雲一つ無く星が煌めく夜空に、ふわふわと漂う黒い少女。
 黒い少女の名はルーミア。
 夜に映える金髪は肩に届く長さのボブカットと、その金髪に結ばれた赤いリボンが特徴的。
 まだ幼さの残る可愛らしさを持った少女。
 彼女はこの日、神社に呼ばれていた。
「えへへ……、霊夢と二人だけでお月見〜」
 ルーミアは夜空を飛びながら、幸せそうに微笑む。

 彼女の喜ぶ理由は二つある。
 一つ目の理由は、美味しいものが食べられるという期待から。
 これは単純に、食べる事が好きだから。
 お腹一杯食べられると言うのは、生き物にとって幸せな事。
 それが美味しいものなら尚更である。
 当面の標的は、お月見に付き物のお団子だったりする。

 そして、もう一つの理由。
 好きな人――霊夢に会えるから。
 ルーミアの一方的な好意では無く、お互いに好意を抱く間柄。
 博麗神社の巫女さんで、幻想郷唯一の巫女でもある少女――博麗霊夢。
 空を飛ぶ程度の能力を持つ彼女は、故に無重力。
 身も心も無重力な為、誰に対しても平等に見る霊夢は人間、妖怪問わず、惹きつける。
 周囲に人々が集まる反面、霊夢自身は常に一人である。
 そんな彼女の心をどのようにしてルーミアが射止めたかといえば、切欠はとても意外な事だった。
 白黒の魔法使いの気まぐれで教えた――魔法とは到底呼べるモノでは無い――『幸せになれる魔法』だった。
 切欠は魔法であっても、ルーミアの偽り無き本心は霊夢の心にしっかりと届き、彼女はその気持ちを受け入れた。
 そんな経緯を経て、今に至っている。

 幸せそうな顔で神社に向かうが、時折吹く風に身を震わせる
「ぅう、まだ寒いなぁ……」
 大分暖かくなったとはいえ、所詮は春先である。
 夜はまだ肌寒い。
 しかし、寒い事で良いこともある。
 ルーミアは夜空に鎮座する、巨大な満月を見上げる。
「でも、月が綺麗……」
 そう、寒いと空が澄んで、夜空に浮かぶ天体がより美しく見えるのだ。
 季節ハズレのお月見もしたくなる位に。
 見上げた月は、煌々と辺りを照らしていた。
 ――トクン、
 満月を眺めていたルーミアの心臓が小さく跳ねる。
「ぁ……、れ……?」
 なんで……
 月をを眺めているだけなのに胸が高鳴る。
 ――トクン、
 ほら、また……。
 少女の体に起きた異変はそれだけじゃなかった。
「はぅ……」
 心の奥のほうが、きゅーって胸が締め付けられる感覚に襲われる。
 思わずルーミアは胸を掻き抱く。
「なに……、この感じ……」
 ――まるで、あの時みたい……
 ――トクン、――トクン、
 鼓動はどんどん早くなる。
 それと共に、体も火照り、呼吸も苦しくなってくる。
「ハァ……、ぁ、ハァ……」
 満月に釘付けになっていた目を離し、ブンブンと頭を振る。
 あの時と同じなら……、きっと……
「行かなきゃ……、神社に……、霊夢の、所に……」
 ルーミアは寒い夜空の中、神社に急いだ。
 春先の冷たい風が吹くが、ほんの少し火照った体には心地良く思えた。


	§ § §


 幻想郷と外の世界の境目にある博麗神社。
 その境となっているのが神社の境内である。
 鳥居を潜り、その境内にルーミアは降り立った。
「ほぅー、まだドキドキしてる……」
 しかし、いつまでも気にしちゃいられない。
 ドキドキは無視して、髪の毛を手櫛で整える。
 服やスカートも軽くチェック。
「うん、汚れなんて無いよね」
 身だしなみを整えたルーミアは境内を横切り、霊夢の待っている母屋へ向かう。
 目的地は母屋の縁側。
 そこから二人で月を眺めるの。
 えへへ……、考えてたら嬉しくなってきちゃった。
 私は小走りで灯りの燈る縁側へ向かう。
「れいむー、きたよー」
 すると、丁度霊夢は縁側でいつもの如く、お茶と共に佇んでいた。
「あら、ルーミア……」
 霊夢はお茶が大好き。
 お茶が飲めないと死ぬほど辛いって偶に愚痴ってるのを見かけるくらい。
 私はそんな霊夢の傍らにちょこんと腰を掛ける。
「意外と早かったわね」
 ずずずと霊夢がお茶をすする。
「うん! はやく霊夢に会いたかったんだもん」
「ふふ……」
 えへー、と微笑みかけると、湯飲みを置いて霊夢も笑ってくれた。
「それじゃあ、お月見の準備をしなきゃね」
「あ、手伝うよ?」
「ん、ありがと。でもここで待ってればいいわ」
 霊夢は立ち上がると、部屋の奥に消えてしまう。
 私は両手を背後について楽な姿勢になると、空を見上げて息を吐く。
「はふ……」
 しあわせ……
 やっぱり霊夢に会えると、すっごく幸せな気持ちになれる……
 やっぱり、霊夢に会った事であの変なドキドキは消えた。
 それに、神社に来る途中の変なドキドキとは違い、
 ――トクン、――トクンって、今の鼓動は心地良い。
 まるで、あの日――初めて霊夢に甘えた時みたい。
 なんだか満たされたって気持ち……
 私が一人、幸せに浸っていると、霊夢が部屋の奥から戻ってくる。
 手に御盆を持って。
「はい、お月見の定番よ」
 と私の前に置かれる大き目のお皿。
「わぁ♪ お団子だぁ」
 皿に盛り付けられていたのは、一口サイズのお団子。
 お団子につけるきな粉と餡子も小皿に用意してある。
 そのままでも甘くて美味しいんだよね
 でも、霊夢って普段は魔理沙にご飯を作らせたりしてるよね……、このお団子もそうなのかな?
「これって霊夢の手作り?」
「えぇ、もちろん」
 霊夢の……、手作り……
 なんだかホッとした。
 二人でお月見って約束だから、ご飯だけ作ってもらって魔理沙を帰したのかと思っちゃった。
「それと、お酒もあるわよ」
 ドンと出てきたのは銚子と、朱色の盃が2つずつ。
「うぅ……、お酒……」
 少し前に、霊夢にお酒を薦められて初めて飲んでみたんだけど……
 その時は目を回して倒れちゃったんだよね……
 私が心配そうな目で見ている中、霊夢は盃に酒を注ぐと、私に手渡す。
「ぅー……」
 飲まなきゃダメなのかな……
 色もこの前とは違って白いし……
 そして霊夢は自分の盃にも酒を注ぐ。
「それじゃあ、このキレイな満月に乾杯〜」
「かんぱーい……」
 霊夢はおいしそうに、盃を煽り、白濁液を飲み干す。
「うん、美味しい♪」
 一度に飲み干した霊夢は「こっちは私専用のお酒だからね」と別の銚子を傾け、透明な液体で自分の盃を満たす。
「……霊夢、飲まなきゃダメ?」
「あら、まだ飲んでないの?」
「だってぇ……」
 この前みたいに倒れたくないもん……
「ふふ、今日のはルーミアでも美味しく飲めるわよ」
 そう言って霊夢は、私の持っていた盃に人差し指を入れて酒に浸す。
「ぁ……」
 何するんだろ……
「ほら……、舐めて確かめるくらいなら良いでしょ?」
 先程浸した人差し指を、私の目の前に突き出す。
「う、うん……」
 ポタリ、ポタリと白い雫を垂らす指先に顔を近づける。
 じっと、霊夢の指を見つめる。
 ……霊夢の……、指……
 細くて……、白い……
 ――トクン、――トクン、
 胸が高鳴り、衝動に駆られ、思わず舌を伸ばしてしまう。
「ぁ、ん……ふ」
 舌を突き出し、指先に触れさせる。
 ぴちゃ、と小さな音がして、お酒の味が舌先に広がる。
 ぁ……、甘い……
「んぁ……、は、ぁ……、んぅ」
 舌先で舐めるだけだったのが、段々と舌の腹で、唇で、指を丹念に舐める。
 ピチャリ、クチュッ、と音がする度、甘い風味が口腔内を満たす。
 ふぁ……、あまいよぉ……
 私が夢中で舐めていると、霊夢がお酒の講釈を始める。
「このお酒はね、ん……、甘酒の事なのよ。」
 指がくすぐったいのか、講釈の途中で霊夢は身を捩る。
「これはね、ぁ……、半日程醗酵させれば出来上がるから、ふぁ……、古くから一夜酒って呼ばれるのよ」
 霊夢が説明てる……、けど……それよりも……
 もっと甘いのが欲しい……
 もっと霊夢の指を舐めていたいよぉ……
 霊夢の手を両手でそっと包んで固定する。
「でもこれは酒粕とお砂糖で作ったんだけど……、ぁふ……、こらぁ……、聞いてたの?」
 うん……、あまいよぉ……
 私は霊夢の指を根元まで咥え、口腔内で舌を動かす。
 指を舐めるというより、しゃぶる、と言った方が正しいかもしれない。
 指に付着した白いお酒を一心不乱に舐め取る。
「んぅ、ぅ……、んふ、ぅ……」
 縁側にチュプ、クチュ、と湿った音が響く。
「ぁ……、こらぁ……、くすぐったいでしょ……」
 霊夢はルーミアの口から指を引き抜く。
 プチュッっと音がして、ルーミアの口と霊夢の指の間に銀色に光る橋が架かった。
「ぁハ……、はぅ……、あまいのぉ……」
 私は霊夢の手を求めるけど、霊夢は代わりに、白濁液が注がれた盃を私に差し出す。
「もう……、ちゃんと盃に注いであるんだから……、こっちから飲みなさい」
「うん……」
 私が盃を受け取ると、霊夢はベタベタになった人差し指をチロリと舐めなる。
 噛んでない筈だけど……、吸ったのが痛かったのかな?
 そんな事を心配しながら、受け取った甘酒を飲んでみる。
「んく……、んく……、ぷはッ……、あまぁい……」
 甘くて美味しいし、なんだかいい気分〜♪
「でしょう? でも良かったわ、ルーミアが飲めて……、これで一緒にお酒が飲めるわ♪」
 霊夢は嬉しそうに、空になった盃に甘酒を注いでくれた。
「それじゃあ、もう一度仕切り直ししましょうか」
「うん」
 今度は私も元気良く返事ができる。
 霊夢は、透明なお酒が注がれた盃を持つ。
「それでは……、乾杯」
「かんぱーい」
 二人だけの、季節ハズレのお月見がやっと始まった。


 満月は相変わらず綺麗で、お酒は甘くて苦も無く飲めた。
 霊夢に「あーん」ってしてもらって食べたお団子はとっても甘く感じた。
 私が「美味しい」って微笑む度に、霊夢も嬉しそうに微笑んでくれて……
 霊夢と他愛の無い事をお喋りして、何度もおかわりして、甘いお酒を飲んで、お団子をお腹に収めていった。
 大好きな霊夢とこんなに近くで、一緒に居られる、とっても楽しくて幸せな時間。


 でも……、さっきから頭がポワポワして、体が熱い……
 忘れてた胸のドキドキも、また強くなってきてる……
 霊夢が微笑んでくれる度に、
 ――トクン、――トクン、って。
 なんでだろ……、しあわせなのに変な感じ……
 あぁ、そうか、物足りないんだ……

 霊夢……、どうしてかな?
 こんなにも幸せなのに、物足りないの……
 そんな事を思って、ぽーっと霊夢を見つめる。

「あら、どうしたの……、もうお腹一杯?」
 霊夢は私の手が急に止まったのが気になったらしい。
「ぁ……、ぅうん……、んく、んく……」
 盃に残ってるお酒を飲み終える。
「はふ……」
 一息ついた時、手から空になった盃が床に落ちてしまう。
「ぁ……、おちちゃた……」
 拾わなきゃって思うけど、体がフワフワして動きにくい……
「あらら……、甘酒で酔っちゃったのね……」
 霊夢の手が、私の頬に伸びてそっと触れる。
「大丈夫?」
「ぁふ……、ぅん……」
 わは……、霊夢の顔が近い……、それに、手がつめたくてきもちいぃ……
 私はそのまま、フラフラと霊夢に近寄る。
「ねぇ、れいむぅ……」
「ん……、どうしたの?」
 霊夢の柔和な微笑みがとっても嬉しい……
「んとぉ、ね……、今日はね、なんだか……、変なの……」
「変って……、風邪でも引いたの? やっぱり縁側じゃ寒かったかしら……」
「ううん、違うの……、胸がね、きゅーってなって、……とっても切なくなるの……」
 私は首を少しだけ傾げて、添えられた霊夢の手に頬を預ける。
 あぁ……、霊夢の手……
「むぅ……、その切ないのは今日が初めてなの?」
「うん……、はじめて……」
 胸のドキドキもいつまで経っても止まらないし……
「大丈夫よ、満月の光に当てられただけだから」
「満月に当てられたのね」
「当てられた?」
「生きる為に水を飲むでしょ? でも、飲みすぎればお腹を壊しちゃう。それと同じよ」
 霊夢は、夜空に浮かぶ月を見上げる。
「きっと、満月の光の影響を受け過ぎたのよ」
 月から私に視線を移した霊夢は「だから心配しないで」と微笑んでくれた。
「そーなのかぁ……」
 頬に触れている霊夢の手を握って、少しだけ頬擦りをする。
「なぁに、甘えたいの?」
 私は小さく頷く。
「……うん」
 私の返事に満足そうに微笑むと、突然霊夢は私の腕を取り、引っ張る。
 フラフラな私は簡単に体勢を崩してしまう。
「あわわッ」
 腕の中に倒れこんだ私を霊夢は優しく抱きとめる。
 きゅっと抱きしめられた瞬間、私は固まってしまった。
「これで、切ないのは治まるかしら?」
「へ……?」
 霊夢に……、ぎゅってされてる……?
 ――ドク、ドク、と胸が早鐘を打つ。
 自分が何をされているかを理解すると、急に恥ずかしくなり混乱してしまった。
「わッ、わッ、わッ」
 体を離そうとしたけど、霊夢はより強く抱きしめる。
「だーめ、ちゃんと私に甘えなさい」
「ぁ……、う、ぅん……」
 私は強張らせた体から力を抜いて、霊夢にその身を預ける。
 はぅ……、恥ずかしいよぉ……
「そう、それでいいのよ……、うふふ……」
 霊夢は嬉しそうに笑うと、私の頭を撫でてくれる。
 後頭部から首筋へ霊夢の手が優しく、何度も撫で付ける。
「手触りの良い髪ね……、ルーミアは撫でられるの好き?」
「うん……、すき……」
「じゃあ、暫くこのまま撫でてあげる」
「んふ……、嬉しい……」
 髪の感触を楽しむように、霊夢の指が私の髪を梳き、頭を撫でる。
「あふ……、はぅ……」
 撫で付けられる度に、頭の中がぽーっとなって、気持ちが良くて……
 ついつい声が出ちゃう。
 恥ずかしいけど、とってもしあわせ……

 でも……、なんでだろ?
 どうして……、こんなに甘えてるのに切ないのが治まらない……
 霊夢に微笑んでもらって……
 霊夢に触れてもらって……
 霊夢に撫でてもらって……
 霊夢にぎゅって抱いてもらって……
 それでも、足りないなんて……、どうすればいいの……?
 はぅ……、このままじゃ切なくて溺れちゃう……

 あ、そういえば……、霊夢にまだしてもらってない事があった……
 きっと、きっとアレをしてもらえば、切ないのは満たされると思う。
 うん、……霊夢におねがいしてみよう……
 この前みたいに……してもらおう……

 私は意を決して顔を上げる。
「ねぇ、霊夢……」
「なぁに?」
 霊夢は撫でるのをやめて、優しく私を見つめてくれる。
「ぁ……、その……」
「ん、何かして欲しいの?」
 モジモジする私をみて、霊夢は察したらしい。
 ――トクン、――トクン、
 ……よし、言おう。
「……うん、……キス、してほしいな……」
 一瞬、目を白黒させた霊夢だったが、目を細める
「ん……、いいわよ」
 霊夢は私の後頭部に再度手を回すと、ゆっくりと霊夢の顔が私に近づく。
 霊夢は、その艶やかな唇が私の唇に触れる寸前で、一度止まる。
 目が――合う。
 ――トクン、――トクン、
「ぁ……」
 心臓が早鐘を打ち、思わず息を呑んだ瞬間、まるで次の呼吸を奪うように霊夢の唇がそっと重ねられる。
 ちゅ……
 お互いの唇が触れ合う。
「ん……、ふ……」
 それでも、私の脳髄を蕩かせるには十分。
 私は目を閉じて、唇の感触を楽しむ。
 まるで夢の中に居るかのようなフワフワとした気分になる。
「ん……」
 そっと霊夢が唇を離す。
 あぅ、霊夢の顔が離れてく……
「はぁ……、ぁふ……」
 私はそのまま、キスの余韻に浸り、惚ける。
 やっぱり……、霊夢のキスは、切なさを忘れさせてくれた。
「……ふふッ、望んだキスはどうだったかしら?」
 霊夢がクスクス笑ってる……
「とっても……、しあわせ……」
 ――ハァ、――ハァ、
 思考が痺れて、
 ――ドクン、――ドクン、
 鼓動が止まらない。
 ――どうしよう……
 もっと、欲しいよぉ……
 もっと、霊夢を感じたい……
「ねぇ……、れいむぅ……」
 私は半歩、膝を寄せると、霊夢に密着した。
「ぇ……、な、なに……?」
 思いもよらなかったのか、霊夢の声は上ずっていた。
 霊夢が驚いてる……
 なんだか……、うふふ……、可愛い……
「あのね、今度はね……、この前のキス……、して欲しいなぁ……」
 そう言って、霊夢の両の頬に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待って……、この前のって……、あの時の?」
 霊夢が身を引いた為に、私は伸ばしかけた両手を下ろす。
「うん……、あの時のキス……」
 一度だけ、霊夢に求められた夜があった。
 その時は泣いてしまったけど……、今なら……
 あの時の、あのキスなら……霊夢を沢山感じれる……
 私はさらに膝を寄せて、もう一度、霊夢の頬に両手を伸ばす。
「ねぇ……、霊夢……」
 下から伸ばした両の手は、霊夢の、ほんのりと上気した頬を捕まえる。
 一瞬身震いし、霊夢は動きを止めてしまう。
 あはッ、ほっぺが柔らかい……
「……ッ、ぁ……」
 私は手の中の霊夢をじっと見つめる。
 驚きの色が見え隠れする潤んだ瞳。
 少しだけ開かれた艶やかな唇。
 小さく、短く繰り返される熱い呼吸。
 白くてきめ細かな、柔らかい肌。
 黒くて綺麗な芳しい髪。
 それら全てを独り占めしたい……
「れいむ……」
 またも思考が痺れ、霞が掛かる。
 頭がぼーっとして、考えるのもメンドウになってきた。
「キスの仕方は……覚えたから……、その続きを……」
 私はもう半歩だけ、膝を進めた。


	§ § §

「私に……、教えて……」
 口元に蟲惑的な笑みを浮かべたルーミアが、虚ろな目で迫る。
 熱っぽい息の掛かる距離。
 私はルーミアの色っぽい表情にドキリとさせられる。
 こんな表情……、するんだ……
 密かに驚いていると、ルーミアは私の頬に添えていた右手を、スルリと背中に回す。
「ぁ……」
 ルーミアに抱かれる形になる。
 ――ドクン、
 突然、心臓が跳ねる。
 今にも張り裂けそうな程。
 なんで……?
 ただ、手を背中に回されただけなのに……
 そう意識しただけで、顔から火が出るほど恥ずかしくなる。
 からだが……、熱い……
 そのままルーミアは、ゆっくりと私を押し倒そうと、覆いかぶさる。
「――きゃッ」
 私は動けなかった。
 抱き返す事も、跳ね除ける事もできない。
 そのまま、押し倒される。
「ぁ……」
 ルーミアに迫られるという初めての体験に、体が硬直していた。
 ――トクン、――トクン、
 動けない中、鼓動だけが大きくなる。
「ん……」
 私は彼女の行為を受け入れる。
 私はかろうじて動く両手を握りしめ、きゅっと目を瞑る。
 あの時私が彼女にしたようなキス――荒々しい口付けを待った。
「――……」
 しかし、どんなに待っても唇を割る舌どころか、吐息すら掛かる様子も無い。
 ルーミアは覆いかぶさったまま、動く気配が無い。
 その重みと体温は心地よいけど……、どうしたんだろう?
 おそるおそる、目を開けると……
「すぅ……、すぅ……」
 私の体の上――胸に顔を埋めてルーミアは眠っていた。
「……ふふッ」
 思わず噴き出してしまった。
 だって、あんなにも積極的だったのに、寝てるんだもん
「もしかして……、酔いが回ったのかしら」
 スヤスヤと寝息を発てていて、まるで起きる気配が無い。
 甘酒で酔うなんて……
「でも……、結構な量を飲んでたわね……」
 甘酒とはいえ、酒粕から作った場合、微量のアルコール分を含む。
 それを何度もおかわりすれば、お酒に弱いルーミアならば酔うのに十分なアルコール量になる。
「こんなところで寝ちゃって……、風邪引くわよ……」
 私はルーミアの体をきゅっと抱く。
 ん……、あったかい……
「んぅ……、ふふ……」
 少しだけモゾモゾと動くと、ルーミアは嬉しそうに微笑む。
 私も釣られて微笑んでしまう。
「ふふ……、可愛い……」
 ルーミアの髪をそっと撫で付ける。
「今日は大変なお月見になったわね……」
 月の光に当てられて、お酒に酔って、それらの勢いもあって私を押し倒して……
 結局そこまでで終わってしまったけど、それで良い……
 今だからはっきりと判る。
 あんなにも積極的だったルーミアに、私はほんの少し恐れを抱いていた。
 あの日のルーミアに言われた言葉を思い出す。
 『まるで別人みたい』
 きっと、あの日私に迫られたルーミアもこんな気持ちだったのね……
 ルーミアの場合、未知の行為への不安があったから尚更怖かった筈。
 それが、今日体験してやっと理解できた。
 ルーミアを抱いたまま、私は独り呟く。
「別に、焦る必要は無いのよね……」
 私はルーミアが好きで、ルーミアも私の事が好き。
 焦る必要もないし、勢いに任せる必要も無い。
 その時が来れば、より深く、濃い関係になるのだから。
 私は、体の上でクゥクゥと寝息をたてるルーミアを見つめる。
「キスの続きは……、また今度ね……」
 ルーミアの暖かい体をぎゅっと抱いて、私は目を瞑る。
 共に歩めれば良い……
 少しずつ、少しずつ。



あとがき! ほのかんさんの例大祭3新刊『月光日和』に寄稿したss『望月の夜の甘い酒』です。 ルーミアが大好きです。 でも、霊夢とのカップリングはもーっと好きです。 初めまして、お久しぶりです、こんにちは、こんばんは。 この度今回はほのかん様に誘っていただき、ssを書かせて貰いましたEXAMと申します。 まずは、手に取ってもらった皆様に感謝です。 ほのかん様の繊細で柔らかいルーミアと霊夢の挿絵に感謝感激しつつ、萌え悶えていたり。 機会と挿絵を下さって、本当にありがとうございます。 さて、気が付かれた方も居るかも知れません。 クーリエ様の創想話に投稿しました、 『初めての魔法、初めての……』の続々々編になる話です。 通称第四話。 続編ですが、この話単体でもちゃんと読めるようにしたつもりです。 続編なので、前の話を読んでいると楽しめるようになっております。 普段は迫る霊夢、受けのルーミアなんですが、今回は逆。 迫るルーミア、受けの霊夢です。 そして、突然書きたい衝動に駆られた 指 チ ュ パ ! 食べちゃダメなら舐めるのはアリって事で(ぇー ここまで読んでくださってありがとうございます。 それでは、またどこかでお会いしましょう。

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