いつもの出来事が
ふとした 瞬間に 
違う物語に・・・・


 ありと きりぎりす

きりぎりすは
やはり いくにちかは 
心づくしのうたを 奏でました
死はすぐに おとずれ
ありは それを 食べるのです

野辺で 尽きた きりぎりすは
澄んだ つぶらな瞳に
冷たく 高い空を  凍るあまたの 星空を
幾度も  幾度も ただ、ただ、映し
一人ぼっちで 転がって
寂しく なきがらを さらすばかりです

ありと出遭った きりぎりすは
冬のうちに 土になりました
それが ありの 優しさだったのです

生まれ変わった きりぎりすは
ちがう生き物になって 
ちがう歌を うたうでしょう

うたう こころは
変らずに。


 夏のお話

あぶらぜみは、お日さまに糸を引っ掛けて
ぎりぎり、ぎりぎり、リールを巻いていきました。
みんなで、ぎりぎり、巻き取って
ずいぶん お日さまが 近くになって
じりじり、焼くので、痛いんです。

そのうちに、ひぐらしが来て、糸を解いてやりました。
からから、からから、威勢良く糸は、解放されて
お日さまは、やっと帰っていきました。

少しは、涼しくなったでしょう。


 春の娘

「春の娘は」 その吐息で そよ風の糸を紡ぎます
 
糸を くわえた 鳥たちは はだかの木の枝に来て
ひとつずつ 結び付けます

やがて 木の芽は 目を覚ますのです

枯れた 野原に 降りた鳥たちは
地面を 何度も つつきながら
緑の園を 織り上げて いきます

こつこつと 忙しそうに

春は いつの時も 新しい。




「春霞」

そよ風の糸は 木の上で
ふわふわ 揺れながら
長く ながく 伸びてゆき
オーガンジーを 編みました

それは 澄んだ空いっぱいに 広がって
光は やわらかに なりました。


 

「嫌われ者のコトバ」

嫌われ者の「コトバ」が ありました。一人ぼっちで 古い詩の本にひっそりと住んでいました。
あるとき 一人の男がやって来て 「コトバ」を連れて行きました。それから「コトバ」は「カノヒト」の心に住む様になりました。
そこは、固くかび臭い、古い本とは違って、暖かく ふんわりとした所でした。

けれど、「コトバ」は「カノヒト」の中の他の言葉たちにも好かれはしなかったので
いつも隅っこのほうにうずくまって、自分の名前を呼んでもらえるのを 待っていました。

呼ばれることも 時にはありました。が、残念な事に「コトバ」が喜んで出て行くと
其処には、誰もいないのです。 居たことがあるとすれば決まって、誰かが泣いているのでした。

「コトバ」は悲しみました。そんな時、「カノヒト」は言葉達の中ではただ一人 優しく声をかけてくれる友達の「シカタガナイサ」と二人して慰めてくれました。


ある日、いつも優しい「カノヒト」が 一人で静かに泣いていました。
「コトバ」は とても不安でたまりませんでしたが、どうすることもできません。
なぜ泣いているのかも、分りませんでした。

その日から 「カノヒト」は大切な言葉、大好きな言葉、美しい言葉、楽しい言葉達を大切な人々に一つずつ託してゆきました。
言葉たちは日に日に数が減ってゆき、とうとう残ったのは「シカタガナイサ」と、嫌われ者の「コトバ」と、それから うすもも色のはにかみ屋の言葉の 三人になりました。

嫌われ者の「コトバ」は、はにかみやの言葉が少し嫌いでした。彼女はいつもは目立たないようにひっそりとしているくせに呼ばれて出て行くと周り中が春の日のように暖かになってみんなが 笑ってたからです。「コトバ」はよりによってそんな彼女と残ってしまった事を気まずく思うのでした。

ところがある日、いよいよ「コトバ」が貰われていこうという時が やってきてしまいました。ここまで残してきて「カノヒト」が 差し出した相手は、一番大切な「アノヒト」だったのです。「コトバ」も、胸が張り裂けそうになりながら「アノヒト」の前に立ちました。

「コトバ」も、「アノヒト」が好きでした。彼女は一緒にいて心が落ち着く人でした。
呼ばれて出て行っても いつも明るく笑ってくれました。だから 安心して呼ばれることが出来たのです。

それが、なぜでしょう?
なぜ、自分なのだろう、と「コトバ」が思っていると 彼女は大粒の涙をこぼしながら
笑って、首を横に振りました。「イヤダ」と言って。
「コトバ」は受け取ってもらえませんでした。寂しいような、ほっとしたような、「カノヒト」も、「アノヒト」も、「コトバ」も、ため息をつきました。
彼らは、思い出の話をひとつひとつ辿りながら、大きなビルの展望室で 街のきらめきを眺めました。そうして、そこから、「シカタガナイサ」を放してやりました。

「シカタガナイサ」は きらめきの谷間に泣いている人を見つけて、立ち上がる勇気をくれるでしょう・・・・・・そう、願って。




それからひとつき ばかりの間ナした。「カノヒト」が、自分で歩く事が出来たのは。
やがて 床に伏し、日に日に弱っていきました。
もう、彼の心は落ち着いていました。さまざまの言葉は 心を決め、みんな人に上げてしまったのですから。
そしてついに 最後の時が来て、「カノヒト」は 最後に取っておいた言葉を置いて旅立ちます。
それは、「アリガトウ」   あの うすももいろの、はにかみやの言葉でした。

「カノヒト」の体は軽くなって、嫌われ者の「コトバ」と同じようになり、
二人は、ずっとずっと昔からの友達のように愉快に腕を組んで、空に昇って行きました。世界中の全てに、ひとつずつ 感謝を込めて お別れしながら。

そう、嫌われ者のコトバを二人で思う存分に、歌いながら。



「サヨナラ!」   「さよなら!」   「サヨナラ!」   「さよなら!」