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ピアノを弾く

 ピアノを時々弾いている。演奏までいかない、音符が形になる程度で、実際はそれすらも危うい水準ではあるが、弾いているという自覚とプライドにとっては十分な栄養だ。
 以前にモーツァルトのソナタを練習している、ということを書いた。ソナタ11番K331 だったのだが、あの後それはある程度形になったから他の曲を弾き始めて、暫くお浚いしなかったらひどいことになっていた。久し振りに弾いたら、もうあちこちずたずたに寸断されてそれぞれが別々の音になってしまった。余りに悲惨だから、他の曲を練習しつつメンテナンスがてら時々弾く様にして、何とかまた音が繋がってきたから安心した。それでも相変わらず音符が全部鳴っていない。僕にとっては技術的に難し過ぎたのである。

 大捕り物になったソナタの次に挑戦したのは、ドビュッシーだ。6曲組の組曲「子供の領分」の中の第6曲で、比較的易しいとされる「ゴリウォーグのケークウォーク」という曲だ。これも選択の基準は聞き覚えていたから。短い曲なのも重要なポイントだった。プロだったら3分強で弾いてしまうし、楽譜も5ページだからいけると思った。
 そして非常に上手く物事が進んだ。ひと月もすると何となくそれっぽくなった。その代わり三ヶ月弾き続けて完璧に弾けた事が無い。形になるのが早かったせいで丁寧に弾いていないかも知れない。
 「ケークウォーク」が形になった頃から同じ組曲の別の曲にも手を着けた。第4曲の「雪が踊っている」だ。これも思った程難儀せずに済んだ。黒鍵が少ないから「ケークウォーク」より易しいかも知れない。やっぱりひと月くらいで形になった。こちらはゆっくり弾いた時にほぼ完全に弾ける事が稀にある。

 こうなるとすっかり一端気取りで、折角だからショパンでも弾いてやろう等と邪念を起こし、実行してしまった。「子犬のワルツ」として知られるワルツ第6番作品64の1である。難しくはないらしいし知らなくもない曲だから思い切って弾いてみた。楽譜も全部で4ページだからそれ程長くない。これなら何とかなりそうな気はした。
 結論から言うと、この曲も形にはなった。何遍も弾いていると指も動く様にはなった。しかし完璧には弾けていない。それと途中で若干飽きがきた。ショパンとは余り相性が良くないかもしれないと思ったのもこの頃だ。だから大体形になった頃からドビュッシーの短い曲を並行して弾き始めてしまった。

 ショパンと並行して弾いたドビュッシーとは、「子供の領分」第5曲の「小さな羊飼い」である。簡素でゆっくりで2ページしかない作品だが実に美しい曲だ。然も先に弾いた曲と併せて組曲の後半三曲が纏まるというおまけ付きだ。この曲も十分な位聞き覚えていたからそれ程時間も掛からず形になった。

 今はモーツァルトの別のソナタを練習している。作曲者自身が「初心者のための」と銘打ったという15番K545だ。11番K331の泥沼にいた頃今弾くべきはこっちだと思って実際少し手を着けてもみた。が、知らない曲を読譜から仕上げられる程上手くない訳で、結局知っていることを優先して11番K311に戻ってしまった。その後15番K545のCDを買ってきて聴き込んだので、満を持して取り掛かったということにしておこう。
 聞き覚えの威力は絶大で形になるのも早い様に思う。今のところは実に順調だ。今後恐るべき数小節、数十小節が現れて苦しむ事になるかもしれないが。

(Tsusei, 15 April 2007)

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