る者としてのプライドはないのですか?」
「そんな事言われても……、私は周囲を真っ暗にする事しか出来ないし……」
と、うな垂れた後ルーミアが私を上目使いで見つめてくる。
「……どうすればいいの?」
うふふ、話を聞く気はあるようですね……
「あなたは自分自身を知らなさ過ぎる。
良いですか、宵闇――夜とは、全ての幻想と恐怖の始まりなのです。
古来より、人間は夜を恐れ、闇に震えていました。
日が昇り、全てが明るみに出る昼とは違い、未知の世界である夜に、そこに潜むナニカに恐怖したのです。
そして、人間は夜の恐怖を克服するために火を――灯りを手に入れました。
未知なる存在だった闇を灯りによって照らし、恐怖という幻想を討ち払いました。
次第に夜は薄れ、同時に幻想も追いやられ、世界と幻想は次第に分離し、百年ほど前には完全に遮断されてしまいました。
現在、あちらの世界で夜を恐れる人間は居ません。
だから、宵闇であるあなたは幻想郷に居る。
そんなリボンを結ばれて、ここに存在している。
せめてここ幻想郷では妖怪らしくする、もしくは幻想の始まりであり、恐怖の象徴である夜らしくなさい。
それが、あなたが今積める善行なのです」
「……むぅ〜、難しいことを一度に言われても判らないよぉ……」
「ふむ……、では簡単に先ほどの事を言いなおしましょう」
「う、うん」
返事をしながらルーミアは姿勢を正し、正座をする。
あぁ、こんなにも説教してるって気分になるのは初めてかもしれません……
「人間達に自然が如何に大きな存在か、恐ろしい存在か、
そして、自分達が如何に小さな存在か、それを認識させる事、
それが、妖怪の存在理由です。
その警告すら無視する人間には、悪魔が誘惑し堕落させ、破滅へと導くのです。
あなた――夜は、自然の中で最も古い恐怖なのです。
だから妖怪として、夜として自覚を持って、人を恐れさせなさい」
「うぅ……、なんだか難しそう……、でも」
「でも?」
俯いたルーミアの顔を覗き込む。
「居場所が無いままは……嫌……、嫌だけど……私にはチカラなんて無いよ?」
……うん、素直で良い子です
「なに、簡単なことです。 そのリボンを取ってしまえばいいのです」
§ § §
閻魔さまが、私の頭を指差す。
「ぇ……、なんでリボンなの? それに私じゃこのリボンに触れないよ?」
おかげで髪を洗うのも苦労するんだから
「それは当然です。 封印の御札なのだから」
封印……? どうして私が封印されてるの?
「でも大丈夫です。 今回は私が善行を積めるように手伝ってあげます」
柔和な笑みを湛えて、映姫はルーミアに近寄り、手を伸ばす。
ぅう、手伝うって……なにするんだろ?
「少しじっとしてて下さい」
緊張するルーミアに、映姫は優しい声を掛け、その頭上のリボンに手を伸ばす。
一瞬、バチッと何かが爆ぜる音がする。
「ひッ……」
私は思わず後ずさりする。
「こら、動いてはいけません」
「ぅう……、バチってするのイヤだもん……」
「む……、ならば……」
閻魔さまが私に迫る。
「ひゃうッ!?」
映姫の手が頬に触れた拍子に、ルーミアはビクっと身を竦ませてしまう。
怯えるルーミアを柔和な笑みで諭す。
「大丈夫……、怖がらないで……」
あ……頬に添えられた手が、暖かい……
ルーミアを落ち着かせた映姫は、再度リボンへ手を伸ばす。
バチッ、バチチッと火花が飛び散る。
「ひぅ……」
閻魔さま、私のリボンに触れてる……、すごい……
あの火花、痛いのに……
「ふむ……、封印の要であるリボンを保護する結界ですか……」
「……リボン、外せない?」
「結界とは編み物のようなものです。編目に適した解き方をすれば簡単に解けますが、それは専門家でないと難しいでしょう」
「あぅ……」
「大丈夫です。 編目を解けないのならそれ以上の力で破ってしまえばいいのです。 少し荒っぽいですが、それで解除が可能です」
映姫はルーミアの頬に添えた手をそのままに、傍らにしゃがみこむ。
「では、始めます」
もう一度、リボンに触れると結界を壊すためにチカラを流し込む。
バチッ、バチバチッと、小さな花火が連続して発生する。
封印に掛かっている結界がその効力を発揮し、解除しようとするチカラを拒絶しているからだ。
「うぁッ、ひッ……、ぁぅぅ……」
別に、私に火花が飛んで痛い訳でもないのに、思わず声が出てしまう
やっぱりヤだよぉ……
「そんなに怯えなくても大丈夫……、怖くないから……、怖くない……」
「ぁ……、う、うん……」
頬を撫でられて、幾らか安堵する。
バチバチという音にも慣れてきたけど……
「……閻魔さまの手は、大丈夫なの?」
以前、私もリボンを取ろうと思って触ったけど、すっごく痛かったもん……
心配する私を見て、目を白黒させたあと、にっこりと笑って答えてくれる
「えぇ、大丈夫よ……、もうすぐ、リボンの結界を外せます」
一際大きな火花が爆ぜて、バチバチという音は消えた。
あ……、なんだか、体が軽い感じがする……
「……ふぅ、後はリボンを、掛けられている封印と一緒に外してしまえば完了です」
「まだ取れてないの?」
「えぇ、ドアの鍵を外したようなものです。 次はそのドアを開けます」
そういうと、先ほどとは違って、いとも簡単に私のリボンを解いて見せた。
「ぁ……」
解けたリボンはボロボロと崩れ去ってしまった。
「はい、お終い」
映姫はルーミアに見つからないように、火傷を負った手を隠す。
「あ、ありが……ぅッ……、ぅあ……?」
突然、全身に激痛が走る
くるしい……、よぉ……、それに、体が熱い……
ドクン、心臓が高鳴る
「ぁぐッ……、うぅうぅぅ……」
体がギシギシと悲鳴をあげ、座っているのも辛くなり、体を掻き抱いてその場で横に寝転がる
「な……、んで……?」
体の中で、ナニカが暴れてる……
「今まで抑圧されていたモノが戻ろうとしているのです」
もう一度、ドクンと心臓が高鳴る
「ほら、その影響が……」
周囲がどんどん暗くなってゆく。
沈みかけた太陽のカタチがはっきりと肉眼で確認出来るほどに。
世界は、夜へと加速していった。
「よ、る……に?」
な、なんで?
「そう、あなたが居るだけで夜になる。 チカラだけじゃない、ほら、あなた自身も昔の姿に戻ろうとしている……」
閻魔さまが、私の肩に手を伸ばす
「ほら……」
その手が掴んでいたのは、長く伸びた私の金髪。
「ぁ……、あぁ……」
「……綺麗な髪ね……、ほら、髪だけでなく、体も……そして記憶も戻るでしょう」
ギシギシと悲鳴をあげていたのは、体の急成長の為だった。
「ぁぅう……」
全身に絶え間ない激痛が走る。
胸が……、苦しい、よぉ……
「服が、小さく感じるのでは無いですか? うふふ……」
伸びようとする手足が痛い。
膨らんできた胸が痛い。
全身が、痛い。
「ぁぅう……、ぅううッ、くぅ……」
周囲の花を潰しながら、苦しむ私の頬を優しく撫でながら、閻魔さまが呟く。
「最後まで見届けたかったですが……流石に小町も仕事をしているでしょう」
「ぅ……、え?」
すっくと映姫が立ち上がる。
「しっかりと善行を積むのですよ」
そういい残すと、映姫はルーミアを残して花畑から飛び上がる。
「ぁ……ッ、まって……、くぅッ」
呼び止めるが、既に映姫は去った後だった。
「ぅう、これからどうしよぉ……」
善行を積むって……どうすればいいか判らないよ……
目をぎゅっと瞑ると、閻魔さまの言葉が甦る。
『人を恐れさせなさい』
恐れ……、させる……?
「ッ!?」
ドクン、と三度目の高鳴りがした。
「ぅあ……ッ、くぁあぁああァッ!?」
体の中から勝手にチカラが溢れ出した。
「くぅうううッ、抑え……きれなぃ……ッ、うぁッ」
背中から闇が噴き出し、翼のように拡がり、更に夜が深く濃くなっていく
「く……ぅ……」
全身の痛みに花畑を転がり、ルーミアはようやく空を見た。
「ぁッ……」
それを見て、驚きと共に目を見開く
夜空に煌く星が――消えた。
§ § §
焼け爛れた手に治癒の術を施しながら、映姫は呟く。
「あのリボンの結界……」
神の一員である私が、文字通り手を焼くほどの結界。
それ程協力で堅固な術を施せるのは数えるほどしか居ない。
私と同じ位に立つ――魔界の神
永遠の民であり、献身的な天才――月の頭脳
永き時を生き、強大な力を得た――花の大妖
境界に立ち、幻想郷の規律を正す――博麗の巫女
幻想郷の境に住み、最も幻想郷を愛する――神隠しの主犯
私の知る限るでは彼女達だけだろう。
ほかにも、帰ってきた鬼と鴉天狗が候補に居るが、彼女達は封印なんて事はしないだろう。
結界に触れた時に感じた。
とても古く、術も荒い物であったが、確かにあれは……
「……彼女の仕業だというのかしら?」
それならば問い詰めなければならない。
「妖怪としての本分を奪うような事をするのなら……、それは裁かなければならないけど……」
でも、今日の巡回予定時間は終了しているし、残してきた部下が気にかかる。
その部下の性格、行動は熟知している。
「今頃小町は……」
想像して溜息を吐く。
どうせフラフラ遊んでいるだろう。
「……また今度にしましょう。今日は小町に説教ですね」
その時、ふっと周囲が暗くなる。
ざっと周囲を見わたしてその変化に気づく。
「ふむ、星が消えましたね……」
予想通り、相当な妖力を封じられていたらしい。
ふと、リボンの結ばれていた時のルーミアの笑顔が頭によぎる。
他の者もあの子くらい素直だったら良いのですけど……
「……あの子なら、一人でもちゃんと役割を全うし善行を積んでくれるでしょう」
気を取り直した映姫は彼岸へ帰ってゆくのだった。
§ § §
夕日に赤く照らされる博麗神社
花の異変から、未だに咲き続けている紫色の桜。
夕飯の準備を魔理沙に任せて、霊夢は境内に出てその桜が散らす花びらを掃除していた。
「もぅ、掃いても掃いてもキリが無いわね……」
こんな時、あの娘――ルーミアが居てくれれば手伝って貰えて楽なのに……
霧の事件の夜に偶然出会った少女。
宵闇を操り、いつも周囲を夜にしている妖怪少女。
「……そういえば、家に来るようになったのはいつからだっけ……」
ふと、思い出してみる。
「ん……」
先日の花の事件……は、いくらなんでも違うわ。
じゃあ、満月の夜の肝試し……は、帰ったら月見だんごを一人で半分以上食べてたっけ
それなら、欠けた満月の夜? ……あの時よりもっと前……
紫とその式と戦った時……これも違う。
「そうか、あの事件の時ね……」
春を奪われて冬が長引いた時
そうそう、丁度寝ようとした時に外から妙な音がしたのよね……
掃除の手を休め鳥居にもたれかかると、その時の事を回想する……
あれは、深々と雪が降り積もる夜だったっけ……
Ж Ж Ж
「ぅー、寒い寒い……」
まったく、どうして四月だってのに、雪が積もってるの?
暖かくなる気配すら無いなんて……
誰かが冬を引き伸ばしてるのかしら?
一人ブツブツと文句を言いながら、寝床に向かおうとすると
ぐ〜〜〜ッと妙な音が聞こえる。
「……なんの音かしら?」
庭の方ね……
寒い寒いと文句を言いながら庭に出てみると、誰かが倒れていた。
「もう……、寝るなら他の場所で寝てよね……」
雪の上で寝るなんて、冷たくないのかしら?
しかし、どこかで見たような……
ぐぅ〜〜ッ
倒れている少女から、妙な音が鳴った
「……ぅう、おなかすいたぁ……」
倒れた少女が顔をあげる。
「……あぁ、あんた、あの時の妖怪ね? 確か……ルーミアだっけ?」
「うん……、……どうしよう……」
そんな目で私を見上げても……
それに、どうしようって……どう言う意味よ?
「いつもの『ご飯』はどうしたのよ?」
妖怪なんだから、人間を襲えばいいのに……
「言われたとおり人間、襲ってないもん……」
……言われたとおり? ……そういえば撃墜した後に
『これに懲りたら、二度と人は襲わないこと! 良いわね?』
って言ったような……、で、それをこの子は今まで守ってきたの?
目の前で雪に埋もれるルーミアを見つめる。
「はぅ〜……、力が出ないよぉ……」
むぅ……
つまり、この異常な冬のせいで、食べ物が取れない。
でも、人間を襲うなって言ったから……人も襲えない。
それでそんな命令をした私のところに『どうしよう』って助けを求めに来たと……
流石にこのまま放置は罪悪感があるわね……
「ねぇ、ルーミア」
「ぅ〜?」
気の抜けた声が返ってくる。
「……夕飯の残り物で良いなら……食べる?」
「……うん!」
部屋に上げてご飯を用意すると、ルーミアは「ありがとう、ありがとう」って泣きながら食べてたっけ……
その数日後だったかしら?
「あら、ルーミアじゃない……、どうしたの?」
掃除を途中でやめて、縁側でお茶を飲んでると突然やってきたと思ったら、恥ずかしそうに俯いて言ったっけ……
「……その、何か手伝えることって……、無い?」
Ж Ж Ж
「うふふ……」
思い出したらなんだか笑みがこぼれた。
そう……、あの日から、掃除を手伝ってくれるようになったっけ……
律儀に約束を守って、さらにご飯の恩まで感じちゃって……
「……まったく……」
素直というか、単純というか……
もしかして、自分が妖怪だって忘れてたりして……
そんな事を想像して、もう一度クスクスと笑ってしまった。
その時、夕日の赤がすっと引いた。
「……あら? 急に暗く……」
まるでナニカに掠め取られたかのように、その赤色は掻き消えて、暗い夜の黒色だけが残った。
「いつもの――普通の夜とは、……違うみたいね……」
暗くなった瞬間に、異質な感じがした。
微かな妖気を感じ取った。
いつもなら、異変が明確になってから動く霊夢だったが、この日は違った。
「大事になる前に済ませようかしら……」
……うん、そうしよう
境内の掃除を中断し、霊夢は母屋に向かうことに決めた。
魔理沙に晩御飯の準備を中断させるために。
§ § §
紅白の巫女と、白黒の魔法使いが、星々の瞬きが美しい、幻想郷の夜空を駆け抜ける。
「で、なにがどうおかしいんだ?」
白黒の魔法使い――霧雨 魔理沙にとって、この日の夜は普段と変わらない、いつもどおりの夜だった。
ただ、早すぎる夜ではあったが。
「魔理沙は判らないの? ほら、どんどん濃くなってきてる……」
紅白の巫女――博麗 霊夢は十分な説明も無しに、魔理沙を連れ出したようだった。
「大気中――であってるかは判らないけど、とにかく、この夜は微量の妖気を含んでいるのよ」
「そうか……、それで、方角はあってるんだろうな?」
「えぇ、どんどん妖気の濃い方向へ飛んでるから……、むッ!?」
飛んでいる二人に向かって、突風のような妖気が突然吹き抜ける。
「ぅお? 妖気の……波?」
今までとは異なり、誰もが感じるほどの妖気を含んだ夜が、最も濃い方角から満ちてゆく。
それと共に夜が更に暗くなる
しかし、なぜこんなにも暗くなる?
明らかに何かがオカシイ。
魔理沙は注意深く周囲を見わたし、気がついた。
「……お、おい霊夢、見てみろッ」
魔理沙の指が空を示す。
「あ……ッ、星が……!?」
夜空を飾っていた星々が、消えていた
夜に降り注ぐ光は、強弱の違いはあるがどれも妖怪にとって必要だ。
特に、月は重要で、満月が少しでも欠ければ大事件になってしまう。
事実、夜を止め、妖怪と人間が協力してまで事件を解決した。
今はまだ星だけだが……
「おいおい、これは……、とんでもない異変になりそうだぜ……」
「えぇ、急ぐわよ魔理沙、妖気も段違いに濃くなってる……、うん、近い証拠よ!」
§ § §
やっと痛みが退いた……
「ふぅ……」
夜の黒色に良く映える長い金色の髪が乱れ咲く花の上に散らばっている。
大人の姿へと変化し、翼まで作り出した少女は、花の中で大の字になって夜空を見ていた。
「星が……消えちゃった……」
閻魔さまが言うには、理由、役割が無いから、私には居場所も無い。
私の理由、役割は怖がらせる事らしいけど……、どんな事をすれば人が怖がるんだろう?
私の中から勝手に溢れ出たチカラが星を隠してしまった。
でも、そんなのはいつもやってる事と一緒。
自分の周囲を闇で覆うという、いつもの行為。
闇を展開すれば光は遮られて真っ暗になる。
違うのは、その規模と、周囲全ての事が判るようになった事。
リボンを外してもらっても、その程度の違いしかない……
でも……、何もしてないよりはマシかなぁ
閻魔さまも、暗いと怖がるって言ってた気がするし。
生きている理由――役割をやっていれば、居場所は在るみたいだし……
でも……、私の役割で得られる居場所って……なんだろ?
少し考えようと思って上体を起こすと、
「やっと見つけたわ!」
知っている声が聞こえた。
「うん? ……わわッ!?」
うん、二人がこっちに向かって来てたのは知ってるから、その事には驚かない。
驚いたのは、現れた人物。
「霊夢に……魔理沙?」
なんで二人が……
箒から降りると、魔理沙が私を睨み付ける。
うぅ、こんなに怖い魔理沙は初めて見たかも……
「……この異変の元凶はお前だな?」
異変って……、もしかしなくても、星が消えたことだよね……
「ぁ……、その、これは……」
口元に手を当てて、一歩後ずさる
どうしよう、どうしよう
いつも通りに、闇を発生させましたって言えば許してくれるかな?
怒っているらしい二人への言い訳を考えていると、霊夢が口を開く。
「紅い霧が発生したのは、日の光を遮る為。
春が奪われたのは、桜の下に埋まった死体を黄泉還らせる為。
宴会が頻発したのは、鬼を呼び戻す為。
満月が欠けたのは、月と地上を隔離する為。
花が咲き乱れたのは、六十年に一度外の世界で大量の死者が出る為。
そして今、星が隠れている……、一体何の為に?
ちゃんと理由を答えてもらうわよ……『ルーミア』」
「そうだ、ちゃんと答えてもらうぜ……って、ルーミアだって!?」
魔理沙が大げさに驚く。
「もう、魔理沙ったら煩いわよ?」
「ほ……本当か?」
私はコクリと頷いて返事をする。
「う、うん、私ルーミアだけど……」
「嘘だー!」
「本人がルーミアだって言ってるでしょ? 信じなさいよ」
「だ、だって……、ルーミアって言ったら髪は肩までで、幼い感じだろ?
それが髪はロングでしかも、こんな……、お、大人な体になって……」
魔理沙は私を指差して前と今との姿の違いを指摘する。
「はぁ……、それがどうしたって言うの?」
「どうかするだろ! それに、なんでお前はすぐに判るんだ?」
「急に暗くなったから、ルーミアの仕業かなって」
「ぐ……、いつもの勘か」
「まぁ、そんな事はどうでも良いのよ」
魔理沙との話を一方的に終わらせると、霊夢は私を睨み付ける
「さぁ、どうして星を隠したの? このままでは月まで隠れてしまう勢いよ?」
「どうしてって言われても……、閻魔さまに言われたから……」
「閻魔って言えばあいつか」
ありゃ、閻魔さまで驚くと思ったのに、もしかして二人とも知り合いだったのかな?
「そうね、あいつ――四季映姫ね……」
霊夢が私の顔をジロジロと見てくる。
うぅ、そんな怖い目で見ないでよ……
「そういえばリボンが無いわね?」
「って、それは気にするのか……」
「あのリボンどうしたの? 見た感じあのリボンは御札のように見えたけど……」
「取ってもらったの、閻魔さまに。 そうしたら髪が伸びたのよ」
それを聞いて、霊夢は小さく呟く。
「……やっぱり、封印だったのね……」
「ふむ……、それで閻魔には何を言われたんだ?」
「うん、それでね、私には理由が無いから、妖怪としての役割をやれって
役割は理由になって、理由があれば、居場所が在るって」
「なんだ、そんな事で星を隠したのか」
動機を聞いた魔理沙は呆れてしまう。
しかし、ルーミアは違った。
え……、『そんなこと』?
心に針が刺さったような痛みを感じた。
そんなルーミアの心境などわかるはずもなく、魔理沙が続ける。
「それなら早く星を元に戻せ、まったく意味の無い事をしやがって……」
ちょっと……、まってよ魔理沙……
『意味の無い事』って言ったの?
私の理由、役割が……、意味の無い事、なの?
「魔理沙……、……ヒドイよ……」
拳をぎゅっと握る。
「あー、何が酷いって言うんだ? 私はなぁ――」
魔理沙の言葉を遮り、ルーミアは叫ぶ
「魔理沙は、自分には理由が――役割があるからって!」
叫びと共に、ルーミアの背後の翼から夜よりも暗くて黒い、闇の塊が噴出して巨大な黒い翼を形成する。
翼が広がると、周囲に黒い妖気の波動が吹き荒れ、咲き乱れる花が放射状に倒れてゆく。
「うぉッ?」
放出されたルーミアの妖気が、暗い夜を更に、深く、濃くする。
この暗い夜で唯一の光源である月すらも、微弱なものになってしまった。
「ッ!? ちょっとルーミア! 止めなさい! このままじゃ、月も……」
れ……霊夢も、魔理沙の味方をするの?
そうだった、霊夢も役割があるんだ……
二人して、私を……、意味が無いって言われた私を笑う気なんだ!
「もう……、霊夢も、魔理沙も知らないッ! 帰ってよ!」
「な、何突然キレてんだ!? 落ち着けよ!」
魔理沙が何か言ってるけどシラナイ!
「ルーミア!」
霊夢が呼ぶけどシラナイ!
「煩い煩い!」
ぶんぶんと頭を振って、二人の声をかき消し、花畑から少しだけ浮かび上がる。
胸の前で両の拳をぎゅっと握り締め、ルーミアは二人に叫ぶ。
「私は居場所が欲しいだけなの! 私にだって役割が――存在する理由が、意味があるって証明するんだから!」
長い金髪がふわりと浮き上がり、黒く暗い夜に美しく煌めく。
爆発的にルーミアの妖気が膨れ上がり、闇の両翼が膨張しながら左右に展開する。
翼の膨張に比例して、夜空が更に深く、黒く、暗くなってゆく。
「翼は大きくなるし、夜はどんどん暗くなる……霊夢、これは……やばくないか?」
魔理沙はスカートの中に手を入れて、五芒星の刻まれた魔法の宝玉を四つ取り出し、周囲に浮かべる。
弾幕ごっこに引きずり込んででも、ルーミアの行動を阻止するつもりだ。
「えぇ、本当に。 月が隠れてしまうわ……」
霊夢はどこからとも無く御札を取り出す。
彼女の視界にある月は今にも消えそうだった。
「だから……、だから……」
ルーミアが二人を睨み付け、胸の前で握っていた両手を振り下ろす。
「邪魔しないでよッ!」
叫びと共に、巨大化した闇の両翼が二人に向けて殺到する。
ルーミアの放った攻撃の規模に、二人は一瞬だけ呆気に取られる。
それもそのはず、二人の視界殆どが漆黒の翼で覆われているのだ。
呆気に取られながらも、戦いなれた二人は反射的に行動していた。
「ちぃッ」
魔理沙は周囲に浮かべた宝玉からレーザーを照射し、自らも八卦炉を取り出す。
起動させる術式は――恋符
記された回路――式に魔力が流れ、術を起動させる。
術式の効果は増幅。
恋符を通して複雑な工程を一瞬で済ませ、増幅された莫大な魔力が八卦炉に蓄積されてゆく。
「動いたから、撃つぜ!」
恋の魔砲――マスタースパークが放たれる。
先に放たれた四条の光は、ルーミアに到達する事無く闇にかき消されてしまった。
しかし、八卦炉から放たれた膨大な魔力の奔流は大気すら激震させて、雪崩来る漆黒の闇に突き刺さる
眩い極光は暗闇の巨翼を散らし、押し返しながらルーミアへと迫る。
「いっけぇえええッ」
しかし、光は消え行く運命にあった。
散ったはずの闇は再び集まり、極光を放っている魔理沙を本体へ迫る。
「ッ、しまっ……ッ」
迫る漆黒に気がついた瞬間、魔理沙は極光と共に飲み込まれた。
「魔理沙ッ!」
巨大な闇の片翼が雪崩のように霊夢に押し寄せる。
「これで……、どう?」
数枚の御札で結界を展開するが……
「そんなッ!?」
霊夢も、魔理沙と同じように闇に飲み込まれた。
§ § §
「くぅ……、避けれなかった……」
魔理沙はすぐさま全身をチェックし、状況を確認する。
「被害は……無し、か……」
ルーミアの奴、いきなり何しやがるんだ!
まったく……、落ち着いてもう一度考え直せばどれ程意味が無いかわかるだろうに……
「しかし、真っ暗で何も見えないな……」
完全に闇で周囲を覆われてしまった。
もしかして、あいつ……私達を闇に閉じ込めて足止めしてる間に逃げるつもりか?
霊夢の居たはずの方向に声を掛ける。
「おい、霊夢?」
漆黒の闇から返事が返ってくる。
「魔理沙、無事なの?」
「あぁ、まったく周囲が見えないって事意外は無事だぜ」
ゴキ……、ベキ……
うん、何か変な音が……?
「ぅ……」
ゴリ……、ブチッ
「なぁ、変な音がしないか?」
何かを引き千切るような、そんな音。
「……」
「……おい、霊夢?」
返事が無いな……
ブチィ、ブシュ
声のした方向の気配を魔力で探る。
…………うん、居た。
「なんだ、近いじゃないか」
数歩近寄ると、赤いスカートが見える。
なんだ、座っているのか?
ピチャ……、ピチャ……
さらに近寄るとパシャ、と変な音がした。
「……ん?」
足元を見ると、赤い水溜り。
「うふふ……」
「魔理沙、どこなの?」
霊夢とは違う声がクスクスと微笑する。
「だ、誰だ?」
潮が引くように、闇がすッと引いてほんの少し視界が明るくなる。
魔理沙の目に飛び込んだのは――
「ぁ――、ぁあ……」
「んふふ」
暗闇に浮かぶのは――霊夢の体に抱きつくルーミアの姿。
ルーミアは霊夢の首筋に、ピチャピチャと舌を這わせながら、魔理沙を見て微笑んでいた。
「ぁあぁ……」
そのおぞましい光景に、体がガタガタと震える。
ただ抱きついて、舌を這わせているのとは違うのだ。
ピチャ……、ピチャ……
大事なモノが無いのだ。
ルーミアの舌が這う首に、通常ならあるはずのモノが、そこに無いのだ。
霊夢の首から上にあるはずのモノは――
力なく投げ出された巫女の腕の傍らに捨ててあった。
美しい黒髪は乱れてはいたが、その表情は眠っているように安らかだった。
「そんな……」
乱暴に手折られた紅白の首は、その部分から赤い液体が止め処なく漏らしていた。
そんな、
霊夢が、霊夢がッ
誰よりも強く、死とは最もかけ離れた存在のあいつが……
こんなことに――ッ
一体、どうして、なぜ?
お前は……、ルーミアは霊夢を気に入ってたんじゃないのか?
なあ?
私の狼狽などお構い無しに、ルーミアは首筋を伝う赤い液体を舌で掬っては嚥下していた。
ゴクリと動く真っ白な喉
「んくッ……、ふふ……、おいしい……」
扇情的な赤い瞳が私を見つめる。
「うわぁあああああああッ」
絶叫した魔理沙は、周囲に浮かんだ四つの宝玉全てを起動させる。
瞬きと共に発生し一瞬で到達した光の帯は、密着している霊夢ごと簡単にルーミアを貫く。
「きゃッ!」
撃たれたルーミアは、抱いていた霊夢から離れて魔理沙と距離を取る
支えを失った霊夢はその場に倒れる。
それと同時に、ぼとりと何かが落ちる。
「……腕が取れちゃった」
そう言ったルーミアの両腕は健在だった。
ぼとりと落ちたのは、白い袖のついた腕。
「あぁッ……、ち、違う……わざとじゃ……無いんだ……」
動揺した魔理沙は霊夢に言い訳をする。
返事をする事ができないのに……
「魔理沙って酷いね……、ふふ……」
ルーミアの体は四条の光が穿った部分から漆黒の霧状へと変化させ、その姿を闇に同化させてゆく。
目と口だけを残して。
黒い空間に浮かぶ、赤い瞳が私を見つめ、赤い口がニィっと笑う。
「――ッ!」
恐怖に顔が引きつるのが判る。
私の顔がそんなに面白かったのか、クスクスと笑う声が耳にこだまする。
「ひッ」
私は一目散に、その場から逃げ出した。
逃げないと、早く、早くッ
暗い闇の中をがむしゃらに走る。
心臓が早鐘を打つ。
「ハァ、ハァ……ッ、くぁッ、ハァ」
それでも手足を動かし続ける。
ダメだ、このまま此処にいては
そう、本能が告げていた。
「うふふ……」
クスクスと笑い声が聞こえる。
あの赤い瞳も、声と共に魔理沙を追ってくる。
「うふふ……」「うふふ……」
笑い声がどんどん増えてゆく。
空耳だと思いたい。
耳に侵入する声を振り払うために頭を左右に振る。
「うぅッ、ぁ、ハッ、ハッ」
魔理沙は声から逃げるように走る。
逃げ場所なんかどこにも無いというのを感じ取っていながら
それでも、心の奥底から湧き上がる恐怖心のは抗えず、かといって受け入れる事なんかできるはずもなく
助けを求めて走り続ける。
どれだけ走り続けただろう?
心臓は今にも破裂しそうで、体は酸素が足りないと叫んでいる。
それでも私は走り続けた。
足元すら見えない闇の中を。
§ § §
「ハァッ、ハァッ、……あッ!?」
突然、何かに足を取られて体が宙に浮く。
暗い事が災いし、何かにつまずいたようだ。
「ぐぁッ……」
その場で無様にも転がってしまう。
「くそう、何が……?」
体が確認をするなと命令する。
確認してしまえば、また――
が、どんな力をもってしても魅の魔力には勝てない。
それが探求を生きがいとする魔法使いならば尚更だ。
私の脳は、ソレを確認し知的欲求を満たそうと体に命令を下す。
私の体――視線は命令通りに足元のソレに向けられる。
私の視界に……、ソレが映し出される。
「……――ッ!!!」
思わず後ずさる。
そこには、やはり、あった。
先ほどの霊夢に無かったモノ
血の気の引いた、千切り取られた霊夢の首。
「あ……、ぁあ……ッ、ああぁあぁぁぁぁああッ」
なんでッ
なんで……『此処にある』んだ!?
私は走り続けた筈なのにッ
「うふふ……」「あはは……」「クスクス……」
いつの間にか、あの笑い声にも追いつかれていた。
闇に浮かぶ、無数の赤い瞳が私を取り囲む。
「クスクス……」「戻ってきた……」「あはは……」「一回り……」
煩い煩い煩い煩いッ!
見るな見るな見るな見るなぁああッ!
魔理沙の心の声に反応するように、口と目は無数に増えてゆく。
「うぁあぁぁぁぁああッ」
恐怖に駆られ、乱暴に立ち上がると魔理沙はスペルカードを取り出す。
起動させる術式は――魔符。
記された回路――式に魔力が流れ、術を起動させる。
霧雨家に伝わる星の術式。
「スターダストレヴァリエ!」
膨大な量の星屑が万華鏡のように広がる。
密度を高める為に、魔理沙の周囲を旋回する宝玉からも星屑は放たれる。
しかし、世界の星を消すほどの闇夜の中では、創られた星は長く存在できる筈がなかった。
それでも星屑は、口と目を道連れにしてその数を減らしていった。
§ § §
周囲には、赤い瞳も笑い出す口も、創られた星も無かった。
「ハァ……、ハァ……」
スペルカードはその効果時間を終えていた。
予め複雑な術式を回路として記しておく事で、
魔力を流して起動させるだけで複雑な術を簡単に行使可能にするスペルカードだが、
その為に消耗は大きく、効果時間も決まっている。
疲れきった魔理沙はその場にペタリと座り込む。
「……ははッ、あははははッ、やった……、やったぜ……」
これでもう出てこないだろう……
しかし、この後はどうする?
一旦退いて、戦力の建て直し……
それとも……、他の奴らに協力を……
「……いや、まずは此処から出られるかどうか……ひッ!?」
この最悪な状況をどうしようかと思案していると、真っ黒な何かに突然足を掴まれる。
「は、放せぇええッ」
ギリギリと足を掴む黒い手から逃れようと、黒い手を必死に蹴ってもがく。
「その手……、蹴っていいの?」
背後から突然声が聞こえた。
この声は……
「ッ!? ルーミアかッ」
掴んでいる手を蹴りながら、魔理沙は首を逸らし、背後を見る。
「うふふ……」
リボンが解け、髪の伸びた大人の姿のルーミアが立っていた。
「――ッ」
魔理沙の目が大きく見開き、蹴っていた足が止まる。
ルーミアの変貌した姿を見るのはこれで2度目、驚くことは何も無い。
驚いたのは、その胸に大事そうに抱えた霊夢の首。
「ぁ……ああぁ……」
ギリギリと、足を掴む手に力が篭められ、ぐぃっと引っ張られる
「まさか……、まさか……」
必死に地面に爪を立てて体を支える。
この、私を引っ張る手の持ち主は……
「ふふ……、頑張って……」
ルーミアのその言葉はどちらに言ったのだろうか?
掴んでいる手に力が入り、私は引きずられないように耐える。
ぐぃッ、
ズル……
ナニカを引きずる音。
ぐぃッ、ズル……
少しずつ、少しずつ、音が近寄ってくる。
ぐぃッ、ズル……
「ひいぃッ」
怖くなって後ずさるが、すぐに遮られる。
「逃げちゃ……、ダメだよ?」
後ろにルーミアが居るのを忘れていた。
しゃがんだルーミアに肩を押さえつけられる。
「ッひ……」
闇の中から 赤く汚れた白い袖が見える。
「ぁ……ぁぁあッ、登ってくる……」
「撃たれたのを怒ってるのかも、それとも顔を蹴られた事かな? ……ふふ……」
ズル……、ズル……
首の無い霊夢の体が闇の中から這い出てきた。
「ぁ……あぁ、あッ」
霊夢の体は、私の足に這い上がると、肘から先の無い腕で私を押さえつける。
「や……、やめ……てッ……」
私の首に、赤く汚れた手が伸びる……
「うわぁあぁぁぁあぁああぁぁぁあッ」
§ § §
「ふぅ……、なんとも無いみたいね……」
真っ黒な世界で巫女が呟く。
魔理沙と共に、彼女――博麗 霊夢も闇の翼に飲み込まれた。
魔理沙がスペルカードで応戦した時、霊夢も即座に結界を張り巡らせた。
即席の簡易型なので耐久性は劣るが、次の一手の為に貴重な時間を稼ぐためのモノだった。
しかし結果はこのとおり。
黒い翼は結界を通り抜け霊夢を直撃した。
「結界が役に立たなかった……」
ポツリと、事実を呟き再確認する。
瞬時に張り巡らした結界は、防御用結界。
弾幕だろうが、拳骨だろうが、斬撃だろうが、攻撃であればそれを防ごうと力を発揮する結界だ。
結界で防ぎきれない場合、結界は破壊される。
しかし今回、結界はまったくの無傷。
「なんの手応えも無かったのよね……攻撃じゃなかったって事かしら?」
うーん、と唸ってみたが判らない事を悩んでも仕方が無い。
翼の直撃を食らって何も無かったのを考えると単なる威嚇行為だったのかもしれない。
それならば攻撃じゃないので結界が作動しなくても問題ない。
「そういう事にしときましょう。……それより、魔理沙を探さないと……」
ふむ、と思案する。
「なんの衝撃もなかったから、魔理沙が吹き飛んでいたり、私が吹き飛ばされたという事は無いわね」
それならばすぐ近くに居るだろう。
キョロキョロと辺りを見回すが、何も見えない。
暗いというより、黒いと言った方が正しいかもしれない。
自分の手ですら間近でなければ見るのは難しかった。
「やけに暗いわね……」
幾ら夜だからってここまで光が無くなるというのは珍しい。
珍しいというよりも不自然だ。
先ほどまでは月が出ていた。
しかし、今はどうだろう?
新月の夜でもここまで暗くない。
「つまり、さっきの闇の翼はこの暗い空間を創る為と見て間違い無さそうね……」
霊夢はしゃがみ込んで地面に手を当てる。
幻想と現実の境界にある博麗神社。
その神社の巫女である霊夢は、封印、結界の類の専門である。
もし、今居る場所が創られた空間、つまり、結界の内側ならば、彼女が触れれば
空間が揺らぐ、綻びが現れる、結界が砕けるなど、何かしら反応があるはずだ。
「ん……」
暫くすると立ち上がって難しい顔をする。
「……空間を創りだしたって訳でもないようね……」
考え込んでいると、背筋がゾクリとする。
「……何かしら?」
寒気がする時は『そういうモノ』が居るっていうのが相場なんだけど……
きょろきょろと、暗闇を見わたす。
妖怪達に鳥目とバカにされるほど夜目が利かない霊夢だが、『ソレ』を視る目は優れていた。
伊達や酔狂で巫女はやっていないという事だ。
「……霊の類は視当らないけど……」
うーん……、それ以外だと……、寒い時。
でも、寒ければゾクリではなくガタガタと震えるだろうし、魔理沙が厚着をして来るはず。
今日の魔理沙は普段どおりの黒い洋服に白いエプロンという格好だった。
それに、ルーミアは術で寒くする手段を持たない。
「という事は……、恐怖かしら?」
人は恐れを感じた時、『ゾクリ』と寒気を感じるものだ。
そして、恐怖だけならなんの気配も感じない。
「うーん……、でも私は怖いなんて思ってないし……」
しかし、頭と体は別なようで、先ほどからゾクリ、ゾクリと意味不明な寒気がする。
「今の状況だって、ただ普段よりも暗い夜ってだけじゃない……」
私が怖いと思うのは……、茶葉が切れる事かしら?
あぁ、饅頭も怖いわね。
「案外、どこかで魔理沙が怖がってるのが伝播してるのかも……」
怖がる魔理沙を想像して思わず噴き出してしまう
「フフ……、ん……」
クスクスと笑うと、今までの独り言で何かが引っかかった。
鋭い勘の持ち主である彼女の中で何かが閃いた。
「あぁ、そうか……そういう事ね……」
霊夢は一人、理解する。
「誰がこの状況を作り出したか、を忘れていたわ」
ルーミアは宵闇の妖怪で、闇を操る程度の能力を持っている。
昼間に闇を出せば夜になる。
それを前提に、先ほど自分で口に出した言葉を頭の中で反芻する。
『普段よりも暗い夜』
「つまり、この夜は普通の夜とは違うって事ね……」
姿勢をただし、目を瞑る。
「ん……」
視覚があっては、目に見えない違いに気がつかなくなる。
昨日までの夜を思い出し、今日の夜を比べる。
「……うん、何だか……、深いというか、濃いというか……古めかしい感じがするわね……」
すっと目を開く。
光が差し込まないので、見える景色は閉じている時と同じ黒一色。
「そのせいで寒気がするのね」
つまり、私の体はこの夜が含む恐怖に反応していると。
「そっか……、あの翼が夜の塊だったのなら防御結界が作動しなかったのも納得ね」
夜を止める、夜から逃げる、夜に潜むなら判るけど、夜を防ぐなんて最初から無理に決まってるもの。
「もしかして……この古い感じを祓えば良いのかしら?」
物は試しと言うし……やってみようかしら
「んと……こっち、かな?」
直感で東を向いて両手を胸の高さできちんと合わせる。
音の響きによる周辺の浄化作法――柏手
霊気を操る能力のある霊夢は、この柏手に霊気を籠める。
霊気とは、視えず触れずの存在に干渉する為の力。
つまりは祓う力。
もちろん、視えて触れられる物にも干渉できる為、
弾幕ごっこでは霊気による衝撃で弾を掻き消すといった使われ方をする。
これを霊撃と言う。
両手を合わせ窪ませると、右手を少し引く。
窪ませた掌に、霊気を溜める。
四方に向かって霊気を籠めた柏手を打ち、夜を祓い清める。
「ふ……」
霊夢は厳かに、柏手を打つ。
パーン
同時に溜めた霊気が破裂し、音と共に周囲に響き渡る。
僅かばかり、夜が薄くなった気がした。
うん、いけそうね……
霊夢はそのまま後ろ――西を向くと、掌に霊気を溜めて、拍手を打つ。
パーン
霊気が爆ぜ、音が響く度に、夜は薄まり恐怖も和らいだ。
同じように南を向き、三度目の拍手を打つ。
パーン
夜は更に薄く、穏やかに。
北を向き、最後の拍手を打つ。
パーン
四度目の乾いた音が周辺に響く。
四方全ての夜が、音によって浄化され、霊気で祓われた。
§ § §
星の消えた夜空に、長く美しい金髪を靡かせてルーミアは花畑に佇む。
「……」
翼を広げた時、力の使い方を思い出した。
怒りに任せて力を振るったその結果が、眼前にある巨大な真っ黒い球体。
暗い夜よりもなお黒い翼によって創られた、光無き原初の夜。
あの漆黒は不安を増幅し、恐怖をもたらす。
つまり、あの球体こそが私の役割。
「霊夢も……、魔理沙も……私の役割を……、邪魔しようとするから……」
あの中には仲の良い二人が居る。
「邪魔しようとした罰……、うん、罰だから仕方ないよね」
私は自分に言い聞かせる。
これは罰。
でも、二人を傷つけるつもりは欠片も無い。
「罰だから……反省したら出してあげよう。 うん、そうしよう」
二人が反省したら、私の役割を行おう。
この闇の翼で全部覆ってしまうだけ。
そうすれば、私は此処にずっと居られる筈。
居る理由が――生きている意味がある。
そうすれば、霊夢や魔理沙と一緒に楽しく過せる。
今なら弾幕ごっこでも、二人と十分遊べるかもしれないし……
二人に勝てばお肉メインのご飯を注文してやろう……
幸せなこれからを思い浮かべると自然と笑みが零れた。
「ふふ……」
暫く時間がたった。
ルーミアがそろそろ出してあげようかな?
と思い始めた頃
ぐわん、と漆黒の球体が揺らぐ。
「ん? ……気のせい、かな?」
じっと球体を見つめると
ぐわん、と確かに揺らいだ。
「な、何が起きてるの?」
あの中ではどんな存在も、恐怖で何も出来ないはず……
それが人間ならば恐怖で発狂していてもおかしくないはずなのに……
三度目の揺らぎでその変化に気がついた。
「闇夜が……、薄れてる!?」
ぐわん、四度目の揺らぎと共に、闇が霧散した。
「な……ッ!?」
§ § §
手元すら見えなかった事が嘘のような、明るい夜。
星は隠れたままだが、今にも消えそうな月は健在だった。
今はその仄かな光がまばゆく感じる。
「……ふぅ、物は試しとは言ったものね」
ルーミアが驚いた顔でこっちを見てるが……
「ひぐッ、ひっく、うぅ……」
すぐ傍らで、泣きじゃくる声が聞こえたのでそちらを見てみる。
魔理沙が頭を抱えて蹲り、ガタガタと怯え震えて泣いていた。
「魔理沙、どうしたのよ……」
その震える肩に手を触れると、魔理沙は飛び退って私を拒絶する。
「ひぃいッ」
そして、私の肩越しにルーミアを見て更に怯えだす。
「いやぁあぁッ」
……恐怖に囚われたままみたいね
「何を見て怖がってるか知らないけれど、その恐怖という夢想を封印するわ」
霊夢は御札を一枚取り出す。
それは夢符――霊夢の持つスペルカードだ。
術式の効果は封印。
怯えて逃げようとする魔理沙を押し倒して、額に御札を押し付ける。
「ァッ、あ、ヤメッ……」
植えつけられた恐怖には、忘却という施錠をすればいい。
記された回路――式に霊力が流れ、術を起動させる。
「夢想封印・忘!!」
八色の光が御札から立ち上り、魔理沙の抱いていた恐怖を封印する。
「ぁッ!」
ビクリと体を震わせると、魔理沙の目に正気が戻る。
「ふぅ、大丈夫?」
暫くぼうっとしていた魔理沙だが、むくりと上半身を起こす。
「ぁ? ……あぁ、私は……なんともないぜ?」
なんで涙が?なんて言いながら目を擦って涙を拭っている。
よし、魔理沙はこれで大丈夫ね
「さて……次はあなたよ、ルーミア」
私は驚いた顔で佇むルーミアの方に向き直った。
§ § §
まさか、自力で脱出するだなんて……
その事に驚いた私は、出てきた二人に何も行動を取れず、唯々見ているだけだった。
そういえば霊夢の能力は『無重力』だったっけ……
無重力――全ての重圧、重力を打ち消してしまう力。
原初の恐怖という『重圧』も、彼女には無意味だった。
普通の人間――魔理沙とは一味違う所以だった。
その普通じゃない霊夢は、魔理沙を助けているようだった。
「ぁ……」
霊夢の肩越しに見えた、魔理沙のあの表情……
私と目が合う。
「いやぁあぁッ」
一際大きな叫び声をあげて、魔理沙はガタガタと震えだす。
魔理沙の怯えた表情、憎悪と恐怖が混じった拒絶の目
やだ……、ヤメテ……、その目……
前にも……うん、前の私は見たことがある
「――ッ」
鋭い頭痛と共に、脳裏に過去の記憶が再生される。
Ж Ж Ж
あの頃の私も、今と同じで周囲を夜にしていた。
いや、外に出るだけで勝手に夜になっていた。
チカラを発揮すれば光が消えてしまうため、皆私を恐れ敬う。
――さぁ、お休みください。
――お疲れでしょう、家で休みましょう。
――外は危険があります、どうか中でお過ごしを
でも、その目は態度と違っていた。
――迷惑なヤツ。
――暗くてオソロシイ。
――昼をカエセ。
みんな同じ目で
憎悪と恐怖が混じった拒絶の目で私を見ていた。
人間は昼を、妖怪は月を求め、
その為に両者とも、光無き原初の夜は要らない。
と、目で訴えていた。
だから私はあまり外に出ないようにしていた。
閉鎖空間にいれば、外界への影響は最小限に留められるから。
孤独には、慣れていた。
私が出歩く夜は、皆が恐れ避けて、眠りに就くから。
短い昼と明るい夜の為、私は引き篭り、半日を寝て過した。
そんなある日、皆が私の元に来た。
私はとても嬉しかったので皆を盛大に持て成した
『あなたの為に、素晴らしい岩戸を用意しました』
「……わぁ、ありがとう」
『貴女のために、食事も毎日用意します』
「……うん、嬉しいわ」
私は岩戸へと案内された。
『それではどうぞ、お入りください』
「うん」
私は岩戸の中に入る。
中は豪奢な造りになっていて、私の住んでいた家よりも広く、大きかった。
「あ、そうだ……一緒に中を見て回りましょ?」
そう微笑んで振り返ると、ズズズと重い音がして、岩戸が閉まる。
『どうぞ、ごゆっくり……』
「ぇ……」
つまり私は、この岩戸へ厄介払いされたのだ。
ここにあるのは今までと変わらない孤独と静寂だった。
反対に外は急に騒がしくなった。
まるで祭りでもしている様な程。
「……」
私はその暗くて静かな空間で、自分を恨めしく思い、泣いた。
「あの、食事をお持ちしました」
暫くして、少女がどこからか入り込んで食事を持ってくる。
「ありがとう、あなたは私を恐れないの? それに、どうやって入ったの?」
「私は境界を操れるのです。夜だろうと、昼だろうと、岩の隙間だろうと、なんだって」
「そう……、外は何をしているの?」
少女は悲しそうな顔をして一瞬口を噤むと、
「……昼間を祝う……、お祭りです」
あぁそうか、やっぱり私は――
§ § §
突然の眩い八色の光に記憶の再生が途切れる。
「――ッ、ぁ……」
どうやら霊夢の仕業らしい。
さっきの魔理沙の目……
あれは、あの時と同じ拒絶の目……
魔理沙……、魔理沙は……私を拒否するの?
――また私は嫌われるの?
ルーミアの瞳に狂気が宿る。
「さて……次はあなたよ、ルーミア」
霊夢が私を睨む。
「このままだと月まで隠れてしまう……そうなったらルーミア、あんた幻想郷中から嫌われるわよ?」
「みんなに……、嫌わ……れる……」
また嫌われる……、私には居場所は無いって事……?
みんなに……、また嫌われる……
また……、孤独に……
「れ……、霊夢も? 霊夢も私を嫌うんでしょ!?」
叫びと共に、背中の翼は膨らむ。
「もう、落ち着きなさいよ……、それに私はこんな事では嫌わないわよ?」
「う……嘘だ! 今だって暗いのを嫌がってるじゃない! 皆そうだッ私を邪魔にする!」
「私は邪魔者扱いなんてしてないじゃない!」
しかし、霊夢の叫びはとどかない。
「私はいつも独りだったんだ!」
ルーミアは錯乱していた。
不安を煽られ、不安定な精神状態だった処に、突然甦った忌まわしい記憶が更なる拍車を掛ける。
現在と過去を完全に重ねてしまっていた。
ルーミアは突然、自分を中心に闇を広げて周囲を漆黒で覆いだす。
この闇の発生で夜はさらに深みを増し、翳っていた月が完全に隠されてしまった。
§ § §
ついに月まで隠れてしまった。
この異常な夜に、幻想郷中が戸惑った。
紅色の悪魔の館では、魔女が館の主人に忠告した。
「誰かが星と月を隠したわ。これはやんごとなき事態よ?」
見事な桜の咲く冥界では、主人が庭師を呼びつけた。
「ほら、まだ寝るには早いわよ? このままじゃ月見酒が楽しめなくなるじゃない」
竹林の奥に静かに佇む屋敷では、薬師が弟子に指示を出した。
「誰かが月を奪ったわね、今すぐ姫を呼び戻して頂戴」
竹林の上空。
殺し合いの手を休め、夜空を見上げる少女が二人。
「また……あんたの所の仕業かい?」
白髪の少女が問う。
「いいえ……、私は何も命令していないし、もうやる必要が無い……」
黒髪の少女がそれに答え、思案する。
「じゃあ、……誰が?」
幻想郷中が、月を隠された事に対し、動こうとしていた。
幻想郷の境に住む彼女らも……
八雲家の縁側。
式である藍は、日が沈んだので主人を起こしに寝室へ向かう途中、その異変に気がつき驚愕の声をあげる。
「やけに暗いと思ったら……、星が消えているではないか……」
永く生きてきた中で、こんな事は初めてだった。
さらに、藍の見ている前で異変は続く。
「あ……、あぁ……、つ……、月まで隠れたッ?」
普段冷静な彼女には珍しく、この異変に戸惑っていた。
主人の手を煩わせる事の無いように、自らが解決に向かうべきか、
それとも主人の命令を待つか……
「どうする……」
「どうもしなくていいわよ」
考え込む藍に、主人の声が掛かる。
「ゆ、紫様……起こしてしまいましたか?」
「ん〜、……少し前から起きてたわ」
藍の隣に並ぶ。
「ならばこの月を隠した奴を懲らしめて、この異変を止めましょう!」
満月は妖怪達にとってとても大切な物。
以前は満月が欠けてしまった。
欠けただけでも、騒ぎになったというのに、
月が丸ごと消えてしまっては、欠けた満月の比ではないだろう。
「だから、何もしなくていいのよ。 それにね、これが本当の夜なのよ?」
ほら、懐かしい……
こんなにも暗くて濃い夜……
でも、藍は釈然としない様子で口を開く。
「私には懐かしくもなんともないです! それに、どうしてです? 満月がなくなっただけでも我々妖怪は本来の力は出せなというのに」
藍は妖怪としてどれほど月が重要かを私に説く。
「そればかりか、幻想郷のバランスが崩れます。 そう教えてくれたのは紫様ではないですか!」
そう、それは私が藍に説いた言葉。
「でもね、私は……あの子のする事に干渉しないと決めたの……」
「紫様……、どうしてですか? それに、犯人を知っていらっしゃるのですね?」
私は瞼を閉じて、遠い遠い、あの時の事を思い出す。
「えぇ……、あの人は……私が封じたの」
藍は何も言わない。
黙って話を聞いてくれるようだ。
「封じたことで、私は……あの人の全てを奪ってしまったわ……
これはその贖罪なの。
あの子が何をしようと、私は干渉しない。
ただし、あの子に敵意を持って接する輩が居れば……それを排除するわ」
邪魔はしない、邪魔もさせない
「つまり……、見守るって事ですか」
さすがは藍ね。
ちゃんと理解してくれたようね。
「そう、私はあの子を見守るの。 あの子がやりたい事をやり遂げるまで……」
そう言って夜空を見上げる。
見上げた夜空は、濃くて……、深くて……、懐かしかった。
「……あの、干渉しないのにどうやって排除するんですか? 争えば間接的に干渉することになりますが……」
もう、藍は私の能力を忘れたのかしら?
「気になるの?」
「はい」
「んふふ……、こうやるのよ」
藍に微笑んでから、私はパチリと指を弾いた。
月を隠された事に対し、動こうとしていた少女達は……
紅色の悪魔の館では、館の主人が魔女にお茶を勧めた。
「やんごとなきって……それよりも、お茶はどうかしら?」
悪魔の従者も、椅子を引いてくれている
「……そうね、頂こうかしら」
見事な桜の咲く冥界では、庭師は主人に起こされた。
「ほら、起きなさい。 ……えい!」
主人は庭師を布団から出すと、自分がそこに潜りこむ
「うわわッ? もう……、お一人で寝てくださいよぉ」
竹林の奥に静かに佇む屋敷では、弟子は師匠に泣きついた。
「師匠〜、私が行ってもあの二人は止めれませんよぉ」
「むぅ……、私も手が放せないし……、まぁ、誰かが解決するでしょう」
竹林の上空。
殺し合いの手を休め、夜空を見上げる少女が二人。
「まぁ……、私達には関係ないか」
白髪の少女の言葉に、黒髪の少女が答える
「そうね、……さぁ、続きをしましょう?」
誰一人として、暗すぎる夜と隠された月の異変を解決しようとしなかった。
皆一様に、普段通りの夜を過す。
彼女の邪魔をしようとする者は、排除された。
§ § §
光無き暗闇であたりを覆ったルーミアは笑う。
「ほら、これでもう何も見えない!」
やっと立ち上がった魔理沙は周囲を見わたしてチッと舌打ちする。
「また真っ暗かよ……、芸がないって言われるだろ?」
挑発する物言いだが、忘れたはずの恐怖を体は覚えていたようで、魔理沙の体は小さく震えていた。
光無き闇の中でも、その様子を見通せるルーミアは笑い出す。
「アハハハハハハッ、その暗闇に、あなたは震えてるじゃない」
見られたと知った魔理沙の顔が赤く染まる。
「ほら、いつもみたいに光が欲しいって懇願すればいいじゃない! それとも、また私をあんな場所に閉じ込めるのかしら?」
錯乱したルーミアの言動は、過去と現在が混同していた。
「いつも? 閉じ込める……? 何を……言っているんだ?」
この呟きも彼女達にしてみれば当然の反応だった。
「そんな事より月を早く戻しなさい!」
「煩いな! そうね……、この闇の中私を捕まえれたら何でも聞いてあげるわよ? 嫌っていないのなら、捕まえる事くらい簡単よね? アハハッ」
ルーミアは二人を馬鹿にしたように笑い出す。
「捕まえれば良いのね? 約束よ!」
「えぇ、良いわ」
出来るものかッ
この光無き原初の夜の中で、はっきりと見通せるのは私だけ。
見当違いの場所へ動いたら……、霊夢は嘘をついた事になる。
嘘つき……、私を岩戸へと閉じ込めた奴等と同じ……
嘘つきだったら……許さない……
そんな事を考えながら、私は二人の動きを眺める。
魔理沙は……先ほどから怯えたように周囲を警戒してる。
ふふん、やっぱり人間は光が無いと動けない……
霊夢はどうかしら?
「……ッ!?」
私をまっすぐ睨んでいた。
嘘だ……、この光のまったく無い中で見えるはずが無い
しかし、霊夢は一歩、二歩と、闇の中を私に向かってまっすぐ歩いてくる。
「ば……馬鹿な! 見えてるはずが……」
ど……どうせ霊夢の事だ。
勘で動いているだけ……!
ここから動いてしまえば分かるまい……
その場から動こうとした瞬間
「動くな!」
霊夢の喝がビリビリと響き、足がすくむ。
「ッ……」
霊夢は私を見据えてまっすぐ歩いてくる
う、嘘だ!
みんな怯えるか、懇願するかだったのに……
どうして私に向かってこれるの?
どうして私の居場所が分かるの?
どうして私をまっすぐ見つめるの?
どうして他のやつらとは……違うの?
「ぅ……、ひッ……」
ずっと、私を見つめ続ける霊夢に怖くなって空に逃れるが、当然の如く霊夢も空に舞い上がる。
「……いったい、……何なのよ?」
どうしてこの巫女は……
混乱するルーミアに霊夢がすぐソコまで迫る。
でも、闇に溶け込んでしまえば私の勝ち……
体を紐解いて、闇に同化させてゆくが……
「ぁ……」
あっけなく腕を掴まれ、闇に同化していた体も再度具現化し、戻ってしまう。
霊夢が私を見据えて、言う。
「はい、約束どおり捕まえたわ」
その瞬間、先ほどの途切れてしまった記憶が再生される。
Ж Ж Ж
また、いつもの様にスキマを通って少女が食事を持ってくる。
私はある事を決意していた。
「ねぇ、一つだけお願いがあるの……」
「なんでしょう?」
この世界には『夜』よりも、『光輝』『昼』が求められている。
私も、『光輝』や『昼』の邪魔をしたくない。
だから……
「境界を弄って私を封印して貰えないかしら。昼と夜の境界に立つ貴女ならできるでしょ?」
「そんな事……、世界の夜はどうなるのです?」
「押さえ込んでくれればいいの。影響が無い程度に」
影響が無い程度になんて……、我ながら無理な注文だ。
暗い夜が明るくなってしまったりと、必ず影響は出てしまうだろう。
「それでは存在そのものが変わってしまいます。 そうなれば十三の大いなる一族も……」
つまり、より下位の存在へ
当然、私の――夜の一族
『光輝』『昼』『宿命』『命運』『死』『眠り』『非難』
『悲哀』『憤慨』『欺瞞』『愛欲』『老醜』『不和』
――十三の息子達にも、影響するだろう。
『死』が弱れば、生者は世界に溢れる
『眠り』『不和』『命運』ならばその一族達も影響を受ける事になる。
そして、皆の望む『昼』『光輝』は、今よりもっと強くなれる。
「それでもいいの、独りよりも……、みんなと居たいから」
少女は自分の髪に結んだ赤いリボンを解く。
そのリボンを要にするのね……
「封印すれば……存在の変化の影響で貴女は眠りにつくと思われます。だから……起きた時のあなたの名前を……私が決めても良いですか?」
あぁ、この少女は……私が起きるまで……
「うん、……ありがとね」
そして、私は封印された。
一人よりも、皆と居られることを望んで……
Ж Ж Ж
――そうだ……、私は……あの少女に頼んで……
全てを思い出した拍子に、ルーミアの瞳から狂気の色が抜けていった。
荒れて、錯乱していたルーミアの心に、平穏が訪れる。
「ぅあ……ッ」
気がつくと、霊夢は私の両腕を掴みあげていた。
「逃がさないわよ?」
お互いに両手が塞がっている状態だった。
「まずは月を戻しなさい! でないと幻想郷の皆に嫌われるわよ?」
霊夢の目は真剣だった。
本気で……、私を心配してくれている……
「……うん」
私は勝手に流れ出る力をどうにか抑えて月を翳らせ、隠していた闇を取り払う。
「ふぅ……、これで最悪の事態は免れたわね……」
さて、と霊夢が呟き、私を見据える。
「次は貴女の事。 このまま役割とやらをやってもあなたの居場所はきっと孤独よ?」
「……うん、知ってる。 さっき思い出したから……」
「……、思い出したって?」
掴んでいた霊夢の手が緩み、腕が自由になる。
「昔の私の記憶……、昔の私は、孤独だった事を思い出したの。 自ら理由を捨ててまで孤独から逃れたのが、ルーミアという私……」
「それじゃあ……、今のあなた――ルーミアに理由が無いのは当然だって訳?」
「うん……、閻魔の言ったことは正しかったの」
――今のあなたの存在には、まるで意味が無い、生きている理由が無い。
本当に、閻魔の言う通り。
昔の私は光を遮り、夜で満たしてしまう為に嫌われ、孤独という居場所へ追いやられ、そこから逃げ出した。
唯一、傍に居てくれた少女に頼んで。
「結局、理由が無い私には居場所が無く、理由があっても孤独でしかない……」
私は自嘲気味に霊夢に微笑んだ。
「昔、昔って……昔の事は関係ないでしょ? それに、いつも独りだって言ったけど……、あなたは一人じゃないでしょ?」
「え……」
霊夢が続ける。
「今までを思い出してみなさい。私や魔理沙がいるでしょ? チルノや橙達とも遊んだでしょ?」
あぁ、霊夢は今の私の事を言っているのね……
「う……うん……、でも、私には居場所が……」
「それも。魔理沙が言おうとしてたことだけど、あんたには居場所も理由も既にあるわ」
「私に……居場所も、理由もあるって?」
「えぇ……、冬のあの日、私はあんたを助けたでしょ?」
あぁ、お腹が減って倒れたあの時の事……
「……うん」
霊夢がにっこりと笑う。
「あの貸しを、私にキッチリ返すのが理由」
呆気に取られる。
「そ、そんなの……、あの後私は霊夢の仕事を手伝ったじゃない。それに、返し終われば無くなるじゃない……」
私の反論に霊夢は含み笑いで答える。
「ふふふ……私が貸した恩はそう簡単に返せると思ってるの?
それが命を救ったとなれば……、ねぇ?」
霊夢……
「あなたの居場所は私の隣。文句は言わせないわ」
霊夢の……隣が、私の居場所……
「今までとなんら変わりないけど……、それでいいでしょ?」
霊夢がにっこりと微笑む。
今までと変わらない……
本当に、変わらない……
「うん……、うん!」
頷くたびに、ポロポロと涙がこぼれ、頬を伝う。
私は……、なんてバカなんだ……
一人で勝手に不安になって、勘違いして暴れて……
「ぅう……」
「もう、泣かなくてもいいのに……」
霊夢が私を抱き寄せて、頭を撫でてくれる。
「うん、……グスッ、えへへ……」
居場所と……理由……
ありがと……、霊夢……
§ § §
暫くの間黙って撫でていたら、ルーミアも落ち着いてきた。
それにしても、自分よりも大人の姿をしている人を慰めるってのは……
「とっても奇妙ね……」
「何か言った?」
あらら、声に出しちゃった……
抱き寄せたルーミアを放して当初の目的を伝える。
「ううん……そろそろこの夜を元に戻して頂戴」
「その事なんだけど……」
「なにかしら?」
「今の状態だと、私がどこか閉鎖空間に居ない限り夜になってしまうの」
ルーミアの言うには、彼女が居るだけで、夜になってしまい、力を振るうだけで先ほどのように、暗くなるらしい。
昼に戻すことも出来るけど、それは息を止めているのと同じことらしい。
「でも、それなら簡単ね。戻してる間に封印してしまえば良いわ」
だが、ルーミアの話は続いていた。
「うん、そうして欲しいんだけど……、その……」
「何? 言いたい事があるならはっきり言って頂戴」
「うん……、その……、小さいのでいいんだけど……」
恥ずかしそうに俯き、ポソポソと呟くルーミア
なんだ、そんな事……
「なら神社に帰りましょう。帰るまでなら元に戻していられるでしょ?」
「うん!」
§ § §
幻想郷の夜は元の濃度に戻り、夜空には星が瞬き、月が輝いていた。
もっとも短くて、大きな夜の異変は終焉したのだった。
あれから一週間。
何事もなく、平穏な毎日。
しかし、博麗神社では小さな異変が起きていた。
スパーンッ、と勢い良く襖を開けられる。
「よぉ霊夢、今日も来てやったぜ」
普段どおり、魔理沙が神社にやってきた。
あら、何か持ってるわね……
「もう、襖が壊れたらどうするのよ……、それに昼にはまだ早いわよ?」
私はお茶を啜る。
今日のお茶受けは饅頭だ。
「あー、その時は私の家で暮らせばいいさ」
「はいはい、掃除してあればね。で、その手に持った籠の中身は何かしら?」
魔理沙がふふんと鼻を鳴らす。
「あぁ、今日はだな、私が昼ご飯をつくってやろうかなーと……」
今日早起きして採ってきたぜ、と森の恵みシリーズを見せつける。
「結構な量ね……、でも、昼の準備ならあの娘がやってるわよ?」
まぁ、準備というより、練習なんだけど
「なにぃ!?」
魔理沙が驚愕し、項垂れる。
「私の担当……、霊夢のご飯準備……、あうぅ……」
小声で何か呟いてるわね……、まぁいいや
暫くして魔理沙は復活し、私の饅頭を一個頬張る。
「あぁ、私の……」
「もぐ、なぁ霊夢、もぐもぐ、あいつは、んぐ……、上達したのか?」
あいつ――ルーミアの事だ。
ルーミアは再度封印されて、以前と同じ少女の姿に戻っていた。
『理由』である恩返しをしたいと言うので、あの日以来料理を教えている。
つまり、博麗神社の小さな異変とは住人が増えた事だった。
「んー、歯応えがあってカルシウムたっぷりな卵焼きなら作れるわね」
「だろう? だから私が料理を……」
さっきからおかしいわね……
湯飲みを置いて、魔理沙を見る。
「料理当番外れて喜んでたくせに……いったいどうしたの?」
「ぅ……、それは……」
何故か顔を赤くして慌てる。
もう、落ち着きが無いんだから……
「まぁいいわ。私はそろそろルーミアの様子を見に行くけど、魔理沙はどうするの?」
「あぁ? おぉ、私も行くぜ」
魔理沙も慌てて私の後についてくる。
「ルーミア、ちゃんと出来てる?」
台所で悪戦苦闘しているエプロン姿のルーミアが振り返る。
「あ、うん!」
「これ……、どうかな? 魔理沙も良かったら食べてみて〜」
差し出される卵焼き
少し形が不恰好だが、焦げた場所は見当たらない。
「あぁ、遠慮無く頂くぜ」
さっそく魔理沙の手が伸びる。
「おぉ、歯ごたえが無くてカルシウムの足りてない卵焼きだ」
魔理沙はワシワシとルーミアの頭を撫でる。
「んふ〜♪」
「へぇ、私も頂こうかしら」
「うん」
私も卵焼きを一切れ口に入れる。
「ん……、うん、塩味も程よく効いてて美味しいわよ」
「わはッ♪ えへへ……」
喜ぶルーミアを見ていると、こちらまで嬉しくなってくる
「ふふ……」
残った卵焼きに、横からすっと手が伸びる。
まったく、魔理沙は食いしん坊なんだから……
と、正面を見ると、魔理沙は驚いて口をパクパクさせている。
……って、なんで魔理沙が正面に居るのに、横から手が伸びるのよ?
「ふむ、私は甘いのが好みなんですが……、うん、これはこれで……」
……この声……まさか……
魔理沙の視線の先を見て、驚愕する
「なッ……なんであんたが居るのよ?」
「閻魔さま……」
四季映姫が、私の背後に佇んでいた。
「今日は善行を積んでいるかの確認ですよ」
と、映姫はルーミアを見る。
「今のあなたは妖怪としての本分――人を襲う事はやっていないようですね」
この問いに、ルーミアは力強く頷く。
「うん、私は……襲わないって約束したから……」
映姫は厳しい表情で、ルーミアをにらむ。
「前にも言ったとおり、そんな事では妖怪としては失格です」
言葉を区切ると、私とルーミアを見比べる。
「……でも」
厳しかった表情を和らげ、ルーミアに微笑む。
「ちゃんと自分の場所を見つけたようですね」
「ぁ……」
ルーミアの硬かった表情が和らいで、安堵に満ちた満面の笑みになる。
「うん!」
映姫の言葉にルーミアは大きく頷いた。
少女の動きに合わせ、髪に結ばれたリボンが可愛らしく揺れる。
髪に結ばれているリボンは、居場所をくれた少女と御揃いのリボンだった。
END
あとがき!
まんが祭りでの新刊「比翼連理」に寄稿したssです。
極力直接戦闘無しで、EXルーミア(大人ルーミア)な話です。
この話のルーミアは、創想話にUPしている「初めての〜」とはまた違った霊夢との出会いをしています。
まぁ、結局は霊夢×ルーミアなんですよ!w
新刊を委託するって話だったんですが、サークル主犯のRotaさんから何も無いので、UPする事に。
本買ってくれた方はつうQさんの挿絵と共にお楽しみ下さい。
買えなかった方はこのssだけでーw