■■■

 

 一人で酒を飲んで、眠くなるのを待ち続ける時間。

 いい加減、自分の首でも締めて寝てやろうかと思ったら、不安調査課のドアが開いた。

「やあ、お久しぶりですね、燐さん」

 胡散臭いぐらい人の良さそうな笑顔のそいつの声は、本当に久しぶりだ。

「何がお久しぶりだ。んの野郎、三週間も出張かましやがって……」

「まあまあ、そう言わないで下さい。ここ二十年、帰郷もしてなかったんですから、たまに地元に出向いた時くらい、ねぇ?」

 二十年とか聞くと、流石に文句が言えなくなるので、酒に口をつけて一拍。

「楽しんできたか?」

「ええ、とっても」

 見やれば、黒いスーツに身を包み、黒いサングラスをかけた真っ黒な相棒が、相変わらずモデルみたいに笑っている。

常流流暗(とこながれるあん)、ただいま帰りましたよ」

 コウモリ変化で五百年以上も生きているらしい相棒の帰還は、一人の夜に、ちょっとばかり、有難かった。

 

Internal storage

 

 カツカツと、月夜に靴音を立てるのは二人分。

 那須燕というオレと、水掛月弥という先輩で弓道部部長でミスター秋瀬高だ。

 ……なんか凄いグレードの違いだが気にしない。

「しかし、参ったね、月弥先輩」

「はい……」

 月弥の能力を説明した後、姉御はオレと月弥を襲った“ムシ”について語ってくれた。それは、二週間前からオレに関わりのある存在だったらしい。

 オレがこの街で出会った一メートルサイズのとんでも“ムシ”は、全て“蟲”。巫蟲(ふこ)と呼ばれる、呪術によって作られたモノだそうだ。

 中国の仙人を目指す道士達の中で、外法使いに位置づけされる巫士(ふし)と呼ばれる者達の術で、昆虫を魔物に成長させ、操る呪術の一つ。

「で、土蜘蛛呪法会だったっけ? この街を昆虫ワールドにするという野望を持つ組織?」

「はい……」

 古事記などで記述が見られる大和朝廷の反抗勢力の事を、土蜘蛛党という。彼等は大和朝廷の天津神の信仰を拒否し、土着していた国津神の信仰者であった。

 土蜘蛛呪法会は、その土蜘蛛党の末裔で、他の土蜘蛛を名乗る者達と同じく、連綿と神代の恨みを引き継ぎ、今もって国家転覆という大偉業を目指しているらしいとか。

「はた迷惑な話しですなぁ……。自分の祖先をどれぐらい数えれば恨みに突き当たるんだかすら解んないんだよ?」

「はい……」

 美奈さんを狙っていたあのストーカー真田希一も、土蜘蛛呪法会の一員だったという事が、本部の調べで解ったそうだ。

 今まで、姉御達がこの街にいても気づかれないようにひっそりと活動していた連中が、ついこの前、表舞台に姿を現した。その事実。

「一体、何があるんだろーねー」

「はい……」

 いや、そこはハイって答える所じゃないがな――――ツッコミ入れようと隣を見たら、心ここに在らずの代表みたいな月弥がいた。

「あ〜の〜、月弥先輩……?」

「はい……」

 かなり重症っぽい。

「月弥先輩」

「はい……」

「姉御に惚れた?」

 ようやく、月弥はオレを見て、少し悲しそうな顔で、

「――――はい」

 はっきりと認めた。

「そっか。姉御、美人だからなぁ」

「はい、身も心も」

 そうなのだ。結局、姉御は月弥にも「さん付けしなくても良いんだが」と言った。

 それでも月弥が“さん付け”しているのは、月弥がそこを譲らなかったからだ。

『貴方は素晴らしい人だから』

 なんて真正面から言った時の月弥は、オレから見てもかっこ良かった。

 普通の男なら、姉御にゃ口が裂けても言えない。言えたとしても、冗談にしか聞こえない台詞だろう。

 だが――――

「先輩、姉御と一緒になろうと思ったら、大変だよな」

「はい……だから、言えなかったです」

 一瞬だけ垣間見た、姉御の、灰香燐という人間の中の地獄。

 深くて、汚くて、醜くて、地獄に積まれた亡者達の腐肉じみた感覚。

「先輩――――ああ、いや、ここじゃ対等だから月弥って呼ぶか。」

「ええ、良いですよ。その方が、なんか相談し易いですし……僕も、敬語止めます」

 ……じゃあ、お言葉に甘えて。

「月弥、言えなかったって……あの場で告白する気だった?」

 月弥は、空にある自分の名の元を見上げ、自分を思い出すように浅く瞼を伏せた。

「多分、燐さんがあの眼をしなかったら……迷わず言っていたと思うんだ」

「一目惚れ?」

「はい、一目惚れ。あの強烈な蜘蛛と一緒に見た時ですら、一緒に見たからなのか……燐さんを綺麗だなって思ったら、後はもう……」

 どっかの誰かが言っていた。

“一目惚れじゃない恋は、真の恋じゃない”

 きっと本当の恋愛ってのは、一目見た時の想いを、理解して、高めていく作業なのだろう。

 恋愛をした事のない自分が、そんな奇妙な事を確信出来るくらい、月弥の言霊には想いが満ちていた。

「諦められるのか、月弥?」

「いえ……きっと無理だよ」

 月弥は、やり場のない視線を月に固定したまま、寂しい微笑をした。

「この人は良いな、って思える事は、今まで何度でもあった。でも、初めてなんだ」

 視線を下ろし、オレを真っ直ぐ見て、

「この人じゃなきゃ、絶対に嫌だって思えたのは、初めてなんだ」

 世の中の女の人は、こんな事言われたら、凄く嬉しいんだろうな。

 そして、それを真顔で言えるこいつは――――すげぇ奴だ。

「でもな、月弥。お前、こっち側の住人になるのは嫌なんだろ? 平穏無事に、面白くも可笑しくもなく、退屈な明日を生きたいんだろ?」

「はい、それだけは……」

 じゃあ、しょうがないが、答えは一つだ。

「止めとけ、月弥。お前にゃ姉御は無理だ」

 月弥は、口を結んでオレを見てくる。

「お前は、姉御と同じ場所まで堕ちるのを拒んだんだ。姉御の中の闇を視る事を嫌がって、自分も闇を持つ事を良しとしなかった。お前は、姉御を拒絶したって事さ」

「拒絶って、そこまでは」

「した。お前は、した」

 同じ意見を持つオレが言うのだ。

 姉御と同じ闇を持つ、オレが言うのだ。

「お前は、常識に生きる事を拒絶したオレ達を、常識側からまた拒絶したんだ」

 月弥は沈黙し、俯いて吐息を零す。悲しげに。

「僕は、もう燐さんに会わない方が良いのかな……」

「オレは、そう思う。けどまあ、最後に決めるのはお前だよ。姉御を追っかけるのも、眼を閉じるのも」

 数秒、夜の道は静けさを取り戻し、

「僕は……もう少し、燐さんと向かい合いたいかな」

「そっか」

 笑って、やたら高い所にある月弥の肩を抱く。

「けどな、素面であんな台詞を言える男だよ、お前は。オレは尊敬するぜ、そういうの」

「ああ、ありがとう……」

「大丈夫だ。姉御だってお前だって、まだまだ若いんだからな」

 中学時代、妙に大人っぽく見えてたらしいオレは、今まで恋愛相談を男女共に幾つも受けてきたが――――こんなに真面目に考えるのは、初めてだ。

 

■■■

 

 月弥とアパートまで来て、オレは今まで忘れていた、出来れば思い出さなかった方が幸せだったっぽい命に関わる緊急事態を思い出した。

 アパートの二階に灯る、美奈家の灯り。

「たーこーやーきーっ!?」

 突然頭を抱えて叫んだオレを見て、月弥はちょっと引く。

「な、なにそれ?」

「うわあ、月弥ぁ! オレの事を助けて下さいましぃぃぃ!」

 テンションは急上昇。レッドゾーンを突破。気分的には両手両脚縛られて三秒後にセットされた時限爆弾を見ている気分だ。

 最も天国に近い気分、つまり最も高い気分、最高という事である。上下逆さまに。

「オレの事を三時間前に戻して〜! そして、オレにたこ焼きパーティーさせてくれぇ……!」

「血反吐を吐きそうな声で言うような事じゃない気がするけど、なんでそんな事を?」

「答えましょう!」

 ズビシと美奈家を指差して、

「美奈さんにたこ焼き買って来るから待っててって言われたのぉ!」

 あの約束からすでに三時間。

 どんな悲劇が待っているかは悲恋物と告知がされている恋愛映画を見るより明らかで、十五禁のグロ映画を見るよりも恐ろしい。

 月弥も、墓前で手を合わせるような神妙なツラしてやがる。

「燕君……頑張って」

「お前それが相談乗ってやったジェントルマンに言うべき台詞かぁ!?」

「う、ううん……。解った、僕も一緒に行くから……」

 おお、心の友よ――――死ぬ時はお前を先に生贄にしておくからな。

 クールな悪役を目指すオレは、にっこりと笑う。

 

 で、美奈家の前。

 やけに鼓動が大きく聞こえ、体中の神経が鋭敏になるのが解る。この感覚は、先程の蜘蛛と対峙した時に似てそれよりも鋭い。

 『デンジャー』――――心の中で、非常灯がくるくると回転していた。

「美奈、さぁん……?」

 ドアに触るようにノックして、蚊のはばたきのような小声でその人を呼んだら――――どったん、という凄まじい踏み込みの音についで、蹴り破る勢いでドアがこっちにオープン。

「うわおっ!?」

「がばふっ!?」

 なんと言う死地だ。この攻撃をかわしきれず、早くも月弥が流血。鼻血だ。

「あ、あっぶねぇ……」

 どきどき高鳴ってる心臓をオレが押さえ、がっしと頭を誰かが掴んだ。

「ツ・バ・メぇ……?」

「は、はぁい……じぇ、ジェントル燕、でぇっす……」

 見れば、美奈さんがにっこりと、にっこりと笑っている。顔の筋肉の状態だけで判断すれば、であるが。

「ツバメぇ、お姉さんが言った事ぉ、覚えてるぅ?」

「は、はひっ! 覚えていますっ、サー!」

 喉はカラカラのくせに、額には汗が浮かんでくる人体の神秘を堪能しつつ、美奈さんの笑顔らしき怒り顔を直視する。

 すっげー勢いで帰りたい。

「じゃあ、なんでぇ……」

 すぅ、と美奈さんは大きく息を吸って、

「なんで帰ってきたら家にいないのよバカァアアアアッ!!」

 心地良い脱力感が襲う。ああ、このまま倒れたら幸せだろうなぁ、と思いつつ、恐る恐る意識を立て直す。

 そしたら、美奈さんが急にしゅんとなった。

「バカぁ……あんまり遅いから、食べちゃったじゃない」

「は……?」

 むぅ、と恨めしそうに見上げてくる美奈さんは、室内を指差す。

 そこには、女の子座りして耳を塞いでる紗枝ちゃんと――――

「空パックの、山?」

 まあ、そこまでオーバーじゃなくとも小山とは言えるだろう。

 ひーふーみー……数えたら、十五パックくらいある。

 もしや、あれが全部たこ焼きだったのだろうか。だとしたら、それを二人で食べた事になる。

 果たして、あのちっこい紗枝ちゃんの体にどれぐらいのたこ焼きが入るのだ。

 という事はつまり――――逆算してみると恐ろしい結論に達するっぽい。

「うぅ……」

 美奈さんは、ちょっぴり涙ぐんでオレを見上げ、

「太ったら、責任……取って貰うから……」

「は、はい。解りました」

 後から知った話――――美奈さんは、たこ焼きを目の前にしての「待て」が大の苦手らしく、その場に存在する分のたこ焼きは、全て食い尽くそうとするのだそうな。

「そ、それにぃ……」

 まだ、何かあるのだろうか。

「せっかくのパーティーがぁ……ツバメの引っ越し祝いと入学式も兼ねてと思ったのにぃ」

「おお……」

 何だかんだで忙しい人だが、やっぱり基本は滅茶苦茶優しいお姉さんなのである。

「そうですなぁ、じゃあ……今度は皆で花見でもしましょか?」

 そう言うと、ようやくドアクラッシュから立ち直った月弥が顔を覗かせて、

「そ、そういう事だったら、僕の家の庭を貸し出せますよ。ソメイヨシノが五本くらいあって、丁度、今週末が見頃だと思います」

 そういえば、さっき見たのは月弥の家だったのか。街中にあんなでかい家とは、実は金持ちなのかこの男。

 友達になって良かった。心底そう頷きながら、

「つーわけで、美奈さんも紗枝ちゃんも、どうよ、花見?」

 ついでに、場所提供者の月弥のために、姉御も誘おう。そうしよう。

 

■■■

 

 その翌日、入学直後の一年生にして、三年からの食事のお誘いを受けると言う離れ業をなし、オレは屋上にいた。

 もちろん、誘った三年とは水掛月弥その人だ。

 ちらほらと人が見える屋上の内、誰もいないスペースに腰を下ろし、月弥はいきなり溜息。どうやら、先日の姉御がまだ後を引いているらしい。

「まあまあ、元気だしなさいな。なるようにしかならんもんですよ?」

「そう言われれば、そうなんだけどね」

 簡単に納得できないのが人心というものか。

「とりあえず、飯でも食べましょ」

 空腹では気も滅入るばかりだ。そう思って購買で買ってきた菓子パンを拡げる。

 ジュース以外の全てが月弥先輩の奢りなのだが、これは誘った方が持つべき財布なので遠慮しない。相手が女性ならまた別だが。

「燕君」

「んぁ?」

 メロンパンをもふもふと食べながら見ると、月弥はやや赤い顔で、

「今日も燐さんに会いに行くのかな?」

 なんて可愛い事を聞いてきた。

「んぐ……、行くよ。修行つけて貰わないといけないし」

「そうかぁ……」

 羨ましいんだろーなー、と思いつつ、野菜ジュースを一口。

「ま、月弥。お前が“こっち側”に来るって言うんなら、いつでも会えるんだぜ」

 予想通りというか何と言うか、月弥の返事は、即座に首を横に振るもので、オレの呆れた溜息を誘う。

「じゃ、諦めろ。姉御の生きてる世界を許容出来ないようじゃ、お前にゃ無理だって」

「そうかな……」

 ――――少なくとも、オレはそう確信している。

 と、若干ブルーな二人の目の前に愛らしいスズメがやってきて、チチッとさえずった。

 人を怖がる素振りも、パンを狙う様子もない。そして何より、このスズメはどうやらすでに死んでいるらしい。

 死霊だ。

 そう言えば、巫士の使う術は、昆虫だけじゃなく小動物も操れたっけか。

「誰だ、テメェ?」

 スズメの死霊に問えば、スズメは声を整えるようにさえずって、

『わたジ……チッ、チチッ……ワタシ、は……土蜘蛛呪法会の……代表……』

 ほう――――いきなりすっ飛んだ展開になってきましたな。

『君達と、交渉が、したい』

 オレと月弥は、互いの顔を見合わせて一拍、月弥がどうぞ、とオレに手を差し出す。

 では、オレから。

「ふざけてんじゃねぇぞテメェ。こちとらテメェらの手下の昆虫に、ガリバーも真っ青の体験させられてんだぞ?」

『いや、それは申し訳ない。だが、真田希一は我々“会”の意志に逆らった人間で、暴走の結果だと理解して貰いたい』

 今度はオレが、ポッキーパンをマイクに見立て、月弥に差し出す。

「では僕の方は? 僕を襲っていたあの昆虫達は、あなた方の差し金だと聞きましたが?」

『それは、事実だ。ただ、殺すつもりはなかった。我々の同志になって貰いたくてね』

 スズメは相変わらず普通の小鳥の動作をして、首を傾げる。

 悔しいが可愛い。

「同志ってのは、一体なんだ? 交渉もそれか?」

『ああ、そうだ。土蜘蛛の一派の我々は、略奪された土地、この国を取り戻したい』

 リアルにそんな馬鹿げた事を考えてるのか、こいつらは。目の当たりにすると頭痛がする。

『勘違いして貰いたくないが、別に政府を倒そうという訳ではない。我々の目的は、陰陽寮の壊滅。つまりは天皇(みかど)の首だ』

「天皇?」

 月弥が、理解し難い顔でオウム返し。

「あー、月弥。こいつが言ってる天皇ってのは、テレビに映ってる表向きのマスコットじゃなくて、本物の天皇……ま、平たく言えば、本物の神様だ」

「え、いるの、そんなの?」

 いるいる。なんて頷いたら、月弥は何だか難しい顔をして小首を傾げだす。

 まあ、基本的に常識人の彼には色々と思う所があるのだろう。

「まあ、月弥は置いといて。天皇の首ねぇ……諦めろ、いまだに天皇の力は強大だって話だぜ」

 現代社会になって表側に出て来れなくなったが、それでも一つの軍隊くらいは相手どれると聞く。

 オレみたいな能力者が化け物なら、そんなのは太陽みたいなもんである。

『解っている。何も一度で倒そうとも思わない。我々は最低でも、全国の土蜘蛛に……今でもまだ仲間がいると、そう教える事をする。そして、陰陽寮の実力がどれほどかを計り、今後の活動に使って貰う』

「テメェ、玉砕主義か。神風特攻隊か。でもアンチ天皇主義なんだな。惜しい」

 そんな未来のない組織にゃ絶対に入りたくない。

『まあ、何も玉砕はするつもりはないが……やはり、いくらかの犠牲は払う事になるだろう。その時は、まあ私からか……』

「なるほど? つまり、戦力が欲しいわけだ。そのために月弥をさらって利用しようとして、今はオレとセットで手に入れようってわけだ」

 しかも、今までとは違って正々堂々と、だ。

「オレは土蜘蛛につく気はねぇ。天皇様万歳だクソ野郎。会った事もないけど」

「僕もだ。あ、天皇様万歳はちょっと……」

 頷いて、スズメを引っ掴む。

「テメェ、これから何する気だ?」

 今の今まで、この街で目立たないようにしてきた組織が、この春から妙に尻尾を出している。そのおかげで、真田希一から土蜘蛛呪法会に行き着いたわけだが、逆を言えば、それだけ組織がまとまって動き出しているのだ。

「なんかデカイ事、やる気だな?」

『それは、お楽しみかな。私達の同志にならなかったという事は、君達も敵だ』

 掴んでいたスズメが、スイッチが切れたように動作を止め、ぼろぼろと羽と肉が崩れて骨だけになる。

 この通信機は、三秒後に自動的に消滅するってノリか、この野郎。

「灰は灰に、ってか? ここは日本だぜ、アーメン風はやめろっつの」

 汚れた手を払って、立ち上がる。

 昼食も途中ではあるが、急用が出来てしまった。

「さあて、急病な仮病使って、姉御んとこ行くかぁ」

 何だか頭が痛くなってきたのは、本当だ。

 

 不安調査課のオフィスにつくと、やっぱり姉御一人。

 ただし、その姉御は机に長い美脚を置いて漫画本を読んでいる。これで読んでいるのが新聞とかなら、腕利きの美人探偵とかタイトルをつけてあげたい。行く先々で事件が起こる辺り、素質充分だと思う。

「お? 燕、どうした? まだ昼間……ははぁん、サボッたな?」

 にやりと笑う姉御。いやまあ、事実は事実なのだが、大義名分があるので問題はないと信じたい。

「で、どうかしたのか?」

「うぃ、ちょっと問題が……土蜘蛛呪法会が」

 じりりりん。

 絶妙なタイミングで、デスクの上の黒電話が鳴りやがった。ていうか、今時まだ黒電話なのか。

 姉御は片手でオレを押さえて受話器を取り、二言三言。麗しいお顔が険しくなってしまった。

「解った。あの登山道の所だな。すぐに向かう」

 姉御は受話器を置いて、ロッカーの中からコートを取り出す。

「で、何だって、燕?」

「土蜘蛛呪法会からメッセージがあって、何かデカイ事やる気配があった。そっちは?」

 姉御は舌打ちをして、制服のままのオレを見てさらに舌打ち。

「また、蟲ですな?」

「ああ。登山道を通りかかった哀れな民間人から、医者を通しての通報だ」

 姉御は黒いリボルバー、オレにとって愛しで憧れのM19コンバットマグナムを放った。

「登山道にデカくて気持ち悪い蟲が数匹いるんだとよ」

 この秋瀬市に来てから、つくづく蟲運が悪い。

 リボルバーを受け取り、弾倉をチェック。

「オレ、仕事着じゃないとちょっとまずいんですが?」

「解ってる。お前のアパートに寄ってから、登山道に直行だ」

「助かりますわ」

 しかし、仮にも一組織のデカイ事がたかだか数匹だろうか。

 そっちに陽動しておいて、別な場所で何かをする可能性だってある。

 それを姉御に聞こうとしたら、

「おい流暗」

 ガドンとか音を立てて、姉御は自分用じゃないロッカーを叩く。

 はて、一体何をしているのか。

「あたしはこれからバイト君を連れて西瀬山の登山道に行って来る。留守番(バックアップ)頼んだぞ、起きろ」

「えっと……姉御?」

 姉御はコートをひるがえし、颯爽とドアへと向かう。

 まさかとは思うが――――あの起立用棺桶みたいなロッカーに、もう一人の退魔師が入ってる……とか?

 ガタコトと音を立てだしたロッカーが、果てしなく気になった。

 

 姉御の立派なバイクに二人乗りして、市内をオレのアパートへ。

 土蜘蛛とか陰陽寮とかクソ親父とか、なんか色々と思う所はあったが、今一番印象的なのは、姉御のウェストについてだ。

 普段から姉御はティーシャツなんで、細い細いとは思っていたが、ここまで細かったとは。

 腕はすんなりと回せるし、引き締まったお腹には筋肉はついているんだが、やっぱり柔らかい。ドキドキするくらい柔らかい。

 女性の体だ。

 根本的に、男とは違って闘争用には考えられていなかった体。

 複雑なものがある。

 こんな体を持つ人が、しかも元は一般人である人が、この世界でこうして戦っている。

 しかも、最も敵と近い距離で戦う事を得意とする拳打使いとして……。

「ははっ」

 おかしいなぁ――――そう思って、吐息を零す。

 オレは、こんな風に他人の生き方を考察するような嫌な奴だったっけ?

 苦笑をヘルメットに隠し、オレより高く、そして狭い背中を見つめる。

 モデルみたいに身長が高い姉御。

 けれど、筋肉がつき難い体質だった姉御。

 すげー美人な、姉御。

 クールな悪役にとって、そういう素敵なキャラは守ってあげなくちゃいけないと、昔っから決まっているのである。

 バイクは、道路から駐車場へと滑り込み、停車。

「よし、ついたぞ」

「サンキュ。着替えの最中に覗いちゃイヤですよ?」

 姉御は苦笑して、

「バカ言ってないでさっさと行ってこい」

 声に首肯を返し、出来るだけ素早い動作で跳躍、一気に二階の手すりに手をかける。

 霊力でもって身体能力を強化すると、これぐらいは出来るようになるのだ。

 ドアを開けて室内に入り、枕の中からリボルバーM686とウェストポーチ二つを取り出す。

 このウェストポーチに弾丸が入っていて、一つにつき三十六発、二つあわせて七十二発入っている。この弾数で片がつかなかった時は……どうしよう。

 この前の蜘蛛なんて、十八発ぶちこんでも元気だったのだ。

 制服を脱いで、いつものジーンズとティーシャツに着替えながら舌打ちをする。

 やっぱり、親父の言うとおりにした方が魔弾の威力は格段に上がるのだ。那須家に伝わる伝統の技は、侮れない。

 悔しいが、急に力が必要になってしまった今は、クソ親父の言う事を聞く事にする。何より、姉御に何かがあったら、今度こそ、オレは――――

「時間さえありゃ、大技も使えるんだがなぁ……」

 頭を掻いてクールダウン。

 こっちに来てから環境が急激に変わったせいか、地元にいた時には見られなかった変化が自分に見られる。

 特に、姉御のあの白い肌。

 雪女にも似たあの肌の色は、昔の真っ赤な記憶を思い出させて――――

「しっかりしろよ、那須燕……天下無敵のジェントルマンだろーが」

 その上、クールな悪役を目指す男。

 どんな時だって、上っ面は取り繕うものだ。

 ジャケットコートを羽織り、二つになったリボルバーを、指で回転させながらコートに突っ込む。

「うおぉ……最高に気持ち良い」

 リボルバーフリークには堪らない瞬間だ。

 さあ、表情も腹の中も整えたら、姉御に笑顔で挨拶しよう。

 

■■■

 

 姉御の腰に掴まってのドキドキのドライブも、登山道前の駐車場に入って終わりを告げる。

 そこは、あからさまに異様な雰囲気だった。恐らく、常人でも今のこの周辺には本能的に近寄らないだろう。

 やばいなー、と思いながら、最悪の予想を立てる。

「姉御、これって本当に数匹の気配?」

 姉御は、打撃用の手甲を手に着けながら、凛々しいお顔を厳しく引き締めて登山道を睨む。

 それが答え。

「通報者にわざと数匹の蟲を見せたって事ですかな?」

「ひょっとしたら、通報者も土蜘蛛だったかもな」

 なるほど、と頷いて、懐からM19を抜く。

 いつでも放てるように、弾丸に霊力と、殺意とをたっぷりと込めて――――流石にノリの軽いオレでも緊張しようと思っていたら、ノーテンキなケータイの着信音が鳴った。

「あ、やべ」

 しかもオレだ。

 慌ててポケットからケータイを出して、通話ボタンを押す。

「もしもしもしもし?」

『あ、燕君?』

 相手は月弥だ。一体なんだ、この良いシリアス場面に。

『そっち、大丈夫? なんか、山の方から妙な気配が……』

 こいつ、良い探知能力してやがる。

 オレは、姉御と二人で登山道の方を見て、同時に頬を掻いた。

『燕君? ちょっと、大丈夫?』

「今ん所は、平気だ。ばっちり元気。栄養ドリンクのCMに出られるくらいさ」

 そう、今の所は――――あと数十分後には天国の階段を這い上がってるかもしれんが。

『……もしかして、今、凄い危険な所にいる?』

「多分、この宇宙でも屈指の危険な場所にいるんだろうなぁ……」

 目の前には、

『だ、大丈夫なの?』

 一桁二桁、三桁はいるであろう虫ムシむし蟲、

「今ん所は、平気だ。ばっちり元気。栄養ドリンクのCMに出られるくらいさ。何なら、姉御と二人で出演しようか?」

 奴等は、物欲しそうにオレと姉御に熱視線を送ってくる。

 さぞ食いでのあるレア肉に見えるのだろう。

『ちょっ、燐さんもいるの!?』

 カマキリ、クモ、ムカデ、カエル、ヤモリにサソリ、後はよく解らない色んなモノ、その全部が一メートルサイズ。中にはそれよりでかいのまでいやがる始末だ。

 笑える。笑えすぎて笑い声もでない。

「ああ、姉御もいますよ……声、聞く?」

 流石に姉御も引き攣った顔で、自分のケータイを取り出す。

『そんな悠長な……僕も行くよ!』

 もうオレもパニック状態だが、とりあえずその一言には冷静だった。

「月弥のバカチン。お前は来んな」

『はぁ!?』

「お前が来ると、すげぇ迷惑だ」

 姉御も、どうやらもう一人の退魔師、常流流暗さんとやらに連絡しているっぽい。

『どうして、僕だって戦力になれる!』

「ああ、そうだな。けどな、駄目なんだわ」

 月弥は、平穏無事に生きたいと、オレ達に告げた。

 それはつまり、戦いとの決別。戦いの担い手ではなく、守られる平和の象徴への転化。

「お前が傷つくって事は、オレと姉御に、それ分の重荷になるんだよ。オレ等みたいなのにとって、守るべきモノってのが傷つくのが、一番辛いのよ」

 姉御は応援要請が済んだのか、ケータイをバイクに置く。持ってたら絶対に壊れるからね。

 その姉御を見て、一瞬、母さんの死に様がフラッシュバックした。

 

 ――――絶対に――――

 

「安心しろ、愛しの姉御はオレが守ってやっから」

 通話を切り、同じくバイクにケータイを置く。

 オーイエー。良い感じに、良い感じにテンションが急上昇。

 パワーゲージが五十パーセントから百パーセントに到達して、そのまま限界突破してしまう。

「行ったるぞ、姉御!」

 顔に、クールな悪役に相応しい不敵な笑みを選んで装着し、オレは駆け出した。

 

External storage

 

 灰香燐――――あたしは、秋瀬警察署にいる相棒の流暗に応援要請をして、ケータイをバイクに置く。

 唯一の連れの燕を見れば、燕も同じくバイクにケータイを置いて、眼つきと表情を変えた。

 一瞬、陽気だった表情は無表情へと堕ち、再び、不敵な笑みにすげ変わる。

 ――――その中間にあった無表情こそ、お前の素顔なのか。

 僅かな疑念。しかし、燕の眼つきにそれも忘れる。

 猛禽類に似た、獰猛さと冷静さを兼ね備えた鋭い眼。

 背筋が震えるほどの殺意が、そこには固形化して存在していた。

「行ったるぞ、姉御!」

 なのに、燕は陽気さの残る掛け声で突進。

 それで、完璧に思考が切り替わる。

 ただ、その直前に、

「燕、生きて帰ったら、お前に言わなきゃならない事があるんだ」

 小さく呟いて、色の白い自分の拳を握る。恐らくは、燕の母の仇に良く似た、自分の拳を。

 燕は聞こえていないのか、振り返りもしない。

 だから、あたしも――――真っ直ぐに駆け出した。

「“赤色欲す夏の一時(いっとき)、南に望む螢惑(けいごく)一歩(いっぽ)。礼徳宿りて飛ぶ鳥は、赤きし一神(いっしん)・神獣朱雀”」

 同じく突進を始めた昆虫達とかち合う前に、冷静に積み重ねるのは言霊。

「“汝が翼、汝が(くちばし)、汝が声。万事が鮮烈なりし赤き者よ”」

 告げる数は長く、それに比例して体が孕んでいく灼熱。

「“其の尊き火宝(かほう)を我が紅蓮とせん――――”」

 振りかぶった右腕に、対の翼が燃え出でた。

「“焔乃禽(ほむらのとり)!”」

 轟然と拳を放てば、拳が接触した蜘蛛が発火し――――その威力が突き抜けた背後に、炎で形を成された鳥がはばたいた。

 あたしが使える数少ない広範囲攻撃の内、最も威力の高い必殺技が、一気に十匹ほどの蟲を屠る。

 ただし、必要な詠唱が長く、一発で大量の霊力が食われるため、連射なんぞしたらすぐに戦えなくなってしまうが。

「ヒュウ♪ 姉御すっげー!」

「任せとけって」

 軽口を叩き、両手に炎をまとう。

 燕だけは――――なんとか、生きて返したい。出来れば、五体満足で。

 あたしの生死は、二の次だ。

 一気に押し潰そうとする昆虫達の隙間を、踊るように前に跳びながら、炎拳を叩き込んで一体一体を炎に包んでいく。

 その後ろから、

「姉御、百対二って事は、一人頭で五十匹ですな! 頑張りましょ!」

 陽気な大声を放ってくる少年。

 全く、大した精神力である。まだ両手の指で数えられるほどの実戦しか踏んでいないはずなのに。

 その上、ときおり打ち込まれる銃弾の威力――――見違えるような殺傷力だ。

 一発必殺(ワンショット・ワンキル)が理想的な銃撃であるとされるが、その一歩手前くらいだろうか。

 ただし――――

「リロード、援護が途絶えまっす!」

 六発しかないリボルバーの悲哀か。弾詰まりを起こさない事だけは安心だが、再装填に時間がかかる。

 その二人分の攻撃が途絶える瞬間に、牙が爪が毒針が、防波堤を破った水流のように殺到する。

「ちぃ……!」

 毒針だけは確実に回避して、他の攻撃はなるべく浅い傷でやり過ごす。

 が、数が違いすぎた。一瞬でティーシャツが真っ赤になった事に歯噛みし、ひたすら前に跳ぶ。

 立ち止まったら、次の瞬間に押し潰されて負けるのは目に見えている。

「燕、無事か!?」

 振り返ったら、

「テンメェ!」

 あたしに攻撃をくれた一匹の蜘蛛に蹴りを決めて跳躍してくる、元気な奴の姿。

 ただ、ティーシャツやジャケットコートがぼろぼろになっているのは同じだ。

「姉御の美肌に何しやがるこら!」

 続けて、リロードを終えたコンバットマグナムで後方に二発。前方に二発。

 やっぱり可笑しい奴だ。そして、おかしい奴だ。

 コメディ映画のような表情を作りながら、その眼だけが笑えない。本気の激怒の眼差し。

 何を考えているのかは、痛いほど良く解った。

「っらぁ!」

 雑念を振り払い、脇から襲い掛かってきたムカデを殴り飛ばす。

 今は、ただ戦おう。

 とりあえず、この蟲どもの奥へ行けば術者がいる可能性もあるんだから――――前へ。

 

■■■

 

 経った。

 経った。

 一体、あれから何分経った?

 覚えていない。

 腕が重い。脚が重い。瞼も重い。唇も重い。

 いや、そんな事よりも死ぬほど熱い。

 背中に背負った岩の感触が、氷のように冷たいくらいに体が熱い。

 喉が熱い。腕の脚の顔の腹の傷が、溶岩でも流れ出しているかと思えるほど熱い。

「つ、つばめ……?」

 背後、一抱えはある岩の反対側にいると思いたい人物に、掠れた声を投げかける。

「はぁ? なんでせうか、姉御や……」

 返ってきた声は、聞き逃しそうになるほど掠れながらも、まだ陽気さを保っていた。

「何匹? いや、何分……?」

「は、知らね……十分とか、そんぐらい……?」

 そうか、と息を呑んで、まだ十分なのかと額を拭う。

 火術を使いすぎた両の腕が、焼け付いた痛みを訴えてくる。

 一万回も敵を殴り続けたかと思ったが、あたしと燕を囲う敵の円は、まだまだ塵を思わせるような数だ。

 最初は三桁に見えた敵の数、実際は何匹いるのか教えて欲しい。

 その内に出てくるかと思った敵の呪術師の気配すら掴めず、この有様だ。

「姉御……増援、まだ? クールな悪役は、もう燃料切れ寸前ですが……?」

「もうちょっとだ」

 そうじゃなかったら、あたし達が死ぬ。

「お前、弾は?」

「弾切れ……あとは温存してたM686の六発オンリー」

 もぞもぞと遠巻きに動く蟲達。こっちが弱っているのが解っているのだろう。そして、このまま放っておいたら出血でさらに弱る事も。

 昆虫の分際で、半端に頭が良いのがこっちの頭にくる。

「くそったれ……」

 口の中の血反吐を吐き出す。

 一発貰った蜘蛛の体当たりのせいだ。内臓が少々傷ついたらしい。

 

 ――――やべぇ、マジで、死ぬ。

 

 だが、だけど、だったら……。

「燕、どうにかしたら、お前が逃げられるだけの時間、稼げるかな?」

 こいつだけは、生かして返したい。

 あたしのせいで、こんな場所にいるかもしれない燕だけは――――。

「無理。無理無理。モンキーがスーパーロボット操縦するぐらい無理。だってロボットねーもん」

 掠れた笑い声が、岩の向こうから返って来た。

「燕……」

「バッカな事言ってんじゃねぇですよ」

 燕は、荒い息を整えて、

「オレの精神鑑定、見たんでしょーが……。オレ、女を見殺しにできねぇんです」

 見えない場所で、陽気な笑みを刻んだ。

「なんでだ……」

 あまりに泰然とした答えに、解りきった問いかけが、口をついていた。

「はは、姉御、今パニクってますな? プロフィールにあったはずでしょ、オレが目の前で母親殺されてるってさ」

「だからって、なんで……異常だろ、お前……」

 そうですなぁ、なんて、ここが不安調査課のオフィスのように燕は呟く。

「人間ってほら、多機能過ぎるから、妙な故障が起こる時があるんですよ、きっと。オレは今、こうして血を流してる事が快感ですらあるんだなぁ……」

「っ――――!」

 思わず、岩の向こうの燕を振り返ろうとして犯した、致命的なミス。

 そんな隙を、大量の蟲の眼が見逃すはずがない。

 脇から一匹のカマキリが、コマ落としのように斬りかかる。

 回避は、間に合わない。

 なら、最悪でも相討ちに――――構えた拳と覚悟を、目の前に飛び込んだ人影が思い止まらせてくれた。

「づぅ……っ!」

 持っていたM686の銃身を一瞬の緩衝材に、燕の右腕の肉と骨が必殺の鎌を受け止めている。

「こっ、の!」

 燕の貫手が、カマキリの喉を貫通。絶命させる。

「姉御、油断大敵だぜぇ……?」

 燕は笑ってみせるが、もう痛覚すらないはずだ。

 改めて認識した燕の姿は血みどろ過ぎて、そんな事が理解出来る。

 唇が震えた。あたしの口から、罵声が、出ようとしている。

「馬鹿め……」

 それから、もう一度、馬鹿め、と言う。

「何言ってんすか。世の中のジェントルマンは、レディを助けるためだけに存在してんすよ」

 燕は笑い、蟲達に向けて徒手の構え。

 とことんまで、やる気なのか。

「そんな事、しなくて良いんだって……燕……」

 燕の肩を、焼け焦げた左手で掴む。

「も、止めてくれ……あたしなんか、守らなくて良いんだ……」

 嗚咽が、あたしの心を満たす。

「あたしは……。あたし……」

 言葉が、唇を空転させた。

 言うべき言葉を、言いたくない衝動が閉じ込めているのか。

 だってそうだ。これを、これを言えば――――

「姉御」

 そんなあたしの悩みなど、何も知らぬかのように、笑顔が振り返った。

「良いから。大丈夫っすから、下がってて良いですよ」

「っ――――」

 人目と体裁を気にしていた理性が、その笑顔の一言に吹っ飛んだ。

 我慢してたのに。

 こんな場所だっていうのに。

 あれだけ言うのが怖かったのに。

「違う……燕……お前の、」

 今は、もっと怖い衝動に堪えきれずに、唇が開いた。

「お前の母親を殺したのは――――あたしの、あたしのお母さんなんだよ」

「――――――――」

 くしゃりと、右手で前髪を掴む。

 もう、全てがどうでも良かった。

 生も、死も。

 右目に残る赤い記憶の日からずっと、生きていなければいけないと、自分に脅迫されてきた日々も。

 そうして生きて成すべき事だと考えていた事も。

 全て、全てが……。

 あまりにも――――あまりにも、目の前の犠牲者が、あたしには重過ぎる。

「ごめん……。ごめんな、燕……ごめん、なさい……」

 背中を向けたままのこの人は、何を考えているのか――――知りたくて、一番知りたくない答え。

 ただ、周囲の蟲が襲って来ない事、燕の視線の先の蟲達が後退している事が、問いかけの答えを物語っている。

 一生を捻じ曲げるほどに重い人の死の、その原因の娘がここにいる。

 あたしなら――――気が狂いそうな激情にかられていると、確信があった。

「姉御……」

 燕の声は、水のない海辺のように静かで、だからこそ恐ろしい。

 次の瞬間に放たれる言葉は、あたしに対する猛毒だろう。

 けれど、母を失った少年は、

 

「――――ごめんなさい――――」

 

 加害者の台詞を、呟いた。

「姉御はやっぱり、オレが生かして返すよ」

 振り返る少年は、飄々とした笑みを崩して、少年のように笑い、眼から涙を零す。

「ほんとに、ごめんなさい。オレのせいで、そんな悩ませて――――オレ、やっぱり悪役だね」

 そいつは、悪役とは程遠い赦しの台詞を吐いて、手に焔を宿した。

 あたしの教えた、火行の術。

「那須燕――――」

 ギリと、少年の歯を食い縛る音。

「推して参る――――」

 疾駆が、少年の体から解き放たれた。

 待て――――言おうとした唇が震えている。

 どうして、そう問えば、答えは簡単だ。

 赦して貰えた事が、泣き声が出るほど嬉しかった、せいだ……。

 もうあたしには――――何も――――出来ない。

 少年は、拳を振り上げたまま、蟲の群れに飲まれ、

 

「しばらく見ない間に、大人になったか?」

 

 誰かの一言と共に、蟲が吹っ飛んだ。

「っ――――?」

 燕が、声の来た方を素早く睨む。

 木々の合間。蟲と蟲の合間。針に糸を通す、という形容すら生温いほど細かな隙間の向こう。

 そこには、燕と良く似た――――燕の肉親としか思えないくらい良く似た男が、静かに和弓を構えている。

「クソ、親父」

 少年の呟きが、彼の存在を指す。

 資料で見知っている。燕の父親、那須鷹士。

 つまりは、あたしのお母さんが、妻の仇に当たる人物で――――。

「そちらのお嬢さんもご無事そうで良かった。灰香君、だったかな? いや、愚息が世話になっているようで」

 告げながら、熟練を匂わせる退魔師の指先は、次々に矢を四方に放つ。

 放たれた矢は、蟲を炎で蹴散らし、両断し、氷らせ……ありとあらゆる力で粉砕していく。

 強い――――呆けていると、燕が詰まらなそうに、あたしの傍に来て座り込んだ。

「くっだらねぇ……。姉御、最初っから今回の事件、陰陽寮は探知してたんじゃないすか」

「は……? いや、そう……みたい、だな?」

 見れば、那須鷹士の周囲にも退魔師の姿。砲台たる彼をサポートするチームのようだ。

 あちこちの気配を探れば、他にも退魔師が戦っている脈動。

 常に人員不足の陰陽寮の退魔師が、こんなに一ヶ所に集まるはずがない。あるとすればそれは、本部が関与している時だけ。

「……あの時からか?」

 頭に浮かぶのは、水掛月弥が襲われる事を本部の先見が察知した時。

 些末事を感知しない大雑把な先見が、いやに小さな事件を報告してくると思った。

「あ〜、損しましたなぁ。寿命が十年は縮んだよ、絶対」

 疲れ果てた顔で、燕は岩にもたれながらぶーたれる。

「もっと早く助けに来いっつんだよ、姉御がぼろぼろじゃん」

「いや、あたしは傷自体は浅いから。どっちかっていうと、お前が……」

 燕は、自分の服を破って右腕に止血を施す。抉られた腕からは、何か色々な物が飛び出していて痛々しい。

「平気か……?」

「んー、感覚がない。けど、この前もこれぐらいから治ったから」

 痛みは恐らく脳内麻薬が抑えているのだろう。それはあたしの方もそうだ。

「ま、怪我の事は良いですよ。それよりも、早く病院に行けるかどうか――――」

 燕の言葉は、あらかた片付いた蟲達の群れの向こう、小高くなった丘の上に吸い込まれて消える。

 あたしも、燕の父親も、他の退魔師も、その方角を向き、“奴等”と対峙した。

 十二、いや十三人。丘の上に立つ、呪術師の姿。そして、明らかに他の蟲とは違う、二メートルサイズの大蜘蛛が、一匹。

 奴等は、大きく息を吸ったかと思うと、声を揃えて、

『我等土蜘蛛呪法会、本日この場で、陰陽寮に弓引く者なり――――!!』

 怒号に近い咆哮。

 あたしは、自分の顔が引き攣るのを感じた。

 あの程度、陰陽寮の退魔師が揃えばなんて事はないだろう。問題は、燕の出血だ。

 時間が経つのは、歓迎できない状態である。

「姉御、退魔師、何人いる?」

「あたしとお前を抜かして六人……」

 逃げ切れるかどうか、微妙な所だ。ならいっそ、戦って終わらせるべきか。

 何か作戦を――――が、そんな事、敵が待つ理由はどこにもない。

 奴等は、一斉に動き出した。

 そりゃそうだ。あたしでもそうする。

 あたしと燕の方には、一人と一匹の敵。呪術師はその身に何か昆虫の死霊を憑依させているらしく、動きが昆虫のように異常で、鋭い。

 大蜘蛛の方は言わずともがな、生理的悪寒を覚える八本脚で、猛然と突進を仕掛けてくる。

「ちっ!」

 舌打ちをして、腕に火をまとわせて構えを取る。

 ――――他の退魔師が来るまで、一体、何分間耐えれば良い?

 呪術師が放った貫手を手甲で受けつつ下がり、蜘蛛の突進を避ける。

 反撃する暇なんて、ない。

 だが、この防戦も体力が削られた状態でいつまで――――視界の隅から飛び出した燕の拳が、大蜘蛛を頭上からぶん殴った。

「バッ、燕! お前無理すんな!」

「男一匹、那須燕、舐めんな!」

 続く回し蹴りを、大蜘蛛は受け止める。

「君こそ、我々を舐めるな」

「その声……っ」

 燕は、右腕をだらりと下げたままバックステップ。

 視線をさらに鋭く、猛禽のそれにして、怨念を共鳴させた声で、

「テメェ、代表を名乗ってた野郎だな……」

 囁いた。

 

Internal storage

 

「テメェ、代表を名乗ってた野郎だな……」

 那須燕は――――つまりオレは、姉御をあんな血塗れにした元凶を睨み、しかし薄く笑う。

 流石は土蜘蛛を名乗るだけある。

 長年の怨念の結晶か。土蜘蛛と蔑まれ続けた人間が、事実、大蜘蛛になる呪い。

 歴史上、そんな本物が何人も出ていた伝承を思い出す。

 人間だけど、人間じゃない――――丁度良い。

 さっきの姉御の一言で眼を覚ました、やり場のない(くら)い思考が、オレの中の闇が、行き場を求めて感情を焦がしている。

「燕君。君が我々に協力してくれない事は非常に遺憾だ」

 いつもは消火するその闇の炎を、今日は消さない。

「本来なら、君のように陰陽寮に完全に属さない者は殺したくはないのだが」

 消す必要がないから。

 目の前のこいつなら、どんな風にしても文句は言われない。

 そして、ここには美奈さんはいない。紗枝ちゃんもいない。大枝さんもいない。

 姉御がいるが、まあ、もう一人の呪術師の相手で忙しそうだ。

「残念だよ、燕君」

 狂った自分の、狂った想いが――――自殺を促す狂った衝動を加速させる。

「ハン……言いたい事は、それだけか?」

 ぎちぎち。吊りあがる唇が、そんな不気味な音を立てた錯覚。

 もう、何もかもが関係ない。

「テメェは殺す。オレが殺す」

 それは、

「オレが、オレを殺す代わりに――――オレが、テメェを殺す」

 贖罪の羊の、選定作業。

 炎の灯った左腕を振り上げ、轟然と突進する。

 対する大蜘蛛は、その野太い腕を振り上げ、

「シュッ!」

 鋭い呼気と共に振り下ろす。

 当たったら一撃でもまずい。刹那のタイミングで跳躍し、蜘蛛の背に着地する。体の前面が肩から胸下までばっくりと裂け、ただでさえ残り少ない赤いモノが噴出した。

 だが、そんな事など蚊に血を吸われたのと同義だ。

 今はただ、焼ける左腕を振り上げ、轟然と、

「はっ――――!」

 振り下ろす。

 肉の、焦げる、匂い。

 嫌な臭いなのに喜びをもたらすその香りを嗅ぎながら、体の状態を把握する。

 体の疲労は限界。出血は寒気を覚えるほど。喉は焼け付くように熱く、呼吸は停止している気分だ。つまりは、死んだ気になれるほどボロボロ――――ならいっそ、全てを止めてしまえ。

 息を吸う事をやめ、怨敵の頭に腹に脚に炎打を振り下ろす。

「はっ、はははははははははははっ!!」

 自殺を走りだせば哄笑が(はし)りだす。

 楽しい。苦しい。

 楽しい。苦しい。

 酷くタノシイ。酷くクルシイ。

 久しぶりだ。

 世界に自分を合わせる擬態を解くのは、本当に久しぶりだ。

 まるで世界に新たに自分が生まれた気分。

 天国寸前だと思えるほどに昂ぶる精神のまま、土蜘蛛を打力で地面に押し付ける。

「さあ、さあ、さあさあさあさあ! どうした土蜘蛛さんよぉ!!」

 それでもなお蜘蛛を叩く。叩く。叩く。叩く。

 殺す。完璧に殺す。確かめる必要もないほどに殺す。

 その内、蜘蛛の骨格が軋んだ音を立てだして、そろそろ潰れたいと言い出した。

 オーケー、好きに潰れろ。

 蜘蛛を踏みつけ、蜘蛛の頭上に舞う――――そして、

「死ね」

 全力と全重量を持っての、豪打。

 蜘蛛の全体が燃え上がり、絶命する蜘蛛がそうであるように、土蜘蛛は脚を丸めて鳴き声をあげた。

「――――――――あっ、は……!」

 失神しそうな激痛に、ようやく肺がまともに呼吸。切れた吐息を一つ、違和感に左手を見れば、素手で殴り続けた拳が壊れている。

 まあ、当然だろう。そう思い、姉御を探す。

 オレは大丈夫だったのだ。あちこちボロボロだが気分も爽快、じゃあ、姉御はどこだ。

「姉御……?」

 叫ぼうと思ったが、さっきの馬鹿笑いで喉がとうとうオシャカになったらしい。完全に声が潰れている。

「姉御ぉ……」

 無事だろうか。

 それとも、そうでないのだろうか。

 後者だった場合、オレはどうするのだろうか。

 だが、全ては杞憂だった。

「よう、燕……そっちも無事だったか」

「姉御……」

 姉御は、疲れた顔で、いつも通りに笑ってくれている。

 脚の下には、焼け焦げた呪術師の姿。

 良かった――――親指を立てて笑って――――

「あ……」

 後ろから誰かに刺された。

 脇腹には、何かの毛深い腕。

「お、ぁ……が……」

 膝から力が、頭から思考が急激に失われる。

 何が何で何をどうしてどうなったのか。

 意味不明、回答不明の思いが世界を占める。

「燕!? お前……!」

 膝を突いて倒れた視界には、両腕に炎をまとった姉御と、馬鹿げたでかさの土蜘蛛。

 殺し損なった――――随分昔の事のような感想が頭に浮かぶ。

「ぁ、ねご……」

 ――――助けなきゃ。

 地面に爪を立てる。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、何がなんだかもう解らないけれど、助けなくちゃいけない。

 ――――助けるんだ。

 立ち上がろうとしたら、脇腹から熱が吹き出て動けなかった。

 ――――助けろよ。

 体が、四肢の末端から冷たい。

 ――――助けて。

 地面を引っ掻いて、いつの間にか泣いていた。

 動かない体。動けない体。

 なんでこの程度で――――歯噛みする事にすら、力が出ない。

「あね……ご」

 ――――助けるんだ。オレが助けるんだ。

 お母さんを助けられなかった分、オレが助けなくちゃいけないんだ――――!

 対峙する蜘蛛と姉御。

 信じられないくらいに何も出来ないオレの視界で、その両者の勝負は、閃光の一矢――――飛来した“魔弾”によって、決着をつけられた。

「あ…………」

 それは、確認するまでもなく――――オレが、世界で一番嫌いな男が放った、一撃だった。

 

■■■

 

 それから三日後の金曜日。

 ようやく、病院のベッドから解放された那須燕ことオレは、元気に花見用の買出しに走っていた。

 なにしろ六人分の食料だ。レディの細腕には任せられない。

「とはいえ、まだちょっと腕が痛みますな……」

 袖をまくった右腕の前腕、大きな二本の傷跡は、二度の両断に耐えた証だ。陰陽寮の専属医師に治して貰ったのだが、骨が伸びる時のような痛みがある。

 まあ、酒が入れば忘れるだろう。

 軽い気持ちで、春の晴天を見上げてみた。

 地平の彼方まで続く青いガラスの傍を、桜の花びらを絡めた風が――――いつか、誰かと見た風景を、知らずに思う。

「燕」

 不意に届く、凛々しい女性の声。

 見れば、水掛家の門にもたれた姉御が、身を起こしてゆっくりとこちらに歩いてくる。

「怪我、平気か?」

「姉御こそ、お肌の手入れしてますか?」

 ――――結局、土蜘蛛呪法会の蜂起はあっさりと片付いて、この街も、陰陽寮も、何一つ変わらない日々を送るばかりだ。

 土蜘蛛呪法会の本部は、数人の退魔師の強襲で壊滅し、その場にいた呪術師は全て……あえて語るべき事でもないか。

 命を奪おうとした者の、それ相応の代償として当然の結果だ。

 ともかく、土蜘蛛呪法会の代表を名乗った男を中心に、この街の土蜘蛛は一掃された。食べ残しがあるかどうかは流石に解らないが、解る必要もないのだという。

 曰く、あの程度の事件なら年に数回はある。

 クソ親父が偉そうに言っていた台詞。だから、陰陽寮なんて時代遅れの組織が今もって存在し続けている。

 問題は敵の残存ではなく、味方の残存。

 結果を見れば、今回の陰陽寮は、一切の損害なしに組織を一つ壊滅させた事になる。これは敵対組織には大きな脅威になるだろう。

 まあ、結果として、オレのするべき事は何も変わらず、明日も明日でおっかなびっくり生きていくだけ。

 目下、オレの焦点は明日の朝飯より今の姉御にロックオンだが。

「姉御、なんで入っていかないんすか?」

「ああ、ちょっと知り合いが少なかったしな。お前を待ってた」

 姉御って、意外と人見知りする人なのか。

「じゃあ、一緒に参りましょ。エスコートしますよ」

「助かるよ。けど、その前に……」

 姉御は、ポケットから黒金の物質――――春のうららかさに見合わない、リボルバーを取り出した。

「うわぁ、姉御、何を物騒な物を?」

「いや、お前の銃、壊れただろ? 代わりが必要だと思ってな」

 ――――マジっすか!?

 びっくりして姉御を見上げれば、姉御は微苦笑して、

「それにほら、あたしはこれ使わないし……お前にちょっと負い目もあるしな」

「ふぅん?」

 なんだか、また気を使わせたみたいで申し訳ない。

 とりあえず、姉御のM19は喉から血反吐を出すほど欲しかったので、有難く頂戴する。

「でもさ、姉御」

 ぴたりと、姉御の眉間に狙点を合わせ、発砲の素振り。

「姉御の事情は良く知らないし、聞く気もないけど……オレは、姉御の事を恨むなんて絶対しないと思いますよ」

 悪いのはそう、姉御なんかじゃないんだから。

 ぽん、と姉御の肩を叩き、笑みをこさえる。

「まあ、気にしすぎは良くないからさ、楽に行こうぜ、姉御」

「ああ……ありがとう」

 姉御は少しだけ寂しそうに笑って、オレの右腕を取った。

「傷、残っちまったな……」

「そうっすね。まあ、勲章ですよ、勲章」

 この傷の数だけ、オレは女性を守った事実。

 この傷の数だけ、オレは自分の咎を赦せる錯覚。

 それに何より、

「姉御、美女はジェントルマンに守られる義務があるもんですって」

 世界は、そういう優しさで回したい。

「さ、花見しましょ。大丈夫、紗枝ちゃんも大枝さんも、美奈さんも良い人だよ」

「ん、そうだな。でも、その前にもうちょっと」

 姉御はオレの手を取ったまま、いつも通りの大人の微笑みを浮かべ、それから、子供のように笑った。

「お前が赦してくれて、凄い嬉しかった。――――ありがとう」

 感謝には、姉御の唇がオマケについてきた。

 額に残る柔らかい感触に、頬が緩むのを自覚しつつ、オレは丁寧な一礼を一つ。

 片手を姉御に差し出し、姉御はその手をそっと取る。

 

 ――――お母さん。

 今度も、人一人、守る事が出来たみたいです。

 ごめんなさい。

 貴女を、守って上げられない、親不孝な息子で……。

 代わりと言っては何ですが、これからも、紳士的にクールな悪役、目指してみようと思っています。

 それから――――貴女の仇の肉親が見つかりました。

 彼女を赦す事で、自分の傷を軽くしたいと思うのですが、貴女は今、そこで何を考えているのかなぁ――――

 

 追伸。

 今年も、桜が綺麗に咲いています。

 


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