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ピヒラヤの咲く頃は悪戦苦闘の日々

 今年2007年はフィンランドの作曲家ジャン・シベリウスの没後50年の記念年だから、是非シベリウスのピアノ曲を弾いてみたいと思っていた。全音楽譜出版社(全音)からピアノ曲集の楽譜もリーズナブルな値段で出ていて、また技術的にも手が届きそうな水準らしいので、横浜のヤマハまで行ってその楽譜を調達してきたのは6月の始めのことだ。
 帰りの電車で早速前書きから読んで、ぱらぱらと譜面を繰ってなるべく短いのを探して、それから譜面の雰囲気で易しそうなのをと思って「ピヒラヤの花咲く時」と「白樺」の二曲をピックアップした。それから巻末の解説を斜め読みして、結局この曲集の一番最初に採られていた「ピヒラヤ」に決めた。ピヒラヤとは日本で言うナナカマドのことだそうで、紅葉の美しい樹木というイメージはあったが作曲家を刺激する様な花が咲くとは知らなかった。その開花の時期―詰まり曲の描く季節は丁度6月頃という事なので、「白樺」は7月か8月に回して先ず「ピヒラヤ」から取り掛かることにしたのである。

 「ピヒラヤ」は見開き2ページ35小節弱の短い曲だ。ぱっと見それ程込み入ったり難しそうなところも無い様に思ったので安心して取り掛かったのだが、何しろどんな曲か知らないから何をやるのでもおっかなびっくりだった。
 実は僕はシベリウスのピアノ曲を全然聴いたことがなかった。そこで折角だから全く白紙の状態から一曲組み立ててみようと思ったのである。これはシベリウスを選んだもう一つの理由でもあった。だからCDも用意せずに始めたのだが、しかしそれは余りに無謀だった。
 取り敢えず最初の6小節を形にするのでもうピヒラヤの咲く頃は過ぎて7月になってしまった。そして冒頭の一節でミのフラットを落としていたのに気が付いた。すっかり間違った響きで慣れていたから大変である。もうこれは駄目だと悟った。

 それで諦めて舘野泉が弾いたシベリウスのピアノ作品集というCDを買ってきた。それを何遍も聴いて覚えて、どうやらここ一週間で目途が付いてきたところなのである。
 しかしシベリウスという人は一体どんな手をしていたのだろう。左手でファと1オクターブ上のラ・フラットを同時に弾く和音が出てくるのである。とてもでないが僕の手では届かない。右手でカバーすることも出来ない位置構成なので完全に左手だけで弾かねばならない。更にその二つの音の間にドとミ・フラットが挟まっている。仕方ないから一番下のファを独立させて逃げている。
 易しいと思って手を着けた「ピヒラヤ」だったが、全くとんでもない見当違いだった。因みに手許のCDで聴くと件の箇所もちゃんと同時に和音が鳴っている様に聴こえる。さすがである。

(Tsusei, 19 August 2007)

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裏白