1980年代の初めから、世界中のミリタリーマニアの間でささやかれる、1つの“ミステリー”がありました。アメリカ空軍でレーダーに映らない戦闘機が開発され、実戦に参加できる規模の部隊が存在する、というものです。今では世界で一番有名な攻撃機、F-117Aナイトホークのことです。
当初、その噂は専門誌で小さく取り上げられる程度でしたが、空軍当局が機種を発表しない謎の墜落事故をきっかけに、にわかにヒートアップしていきます。また、国防省がF-5Gと呼ばれていたノースロップ社の新戦闘機をF-20と命名し、F-18ホーネットとの間の「F-19」が欠番になったため、これが噂のステルス戦闘機の名称ではないかとされました。
そして“ミステリー”は、あるプラモデルの発売で頂点に達します。イタレリの1/48「F-19ステルス・ファイター」です。RCS低減と赤外線対策のための特殊なエアインティークとエキゾースト。これまたRCS低減のため、曲線で構成された主翼と内側に傾斜した垂直尾翼。当時考えられていた“ステルス”の要素を盛り込んだそのモデルは、“ホンモノ”ではないかと大きな話題を呼びました。また、よせばいいのにアメリカ議会でこのイタレリのモデルについて発言する議員がいたため、機密漏洩があったのではないかと噂されました。
これをきっかけにモノグラムも独自解釈のF-19を発売、イタレリは悪ノリして“ソ連のステルス戦闘機”なるものまで発売し、一大ブームを巻き起こしました。
もちろん、おもちゃ会社に対して機密漏洩があったはずもなく、1987年に空軍当局がリリースしたステルス戦闘機の写真はどのステルス・ファイターとも似ておらず、名称も「F-117A」と、まったく違っていたのでした。まあ、これはこれで謎を呼ぶわけですが。
結局、ステルス戦闘機の真実の姿は湾岸戦争まで明らかになりませんでした。そこで“バグダッドの幽霊”と呼ばれる活躍を見せたのはご存知のとおりです。
今ではF-117Aの物語は、機密保持がうまくいった好例とされているそうです。もしかしてイタレリが受け取ったのは偽情報で、エスピオナージでいうところの“ゲーム”に巻き込まれたのかもしれない、そんな想像をはたらかせてしまう“事件”でした。
<1983年、イタレリより発売された1/72「F-19 STEALTH」>