JR東日本の次の蒸機復元
2月4日付で毎日新聞のインターネット版にJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)が3両目の蒸気機関車(SL)を復活させる計画であるという記事が載った。同社は現在現役のSLを2両保有していて、その人気が高いことから更にもう1両のSLを復元して走らせることを検討している、ついては対象となる保存機関車の選定に入っている、というのだ。
記事によるとその候補には、JR北海道で一時復元運転されたC623号機や碓氷峠鉄道文化むらに保存中のD5196号機が挙がっているそうだ。
如何にもありそうな話で面白いが、そういう話が無いこともない、という程度だろう。プロ野球で贔屓のチームが優勝出来るといいな、という位の期待感で良いだろう。
ただ先般伝わったところでは、2両の現役SLの内D51498号機が深刻なボイラー故障を起こして全治18ヶ月だそうで、となれば3両目のSL復活計画が前倒しされる可能性はあるかもしれない。対象車両の選定というのは案外真に迫っていることも有り得る。
有り得るところに予想という遊びが成立するのは愛すべき我がサイトの常であるので、早速取り掛かってみることに仕様。
概況
まず復元の対象になるのはJR東日本管内に保存されている機関車が最優先だと思う。SLの復元には保存状態が非常にものを言う訳だが、幾等保存状態がいいからといって他社管内から「引き抜く」形になるのは矢張り憚られると思う。
また多くの保存SLは保存場所と比較的縁のあったものが多い。従って管内に保存されている機関車なら概ね管内で活躍した車両であり、そうした車両を走らせることは地域密着を掲げる会社の理念にも一致する。
以上から復元される車両はJR東日本管内で活躍して保存されたものの内状態の良いSLというのが最低条件になると思う。
現場の要請
復元SLは文化的事業であると同時に営利事業でもあると思う。だから営業上の希望は汲み取らねばならないだろうし、又実際に運行する人々の意見もあるだろう。保存状態もさることながら、こうした現場の要請もSLの復活には大きく関係してくる筈だ。
始めに営業サイドからの希望を想像すると、矢張りスター性は絶対に必要と考えるだろう。多くの人が期待するSLの迫力を提供するなら、出来れば大型の機関車を走らせたい。
記事で候補に挙がったC623号機はまさにこの大型蒸機なのだが、重量の関係で走れる路線が極端に限定されてしまう。施設も大掛かりなものが必要になるし、そういったインフラは現在殆ど失われているだけに、機関車そのものの復元以外に大量の資本が必要になってしまう。そして「燃費」も馬鹿にならない。人気漫画「銀河鉄道999」のモデルにもなった大スターではあるが、然も他社所有だし以上諸々の事情を考え合わせると、社内の誰の口からも復活を言い出し難い機体だと思う。
スター性ということでは「貴婦人」C57型も有力候補に挙がるだろう。ただC57は前回180号機を復活させたから、今回は保留になるかもしれない。
営業から嘱望されると思われるのは「高原のポニー」の愛称で人気を博したC56型だろう。走行路線を殆ど選ばず然も小型ながら見た目の美しさも申し分ない。ただD51498号機の故障という事態は、或いは可憐な機関車の復活を後回しにせざるを得なくなる可能性はある。
となれば矢張りSLの代名詞「デゴイチ」だ。これはもう使い勝手の良さはお墨付きだし、誰でも知っているし、復元の最大の候補であることに間違いは無い。沢山保存されているから状態の良いものも選べる。当たり前過ぎるという懸念は498号機の故障で吹き飛んだだろう。
但し「ナメクジ」と呼ばれる一次型は、現役当時から扱いの難しい機関車として畏れられていたから、これを復元すると後の運行現場の苦労は覚悟せねばならない。
扱いという点では秩父鉄道でも活躍するC58型は運行サイドからは歓迎されるだろう。C58は東北地方のローカル列車で多く活躍し、彼地で沢山保存されている。ただ営業側からは地味過ぎると思われるだろう。
バリエーションという観点から8620型や9600型は非常にファンへの訴求力は高いと思う。より武骨なデザインはレトロ感倍増しだと思うし、実際JR九州で一時復活し引退、今春再び復活する予定の58654号機はファンに非常に人気があった。また9600型は他に動態保存機が無いから大きなアピールになる。運行側でもこの両型は路線を選ばない上完全無煙化まで働いた優秀設計機だけに文句なしだろう。が、そもそもが古いSLの中でもより古い部類の機関車だから復元には難しさが付き纏いそうだ。
C11型やC12型といったタンク型機関車は管内の真岡鉄道で既に走っているし、隣道県で合わせて3両も走っている。扱いは簡単かもしれないが営業的にはスペシャル感に乏しい点が否めない。
だから「デゴイチ」の標準型、これが何と言っても最大の候補になるだろう。
復元の候補となり得る保存機
色々な要請はあっても、最終的に復活の鍵になるのは機関車そのものの保存状態だ。有り難い事にインターネット上に保存SLについての資料が沢山あった。そこでそれらを参考に保存状態に主眼を置いて復元の可能性の高そうな保存SLをJR東日本管内で捜してみた。
(特に参照したホームページ)
非常にお世話になりました。有り難うございます。
>「全国保存車両データベース」(INTERNET総合鉄道部内のページ)
>「各地の保存車両」
>「菊池写真館」
非常に程度が良いと思われるもの
屋内で保存されたものは特に状態が良い筈だ。その条件に叶い、尚且つ所有権の問題が余りこじれなさそうな機体。
D51735号機
羽越本線坂町駅近くの保存用建屋内に引退直後から格納・保存。100年保存を目標に手入れも定期的にきちんとされているらしい。地元自治体の当時の首長が気合を入れて誘致・保存したそうだ。永く長岡第一機関区で過ごし引退時は地元の坂町機関区に所属、保存地周辺で働いた所縁の機体。
C57135号機
交通博物館内から引き続き鉄道博物館内保存。引退後から理想的な環境で保存されてきたことは疑いが無い。D51498号機と共にJR発足時のSL復元計画でも最終候補機に残っていた。但し現役時代は北海道で活躍し、地域との縁は殆ど無い。
程度がかなり良いと思われるもの
屋内とまでいかなくとも大きな屋根や特別な整備を頂いた保存機は状態が良いことが考えられ、矢張り保存への道が近いだろう。
D51787号機
しなの鉄道御代田駅前に屋根付きで保存。かつては痛みもあった様だが、復元走行を目指して2005年頃までの数年間国鉄OBの手で点検・修繕が行われたそうだ。ボイラーに火を入れるまでに工事は進んだ様だが現在は中止されている。しかし油差し等の整備は現在も引き続き行なわれているとのことだ。現役時代は木曽福島機関区に所属していた機体。
C50123号機
小山駅前の展示小屋内に保存。元は吹き曝しだった様だが屋根自体が大きく半屋内と言い得る状態だったと思われる。後に壁が貼られてほぼ屋内展示になった。ボランティアの手で大規模な修復が行われ美しく甦ったそうだ。昭和17年に小山機関区に転入してから30年以上同区で活躍した保存地に非常に所縁のある機体。
程度が良いと思われるもの
取り敢えず屋根があってボランティアの整備が行き届いている機体なら、状態如何では十分復元の候補に入るだろう。
D5175号機
直江津駅近くに屋根付きで展示保存。吹き曝しだがボランティアの手で整備されていて美しい状態を保っている様だ。但し、一次車だ。現役時代は現在のJR東日本の管内を転々として新津機関区で引退している。
D51512号機
新発田駅近くの公園に屋根付きで保存。吹き曝しだが良く手入れされて美しく保たれている様だ。新津機関区に新製配置されて以降廃車まで32年間同区で働いた「生え抜き」。
D51824号機
上諏訪駅近くの公園に屋根付きで保存。吹き曝しだが手入れがされていて美しい状態である様だ。整備は行き届き過ぎる程で、一部車体を改変する様な保護設備が取り付けられてもいるそうだ。現役時代は長野県内の機関区に所属し、「長野工場式」と呼ばれる変形デフレクターを装着している。
9625号機
山田線磯鶏駅前に屋根付きで保存。吹き曝しではあるが屋根が大きい。手入れもそれなりにされている様で比較的美麗に見える。現役時代は東北本線の急行貨物運用等に就いて活躍し、青森機関区で廃車になっている。
C58342号機
北上市内の公園に屋根付きで保存。東北地方にはC58型が何両も保存されているが、押しなべて良く手入れされ綺麗に見える。一関市内に保存されている103号機も状態が良い様に見えるが、342号機の方が屋根が大きく、若干だが上回ると思う。宮古、仙台、尻内と東北で活躍したご当地機関車。
58683号機
佐倉市内に屋根付きで保存。吹き曝しだが比較的美麗に保たれている様に見える。成田機関区に14年、続いて佐倉機関区に14年勤めて引退した千葉に所縁の機体。
復活予想
以上から予想するに、D51735号機かD51787号機、このどちらかが次のJR東日本の復元蒸気機関車になると思う。
矢張りD51498号機の故障は相当の危機感を社内に齎しただろうし、一方でその人気も重々承知だろうし、そうなれば2両目の「デゴイチ」でも全く抵抗が無いだろう。一度復元を成功させたという自信とノウハウもある。
最初の記事で復元の候補として挙げられたD5196号機は、扱いの難しい一次型である上引退後露天の展示が続いたから見た目以上に痛みがあるかも知れず、恐らく落選するだろう。
保存状態で言えばC50123号機は相当に有力で、また使い勝手の点からも十分候補入りすると思うが、何しろ現役時代から地味な印象は拭えない。個人的には一番復活して欲しいところだが、少なくとも「次」では無いだろう。
「高原のポニー」ことC56型は、管内では復元出来そうな機体が残念ながら無い、と言わざるを得なかった。管内では12両保存されているが、殆どが露天での展示でどれもかなり痛みが進んでいる様に見えた。状態の悪くないものを直ぐにでも屋内保存に切り替えて、大規模な修復工事を施すという様なことをしない限り、将来に亘ってこの機種の復活は有り得ないと思う。
ダークホースはC58342号機だろうか。C58型も大宮工場で以前復元したノウハウがあるのと使い勝手の問題で第三の候補に名乗り出るかもしれない。
しかし本命は何と言っても「デゴイチ」の筈で、中でも屋内保存だったD51735号機は「長野工場式」の変形デフ付きであることも手伝って尚更復活後の人気と活躍が期待出来るのではないか。従って真っ先に復活の候補機に挙げられるだろうと思う。
期待
JR東日本で2両のD51が揃うと、きっと重連での運転が行われることだろう。498号機の修理と並行して735号機の復元工事が行われると、両機の同時出場から記念重連運転という流れは十分期待出来る。
そして御代田のD51787号機は、もしかするともしかして、引き続く4両目の復活SLということが有り得る様に思う。498号機は幾等元気に見えてもやっぱりご老体だ、調子に乗ってあちこち引っ張り回してとうとう音を上げてしまった。その教訓から予備機に更に予備機を控えさす程度の用意があっても良い、と会社も考えるのではないか。
然もD51が3両揃えば三重連がある。これは日本中から鉄道ファンを根こそぎ吸引する位のインパクトは十分ある。どうだろう、期待しても良いのではないか。
希望
秋田市内の公園に保存されているD51232号機はJRの土崎工場の協力で非常に美しく保たれている様で、写真で見てもその美しさは相当のものだ。が、保存場所は海に近く然も露天で展示してあるから、折角のメンテナンスも勿体無いと思う。どうせなら土崎工場で引き取って、ついでに勢いで動態復元したらどうか。
地方工場の技術と士気の向上は勿論、この機体は土崎工場で製作された初号機なのだから、思い切ってそれ位しても面白いと思うが。そこまでしなくとも保存用の建屋の中に格納して、時々庫外へ引き出して展示したりする、という様なことは出来ないものだろうか。
大宮工場のD51187号機や長野工場のD51486号機にも同様の扱いを希望する。
>JR東日本三輌目の復活蒸機はC61
(Tsusei, 15 February 2009)