大塚国際美術館

偽物の迫力・大塚国際美術館



 テレビ東京で徳島県鳴門市にある大塚国際美術館を紹介する番組を見た。1998年に開館したこの美術館には開館まもなく訪れたことがある。見学して非常な衝撃を受けた。 西洋の古代から現代までの代表的な絵画作品1000店以上が、原寸大でセラミックで再現されて展示されているのである。

 しかも、環境展示というのか、例えば、バチカンのシスティナ礼拝堂のミケランジェロの傑作「最後の審判」の展示室は、そのシスティナ礼拝堂の空間と同じ大きさの空間になっている。だから見上げた感じが、現地で見るのとほとんど同じ感覚で鑑賞できるのである。私は1989年にイタリア・ルネサンスの美術を訪ねて16日間、イタリアを旅したことがあるが、そのときの感覚をあたかもあの礼拝堂にいるような感じで思い出したのである。

 環境展示でいえば、イタリアはパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂の内部がそっくりそのまま原寸大で再現されているのも見ものだった。
 この礼拝堂はジョットーが描いたイエス・キリストの生涯をテーマにした壁画が有名だが、それがここではすべて現地と同じ配列のままに見られる。イタリア旅行の際には、時間があまりなくて丹念に鑑賞できなかったのだが、ここではゆっくり見ることができた。そして何よりあの天井のブルーの星空が忘れられない。初めて天上の星空を眺めたときの、自分の感覚までが生々しく思い起こされてきた。

 ダヴィンチの「モナリザ」はルーブル美術館に本物があるが、ルーブルの額縁はのちに作ったものだ。しかし、ここの「モナリザ」は、元の額縁を再現して額装している。

 かつてスペインのドーニャ・マリア・デ・アラゴン学院にはエル・グレコの傑作「受胎告知」などで有名な大祭壇衝立画があった。この祭壇画は6枚の作品からなり、それらが巨大な木製衝立の額縁に納められて全体として一つの作品になっていた。
 ところが、19世紀初頭、ナポレオン戦争のために散逸し、現在はプラード美術館に5点、ルーマニア国立美術館に1点と分かれてしまった。だから本物を見ようと思うと、この2カ国を回らねばならない。ところが、ここでは、それを製作当時のかたちで見ることができる。

 セラミックで再現されているために、ここでは作品に手を触れることもできる。色彩も本物に近い精巧なものだ。作品によっては本物より美しいものもある。全部の作品を見るには数日を要するが、私は駆け足で1日で回った。欧州旅行をすると、ことにイタリアなどではあまりに多すぎるルネサンスの絵画の洪水に、しだいにうんざりするような気分になることがある。これが一種の充足感なのかなとも思うのだが、ここ大塚国際美術館でも同じような気分になった。

 今回のテレビ放送は、ミラノのサンタ・マリア・デレ・グラーツィエ教会の食堂にある、ダヴィンチの「最後の晩餐」の修復が終わったのを記念してのものだった。この世界の至宝ともいうべき作品が、20年の歳月をかけて修復されたのを機に、修復前と修復後の二つの「最後の晩餐」を、この大塚国際美術館の一つの部屋に向かい合わせで展示したのである。ミラノには修復後の本物があるのだが、修復されたために修復前の状態は見ることができない。しかし、鳴門市ではその両方を同時に見ることができるわけである。

 しかし、ここに展示されているのは、言ってみればすべて偽物である。だが、贋物ではない。複製芸術の究極のありようと言えるのかもしれない。ぜひ一度は見学されることを奨めたい。

 大塚国際美術館のHPは http://www.o-museum.or.jp/index.html (2003/7/20)

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Last Update:2004/10/20
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