社会的スティグマ(social stigma)
特に、ステレオタイプ脅威(stereotype threat)、脱同一視化(disidentification)、脱価値化(devaluing)
ステレオタイプ脅威に関するレビュー
Steele (1997) American Psychologist, 52, 613-629.
領域同一視に関する一般理論を、高度な数学的分野における女性や、学業におけるアフリカ系アメリカ人が未だ直面する達成障害の記述に用いる。この理論は、次のことを仮定する。継続的な学業的成功には、学校とその下位領域への同一視が必要である。これらの集団に対する社会的圧力(例、経済的不利、性役割)がこの同一視を阻害する。これらの集団が否定的にステレオタイプ視されている学業領域において、これらの領域に同一視しつつある成員は、ステレオタイプ脅威、つまり、他者の判断や自分の行為がその領域において彼らを否定的にステレオタイプ化する脅威によるさらなる阻害に直面する。実証研究は、次のことを示した。この脅威が、集団内で上位に属する女性やアフリカ系アメリカ人の標準化テストの成績を劇的に阻害する(これは、標準化テストの成績の集団差に関する新しい解釈を提供する)。さらに、学校への脱同一視化を生む。この脅威を低減するような実践は、この否定的な影響を低減しうる。
Aronson, Quinn, and Spencer (1998)
In J. K. Swim and C. Stangor (eds.) Prejudice: The target's perpective., Academic Press:San Diego, Chapter 4., Pp.83-103.
学力に関して否定的ステレオタイプのターゲットとなる集団の学力の低さが、実際に報告されている。このような低学力の原因は論争をよんでおり、諸説ある(e.g., 社会経済的不利、文化差、教師期待の差、遺伝的違い)。しかし、これらは幾分直感的であるうえ、「学力差が、熟達していない、訓練されていない学生においてと同様に、非常に熟達し、訓練された学生においても見られる(Strenta et al., 1993)」という事実を説明できない。本研究は、この低学力の重要かつ未検討な要因として、ステレオタイプに基づいた低学力疑念による心理的負担−ステレオタイプ脅威−がある、と主張する。ステレオタイプ脅威は、(a)心的課題の遂行を阻害することによって、(b)長期的に、脅威を受けた領域との関わりをなくして自尊心維持を果たすよう刺激することによって、学業達成を低下させる。
ステレオタイプ脅威に関する研究論文
Steele and Aronson (1995) JPSP, 69, 797-811.
ステレオタイプ脅威とは、自己特性的なものとして、所属集団に関する否定的ステレオタイプを確証するリスク下にあることをいう。研究1,2では、テストの成績が能力診断的であるかどうか、つまり知的能力に関する人種ステレオタイプを確証するリスク下にあるかどうかを操作することによって、難解な言語テストを受ける黒人学生のステレオタイプ脆弱性をを操作した。能力診断条件では、黒人は、白人と比べて悪い成績をおさめたが、非診断条件では、差は生じなかった(学業適性テスト得点は統制した)。研究3では、能力診断性がこれらの実験参加者の人種ステレオタイプを認知的に活性化し、それを確証したり、それで判断されたりしないように動機づけることを確認した。研究4では、テスト診断性が無いときでも、ステレオタイプを顕現的にするだけで、黒人の成績が低下することを示した。能力に関しスティグマ化された集団の標準化テストの成績に対するステレオタイプ脆弱性の役割が考察された。
Spencer, Steele, and Quinn (1999) JESP, 35, 4-28.
女性が数学にとりくむとき、男性と違って、彼女たちは否定的なステレオタイプによって、女性の数学的能力は低いと判断されるリスクを負う。我々はこの苦境をステレオタイプ脅威とよび、この脅威が引き起こす不安が、女性の数学の成績を低下させた。研究1では、我々は、先行研究で観察された、女性が難解な(決してやさしくない)数学テストで低成績をおさめるというパターンを厳密に選択された男女サンプルで観察されることを示した。研究2では、テストに性役割差がないと教示することによってステレオタイプ脅威を低減したとき、遂行の差が消失することを示した。しかし、テストが性役割差を生み出すと告げ、ステレオタイプ脅威を高めたとき、女性は、おなじ基準で選ばれた男性よりも悪い成績をおさめた。第三実験では、より緩い基準で選択されたサンプルで以上の知見を追試し、この効果の媒介過程を検討した。ステレオタイプ脅威が、遺伝的な性差に帰属されて続けていた、高度な数学問題における性役割差の基底をなすことに関して考察がなされた。
Aronson, Lustina, Good, Keough, Steele, and Brown (1999) JESP, 35, 29-46.
「ステレオタイプ脅威」に関する研究(Aronson et al., 1998; Steele, 1997; Steele and Aronson, 1995)は、特定の文化的少数派集団に生まれたことによる低学力スティグマが、標準化テスト遂行とこれらの集団成員の学業成績を低下させることを示している。本研究は、ステレオタイプ脅威が知的テストの成績を低下させる必要条件に関して2つの仮定を検討した。我々は、遂行を阻害するために、ステレオタイプ脅威はスティグマ化に関する歴史や低学力間の内面化を必要とせず、状況的圧力だけで成績の低下を引き起こすという仮説を検討した。2つの実験で、我々が検討する領域において低学力ステレオタイプが存在せず、その領域で高い能力を持つ被験者(数学が得意な白人男性)を用いてこの仮説を検討した。研究1では、数学が得意だとステレオタイプ視されている少数派集団(アジア人)との比較をすることによって、ステレオタイプ脅威を生み出した。予測したとおり、ステレオタイプ脅威にされされた白人男性は、脅威にさらされない統制条件の人と比べて、難解な数学テストで悪い成績をおさめた。研究2では、この効果を追試し、ステレオタイプ脅威に対して部分的に領域同一視が媒介しており、その領域に強く同一視している人の遂行がもっとも悪いだろうという予測を検討した。結果は、標準化テストとステレオタイプ脅威の発達に関する意義に関して考察された。
Shih, Pittinsky, and Ambady (1999) Psychological Science, 10, 80-83.
近年の研究は、自分の所属集団がある領域で否定的にステレオタイプ視されていると感じたとき、その領域における遂行が阻害されることを指摘している。我々は、社会的同一性の暗黙の活性化が量的課題において促進も阻害もしうることを報告する。特定の社会的同一性が暗黙レベルで顕現化したとき、遂行は同一視と関連づけられたステレオタイプによって示された方向にシフトする。一般的な文化的ステレオタイプには、アジア人を他の民族と比べて量的スキルに秀でているとするものと、女性を男性と比較して量的スキルに劣るとするものとがある。われわれは、アジア系アメリカ人女性が、いずれの同一視も活性化されなかった場合と比較して、民族同一性が活性化されたときは数学テストで優秀な成績をおさめ、性役割同一視が活性化されたときは悪い成績をおさめることを見いだした。比較文化研究は、遂行に影響を及ぼすのが、同一性それ自体ではなく、ステレオタイプであることを示した。
その他のレビュー論文
Crocker (1999) JESP, 35, 89-107.
スティグマに関する多くの古典的研究が、否定的なイメージやステレオタイプが内面化され、状況一般的にスティグマ化された人の安定した低自尊心を生むと仮定してきた。著者は、スティグマ化された人の自尊心は状況によって構築され、人をある状況においやる集合的表象もしくは共有された意味と、自己を評価するときにこれらの集合的表象を関連づけるもしく関連づけない状況の特徴の両方によると主張する。故に、スティグマ化された人の自尊心は、そうでない人の自尊心より高いかもしれないし、低いかもしれないし、同じかもしれない。また、それは、もしこの状況に関連する集団的表象が異なる場合、状況ごとに変化するかもしれない。この観点と一致する先行研究がレビューされ、社会的スティグマ、より一般的には集団の差異に関するこの分析の意義が議論される。
Y. Fujishima < gsd9720@srv.cc.hit-u.ac.jp / GHA04074@nifty.ne.jp >