【スレイヤーズSS】 移動商店の魔道器 1

 

 「ちょっと、ちょっと」
 ………………?
 「ちょっと、ソこ行くお嬢サん達」
 ……ん? 誰かが呼んでいるようだが……?
 ある麗らかな昼下がり。相変わらず平和かつ退屈な街中を、全てのメシ屋全メニュー
制覇のために歩き回っていたあたし達。そこへ、突然声をかけてきた者がいるよーなの
だが……
 「リナさん! こっちですぅ!」
 あたしの連れの一人、やたらゴツい装備に身を固め、それでいて、体つきは華奢な女
の子(実は、エルフ)、ミリスが声をあげる。彼女の指さす方には、露店らしきモノが
あった。そこにいる主人らしい人が声をかけてきたようなのだが……
 「そそ。あんた達だがね。ほらほら、その一番前の栗毛が可愛い、目のクリッっとシ
た可愛いお嬢サんのいるパーティサん」
 可愛いとゆーのは、とーぜんだとして……その後のしょーもないシャレは何だ……?
 そちらの方を、思わずジト目で睨むあたし。
 「お? やっとこっち向いてくれたーね。そ、ちょっと見たって、この品ぞろい、な
かなか手に入らん物ばかりだーて」
 ……随分、変な言葉を喋るヤツである。
 「面白そうね、リナ。行ってみましょうよ」
 ポプリが興味津々に言う。
 他のみんなも同意見のようだ。あたし達みんなで、問題の露店の前にくる。
 その露店、上の方に看板が立ててあり、こう書かれている。
 『ドーギスの移動商店』と。
 「ををっ……ふふふふっ……けっこー良い雰囲気だな。いかにも!って感じの怪しさ
だなっ!」
 「うふふっ……(ハアト) 新しい魔法剣でも売ってないかしらっ?!」
 カイルとレミーさんが、やたらアブない喜び方をする。
 まあ、それは無理もない。この露店、近くで見ると怪しい意外の何者でもない。
 怪しいモン好きの暗黒魔道士が喜ぶのもとーぜんだ。ちなみに、怪しいのは店自体で
はなく、店の主人である。
 着ている服自体は普通の商人風なのだが、その頭に着けた、黒フードが怪しさを際だ
たせている。その黒フードが顔のほとんどを覆い隠している。
 その主人、どーやらまともな人間ではなさそーである。なぜなら、そのフードからの
ぞく肌が、ヌラヌラと光る緑色をしているからである。
 「おおぉ。近くで見ると、これまた溜息がでそーなくらい可憐だーねぇ。
  まるで、英雄伝承歌に出てくる姫君のよーだァねぇ」
 どーやらこの人(?)、人を見る目はあるよーだ。
 「ほーっほっほっほ! おじさん! 私が姫君ですって? とーぜんのことよっ!
  私の美貌は、そんじょそこらの自称・美形の王族が束になってかかってきても、か
なうもんじゃないわっ!」
 ナーガが吠える。こひつ……勘違いしてるな……
 「ちがうだーねぇ。おじサんは、スイカ胸おばサんは好みじゃないのだねぇ」
 「だっ! 誰が、スイカ胸おばさんよっ?!」
 ナーガが反論する。いやー……あたしは事実だと思うが……
 「へー……おっちゃん、随分、目が良いのね!」
 思わず誉めるあたし。
 「しくしくしくしく……」
 どとーの涙を流す金魚のうんち白蛇のナーガ。
 「それほどでもないでシュよ。あ、おじサんドーギスっていうんだけどね。
  おじサんは子供が大好きなんだーねぇ。ほら、お嬢サん、とっても胸がぷりちーだ
からねェ。きれいだーねぇ」
 ……おっさん……ほんとに、ほめとんのか……?
 「なるほど。あの胸じゃーな……」
 「あのおっさん、さてわロリ○ンぢゃねーか……?」
 「げろげろ……」
 やたらと、耳障りなことをほざき倒す二人は、放っておくとして。
 「……で? おっちゃん、あたし達に何か良い物でも売ってくれるの?」
 「そそ。そーなんだぁね。いろいろ揃ってるんだ。見たって見たって」
 ……と言いつつ、何やら、白い手袋をはめるドーギスさん。
 すると、手袋の親指以外が全て丸くなってしまった。まるで、ダンゴのようにそのま
ま固まってしまったようだ。(何らかのマジックアイテムだろう)
 「これで、準備OKだァね!」
 ドーギスさん、傍らに置いてあったやたらデカい篭を開け、迷わず篭の中にダンゴ状
の両手を突っ込んだ!
 「こん中、異次元空間なんだぁねー。なんでも出てくるでシュよ。
  お嬢サん、可愛いから安くシときまっシェ。何か欲シい物あるかぁねー?」
 ………………?
 あたしは何故か一瞬、これとまったく同じ光景をどこかで見たような気がした。気の
せいだったのかもしれないが。
 「みんな、何かある?」
 そばで見ているみんなに問いかけるあたし。
 「うふふふふふふっ……そォねぇ……んじゃ、すぱすぱ斬れる魔法剣なんかない?」
 レミーさん……コワいっちゅーに……
 「おぉ! ねいサん目が高いねぇ! ここで一番値のはっちゃる魔法剣あるだぁね!
  ほりゃれられっ!」
 わけのわからん叫びを上げて、篭に突っ込んだ両手を引っこ抜くドーギスさん。
 「『インテリジェンスブレード』!! ……だぁね!」
 叫んで引っこ抜いた両手には、鮮やかな装飾が施された鞘におさまった一本の剣があ
った。まるで、そのダンゴ状の手に吸い付いているかのように。
 ……やっぱしどっかで見たことあるぞっ! この光景っ!(笑)
 まあ、それはともかく……
 『インテリジェンスブレード』
 よーするに、自分の意志を持った剣。それを所持する者のみが剣と会話することがで
きるのである。まあ、剣の分際でやたらと論理的なことにこだわったりして、使う人間
にとっては、頭が痛いことこの上ないのだが。
 「ふぅん……誰がどーみても普通の知力剣にしか見えないんだけど……?」
 「ちっちっち。お嬢サん、商品を外見で判断シちゃいかんよ。なんなら、ちっと使っ
てみりゃーシェ」
 そーいってドーギスさん、あたしに剣をさし出す。それを受け取り、鞘から刀身を抜
いてみた。
 …………………………………………………………
 「……をい……」
 思わず額に汗水たらすあたしだった。
 「どーかシただね?」
 しかし、ドーギスさん、不思議そうにこっちを見ているだけ。
 「どーしたの? リナ?」
 あたしを見ていたポプリが問いかけてきた。
 「ポプリ……ちょっとこれ持ってみて……」
 彼女に剣を手渡す。すると、やはり顔をひきつらせ、額に汗するポプリ。
 「…………………………………………」
 「何なのっ?! ポプリばっかりずるいわよっ! 私にも斬らせてねっ!」
 突然、レミーさんがポプリから剣を奪い取った。そして、やはりその場で硬直する。
 「……これって、ほんとに役に立つの……?」
 「……? いったいどーしたとゆーんだ?」
 ジンが硬直しているレミーさんから剣を取った、すると……

 ばぢばぢばぢぢぢぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!

 なんと! 突如、剣が烈光を放ち、ジンの体を感電させる!
 たまらずぶっ倒れるジン。
 「きゃーっ! ジンさん大丈夫ですかぁっ?!」
 ミリスが驚愕した声を上げる。
 「あ、忘れていただぁね。その剣、男が触ると怒るんでシュ。女の子でも、よっぽど
慣れないといけんッシュ。なんシェ、恥ずかしがり屋シャんでシュからシて」
 のほほんとした口調で呟くドーギスさん。
 ……をいをいをい……
 「……を……? っいちちっ!」
 頭を振り振り、目を覚まし起きあがるジン。
 「……いきなし、『痴漢よーっ! 助けてーっ! 恐いよぉぉ! おかーさーんっ!
えーんえーんっ! しくしく……ぐすん!』……は、ちょっとヒドいぞ……」
 ……ンなこと言ってたのか……?
 「ほーっほっほっほ! まあ、半分事実かもしんないわねっ!」
 ナーガに言われて、その場に座り込み、地面で五目並べを始めるジン。
 ……すねるなよ……
 「私には、『お願いです。はなしてください。私、まだ……その……心の準備が……
うじうじ……』……なーんて言ってたわ……」
 レミーさんが額に汗流しつつ言う。
 「左に同じく……」
 これは、ポプリ。
 無論、あたしにも同じよーなことを言っていた。
 「これわ……ちょっと使えないよーな気がするんだけど……」
 顔をひきつらせつつ、ドーギスさんに詰め寄るあたし。
 「いけんねぇ……お嬢サん。顔面神経痛が酷そーだーて、薬(くシュり)だそか?
  ほらほら、ソんな顔シたから、小ジワが46本増えただぁね。そんなんじゃ、その
可愛い胸まで、しわしわになってしまうッシュ」
 マジな顔(フードに隠れてわからんが)で言うドーギスさん。
 「……ひ・と・こ・と・多いわぁぁぁぁぁぁァッ!!」

 どげげげげしげしげししっっっっっっ!!

 あたしの究極必殺技(蹴り技)インバース・マシンガン・トルネード・クラッシャー
が、ドーギスさんのどたまに、まともに決まった。
 「シュシュシュシュシュぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」
 悲鳴をあげて、吹っ飛ぶドーギスさん……って……え!?
 「にゃああっ!?」
 ミリスが金切り声をあげる!
 地面に倒れたドーギスさん。蹴られたひょーしに顔を覆っていたフードが、外れてし
まったようなのだが、なんとその素顔は人間ではなく、トカゲ!
 「リ……リザードマン!?」
 思わず声を上げていたあたし。
 「うふふふふふふっ……もっ……もんすたぁ……にへへっ……いい響きねっ!
  やっぱ、トカゲなら尻尾から切り刻むべしってのが法律で決まってるわよねぇ」
 「決まってない決まってない」
 レミーさんが完全にイッた発言し、それにツッコむナーガ。
 「いったい何でこんな所に、リザードマンがいるのだ? やましい理由なら、我が拳
で一撃の下に、内蔵もろとも吹き飛ばしてくれるぞ?」
 ジンまで、イッちゃってるよーな気がするのは、あたしだけか?
 「シッ……失礼なっシュ! こー見えても、人間に危害を加えるよーな、リザードマ
ンとは一味も二味も違うっシュ!」
 それにどれほどの違いがある……?
 「ふんっ! 嘘もたいがいにしなさいっ! どーっせ、人間の女の子捕まえてじっく
り楽しんだあげく、喰っちゃってんでしょ!? そんな悪は私が、すぱぁぁぁぁんっ!
って斬ってあげるわっ! ね! レミーさん!?」
 「うふふふふふふっ! その通りよっ! ポプリ!」
 ……あんたらもじゅーぶん悪に走ってるよーな気がするぞ……
 「をーい。魔竜烈火砲で吹っ飛ばすってーのはどーだ?」
 カイルが、さっそく呪文詠唱の準備なんぞしていたりする。
 ところが……
 「ちょっと待ってくださいぃっ!」
 そこに響いた声は、ドーギスさんを庇うミリスの発したものだった。
 「みなさんやめてください! 人を外見で判断しちゃいけないですぅっ!
  おじさんは、人間を食べたりしないですぅっ! そうでしょう!?」
 「いや……人じゃないと思うけど……」
 ポプリがツッコむ。
 「おじさんは、絶対に人を食べたりしないですよね! ね、ね!?」
 「そそ、そーなんでシュ。ここ30年ほど、子供は口にしてないだーね」
 ……それって、結局喰ってたってことじゃあ……?
 「ほらぁほらぁっ! みなさん、大丈夫ですぅ! 彼は悪い人じゃないですぅ!」
 「……いや……じゅーぶん悪いと思ふ……」
 あたしも鋭いツッコミをしてみるが……
 「ぶーっ! 酷いですぅっ! もう、ミリス泣いちゃいますよぅ!」
 ……幼児か……おまえわ……?
 ま、このまま放っておいたら、ぷっつんキレて竜破斬あたり連打されそーなので、こ
れ以上言わないことにした。
 「さ、もう大丈夫ですぅ。ドーギスさん」
 「をを。ありがとうだぁね。良く見るとそっちのお嬢サんより、あんたシャんの方が
可愛いだぁねぇ」
 ……心変わりの早いヤツである……
 「わあ、ありがとですぅ! 嬉しいですぅ!」
 しかし……ミリスは、本当に素直に喜んでいた。
 ……まったく……
 あたし達は何故か、あきれることはできなかった。


 さて、この後もドーギスさんは、あたし達にいろいろな商品を紹介してくれていた。
 しっかし、どれもこれも、役に立つようなシロモノとは言えなかった。
 ……まず、これで歯を磨くと虫歯になる『アンラッキーブラシ』……
 手を洗うと真っ黒になる『アンチ石鹸』。
 これに酒を入れると、それ自体が、酒を飲んでしまう『コップイミテーター』などな
ど……
 これでは、単なる子供のイタズラ玩具屋である。
 「おっちゃん……やっぱ、何もいらないわ……」
 あたしが力無く呟くと、ドーギスさん。
 「ふーん……どれもお気に召さないよーだぁね……」
 当たり前だっつーの……
 「よーシ。おじさん最後の切り札だ! ちょっと待っとってちょ!」
 もーいいって……と言おうと思ったのだが、ドーギスさん既に篭の中をあさりはじめ
ている。
 「よっシゃ。見つかっただーよ。よいシょっと……」
 ドーギスさんは、ひとつの箱を抱え持っていた。
 「何それ……?」                     ・・・・
 「ふっふっふっ……聞いて驚いちゃいかんよ。この一見、単なるみかん箱に見えるこ
の箱、おじさんが、今までで一番手に入れるのに苦労シたんだけどね、なんと、この中
には現代魔道の技術を結集シた物が入っとるんだーて。早い話、生体魔道決戦兵器と言
ったところでねぇ……」
 ふーん……今度はまともそーだ。
 「人間女性型でキャパは膨大、魔道能力は予測不可、容姿は妖艶にして、端麗、ソの
美貌は見る者を圧倒シ、ソの放たれる高笑いは聞く者の脳髄を破壊シュるという……、
そりゃあ、もー恐ろシいものだァて!」
 ……突如、あたしの頭の中で、ある悪夢が走馬燈のように蘇った。
 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?
 ま……まさかっ……?! いやいや……そんなはずわっ?!
 「どーしたんだ? リナ?」
 カイルがあたしを不思議そうにみる。当たり前だ。彼はあの恐るべき事実を知らない
のだから!
 「どうだぁね? 今なら激安価格で、金貨120枚でお譲りするだぁよ……って、そ
っちの姉サん、どぉして地面とキシュしとるだね?」
 見ると、ナーガが地面に突っ伏している。彼女もアレの正体が分かったらしい。
 「あの……せっかくで悪いんだけど……」
 「どーしたの? リナ?」
 レミーさんが聞いてくる。
 「なっ……何でもないっ! ほんとにごめん! 悪いけどまた今度にして!」
 「何? いらないのか? ま、そー言わずに中だけでもみりゃーシェ。
  も、一発で気に入ることうけあいだて! んじゃ開けるべ! そりゃ!」
 あああああああああああああああああああっ! 開けちゃったァァァァァァァァッ!
 「むっ?! すさまじい障気! デーモンが封印されていたのかっ?!」
 ジンが叫ぶ。違うっ! アレはそんな生やさしいもんぢゃないっ!!
 「ほーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!」
 突如、辺りに響く恐るべき虚無を撒く高笑い!!
 ひ……ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェッ!?        ・・
 周りを見ると、全員、地面に突っ伏していた。そう、そこにたたずむのは、あの!
 ナーガコピーッ!!
 「ほーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!」
 相変わらず高笑いを続けるナーガコピー!
 いひァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 「きゃああああああああああっ!! 助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!
  ナーガさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 「ミ……ミリスッ!!」
 なんと! ナーガコピー、そのままミリスを捕まえて、建物の屋根の方へと逃げて
いった。
 「をっ……をにょれ! ナーガコピー! いまだに生きていたとわっ!!
  絶対見つけだしてスクラップにしちゃるっ!!」
 思わず、空に向かって中指おっ立てるあたし。
 「ありゃー……金貨120枚いただくッシュよ」
 ……………………………………
 「しくしくしくしくしくしくしくしくしく……」
 空に向かって指おっ立てながら、涙するあたしだった……


 さあ、とうとう復活を果たしたナーガコピー! 彼女の恐るべき計略とは!?
 そして、ミリスの運命やいかにっ?! もう出番はないのかドーギス!
 全ては、次回明らかになるっ?!

                             (続くっ!!)