特別解説
ペイオフ凍結一部解除への対処策
秀明大学教授 楠本  博

1 ペイオフ凍結一部解除後の金融情勢
 本年4月1日より、預金受入れを行う金融機関が破綻した場合でも預金の金額の支払を保証するという特別措置の一部が廃止されて、金融機関が破綻してペイオフ処理となった場合に定期性預金については1,000万円とその利息だけが支払保証の対象になるという、いわゆるペイオフ凍結(特別措置)一部解除が実行に移された。一方流動性預金については、金融機関が破綻しても来年3月末までは全額の支払が保証されるという特別措置が維持されることになった。
 預金保険による支払保証の具体的な内容は次の通りである。本年4月1日からは、1金融機関で1預金者当り、元本1千万円とその利息について、定期預金・貯蓄預金・定期積金・納税準備預金・元本補てん契約のある金銭信託・保護預かり専用の金融債の定期性預金の支払が保証される、来年4月1日からは、それまで全額の支払が保証される流動性預金(普通預金・当座預金・別段預金)についても、上記の定期性預金と同じように預金の支払が保証される、その他の金融機関が取扱う金融商品、すなわち元本補てん契約のない金銭信託・外国銀行の在日支店の預金・日本の金融機関の外貨預金・金融機関が保護預かりする国債・金融債以外の社債については支払が保証されない、特に本年3月末までは支払保証されていた、元本補てん契約のない金銭信託と日本の金融機関の外貨預金の支払が保証されなくなった、来年4月1日からは、定期性預金と流動性預金を合算して満期の短い預金について、1金融機関1預金者に対して元本1,000万円とその利息の支払が保証されるにとどまることになる。
 こうしたペイオフ凍結解除は、本来なら昨年4月1日から実施される予定であった。しかし定期性預金については1年、流動性預金については2年延期されたのは、金融機関の不良債権処理が極めて不透明であったこと、ペイオフ凍結解除の必要条件である金融機関の1預金者に関する名寄せシステムが整っていなかったこと、信用金庫や信用組合など協同組織金融機関に対する検査が実施されていなかったこと、ペイオフ凍結解除による影響が地方公共団体・中小企業・中小金融機関・個人預金者に強く表われると予想されたことに基づいている。そして1年経った現在、こうした事情の数多くに進展は見られたものの、不良債権処理の遅れと不透明による金融不安の種がくすぶっているにもかかわらず、ペイオフ凍結解除にあえてふみ切ったのは次の事情に基づいている。すなわち厳格な金融検査により淘汰されるべき金融機関の整理や立直しに目途がついたこと、不良債権処理を早急に進め、ペイオフ凍結の再延期を回避するのが国際社会での公約であったこと、金融機関と預金者のモラルハザードを打破して、各々の自己責任体制を早急に築く必要があったこと、再延期は金融機関の健全化努力を先送りするだけでなく、却って金融不安を助長すると予想されたことなどである。
 こうしたペイオフ凍結一部解除の実施が明らかになって以降、法人・個人の預金者を中心とする金融の動きに顕著な特徴が見られるようになった。例えば定期預金から普通預金への移動が顕著になった。日本銀行の統計月報によると、本年2月末の普通預金と当座預金の合計残高は対前年同月比3兆1千億円の増加となったのに対し、定期預金と定期積金の合計残高が3兆円の減少となった。この傾向は本年3月中も着実に続いている。特に1千万円を超える大口定期預金の減少が大幅で、来年3月まで全額の支払保証が行われる普通預金への分散預入が顕著である。
 またこうした普通預金への分散預入は大手都市銀行で顕著である。報道によれば三井住友・UFJ・東京三菱・第一勧業・富士の流動性預金は昨年2月比11兆円の増加で、本年2月時点で43兆円となった。一方で1千万円を超える大口定期預金が約4兆円減少するというすさまじさであった。こうした動きのうしろには、上記流動性預金の全額支払保証のほかに大手金融機関はペイオフ処理されることはないという、〓too big to fail〓のモラルハザードがあるといえよう。
 次に国債や地方債に投資する動きも拡大している。こうした債券は安全性が高いので、1,000万円を超える定期預金の残高がシフトする対象としては絶好の金融商品となった。国債は金利変動の影響の少い短期の国債が選好され、また当局もこれに合わせて個人向けに国債を発行し、金融機関の窓口で積極的に販売させることになった。また地方債についても、例えば群馬県の「愛県債」の人気に見られるように、安全性を求める個人投資家向けに発行する例が見られるようになった。
 またリスクは若干伴うものの、外貨預金や金地金、また投資信託への資金シフトも顕著になった。外貨預金はシティバンクなど外銀が提供する、安全性にも配慮した預金が選好され、また金地金は低金利下でのある程度の値上がりが期待される安全資産として選好され、さらに投資信託も公共債への運用比率が高い公社債投信が選好されている。
 さらにペイオフ凍結解除とは直接関係はないとはいうものの、金融機関の当座預金に類似する郵便振替口座の残高が急増している。この急増は昨年9月末から顕著になっており、対前年同月比で見ると昨年9月末が45.4%増、昨年12月末が39.9%増、本年3月末が37.3%増となっている。この増加は、高利回り定額貯金の満期振替、民間金融機関とのATM提携の拡大、公共料金や税金などの収納口座としての活用、通信販売業者の活用などを背景に、口座数の増加と払出額を上回る払込額の持続という型で顕著なものになっている。利息がつかないものの預入限度額がなくまた振込手数料も安いので、ペイオフ凍結解除後は安全な収納口座として一般の利用が拡大すると予想される。

2 ペイオフ凍結解除の金融行政
 ペイオフ凍結一部解除前後に見られた、以上の金融の推移に対して、金融行政も風評リスクなどを中心とする金融不安の発生を未然に防止すべく数多くの姿勢を打ち出している。主だった姿勢のいくつかを以下見ることにしよう。まず金融検査の徹底と金融機関の整理を行うという姿勢である。金融機関の自己査定が甘く、不良債権処理の先送りが横行したことから金融不安の火種が消えなかった。そこで金融庁は金融検査マニュアルに基づく厳格な金融検査を行って、引当金の計上を強制するとともに債務超過におちいっている金融機関を数多く整理するという姿勢で対処することになった。この結果凍結一部解除時点の4月には危機に瀕した金融機関はなくなり、いわゆる安全宣言が可能になった。
 次に金融危機時には預金の全額保護をも可能にする道を準備するという姿勢である。預金保険法102条第2号によれば、金融機関が流動性危機におちいったり、また債務超過におちいったりして、国内または地域の信用秩序の維持に重大な支障が生じるおそれがある場合には、首相が金融対応会議を開いて、こうした危機を回避すべく、「金融危機対応勘定」の15兆円を用いて、1千万円を超える部分を含めた預金の全額が保護されることになっている。この保護は次の3つの方途で発動される。すなわち破綻前の金融機関の場合には預金保険機構が同機関の株式を引き受けて資本増強する、破綻した金融機関の場合には預金保険機構が同機関に対してペイオフコスト超の資金援助をする、債務超過で破綻した金融機関の場合には預金保険機構が同機関の全株式を取得する(特別危機管理銀行)。以上が金融危機時の預金全額保護の安全機構である。
 また破綻金融機関のペイオフ処理をできるだけ回避しようとする姿勢も見られる。それにはブリッジバンク(承継銀行)の設立がある。ブリッジバンクは、破綻金融機関を引き継ぐいわゆる受け皿金融機関が見つからない場合に、破綻金融機関の業務を一時的に引き継ぐ銀行である。預金保険機構の子会社として設立され、政府、日銀、金融機関が出資した。承継銀行の存続期間は2年であるが、最長1年の延期が認められており、その間に引き継いだ破綻金融機関を他の金融機関に譲渡しなければならない。破綻金融機関の不良債権は整理回収機構(RCC)に売却され、健全な財務内容となった金融機関をブリッジバンクが引き継ぐことになるので、受け皿金融機関が表れる可能性が高く、したがってペイオフ処理の機会もそれだけ少なくなると予想される。
 次に金融機関の検査を徹底して、金融機関の破綻を未然に防止しようとする姿勢も顕著である。ペイオフ凍結以前は先に見たように不健全な金融機関を整理したり、また不健全な会計処理や査定を改めることに主眼がおかれていた検査は、ペイオフ凍結解除後は金融機関の財務内容を適正に把握して、破綻を未然に防止することに主眼をおくようになった。例えば金融庁は銀行監督の機動性を高めるために銀行第1課と第2課の設置期限を平成5年3月末まで延長して、不良債権の新規発生状況と破綻懸念先以下債権のオフバランス化の徹底把握を行うことにした。また金融庁は個別金融機関の流動性リスクを把握すべくモニタリング体制を確立し、時系列的に流動性の変動情況を監督することにした。さらに経営不振の大手企業を金融機関が適正に査定して不良債権に分類しているか否かを調べる特別検査を継続して、不良債権処理と企業の再編・再生の迅速化をはかることにした。
 また金融庁はこれらの検査の結果などを公表して、金融機関と預金者が自己責任で金融取引を行えるような環境を作ろうとしている。例えば金融庁は上記特別検査の結果を、大手銀行の集計値で公表することにした。集計値で公表されると、いずれの銀行の自己資本比率などがどのように変わったかに関心が集まる。それ故、各銀行は検査結果後の自己資本比率などの健全性指標を公表せざるを得なくなる。またペイオフ凍結解除にそなえて、各金融機関の「名寄せ」システムがどのようになっているかを報告させ、システム整備が不備な金融機関に対しては銀行法26条による業務改善命令を発動し、公表することにした。
 さらに預金保険機構や日本銀行もペイオフ凍結解除に向けた体制整備に余念がない。預金保険機構は、金融庁の委任で保険料の適正な納付や名寄せデータの構築状況の検査を行っているが、さらにその検査を充実したものにすべく、名寄せに対する経営陣の認識・関与、保険事故発生時から磁気テープ提出までのマニュアル整備など新たな検査項目を追加する意向である。また日本銀行はペイオフ凍結全面解除に向けて、平成14年度にはより厳しい考査を行う予定である。経営体力では資本のき損、信用リスクでは与信管理体制、市場リスクではリスク管理体制の実効性、決済・流動性リスクでは緊急時の流動性対策、オペレーショナルリスクではシステム障害、統合リスクでは内部牽制制度の充実などが厳しく考査される。さらに預金保険機構と日本銀行は、普通預金についての規制を発動した。日本銀行は金融庁と共同で、普通預金に上限金利を設定し、高金利での普通預金集めを禁止した。一方預金保険機構は全額保護が続く普通預金の保険料率を0.094%に引き上げる一方、ペイオフ凍結解除となった定期預金の保険料率を0.08%に引き下げた。預金保険機構の負担をひき下げるとともに普通預金への大幅なシフトを抑制することにした。

3 アメリカのペイオフ処理
 ところでペイオフ凍結解除を早くから実施している、金融の先進国アメリカでは、金融機関の破綻が急増した1980年から1994年にかけて、いわゆるペイオフ処理がどれだけ行われたかを見ることにしよう。まず同期間の15年間にどれだけの貯蓄貸付組合と銀行が破綻したかを見ると、貯蓄貸付組合については、連邦貯蓄貸付組合機構が1980年から1989年にかけて処理した貯蓄貸付組合数は550組合であり、その資産総額は2,190億ドル(約28兆5千億円)であった。1989年に破綻した連邦貯蓄貸付組合機構の後を引き継いで、貯蓄貸付組合の破綻処理にかかわったRTC(整理信託機構)は1989年から1994年の6年間で745組合を処理し、その資産総額は4,022億ドル(約52兆3千億円)であった。一方銀行についてはFDIC(連邦預金保険機構)が1980年から1994年にかけて破綻処理にかかわった銀行数は1,617行であり、その資産総額は3,026億ドル(約39兆4千億円)であった。結局これらの合計で、アメリカの金融機関の破綻数は1980年から1994年の15年間に2,912機関で、その資産総額は9,238億ドル(約120兆1千億円)の多額にのぼった。年平均194の金融機関が破綻し、2日に1金融機関が破綻していたことになり、また破綻1金融機関の平均資産総額は3.2億ドル(約416億円)であった。
 こうしたすさまじいばかりの金融機関の破綻を処理する過程でペイオフ処理となった金融機関数は意外と少ない。上記と同じようにしてペイオフ処理となった金融機関数と資産総額を見ることにしよう。まず貯蓄貸付組合については、連邦貯蓄貸付組合機構(FSLIC)は550組合のうち11.3%の62組合でペイオフ処理しただけであり、また資産総額でも3.5%の76億ドル(約1兆円)が対象になったにすぎない。次にFSLICの後を引き継いだRTCでも745組合のうち12.3%の92組合がペイオフ処理されただけであり、また資産総額でも3.0%の120億ドル(約1兆6千億円)が対象になったにすぎない。次に銀行については、FDICが破綻処理にかかわった1,617行のうちペイオフ処理とされたのは、7.4%の120行にすぎず、その資産総額も1.8%の53億ドル(約7千億円)が対象となっただけである。結局全体の合計で見ると2,912の破綻金融機関のうち9.4%の274の金融機関がペイオフ処理され、一方資産総額で見ると9,238億ドルの2.7%の249億ドル(約3兆2千億円)が対象とされたにすぎず、ペイオフ処理1金融機関の資産総額は平均0.91億ドル(約118億円)と小額である。
 以上のようにアメリカでペイオフ処理が極めてマイナーな破綻処理にとどまったのは、次の理由に基づいている。第1にペイオフ処理は処理費用が必ずしも最小にならないことである。アメリカの破綻処理には〓最小コスト原則〓というのがあって、考えられる全ゆる破綻処理のコストを比較して、そのうち最も低コストの破綻処理方法を採用することになっている。第2はペイオフ処理では資産や負債がカットされてしまうことである。ペイオフ処理では金融機関に対する債権は大幅に削減され、一方金融機関からの債務は返済をせまられるので、金融機関と取引している顧客への犠牲が大きくなる。第3はペイオフ処理によって金融不安が助長される恐れがあることである。大手金融機関には金融機関相互の取引が多額に存在しているので、大手金融機関をペイオフ処理すると金融機関の連鎖倒産を引きおこすからである。第4は上記とも関連するが、ペイオフ処理では預金者間に不平等をもたらす恐れがあることである。大手金融機関への預金者はペイオフ処理されないが、小規模金融機関への預金者はペイオフ処理の対象にされるからである。アメリカでペイオフ処理が少ないのはこの最後の理由に基づくケースが一番多いからである。
 最近のアメリカでは金融機関の倒産が増加する傾向にあり、昨年は4行、今年は3月までに5行の銀行が破綻して一時的にペイオフ処理された。しかしこれらの銀行を引き継いで清算する連邦預金保険機構は、資産処分や受け皿銀行への譲渡で、預金保険限度額(10万ドル)以上の預金をすべて払戻し、預金者に実損をもたらすことはなかった。一時的なペイオフ処理でも、最終的に預金者に実損が及ばないですむのは、連邦預金保険機構が多様な破綻処理手法を活用して銀行を効率的に清算することならびに預金者が自己責任で銀行を選択して適当な金額の預金をしていることに基づいている。
 特に預金者が自己責任で銀行を選択できるのは、連邦預金保険機構が採用する可変料率預金保険制度とそれに基づく情報の徹底に依存している。同機構は銀行を自己資本比率、財務リスク、経営リスクに応じて9区分に分類して、経営の健全度に応じて預金保険料率をゼロ%、3%、10%から27%まで課す可変料率預金保険制度を採用している。そして24%と27%の料率を課す銀行を〓危ない銀行〓として開示するとともに、銀行の保険料率は何%かをディスクローズさせることにしている。こうしたシステムを背景に、アメリカでは最近、預金保険の限度額を13万ドルに引き上げるとともに預金保険料率の引き上げを行おうとする動きがでている。ペイオフ凍結解除後の長い経験を活用した、わが国のはるか先を行く動きであるといえよう。

4 金融機関のペイオフ凍結解除への対応
 ではわが国の金融機関はペイオフ凍結解除に対してどのように対応しているのだろうか。主だった対応のいくつかを以下見ておこう。まず第1は財務内容の健全化を早期に実現することである。いうまでもなく不良債権のオフバランス化を促進することがその第一である。各金融機関は、金融庁の方針にしたがって資産の査定を厳格にする一方で、大手企業の場合は資産査定の統一をはかり、貸倒引当金の充分な計上や思い切った貸出の引落しを実行に移した。この結果大手の金融機関で今期の経常利益を赤字にする一方、剰余金をとりくずして損失のうめあわせに充当することになった。こうした不良債権のオフバランス化の源資を生みだすために、徹底したリストラ策で人件費や物件費の削減をはかったり、役員賞与の廃止や配当の差し控えにふみ切ったり、貸出金利の設定を企業のリスク度に合わせるようにしたり、さらに普通預金金利を引き下げて預金保険料引き上げによるコスト増の吸収に努めている。
 第2は金融危機にそなえた支援体制を確立するという対応がある。これには種々あるが、1つは資本増強体制を確立することであり、今1つは預金の安全体制を確立することである。資本増強体制は公的資金の導入期限が切れたことから、各金融機関は独自にそうした体制を確立している。例えば都銀や地銀などはグループで共同で資本引き受けを行ったり、またお互いに緊急時に備えた支援のために提携網の確立に努めている。また信用金庫や信用組合などは、中央機関である信金中金や全信組連を通じて劣後ローンや優先出資証券を引き受けてもらったり、また国債などを担保に低利の資金融資を実行してもらったりするなどの支援体制を整備している。また預金の安全体制の確立のために、例えば1,000万円超の定期預金を他の金融機関に取次ぐサービスをしたり、また預金に見合った金額まで銀行が保有する国債などに質権を設定せしめるなどの対応策を講じている。
 第3はディスクローズに前向きの姿勢を示すようになったことがある。預金者が自己責任で金融機関を選定するためには、分かりやすいディスクローズが欠かせないことから、金融庁も金融機関にディスクローズを徹底するよう要請している。これを受けて各金融機関とも独自の明瞭なディスクローズ誌の発刊に注力するようになっており、また四半期ごとに経営内容をディスクローズする構えを見せている。さらに大手銀行などは平成14年3月期の特別検査の結果を前倒しで公表することになった。公表するのは、本業のもうけを示す業務純益、経常損益、最終損益、不良債権処理損失、自己資本比率、有価証券の含み損益の6項目である。これらの経営指標は金融機関の経営の健全性を判定する基本的な指標と見られるので、金融庁が前倒しの公表を強く求めるようになった。
 次に金融機関がペイオフ対応の金融商品を提供し始めたことがある。例えば金融債を保護預りしてもらうことによって、1,000万円プラス利息までが保護される金融債、日本興業銀行の「ワリコーアルファ」やあおぞら銀行の「あをぞらスーパー」などが発行された。また野村などの証券会社は、運用利回りは投資先のヘッジファンドの運用実績に連動するものの、元本割れを回避して同ファンドで運用する元本確保型の投信や債券の販売を始めた。また安田信託銀行は、高格付けをえた債権流動化商品「オールウェイズ」や「メダリスト」などの金融商品の販売を始めた。また地銀などでは金融商品のリスク分散を図りながら分散投資を行う、いわゆる資産運用型複合商品の開発に注力している。さらにペイオフ凍結解除後の安全資産への選好の高まりや政府が個人向国債の発行に前向きなことから、国債の窓販体制を充実する銀行も多い。
 加えてペイオフ凍結解除にともなう「風評リスク」に備えて、その体制を整備する金融機関が多い。ペイオフ凍結解除が日程にあがるにつれて、ペイオフや資産運用さらに経営の健全性に対する問合せが、全銀協や各銀行で急増している。こうしたことから各金融機関は相談窓口を設置して、ペイオフの内容から資産運用サービス、経営内容の健全性に至るまで各種の相談に応じている。しかも相談には役職者が直接応対し、また預金関連規定集やミニディスクロなど10数万冊をそろえて詳しく説明することにしている。こうした説明が不充分だと風評リスクにつながる恐れが極めて高いからである。

5 地方公共団体等の対応
 ペイオフ凍結解除で一番大きな影響を受けるのは、才計現金、基金、預託金などの公金を多額に預けている地方公共団体である。中でも東京都は約2兆円にも達する金額を預けているので、その対策は急務であった。本年1月東京都はその対策を発表した。多額の公金の預入先を、自己資本比率、格付け、預金量の推移を中心指標にして、株価、社債利回りなどを参考に加えて決定するとの方針を打ち出した。4月に設置された学識経験者や金融アナリストなどからなる「東京都公金管理委員会」がこうした決定をする。決定のメルクマールは、自己資本比率8%以上(国内行4%以上)かつ格付けBBB以上は、預金量の推移を見守って中途解約か否かを決定、自己資本比率8%以上(国内行4%以上)であるが格付けBB以下は中途解約、自己資本比率8%以下(国内行4%以下)の金融機関は格付けの如何にかかわらず中途解約するというものである。東京都はこのメルクマークに基づいて1月から定期預金を解約して普通預金にシフトさせている。
 こうした選定基準の策定は数多くの自治体で行われているが、埼玉県などは自己資本比率や株価などの画一的な基準の適用は、地方金融などへの影響が大きいとして、規模別・業態別の選定基準を策定している。選定基準策定のほか、各自治体はさまざまな対応策を試みている。例えば長野県は公金預金先17機関を集めて自己資本比率など12項目のヒアリングを行ったり、秋田県や奈良県などは制度融資の預託金を廃止して、中小企業への利子補給や信用保証協会に対する損失補償方式に切り替えたり、東久留米市は資金管理および運用基準債券運用指針債券運用業務マニアニュアを作成して運用の効率化をはかったり、証書借入方式の地方債と預金との相殺契約をとりむすぶだけでなく、債券発行方式の地方債に預金見合い分の質権を設定したりして公金を保護したり、千葉県や横浜市などは預金量が増加するような場合には短期国債などの債券運用に機動的に切り替えたりするなど各種の対策が講じられている。
 さらに兵庫県や岡山県などは県の外郭団体などと協同で資金の一元管理を行ってペイオフに対応しようとしている。兵庫県は外郭団体など48団体で、貸金業社である「県中小企業振興公社」を設立した。この会社は資金を必要としている外郭団体に貸し金を行う。この貸出債権を住友信託銀行に信託する。住友信託銀行は同債権に基づく信託受益権を発行して、兵庫県など48団体に売却するという一元管理である。地方自治体間での資金融資システムであり、東京都などが独自の金融機関を創設しようとしている構想にも類似した対応策である。
 また一般の企業でもペイオフ凍結解除に対応策を講じているところが散見されるようになった。例えば日本経済新聞社が本年2月に実施したアンケート調査では、44%の企業が対応策を実施済であり、また20%が4月までに実施予定とのことであった。対応策としては金融機関を選別、預金と借入金を相殺、定期預金を普通預金に振替、運用方法を分散、預金を分散などが多い、具体的に、グループ会社の余資を金融子会社に集約したり、資金管理を効率化するキャッシュ・マネジメント・システムを導入したり、手元流動性を極力圧縮したりするなどの対応策がとられている。このほか、取引銀行を見直して銀行数を圧縮したり、また借入れのない銀行との取引を清算したり、さらにグループ企業の資金管理を一元化すべく、金融子会社の活用、本社管理への集約、管理集中行の選定などを行う大手企業も多数存在する。加えて中堅企業では、余裕資金を自社株購入に充当したり、また格付けの高い外資系金融機関に預け入れたりする企業も散見される。
 こうした企業のほか、医療機関、宗教法人、大学等の学校法人、マンションの管理組合なども多額の資金を銀行に預け入れているので、その対応に余念がない。これらの法人も基本的には地方公共団体と同様の対応策を講じている。例えば日本赤十字社は全国約230の医療施設などに対して、格付けや自己資本比率をベースにした金融機関選定基準を示して安全運用に心掛けている。また宗教法人でも例えば西本願寺は、昨年来専門委員会を設置して資産運用の内規を作り、定期預金の普通預金へのシフトや国債・地方債へのシフトができるようにした。宗教法人によっては外貨預金や株式への運用を可能にしたところもある。またマンションの管理組合も、修繕積立金を分散運用や普通預金・債券シフト、住宅公庫債の購入などに運用する一方、東京海上火災などが開始した「新マンション総合保険」という積立型火災保険に加入して満期返れい金を受け取る一方で火災・破損などの保険金手当を行っている。このほか投資信託会社なども無担保での余剰資金の運用を差し控えたり、また東海3県下の信用保証協会なども「基本財産」の有価証券比率を高める一方定期性預金比率を低めるという姿勢をとっている。

6 ペイオフ凍結解除で公益法人に求められる運用姿勢
 ではペイオフ凍結解除に対して公益法人としてはどのような運用姿勢でのぞむべきであろうか。基本的には、資金運用を中心とする上記の地方公共団体等と同じように、公益法人も、いかに健全な金融機関を選定するか、いかに元本の安全性が確保される金融商品を選定するかの2点が強く求められるだろう。こうした求めに応じて資金運用をするにあたって、次のような運用姿勢を堅持することが必要である。
 第1は資金運用の安全管理を徹底するという姿勢である。安全管理には種々の方策がある。例えば分散投資などはその第一である。分散投資にはいくつかの金融機関に分散して投資するのと、いくつかの金融商品に分散して投資するという2つがある。また運用資金の期日管理や資金繰りの徹底も重要である。これにはできるだけ短期の資金を圧縮して必要とされる期日まで運用する、またそうした期日に満期を迎える国債・地方債・高格付け社債を中心に運用する、そして適当な公社債が見つからない場合に定期預金に運用するなどが考えられよう。さらに定期預金の担保手当ということも場合によっては安全管理の一つになろう。1,000万円超の部分については一種の貸金と考えて、銀行に担保を供出させるという管理である。こうした管理は収益性の点では若干劣るが、安全性の点では大変優れた姿勢であるといえよう。
 第2は金融機関に関する情報の把握に努めるという姿勢である。この姿勢はマスコミなどが流す興味本位の報道に対して、自身が納得できる認識を得るためのものである。情報の把握には種々のルートが考えられよう。まず金融機関が開示する財務内容がある。時代の要請に答えてこれからの金融機関は四半期毎に財務内容を開示することになろう。また格付け機関が発表する金融機関の格付けがある。格付けは客観的な性格が強いので、金融機関を判定するのに最も重要な情報である。さらに株式市場や債券市場の市場情報、加えて金融庁などが発表する不良債権や検査結果に関する情報なども、金融機関を判定する際の重要なシグナルである。こうした情報の把握はインターネットを通じて可能になっており、例えば地方債協会は地方自治体のために金融機関の財務情報をホームページで提供している。場合によっては取引金融機関により詳細な情報提供の機会を求めて、情報の把握に努めることも可能になってきた。
 第3は金融機関の財務諸表の分析を徹底して行うという姿勢である。この分析は時系列的に行うことが望ましい。現在のような異常な時代の特徴が明らかになるからである。例えば貸借対照表では、負債の構造はどうか、資産は証券投資に片寄っていないか、さらに資本では剰余金の水準、劣後ローンなどの取入れ状況、税効果会計によるかさ上げ、加えてオフバランス取引はどれ位かなどを分析する。また損益計算書では、収益の源泉はどうか、費用の支払構造はどうか、不良債権処理は償却か引当計上か、資産の評価損益は適切か、利益処分に疑問はないかなどを分析する。さらに指標分析についても、人件費率、利ザヤの水準、預金利回り、貸出利回り等の分析を行う。これらの数値について、業界ごとの協会がそれぞれ全体の推移を公表しているので、それらを取り寄せて自社の取引金融機関がどの辺りに位置しているのかを判断するようにするとよい。
 次に地方自治体にみられるような資金運用管理委員会などを設立して運用の徹底を期する姿勢も必要である。ペイオフ凍結解除後は絶対安全な資金運用はなくなるのであるから、こうした委員会での入念な検討が必要になる。そこで検討されるべき事柄は次の3つではなかろうか。また自公益法人のリスク許容度はどの程度かを決定することである。当然リスク許容度が大きければそれだけリターンの可能性も高まるので、両者の兼合いをどの程度にするかは重要な課題である。次はどのような金融商品にどれだけ運用するかを決定することである。金融技術が発達した時代であるから、各種の金融商品が提供されている。これらを理解して自公益法人にふさわしい金融商品を選定するのは並大抵の仕事ではない。最後は金融機関と一緒になって金融商品の共同開発に努めることである。プライベートバンキングの時代であるから、専用金融商品をオーダーメイドで開発することがお互いの自己責任を果す上でも重要な課題となっている。
 最後は公益法人が金融機関を選定することによって、金融機関の公益に対する認識度を高めさせるという姿勢である。バブル期に金融機関は極度に私益を追求した結果、現在のような批判を受けることになった。しかし本来なら金融機関は私益と公益をバランスよく追求する任務を負っている。コーポレートガバナンスの徹底、社会的な貢献活動、中小企業等への融資、地域活性化、社会的投資の遂行等の公益実現に努めることがその存在理由の一つである。公益法人がこうした公益にも関心を持つ金融機関との取引を選定するようにすれば、金融機関の公益に対する関心も高まるだろう。加えて私益だけを追求した金融機関との取引で見られた利害不一致も、公益を重んずる観点から少なくなるだろう。その結果一般顧客の意識も、公益法人と取引している金融機関は健全であると見なすようになるだろう。

                         (月刊公益法人 Vol.33 No.6 2002に掲載)