「MOX燃料の使用中止決定をめぐる謎 −−データ不正について関電は何を認めたのか−−」

MOX燃料使用差し止め裁判原告代表

美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会代表 小山 英之 氏

 

1.住民の不安により提訴。

 昨年11月19日、福井・関西の住民が提訴。関電を相手取ってのMOX燃料使用差し止め仮処分を求めたもの。1週間で212名もの原告が集まった。これは東海事故の影響と思う。次に大事故が起こるとすれば高浜プルサーマルに違いないという思いが強かった。

12月16日、判決の前日に関電は自分で降りてしまった。高浜4号には不正はないと関電は言っていたが、不正を認めて降りた。高浜4号の燃料8体分は全部使用しないことを決めた。高浜3号については、8体中4体を使用しないということは既に決まっていたが、8体全部を使用しないことを決めた。従って、関電がBNFLに頼んで作ったMOX燃料は全部廃棄処分することになった。プルサーマル計画は大幅に延期となり、それが福島にも飛び火することになったと思う。

 12月19日には勝利報告会があり、クラッカーを鳴らして、勝った勝ったという雰囲気だったが、何かおかしいと引っかかることがあった。今年の1月に資料が出始め、引っかかっていたものがわかってきた。今日はどうやって勝ったかではなく、その引っかかっていた点をお話ししたい。

 

2.関電はなぜMOX燃料使用を中止したのか? その謎

関電は12月16日にMOX燃料使用中止を発表した。しかしその中止理由については矛盾した態度をとっている。

◇中止理由−−12月16日の関電の発表文書によると以下の2点である。

@「英国の公的機関が検査データに不正の疑いがあるとしていること」

NII(英国原子力施設検査局)が、P824以外にP783についても統計的に見て疑義があるとBNFLに指摘していることを確認。

A「新たなデータの不正が見つかったこと」

P814についての連絡を本日(12月16日)BNFLより受けた。

 

◇12月16日記者会見における関電の口頭での中止理由

使用中止の理由はP814の不正だけである。NIIの言っている疑義については私たち(関電)は認めません。

1月になっての美浜の会の質問書に対しても、P783には問題なしと口頭で回答した。

関電は矛盾した態度をとっている。12月16日の関電の発表文書ではNIIのことを書いておきながら、どうしてそれ以降はNIIの指摘を無視する態度に出ているのか?

関電は1月11日に(*リンク)再調査するとを発表したが、なにを調査するのかはっきりしない。このままではまともな調査はされないと懸念している。

 

3.P814の不正とP824,P783についての疑義

高浜原発4号機用のMOX燃料についての不正及び不正疑惑は、以下のロットについてのものである。

参考図(35KB)

番号の若いものは先に作ったものである。番号の若い順に見ていこう。

●P783(右の図では下段)は上・中・下の流用。

・上中下の3カ所を測ることになっているが、上だけ測ってそれを中・下にコピーしたのではないかとの疑義である。

・また、上中下を1セットとして、その組み合わせが同じ物が200個中93個もあり、このようなことは統計的に見て非常に起こりにくい。

こういった不正は、ちょっと数字を見ただけでは発見しにくい。

 

●P814は段違い流用

これはBNFLも認めている、はっきりとした不正である。100個のペレットについて上中下、つまり300個の数字をごっそりとコピーした。

 

●P824

P823のデータをP824にコピーした疑い。200個中66個一致。

 

これらのほかに、高浜3号機用のMOX燃料についてはより明白・大規模なデータねつ造がなされていた(これは1999年9月に発覚済み)。高浜4号機用のデータねつ造で味をしめたBNFLが、そのあとの高浜3号機用ではより大胆にデータねつ造をした経緯が見えてくる。

 

4.裁判における争点と裁判の趨勢

●高浜3号用MOX燃料の不正が明らかになって以後、高浜4号用ではP824だけが疑惑の候補であった。関電はBNFL検査員の証言に基づいて「そのまま流用」のみを調査対象とし、他の不正はあり得ない、動機がないと決めつけていたからである。

・中間報告(9月24日)で、関電は統計的にP824の不正を否定

・福井県議会の要求によって高浜4号ペレット外形データが関電から提出され、県庁で公開される。1ロットで約35ページ(1万1000個の数字)で、コピーは1枚30円。私たちはあやしそうなものだけコピーしてデータを入手した。

・グリーン・アクションと美浜の会はこれを解析し、P824だけでなく他のロットについても各種の不正を提起。10月20日に要望書として福井県と関電、通産省、原子力安全委員会に提出→→→福井県内で大きく報道される

・関電は11月1日の最終報告書発表と同時に、我々の見解への逐一反論をまとめた文書を、報道関係、福井県、通産省に配布・提出

→→→争点が明確に、同じ土俵で論争できるようになった。

→→→これの批判が裁判での我々の訴えの主軸をなした。

・裁判の主要な争点は、全数検査と抜き取り検査の分布のグラフ。

関電側は、この2つは同じだと主張した。我々はこの2つは違う分布であるということを検定理論を用いて証明した。我々はこういったグラフを20数個作った。

・2つのグラフが同じであるという根拠を示せとの原告側の要求に、関電は裁判で一切答えず、論争を放棄した。そのかわりに関電は全数検査で安全は保証されると言ってきた。しかし裁判所が関電の主張をおかしいと見ているのは明らかであった。

 

●このような経過から、裁判所は「不正がないとはいえない」または「不正があるとの疑いがある」との決定を出すことは間違いないと予測された。

・実際には決定が出る前に関電は降りてしまったのだが、決定が出れば、P824の不正が指摘され、11月1日の最終報告書で不正なしとした関電の見解ばかりでなく、その判断を妥当とした通産省や安全委員会の態度、それを認めようとした福井県や県議会すべてに影響が及ぶことになる。

 

5.裁判所の決定予定(12/17)直前のMOX燃料使用中止にいたる経過

●12月2日の審尋(原告側、相手側、裁判官が集まって協議する)において、裁判所の決定を12月17日の福井県議会餉に出すよう原告側が要望。このスケジュールに沿って文書のやりとりをすることを被告側も含めて確認し、その後実際そのスケジュールどおりに進展。12月13日の審尋で裁判所が「ガーディアン予測の12月19日より餉の12月17日に決定を出しましょう」と明言した。結局、「17日までに決定」はすでに12月2日にほぼ確定。

 

【以下、☆印は通産省関係、*印は関電関係】

☆9月20日:在英日本大使館経済担当参事官:猪俣氏よりNII宛に、高浜4号にはデータ不正なしとの確認を求める手紙−−明らかにNIIの判断を非常に重視している。

☆9月21日:NIIより、前にも話したように「異常なロットがあるので」その確認はできないという返信−−この日以前に異常の通知あり

(この2件は今年1月18日に通産省が福島瑞穂議費に公開)。

*10月20日:関電がBNFLから、NIIがP783とP1039(3号用)に関心をもっていると聞いたが、P783はBNFLが不正なしと判断しており、P1039は関電自身がすでに不正なしと判断していたので、通産省・福井県などには報告ぜず(この件は関電が1月11日に公開)。

☆11月8日:NIIから猪俣氏宛の手紙(通産省が12月15日に公開)

注:書簡の当該箇所「統計的分析に基づく当検査局の見解では、ペレット直径の2次的な抜取検査データの一部はねつ造されて(falsified 偽造されて)おり、データの他の一部は疑わしいと見なされるべきです。疑わしいデータのペレットを含む2体の燃料集合体は日本にあります」。


・12月8日:NIIがセラフイールド地元の連絡会で、疑わしい(unusual)データをもつロットの燃料が日本にあると説明(マーティン氏の質問に答えて)。

☆12月9日:(午前中)通産省が関電に、NIIがP783につき統計的疑義をもっているとの情報を得たので確認するよう連絡

・12月9日:イギリスのガーディアン紙が、NIIの未発表の報告書の内容を公にし、疑わしいデータをもつ燃料が日本にあると指摘。

*12月10日:BNFLから関電に、NIIの指摘と違ってBNFLとしてはP783は「通常でないロットではない」と確信している旨連絡。

☆12月10日:参議院経済産業委員会で清水議員が、ガーディアン記事を取り上げて質問。深谷通産大臣はNIIは疑義を指摘しているが全数検査をクリアしているので安全性に問題は無いと答弁、答弁の基礎にあるはずの資料を清水議貫が請求(請求は12月14日)。

*12月11日:関電がP783に不正はないと判断し、通産省に報告。

☆12月11日:通産省が関電に調査員をBNFLに派遣するよう指示。

*12月12日:関電がP783に問題なしとの判断を福井県と高浜町に報告。

☆12月12日:関電2名をBNFLに派遣。通産省の職員がイギリスでNIIと会う。

☆12月15日:清水議員の請求に基づく資料(11月8日付書簡)を通産省が公開。

・12月15日:BNFLが、依頼した第3者機関よりP814の不正事実を受け取る。

*12月16日:関電がBNFLより、P814の不正により装荷しないようとの申し入れを受け取る。

・12月16日:原告側が11月8日付け書簡を裁判所に提出。4時から急遽審尋。当書簡を新たな証拠として採用し、裁判所の決定を週明けの20日以降に延期、(11月8日書簡の公表で、高浜4号データの不正が確定したかのような雰囲気がただよった)

*12月16日:午後5時に関電が福井と大阪でMOX燃料の使用中止を発表。

・12月16日:同じく5時に福井県が知事談話の文書を配布。

・12月17日:原告団を中心に約40名で関電本店に出かけて、公開の説明討論会(100名以上の規模、関電は部長クラス以上の人間をだし、報道関係者も入れる)を開くことを約束させた(庄野広報副部長は、11月8日書簡は12月15日になるまで知らなかったと証言。)。申立を取り下げる。

このとき関電は平謝りに謝ったが、何について謝っているのか問うても、一切言おうとしなかった。

・12月17日:福井県知事から通産省+安全委員会宛と関電宛の申入書提出。

(この中ではNIIの疑義についてはまったく触れていない)

☆12月20日:通産省資源エネ庁から原子力安全委員会に資料提出(この中では、NIIからの疑義については引き続き調査を進めるとしていたこと。その後、英国政府から事実関係を明確化する等、信頼回復のための対応策を講じる旨公式に申し入れと記述)

 注:清水議員の国会での資料請求のべ一スにはイギリス・ガーディアン紙の記事があるが、そのまたベースには裁判を構えた運動を前進させようとするグリーン・アクション=アイリーン・スミスさん、スティーブン・レディさんのめざましい国際的活躍があり、同時に国会ロビー活動、報道関係への強い働きかけがあった。

 

6.とくにP783をめぐる通産省と関電の奇妙な逆の挙動

(1)12月15日に突如現れたP814は、BNFLが不正と認め装荷しないよう関電に要請までしたということで、不正として扱うことに議論の余地はないもの。

(2)P783が問題になった経過は、今年1月になって初めて関電から公表され、10月20日の件を隠していたことで通産省から関電への厳重注意までだされた。なぜ今年になって公開?

・P783が最初に現れたのは10月20日だが、関電は問題視せず、通産省にも知らせず、11月1日の最終報告でも無視した。

・次に現れたのは、12月9日で通産省から関電にNIIが問題にしているので確認せよという通知。しかし結局関電は、今度は自らの判断で問題なしとし、その旨を通産省に報告したばかりでなく、12月12日には福井県と高浜町にも報告。

・この関電の措置だけからすれば、P783は前から問題になっていたP824と同様に、問題なしとして関電によって片づけられたかのように見える。

・すでに10月20日にP783は問題なしとしていたのに、いまさら問題ありでは過去の措置の責任が間われることになりかねないため、関電としては当然の措置であったと思われる。

(3)ところが他方、通産省はこの件でBNFLに派遣して調査するよう関電に指示、関電はその指示に従って12日にBNFLに2名を派遣、同時に通産省もNIIに派遣している。明らかにNIIの疑義をどう受け止めるぺきかで、通産省の主導で協議したと思われる。

(4)このように12月9日から12日にかけてのP783をめぐる動きは、関電と通産省とで逆向きになっているように見える。通産省の動きは、ガーディアンの記事、国会での要求により11月8日書簡を公表せざるを得なくなったこと、それによって高浜4号にもデータ偽造があるとのNIIの判断が明るみにでること、これらを通じて責任が自らに及ぽうとしていることを踏まえ、さらに、裁判の経過・趨勢等を睨んで、通産省主導でイギリスも含めて善後策を協議せざるを得なくなったためではないだろうか。

(5)その協議の中で、MOX燃料の使用中止の方針が出され、裁判所の決定前に公表することが決められたと予想される。裁判で負けるということは通産省としてはどうしても避けたいことであったに違いない。福井県の了解も15日こはすでにとっていたと思われる(12月16日の福井県の素早い対応を見よ)。

(6)そこへ突然15日に、P814が浮上し、16日にBNFLから関電に通知された。しかしすでにNIIからの疑義をMOX使用中止理由にする予定であったため、P814と両方が中止理由に入りこむことになった。関電としては非常に不本意なことであるため、口頭説明ではP814だけにしてしまった。

 

★このように解釈すれば、一応納得のいく解が得られる。

 

6.総括と今後の問題

(1)我々は高浜4号について、膨大なデータ解析を行ってBNFLの抜取検査に広く疑義を提起し、不正なしとする関電の方法と同じ土俵に立って逆の結論を導いた。その立場で、212名の原告で裁判に訴え関電に論争を挑んできたが、関電は論争を避けて「全数検査論」に逃げ込んだ。裁判で勝利するため、グリーン・アクションは実に意欲的にイギリスに情報を送り、その反作用としてイギリスからNIIの判断に関する情報が公開された。それに基づく国会活動によって通産省の情報隠しが暴かれ、通産省は責任を問われる窮地に立つことになり、他方では裁判で原告側が勝利しそうな趨勢から、裁判所の決定前に、MOX燃料の使用を断念せざるを得なくなったと考えられる。

(2)しかし他方、突如としてP814が現れたことにより、責任の範囲と影響を最小限にとどめるためには、NIIの疑義を無視することが絶対的に必要なこととなった。従って、1月11日から始まった関電の再調査は、NIIの疑義に係わるP783とP824の不正なしを前提とするものとなるに違いない。しかしそれは関電自身の12月16日発表文書での中止理由と矛盾している。

 再調査の報告は、中間報告が2月末、最終報告が3月末に出されると観測されている。

(3)また、仮に不正をP814に限っても、それを見つけることができなかった責任、11月1日に最終報告と称して公にした責任、まず関電の責任が間われる。

(4)通産省については、すでに9月20日以前に高浜4号の疑義をNIIから通知されていながら、それを隠した責任、隠したままで関電の中間報告・最終報告を「妥当」とした責任、さらに11月8日付け書簡を隠した責任が間われる。

(5)関電も通産省も「全数検査諭」でごまかそうとした責任がするどく間われる。

(6)NIIの疑義に関する通牽省の立場は、関電とは異なる性格を含んでいる。関電はBNFLと直接交渉をもつが、NIIとは直接接触する立場にはない。通産省はそれと逆の立場に立っている。NIIや英国政府の判断はまだ最終的には出されていないと通産省は考えている−−(12月20日付け原子力安全委員会への提出文書)

 恐らく2月7日に来日する英国政府(NIIを含む)との協議で、英国側からNIIの疑義に関する総括的な見解が示されることになるであろう。

(7)来日するBNFLとの協議で、BNFLとの契約継続問題、現に高浜4号の使用済み核燃料プールにあるMOX燃料の措置が話し合われるであろう。

(8)関西の運動は、関電との公開の説明討論会を重要な節目として目指している。いまはこれに向けて、事前にP783の手がかりを何とかつかもうとしている。また、検査のずさんさは、むしろプルトニウム富化度(はずされた5個のロットのうち、4個は富化度の仕様外れによる。しかし富化度をどうやって測定しているのか、何が仕様なのか書いていない。またはずされた残りの1個の外観仕様はずれというのが何なのかも明らかにしたい。)やプルトニウム・スポット(プルトニウムスポットの検査については、何をやっているのか全然わからない。非常におかしなことが書いてある)で顕著であるので、この点を事前に質問書で間いただそうとしている。

 

(9)これらひとつひとつを問題にする中から、プルサーマルそのものを断念させる方向へと進む道を切り開いていきたい。福島原発プルサーマル反対運動との連携を強め、ともに前進していきたい。