| 植物としてのそば |
| 学名はFagopyrum
esculentum。タデ科ソバ属一年生草本。原産地は中央アジア説から中国東北部説、アムール川沿岸説など諸説あり、いまひとつハッキリしないが、諸々の文献を読むと、どうやら中国雲南省説が有力である。 国内の生産量が十分とはいえず、そのほとんどを輸入に頼っているそばだが、このサイトで紹介するそば店の大半は国産を使用している。そばの生産地は北海道や福島、鹿児島、宮崎、岩手などが多い。これは土壌改良や稲の品種改良が進んでいなかった時代、稲作に適さなかった地域と一致する。 元正天皇が稲作の不作の年に、そば栽培をすすめるようにお達しをしたことから、日本ではじめて大規模な栽培が行われたのが、その後もそばは稲作に弱い土地には救いの主となっていたということだろう。 しかし、そばは米と比べ、人工的が品種改良は少なく、信濃一号、栃木一号など数種。恐らく品種が違うとまではいわないまでも、そばきりがはじまったころには、地方地方でそれぞれに個性のある在来種が存在していたことや、そばという植物が元々生命力が強い種であったことが原因だと思われるが、そばは長年その地方で栽培された在来種であっても、畑付近に他の地方の在来種植えると、ふたつが簡単に交配してしまうらしく、最近では雑種のようなそばが増えていると聞く。 交配を試すことでより味のいいものができるのなら、試作してもらいたいとは思うが、交配の失敗作のようなそばが増えるのは歓迎できない。そろそろ品種改良について、真剣に取り組むべきなのではないだろうか。 「蕎麦は七十五日」といわれるように、そばが発芽と生育がとても早い。夏そばで、種をまいてから収穫までは七十日〜八十日程度。秋そばは八十日〜九十日程度。このうち、秋そばの方が圧倒的に生産量が多く、味もいいといわれているが、晩夏そばというべきか初秋そばというべきか、中間型のそばも増えている。新そばの時期が長くなって大歓迎なのだが、味に支障はないのだろうか。 |
| もりそば、ざるそば |
| 一般にもりそばとざるそばは、海苔がかかっているかどうかでわけられているが、この他に「もりには薬味に大根おろしをつけ、ざるにはワサビをつける店」「もりには粉ワサビだが、ざるには本ワサビをつける店」「ざると呼んでいるものの、海苔かけではない店」もあり、現在ではもりと、ざるの定義ははっきりしていない。 歴史を紐解くと、せいろに盛ったそばを、もり、せいろと呼んでいたいた時代に、江戸は本所の州崎弁天に店を開いていた伊勢屋が竹ざるに盛って「ざるそば」と名付けて売り出したのが、ざるそばの起源といわれている。その後、ざるそばはもりそばに海苔をかけた店があらわれたり、つゆも変えて出す店も現れた……というの真相のようだ。 ただ、もりとざるのつゆがどう違っているのかは、はっきりしない。ある説では、ざるは一番だしを使い、もりは二番だしを使うといい、ある説では、ざるのつゆには上返しといわれるみりんを加えた返しを使うがもりにはみりんは使わないという。恐らく、どちらの説も正しく、どちらのタイプの店もあり、両方違う店もあったのだろう。 ここでいえることは、大正までか、戦前までかは店によって違うとしても、長年、ざるは海苔かけというだけでなく、もりよりも薬味もつゆも高級なものを使っていたということである。 現代では、もりとざるの違いはもはや大した意味を持たない。しかし、ざるに盛って「せいろ」、せいろに盛って[ざる」という呼び名を使っている店がたくさんあるのは、どうにかしてもらいたいものである。 |
| 江戸そば、さらしな、田舎など |
| そばの実の製粉は、ロールにかける機械式と、石臼挽きがある。一部の手打ちそば屋を除くと、ロールで製粉したそば粉を使用していて、石臼挽きに出会う確率は数パーセント。だが、ここで紹介しているそば屋の多くは国産粉を石臼を使用している。石臼挽きの利点は製粉する際に熱を帯びて変化しないことや、実のまま購入し、石臼を使って自家製粉するすることで、香り高い挽き立てを供給できること。現代では機械式でもかなり性能のいいものもあるが、信頼できる製粉所が近所にない限り、石挽きの自家製粉にはかなわない。 そば粉は実の中心部分を挽いたのを更科粉と呼ぶ。その外側を一番粉、さらにその外側を二番粉、三番粉、四番粉と称する。書物によって、一番粉=更科粉と書いてあるものもあるが、食べ物の世界は言葉の定義が地方によって違ったり、いい加減な定義のまま広まってしまうことが多々あるので、どちらが正しいのか判断しかねる。私は一番粉といわれる粉の中で「最も中心部に近い白い澱粉質の部分を更科粉とする人もいるし、一番粉を更科粉としている人もいる」ということだと解釈している。 江戸そばといわれるものは、色白でもなく殻ごと挽いた色黒でもなく更科粉でもないそば。恐らく、昔は殻ごと石臼で挽いて、ふるいにかけて、殻をできるだけ取り除いていたものが、本来の江戸のそばだったのではないかと推測しているが、ロール式になってからは、二番粉、三番粉を中心に、小麦粉を入れて二八、九一、外一で打ったものが多いようだ。ただし、石臼挽きの手打ちそばは、丸抜きの挽きぐるに、小麦粉のつなぎを入れたものが大半である。 田舎そばは殻ごと挽ぐるみにしたそば粉を使うのが本筋と思うが、多くの店では、一番粉を除いたものが田舎粉と呼ばれているように思う。良心的でない店は三番、四番粉に殻をまぜ、小麦粉を五割ほどいれているのではないか!と疑っているが、このサイトにそのような店は乗っていない……はずである。 |
| 生蕎麦と二八そば |
| 現在、生蕎麦(きそば)と暖簾にある店でも、本物の生蕎麦を出している店は、1%もないに違いない。生蕎麦という言葉の意味を本業であるそば屋の主人も職人も知らないのか、悪意をもって使っているのかは一軒ずつ聞いてまわらなくてはわからないが、いわゆる不当表示にあたり、本来は行政指導を受けなくてはならないところである。生蕎麦とは、現在では生粉打ちそば、あるいは十割そばといわれる、混ぜ物を使わないそば粉だけで打ったそなばでなくてはいけない。そばを仕事にしている方々は、早急に善処されたい。そしてさらに、乾麺やなまそばと書かれて売られているものの中には、なんと小麦粉の量がそば粉を上回っているものさえある。これはすでにそばではない。即刻「そば粉いり麺」と直すように。 二八そばには、十六文で売られていたところから、ニ×八=一六と洒落て二八そばという説と、そば粉が八割で小麦粉が二割で二八そばという二つの説があるが、どちらも信憑性に欠ける。というのも、値段説は当時のそばの値段と合わなず、却下。小麦粉の割合ということになると、なぜ小麦粉が先でそば粉があとなのかという疑問と、一八そばや二六そばが存在していたことを合わせ考えると、な割合として二八だけが生き残ったのかという疑問が残る。かといって、二杯八文というわけでもなかろう。 とはいえ現在では、二八そばといえば、小麦粉を二割まぜることを差す。少々しっくりこないが、否定する材料に乏しいため、暫定的「二八は二割の小麦粉を使うそば」と定義しておきたい。昔は二八は廉価版のそばのイメージであったが、いまは生蕎麦に劣る安物のようなイメージはない。むしろ、四割も五割も小麦粉が入っていない良心的な品書きになっている。だが、味と香りの良さを考えると、二八よりは九一、それよりも外一(10:1)がいいのはいうまでもない。 |
| 変りそば |
| 変わりそばには、いろいろな種類がある。茶そばを筆頭に、柚子きり、芥子きり、胡麻きり、紅きり、蘭きり、胡桃きり、菊きり、海苔きりなど、把握しきれないほどある。長年、季節を感じる創作そばとして愛されているのだが、素材の色を出すために更科粉を主原料とし、さらにまぜる食材の香りが入ってしまうため、そば独特の風味は損なわれる。ゆえに、気の利いた店では、田舎や二八と旬の味とそばをセットした三色盛りや五食盛りをだしている。できることなら、五色のなかから二色だけ、三色だけと選べるようにしていただけると、もっといいのだが、なかなかそういう設定をしている店には出会わない。 |
| そば猪口とせいろ |
| そば猪口は本来は、お酒を飲むときの「猪口」ではなく、向付が発展した酢の物や和え物などを入れる小鉢の類いであったらしい。その中でそば切りのつゆ(つけ汁)を入れるに適当なものを江戸時代にそば屋が使いはじめ、その後、「そば猪口」という名がついた。猪口は以前は「ちょく」と読むべきものであったが、現在では転じて「ちょこ」と読まれることが多い。よって、「この伊万里のそばちょく、いい仕事してますねえ」なんてことをいうと、ちょっと通っぽく聞こえるのだが、知ったかぶっていると「お客さん、それは有田焼の安物ですよ」なんてことになるので、知ったかぶりは飼えたほうがいいかもしれない。 せいろは既知の通り、本来は蒸すためのもの。そばも江戸時代には、蒸した「蒸しそば切り」があり、いまも長州には「熱盛り」も残っている。こうした熱いそばを食べてきた経緯から、せいろが冷たいそばの分野でも使われ続けているのだろう。せいろと竹すだれが分離するようになったのは、衛生面的と取り扱いの良さを考えてのことだといわれているが、実際は、耐久性の問題や、作る手間がからず、安価にできるという理由もあるからではないかと推測している。ぜるを使っている店が少ないもの、洗いにくく、乾きにくく、しかも劣化が激しいざるよりもせいろのほうが扱いやすいからではないだろうか。重ねられ、出前しやすいこというのもせいろに軍配があがることもあり、大衆的で出前でもっているようなそば屋で、ざるを使うとろはほとんどないのである。 |
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| 蕎麦の杜/植物としてのそば・そば道具 |
蕎麦・そば・ソバ |