頭頸部嚢胞性疾患に対するOK-432嚢胞内注入療法

よくある質問

質問 :

OK-432嚢胞内注入療法と手術では、どちらが早く治りますか?

答え:

OK-432嚢胞内注入療法では、OK-432を注射して嚢胞内が炎症を起こして更に腫れた後にゆっくりと縮小して、普通は4から8週間で消失もしくは縮小固定します。従って、本治療では治るまでに1〜2ヶ月が必要ですので、手術よりも時間はかかります。(手術であれば、1週間から10日ほどで退院になります。)しかし、OK-432嚢胞内注入療法は入院は必要無く、少量の投与(1.0KE以下)の場合は全く問題なく日常生活を続けられますし、大量の投与の場合でも、普通仕事や学校を休むのは、せいぜい1〜2日程度です。

質問:

OK-432は癌のくすりなので、危険ではないですか?髪の毛が抜けたりしませんか?

答え :

OK-432は癌の免疫療法剤で、癌細胞の増殖を抑えるいわゆる制ガン剤とは違います。癌細胞の増殖を抑える薬は、毛根や骨髄などの細胞分裂が盛んな細胞の増殖も抑えますので、髪の毛が抜けたり、白血球が少なくなったりの副作用がありますが、OK-432は細菌製剤ですので、菌が体に入ったときに見られるような副作用(発熱・局所の痛み)などがほとんどです。

質問:

OK-432を注射した後、かえって腫れがひどくなったままになることはありませんか?

答え :

OK-432嚢胞内注入療法は溶連菌製剤(OK-432)を嚢胞の中に注射することによって、嚢胞内に人工的に強い炎症を引き起こす治療です。OK-432を嚢胞内に注射したあと1〜2週間は治療前よりも腫れは強くなります。しかし、この炎症反応こそが嚢胞を消失させる原動力になるものです。この反応性の腫れが出ない場合は、まずこの治療は効きません。2週目以降はOK-432による腫れは引いてきます。患者さんの中には、特に治療後に腫れが非常に強くなった際に、このまま治らないのでないか?と心配される方がおられますが、まずそのようなことはありませんのでご安心下さい。このHPを開設した目的は、患者さんにいろいろな経過を見ていただき、その不安を払拭していただくことにあります。

質問:

OK-432は妊娠や出産には影響がありますか?

答え :

OK-432は溶血性連鎖球菌(溶連菌)の弱毒株をペニシリンで殺したものです。OK-432嚢胞内注入療法を行うということは、人工的に嚢胞の中だけに溶連菌の感染状態を引き起こすのと似ています。溶連菌は扁桃炎などの代表的な起因菌ですが、妊娠中に扁桃炎を起こしたりすることは、それほど珍しいことではなく、普通は問題なく経過します。それと同じように考えて良いと思います。OK-432嚢胞内注入療法を行った直後に妊娠された患者さんがおられましたが、ガマ腫も治りましたし、何の問題もなく出産されています。
余談になりますが、OK-432は原因不明の習慣性流産の免疫療法剤として使われることもある薬剤ですので、その観点からも、妊娠の維持にマイナスに働く可能性は少ないと考えております。

質問:

ガマ腫でOK-432嚢胞内注入療法をしたときは、舌下腺の摘出はしなくてもよいのですか?

答え :

OK-432嚢胞内注入療法では、OK-432の注入のみで、手術的なことを併せて行う必要はありません。本治療の一番のメリットは、時間はかかりますが、外来通院で、切ることはしないで治療ができるということです。

質問:

顎下と舌下の両方にガマ腫がある場合は、どちらに注射するのですか?

答え :

結論から言いますと、どちらから注射しても大丈夫です。OK-432が確実にガマ腫の中にさえ入れば大丈夫です。
本HPの顎下型ガマ腫1は実は口腔底にも腫れがあり、正確には舌下・顎下型です。この例は、顎下部を穿刺して治療しただけで、顎下部・舌下部とも1回の治療で治癒しました。
また、本HPの顎下舌下型ガマ腫1および2は、口腔底から高濃度OK-432注入法でOK-432を注入しました。これらの例でも、舌下部のガマ腫にOK-432を注入して治療しただけで、顎下部・舌下部とも1回の治療で治癒しました。
通常は、両者の腫れに交通があるのが普通ですから、理論的にはどちらに注射しても、薬は病変部に到達するはずです。どちらから注射しても同じように効果がありますので、私は最近では、穿刺の簡単な口腔底ガマ腫を高濃度OK-432注入法で治療するようにしています。

質問:

舌下型のガマ腫がなかなか治らないのですが?

答え :

ガマ腫としては顎下型ガマ腫のほうが舌下型より重症ですが、OK-432嚢胞内注入療法に対する反応は顎下型ガマ腫のほうが良好で90%は2回以内の注射で治ります。しかし、舌下型ガマ腫の場合は顎下型よりは一般にOK-432嚢胞内注入療法に対する反応反応が悪く半数例は2回以上の注射(最高5回)が必要でした。この理由の一つとして、「壁が極めて薄いために、OK-432が十分に効かないうちに破れて外に出てしまう可能性」、「炎症を起こしたあとに固まるための周囲から圧迫力が少ないこと」、「安静が保てない部位であること」などが考えられます。
2006年の韓国のRohの論文でも、舌下型ガマ腫のほうがOK-432での治りが悪いことが述べられており、その理由として、破れて薬が流れてしまうことが述べられておりました。
しかし、もし5回の注入が必要であったとしても、外来通院治療で仕事や学校も問題なく続けられますし、費用の面でも入院して手術するよりもはるかに安く済みます。現在、ガマ腫が破れることの予防のために、私は舌下型ガマ腫は全例「高濃度OK-432注入法」で治療を行うようにしています。高濃度OK-432注入法を行うことによって、治療後の破れがほとんど無くなり、現在治療成績は向上しています。


質問:

OK-432の注射をしたあとの痛みは、どのくらいですか?

答え :

注射翌日は、赤く腫れて痛む場合が普通ですが、日常生活を続けられないほどのものではありません。通常、2日ほどで痛みは無くなります。

質問:

OK-432の注射をしたあとは、お風呂などは入れますか?

答え :

熱が出なければ、普通に入れます。38℃以上の熱があるときは、体力を消耗しますのでやめて下さい。痛みが無ければ、運動(もちろん水泳も)なども構いません。

質問:

注射の痕は残りますか?

答え:

通常、全く痕は残りません。まれに、注射した針穴がしばらく赤くなる場合がありますが、2〜4週間程度で消えます。

質問 :

OK-432の副作用はどのようなものがありますか?

答え:

OK-432はペニシリンで殺した溶血性連鎖球菌ですので、基本的には菌が体に入ったのと同じ反応が起こります。すなわち、発熱・痛みなどの炎症反応です。しかし、死んだ菌ですから、感染を起こすことはありません。熱・痛みに対しては、副作用が出たら、鎮痛解熱剤の内服を行えば大丈夫です。(稀に高度の発熱の場合は坐薬が必要になる場合もあります。)抗生物質も必要ありません。少量のOK-432の投与(0.5KE以下)の場合は、発熱なども発現しないことのほうが普通です。
ただ、この反応はOK-432が嚢胞を消失させるもととなる作用でもあります(炎症を起こして嚢胞を収縮させて固めるためです)。この反応が強ければ強いほど、本治療の効果は良好になります。また、OK-432にはペニシリンが含まれていますので、ペニシリンアレルギーのある人には使用できません。
頭頸部の嚢胞をOK-432で治療する場合の特別な副作用として、気道狭窄(息をする所が狭くなって呼吸困難がくること)があります。気道付近の病変では、OK-432の投与で一時的に腫れが強くなった時が要注意です。リンパ管腫では気管切開が必要になった例が報告されており、入院で治療したほうが安全です。ガマ腫では、私は気道狭窄の経験はなく、安全に外来通院で治療可能と考えております。

質問 :

ペニシリンアレルギーが心配なのですが?

答え:

昔ペニシリンアレルギーといわれたものは、実はほとんどは中に混合していた不純物に対するアレルギーであったことが判っています。合成ペニシリンに代わってからは、頻度は激減しています。我々は、患者さんの抗生物質に対するアレルギー歴をお聞きして、既往が無ければ、治療を行っています。ご心配な方には、OK-432の皮内反応液がありますので、これで前もってテストすることもできます。
私は100例ほどの治療を行っていますが、ペニシリンアレルギーで治療ができなかったひとはいませんでした。

質問:

この治療が効く嚢胞性疾患と効かない疾患があるのは何故ですか?

答え:

これまでの経験から、我々は、OK-432嚢胞内注入療法が非常に有効なのは”ふくろ”を裏打ちする上皮が無いか、1層で薄いものだけと考えております。ガマ腫、舌嚢胞、耳血腫は上皮を持たず、リンパ管腫、正中頸嚢胞は1層の上皮を持っています。これに対して、側頸嚢胞は厚い多層の上皮を持っており、本治療の効果は悪くなります。(絶対効かない訳では無く、効く例もあります。我々の例では3例中1例に有効(消失)でした。他施設からも側頸嚢胞に対しても有効であった例が報告されています。2006年、韓国からOK-432は側頸嚢胞の56%に有効であるという英文論文がでました。)ただ、OK-432の作用機序としては、上皮が壊れることは重要では無く、内容液の流入経路がOK-432による炎症によって断たれることが重要であることがこれまでの検討により判っております。上皮が厚いと、内容液の吸収が悪くなったり、扁平上皮の脱落物が内容に混じったりすることが、効果が出にくくなる原因であろうと考えております。

質問:

適応とされる疾患でもOK-432嚢胞内注入療法ができない場合はありますか?

答え :

OK-432嚢胞内注入療法が効くためには、OK-432が一定期間嚢胞内腔にとどまって炎症を起こすことが必要です。例えば、正中頸嚢胞などでは、最初から頸部皮膚に瘻孔(ろうこう:奥につながる孔のことです)を形成する形で発症する場合があります(このHPで紹介した、症例2もその1例です)。この場合は、OK-432を注入しても出てきてしまいますので、本治療は効きません。また、手術後の再発例などで、皮膚に瘻孔を形成してしまったものも、本治療の適応ではありません。(しかし、瘻孔が痂皮(かさぶた)で閉鎖している時期に、うまく薬剤を注入することができれば、絶対治療ができない訳ではありません。)
また、ガマ腫でも、口腔粘膜に弱い部分ができて、液が溜まって有る程度大きくなっては破れることを繰り返しているような場合も、OK-432が流れてしまうために、治療が難しい場合があります。

質問:

OK-432嚢胞内注入療法が効かなかった時はどうしたら良いのですか?

答え :

通常は、約1.5倍程度に投与量を増やして同じ治療を繰り返します。OK-432嚢胞内注入療法の効果は治療後6週間で最大になりますので、6週間毎に治療を繰り返すのが理想です。顎下型ガマ腫・耳血腫はほとんどが2回以内の注射で改善していますが、口腔底型ガマ腫では5回の注射が必要であった例もあります。どうしても効かない場合は手術になりますが、我々は、本治療の適応とした疾患で手術を行ったのは、縮小固定した舌嚢胞を患者さんの希望で、外来で切除した1例のみです。

質問:

OK-432ではなく、アルコールによる硬化療法を勧められていますが、OK-432とどちらが良いのですか?

答え:

アルコールによる硬化療法も甲状腺の嚢胞などでは良く行われており、非常に有効な治療です。私の経験では、嚢胞を消失させる力はOK-432と同等以上と思います。ただ、アルコールには組織毒性がありますので、漏れた時に瘢痕や組織壊死を起こす場合があります。私は1例だけですが、アルコールによる血管腫の硬化療法後に形成手術が必要になった苦い経験があります。OK-432では、まずそのようなことはありません。故荻田修平先生も、OK-432の利点として、美容的に優れるということを強調されておりました。
私はOK-432を第一選択とし、もしOK-432が効かなかった場合、皮膚に近くない嚢胞ではアルコールの使用も考えることにしています。

質問:

OK-432嚢胞内注入療法をしてしまうと、もし後で手術が必要になった場合に、手術ができなくなることはありませんか?

答え:

確かに、本治療は大別すれば硬化療法(炎症を起こして嚢胞を固めてしまう治療)のひとつになりますので、癒着を起こして手術がやりにくくなる可能性が予想されます。特に、OK-432が嚢胞外に漏れた場合に問題となります。従って、最初の治療時に嚢胞外に薬剤が漏れないようにすることが大切です。我々が本治療後に手術を行った経験は、縮小固定した舌嚢胞を患者さんの希望で外来切除した1例と側頸嚢胞(これは本治療の適応ではありません)の1例のみです。軽度の癒着はありましたが、手術ができないほどではありませんでした。この治療の開発者であります、故荻田修平先生もOK-432治療後手術を行った3例を報告されており、大きな問題は無かったとのことです。
またリンパ管腫に関しては、2001年に韓国から以下のような論文がでました。「リンパ管腫21例にOK-432嚢胞内注入療法を行ったところ、未治療例では16例中15例に有効であったが、手術後に再発した5例では有効例は無かった。」[Sung M.W. et al. (Seoul National University)Laryngoscope 111: 1430-1433, 2001] このことは、
リンパ管腫においては手術は決して最良の治療ではなく、むしろ最初に選択すべき治療はOK-432嚢胞内注入療法であることを示しています
ガマ腫において、きちんと手術療法と効果を比べたデータはまだありません。今後、多くの施設で施行されるようになれば、ガマ腫において手術とOK-432嚢胞内注入療法のどちらを最初に選択すべき治療であるか?がはっきりしてくるものと思います。
2006年に発表された韓国の論文(Laryngoscope 116: 169-172)でも、26人の患者をOK-432嚢胞内注入療法で治療して、効果不十分の5名を最終的に手術したが、
癒着等で特に手術の問題になることは無かったと記載されております。
2006年9月の日本口腔・咽頭科学会で、OK-432が効かなかった2例に対する舌下腺摘出術に関する発表が東京女子医大からありました。2例ともOK-432治療を複数回行ったあとの手術でしたが、手術の障害になることは無かったとのことです。

質問 :

硬化療法ということは、嚢胞のあったところが硬くなって治るということですか?

答え:

硬化療法という言葉は、硬くなって治ること(瘢痕化)を連想させますが、OK-432嚢胞内注入療法では通常瘢痕を形成しません。もちろん、皮膚に色素沈着を起こすこともありません。これは、強い毒性を持った薬剤で無理やり嚢胞を固めてしまう従来の硬化療法と違って、OK-432嚢胞内注入療法は細菌が体に入った時の自然の生体防御反応・自然の治癒機転を利用した方法であるためと考えております。特に、顎下型ガマ腫の場合などは、顎下部皮膚・皮下ともに正常の柔らかさで、丁寧に触診しても嚢胞の痕跡もわからなくなります。

質問 :

この治療を受けるためには、どのよう検査が必要ですか?

答え :

舌下型ガマ腫や耳血腫などでは、通常の外来診察のみで、特別な検査はしていません。(舌下型ガマ腫でも、手術再発例はこのHPの舌下型ガマ腫10のような例がありますので、MRI検査が必要な場合もあります。)顎下型ガマ腫、リンパ管腫、正中頸嚢胞などでは嚢胞の広がりを知り、OK-432の投与量を決定するためにMRIもしくはCT検査が必要です。また、治療効果を正確に把握するためには、治療の前後で腫脹部の 写真を撮っておく必要があります。本治療の対象となる疾患かどうか?正確に診断するための最低必要な検査のみです。

質問 :

この治療を受けるのは、どのような状態の時が適していますか?

答え :

腫れが強い時のほうが嚢胞の内腔が広く、薬剤を内腔に確実に注入できます。この治療が効くためには、確実に薬剤が嚢胞内に入ることが重要です。もし万が一、将来手術が必要になった時に癒着で困らないためにも、嚢胞外には薬剤が漏れないことが大切と考えております。治療前に穿刺・廃液などを行うと治療がやりにくくなりますので、そのままにして受診して下さい。

質問:

OK-432嚢胞内注入療法を受けた後は、どのくらいの間隔で通院が必要ですか?

答え:

我々は、注射後2日目、2週間目、4週間目、6週間目に受診していただき、チェックを行っています。また、4週間目もしくは6週間目の時点で効果判定を行い、効果不十分の場合は追加治療をいたします。

質問:

どこでも、この治療をしてもらえますか?

答え :

治療そのものは簡単なものですし、薬剤も日本国内であればどこでも手に入ります。技術的には経験を積んだ耳鼻咽喉科の医師であれば、問題なく施行することができるはずです。しかし現在のところ、OK-432が保険適応として認められている病気は、一部の癌とリンパ管腫のみです。従って、リンパ管腫以外の嚢胞性疾患に本治療を行う場合は、医師個人の裁量で自己責任で行うことになります。我々はこの治療は安全で効果の高いものであることを確信しておりますが、我々の考えに賛同していただける先生と患者さんとの信頼関係があれば、施行していただくことはどこでも可能と思います。特に、ガマ腫に対するOK-432嚢胞内注入療法は、かなり広まってきた治療であると確信しております。しかし、最も有効な疾患である「顎下型ガマ腫」の頻度は多いものではなく、基幹病院クラスでも1年に1〜2人くらいです。このため、多くの先生はOK-432を使ってガマ腫を治療する経験に恵まれません。そのような場合は、私のHPの参考文献のページを印刷して持っていかれて、相談されてはいかがでしょうか?耳鼻科の雑誌としては、広く読まれている雑誌ばかりですので、主治医の先生が興味を持たれれば、きっと調べていただけると思います。
この治療をしていただくためには、医師にただ任せるのだけでなく、自分も治療の選択に関して責任を持つ気持ちを持っていただきたいと思います

質問 :

ガマ腫の場合、「手術」と「OK-432嚢胞内注入療法」では、どちらが再発が多いのですか?

答え:

ガマ腫を治療する上で非常に大切なことは、「ガマ腫は腫瘍ではなく、主に舌下腺からでる粘稠な唾液が漏れて嚢を作ったものである」ということです。残念ながら、このことは医師でも誤解している人が多数います。具体的には、日本では、ガマ腫を破らずに摘出すること(ガマ腫摘出術)が根治に結びつくと考える医師が今でも多数います。私も「ガマ腫が再発するのは手術が下手で取り残すからだ」と教育されて育ちました。
しかし、口腔の粘膜下に唾液を注射して腫れを作った場合を考えてみて下さい。普通は、すぐに吸収されて腫れは無くなってしまいます。嚢胞が存続しているということは、唾液が間欠的であるにしろ漏れ続けていることを示しています。
私はアメリカの雑誌に論文を投稿した際に、「ガマ腫は嚢胞壁が薄く完全摘出が難しい場合があり、このため再発することも珍しくなかった」と記載したことに対して誤りを指摘され、考えを改めました。従って、漏れのもとを止めない限り、うまく摘出できたと思っていても、再発の可能性は必ずあります。南アフリカのParekhは 1987年にBr. J. Surg に書いた論文で、「顎下型ガマ腫を頸部外切開でただ摘出のみを行っても、85%が再発した」と書いているくらいです。
現在では、ガマ腫を手術で治療するとしたら、唾液が漏れているもとである舌下腺を摘出するのがアメリカでは常識で、日本でもすこしづつそのことが理解されるようにされるようになってきていると思います。従って、最も再発しない治療は「舌下腺摘出術」になりますが、これは通常の「ガマ腫摘出術」より大きな手術になり、入院が必要です。
嚢胞状リンパ管腫における多施設の治験では、OK-432嚢胞内注入療法後の再発率は9%とされています。私の印象では、ガマ腫においても同程度の再発率ですが、再発後もOK-432嚢胞内注入療法に対する反応はほとんど変わりませんので、同じ治療を繰り返せば良いだけです。
私は1992年以降、ガマ腫を手術したことはありません。(OK-432嚢胞内注入療法でほとんど治っています。)

質問 :

費用は高いのでしょうか?

答え:

リンパ管腫にOK-432嚢胞内注入療法を行うことは、保険診療が認められた治療です。リンパ管腫注入法(治療手技料)が10000円と薬剤料(OK-432 1KEであれば、3500円くらい)の合計が治療費になり、その保険料率に応じた(通常は3割負担)支払いになります。手術に比べたら極めて安い治療です。また、入院費用もかかりませんので、非常に経済的負担は軽いといえます。

質問 :

どうして、こんなに良い治療が一般に普及しないのですか?

答え:

2001年に発刊された耳鼻咽喉科の手術書(耳鼻咽喉・頭頸部手術アトラス)の「ガマ腫の手術」の項目(自治医科大学、市村教授ご執筆)に、「合併症等で手術が難しい場合や手術拒否例にはOK-432嚢胞内注入療法が勧められる」として、その方法が記載されるまでになりました。また、日本以外にも韓国やイタリアから、顎下型ガマ腫にOK-432が有効であるという論文もでました。おそらく、今後様々な施設で行われその効果が確認されれば、さらに広まることを信じております。もうひとつの理由は、本治療が最も劇的に有効である疾患の「顎下型ガマ腫」は比較的稀な病気であることが挙げられます。普通の耳鼻科医なら1年に一人も経験しないくらいの頻度ですので、医師の経験数が限られます。新しい治療を選択するより、これまで自分が行ったことがある治療を選択するのは、良心的な医師として当然のことです。また、外科系の医師は「手術が一番の治療であり、手術に支障が出る可能性のある処置は絶対に避けるべきであるである」という基本原則を医師としての教育の過程で頭に叩き込まれています。OK-432嚢胞内注入療法は炎症を起こして、嚢胞を消失させる治療ですので、確かにもし手術が必要になった場合に、手術が難しくなる可能性をどうしても考えてしまいます。このため、この治療の経験の無い医師にとって、この治療が無効であった場合に後が大変になるのでないかという不安が、本治療の選択を躊躇させていることもあると思います。手術が一番の治療であることは多くの腫瘍性の病気や腫れを伴う病気に関しては真実ですが、リンパ管腫に関しては当てはまりません。リンパ管腫に対するOK-432嚢胞内注入療法は1986年の第一例から約20年を経て、小児外科の医師の間では第一選択の治療になり、もし手術をしたことを論文にする場合は、「何故OK-432嚢胞内注入療法を行わなかったのか?」の理由を記載しないと認められないまでになりました。OK-432は日本と韓国・台湾でしか発売されていない薬剤です。それにもかかわらず、世界中のリンパ管腫の患者さんやその親が参加しているイギリスのHPの掲示板でも、患者さんたちの話題の中心はOK-432治療です。また。アメリカでもリンパ管腫に対するOK-432治療の治験がすでに行われ、非常に良い成績であること(大嚢胞性リンパ管腫の94%に有効)が確認されています。しかし残念ながら、リンパ管腫に対してでさえ耳鼻咽喉科を含めた多くの科の医師の中には、まだ手術が最良の治療であることを信じている人が多いことも事実です。我々は、顎下型ガマ腫はリンパ管腫以上に本治療の良い適応と考えておりますが、前述のように罹患頻度が低いこともあって、どこでも第一選択として行われるようになるためには、もう少し時間が必要のようです。

質問 :

なぜ、OK-432はガマ腫の保険適応にならないのですか?

答え:

保険適応になるためには、製薬会社は様々な臨床データを提出して国の承認を得なければなりません。たくさんの施設にお願いして、治療成績や副作用の有無などのデータを集める必要があり、これには莫大な費用がかかります。患者さんの数が少なく、その費用が回収できる見込みがない場合は、なかなかその方向には動かないのが現実です。
「リンパ管腫」に対してOK-432は1995年に保険適応になっていますが、これは「オーファンドラッグ:希少疾病用医薬品」という、普通の薬剤の承認方法とは別の特殊な承認法で認可されたものです。これは、国内での患者数数が5万人未満の稀な疾病を対象にした医薬品のことを指します。患者数が少なく原因究明も進んでいない疾病の場合、開発リスクが高く発売しても利益が見込めないなどの理由で、薬剤の研究開発が後回しにされているのが現状ですが、この問題を解決するため、厚生労働省はオーファンドラッグとして認めたものについては、承認審査の優先、再審査期間の延長、助成金などの優遇措置をとっています。荻田先生のHP「カルロスちゃんとともに」をお読みいただけばお分かりになると思いますが、「リンパ管腫」は外国から日本にこの治療を受けに来るほど、確立された治療が無かった重篤な病気でした。このような社会的な側面も、リンパ管腫に対する保険適応取得を後押ししたと考えられます。加えて、2006年には「リンパ管腫注入法」という名目で、リンパ管腫にOK-432を注入する手技も保険点数が認められるようになり、リンパ管腫に対するOK-432嚢胞内注入療法はリンパ管腫に対する第一選択の治療として確立されております。
ガマ腫は、リンパ管腫ほど稀ではなく、また命に関わる疾患ではないため、いまのところ保険適応取得の具体的な動きはありません。また、小泉内閣は混合診療推進の方向を打ち出しておりますので、新しい治療は今後さらに保険適応が取りにくい状況になっていくと思われます。
しかし、多くの施設からこの治療の有効性が発表されるようになれば、必ず保険適応取得の動きは出てくるものと信じております。

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