平成11年度受賞作
「小さな親切」作文コンクール
「小さな親切」運動船橋支部

この作文は、船橋市内の小中学校から応募(780点)から、審査の結果選ばれたものです。
内容が、自分のした行動がもとで、他人からされることに気づいた点が評価された。


市長賞  五百メートルの教科書
葛飾中学校3年 井上 里美


 みかえりがほしくてするような親切は親切
ではないんだ。私は最近このような気持ちに
させられた。それはある朝の出来事がきっか
けだった。
 「ゴトッ」私のすぐ横で物の落ちる音がし
た。携帯電話だ。落とした人は若い女性。自
転車で行ってしまった。その日は部活の朝練
がなく、いつも走って行く私がゆっくりと歩
いて登校できる珍らしい日だったのだ。「追
いかけると走らなくちゃいけなくなっちゃう。」
そんなことを思いながら女性を探すと、すで
に数十メートル先を走っていた。追いつけな
くなると感じた私は反射的に走りだした。
 駅まで約五百メートル。きっと駅に自転車
を止めるだろう。と思いながら、
「すみません!!落としましたよ。」
と叫びながら走った。何度呼びかけても気づ
いてくれない。だんだんむなしさが体中にし
みわたってきた。走りながら叫ぶ私の姿を不
思議そうにながめる人達の視線が私の体をチ
クチクさした。「なんで走ってるの?はずか
しよ。」自分への不満が頭をかけめぐった。
あきらめようと思ったが、相手はまだ見えて
いるし、ここまで走った意味がなくなってし
まう。自分にそう言いきかせるしかなかった。
 予想通り自転車は駅の駐輪場は入っていっ
た。私もあとを追って入ったが、以外と人が
多く、見失なってしまった。ここまでがんば
ったのに・・。疲れとショックで手にもってい
た携帯電話が急に重く感じられた。しばらく
その場に立って様子をうかがっていた私に一
人のおじさんが話しかけてきた。「その持ち
主、多分あの人だと思うよ。」確かに私が追っ
た後姿の人だ。どうやら一部始終を見ていた
らしい。私はおじさんにお礼を言い、持ち主
らしき人にかけよった。息をはずませて「こ
れ落としましたよ。」と渡した私に女性は、「
ハイ。私のです。」と一言いっただけで去って
しまった。
 なんだかもっと感動して喜んでくれるだろ
うと思っていた私にとって予想外の展開で脱
力してしまった。しかし、学校への残りの道
を歩きながら、しだいに気持ちが晴れていった。
 結局私は親切をしたことによって自分へ何
かみかえりがほしかっただけなのだ。そんな
自分がバカらしくなった。でもそれだけでは
なかったと思う。わざわざ私に声をかけて持
ち主を教えてくれたおじさんの手助けもあっ
たからちゃんと返すことができたのだ。自分
だけが親切をしたつもりになっている間にい
つのまにか自分も親切という名の助けをうけ
ていたのだ。走ったせいかもしれないが体全
体がほてっていくのを感じた。
 その日走った五百メートルは心への授業に
思えた。頬をつたう汗がなぜか気持ちよかっ
た。

(原文のままです)


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