前衛陶芸・勝野博邦さん

前衛陶芸・勝野博邦さん



 京都や大阪に勤務していたころ、毎年、岡崎の京都市立美術館で開かれる『走泥社展』をよく見に行った。京都の八木一夫、鈴木治、松井美介、叶哲夫、山田光が1948年に結成した陶芸家集団で、器や日用雑器づくりだけでは飽き足らない作家が、自由な発想で陶芸による表現を求めて活動をはじめたのが走泥社である。

 その後、芸術志向の強い若手の陶芸家らが参加し、50年にわたる活動を展開して1998年に解散した。走泥社の活動のユニークな成果は、芸術家の自己満足ではなく、広い市民の愛好者、ファンが多かったことである。

 司馬遼太郎さんに連れて行かれてから、自分でもたまに通うようになった祇園甲部のお茶屋「つる居」で対談の仕事をしたおり、料理を盛った器がすべて八木一夫さんだったことがある。現代的なデザインだが、気品のあるそれらの器に、私は目を奪われてしまった。それ以来、八木さんの作品が好きになった。

 その後、いつだったか酔っ払って新宿のあるバーに連れて行かれたことがあった。酔っていたので店の名も場所も覚えていないが、その店に八木一夫があった。マダムに「八木さんでしょう」というと彼女は驚いていた。マダムはまんざらでもなさそうだった。

「つる居」では、たまに鈴木治さんに会うこともあった。鈴木さんは「私はちゃわん屋です」とちょっと韜晦して自己紹介することが多かったが、八木さんが亡くなってからは、鈴木治さんの作品を見るために走泥社展に通っていたような面もあった。

 その走泥社が解散すると、残党の数人が集まって再開したのが「新陶彫」である。その第一回東京展が成増のギャラリーで開かれたので見に出かけた。同人の勝野博邦さんから案内をいただいたのである。

 京都時代に、走泥社の同人の宮永理吉さんや勝野博邦さんと知り合った。宮永さんとは祇園のスナックでよく一緒になった。勝野さんとは、知り合いに紹介されて何人かで今熊野の自宅兼工房を訪ねた。そのときに、走泥社展で見て強い印象を受けていた「壊れた花瓶」シリーズの試作品が仕事場の隅にあるのをみつけた。

 一緒に訪ねた人たちは女性ばかりだったので、みな器を買い求めたのだが、私はその「壊れた花瓶」から目が離せなくなった。勝野さんの器は磁器で、しかも肉が極端といってもよいくらい薄い。灯にかざすと、向こうのあかりが透けて見えるほどである。いや、ほんとうに光が透けてくるのである。

「壊れた花瓶」は、その極薄の青白磁で、鶴首の花瓶なのだが、下部のまるく膨らんだ所の一部が破れている。紙にナイフで切込みを入れたような破れ方で、破れ目が硬い磁器とは思えないようなやわらかな感じなのである。破れているのは壊れたからではない。そういう作品なのである。走泥社展では、そんな花瓶が大きいものからやや小ぶりのものまで10個ほど並べて、全体で一つの作品として展示されていた。私が見つけたのは、そのシリーズの試作品の1個だったのである。

 それで、私は
「これが欲しいんですが」
 と言ったら、勝野さんは
「これは売り物じゃないんや」
 と応えて、しばらくしてから
「でも、ええわ」
 と渡してくれた。値段が付けられないので、「○○円でいいわ」と勝野さんは予想したよりかなり安い金額を口にした。私はありがたくいただいた。それは今も家に飾っている。

 その後、ときどき勝野さんと飲むようになった。南座の向かいの雑居ビルの上にあるバーに案内されたことがあった。そこで生ビールを注文したら、なんと勝野さんの焼いた極薄の白磁のマグカップだった。カップも手が切れるほど冷たく冷やされていた。

 今回の新陶彫展は、9人が出品していた。それぞれ個性的な作品だが、私の目はどうしても勝野さんの作品に行ってしまう。勝野さんのは、やはり青白磁で「つらぬく」というタイトルが付いていた。大きいのはソフトボールよりやや大きい球で、少しずつ小さくなり、十数個が並んでいる。最も小さいのは親指の先ほどの大きさの球で、それぞれにやはり青白磁の細い棒が球の両端から突き出ている。その棒が球を貫いているように見えるのである。これにも強い印象を受けた。

 勝野さんは「茶碗づくりだけでは、やっていてつまらないんや。陶芸の技術を使って自由な遊びがしてみたいんや」という。走泥社がなくなって、そういう場所と集団がなくなった。走泥社があるときは、八木一夫や鈴木治などの大物作家がいたので、それなりの注目を集めることができたのだが、二人が亡くなり、解散してからは悶々とする日が続いたのだろう。ここへきて、やるなら自分たちでと再興したのである。注目して見ていきたい。(2003/5/16)

 感想などをメールでいただければうれしいです。メールはこちらまで。

Last Update:2003/10/20
©2003 Masayuki Fujino. All rights reserved.