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芥川賞作家と乙幡啓子

 寝転んでさらさら読み流していた新聞に、突然「乙幡啓子」という名前を見付けて思わず起き上がってしまった。
 乙幡啓子さんは別に知り合いでもなんでもないが、インターネットで趣味的な発表活動をされているのを以前よく読んだりしていたから身近に感じていた。その筋では有名だとは思っていたが、しかし一般的に言う有名人とはちょっと違うだろうし、ましてや新聞の記事の中に名前が出てくるとは、少なくとも現状ではそういうことは予期していなかったから非常に驚いた。

 もう一つ、心の準備が出来ていなかったのは、その記事のあった場所が意外だったからだ。この人は例えば文化の新しい兆候とか流行とか、そういう内容でなら新聞に登場してもちっともおかしくない。住宅都市整理公団の大山総裁が新聞に載った時はまさしくそういう形だった。産業構造物を趣味とする人々の特集記事なら、大山総裁の登場は十分に予見出来る。独創的な工作を発表する人々の特集記事なら、乙幡さんの登場は十分に予見出来る。

 それがいきなり書評のコラムに名前が出てきたのだから寝た子も座り直す。然もそこで乙幡さんは芥川賞作家にそのお気に入りとなった本を紹介した人として登場する。更に乙幡さんの「肩書き」は「『妄想工作』などの著書で知られる乙幡啓子」である。
 「などの著書」と言うが記憶する限り乙幡さんの著書は「妄想工作」が唯一で、他に共著が二冊あるか無いかだ。それなのにこの書き方ではまるで、ちょっとした作家扱いにも見えなくない、何故ならこの人を今「紹介」しているのは、現在最も新しい芥川賞作家の津村記久子氏なのだから。

 よりによってお堅い日経の書評面だ。何も知らない人がこの記事を読んで、寧ろ乙幡啓子著「妄想工作」という作品に興味を持ったとしてもおかしくない。
 また文学作品としてもありそうなタイトルだから余計罪作りだ。それでそういう人―恐らくきちんとした身なりのお父さんが、純文学かなんか想像して本屋の棚を一生懸命浚う姿を想像したら、何だかおかしくなって笑ってしまった。

(Tsusei, 20 February 2009)

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