平成3年9月15日。私が働いていた会社の社長の息子さんが12歳でこの世を去りました。
生きていれば23歳。立派な男性になっていたでしょう。
あれから11年。私は、またその社長の下で働いています。
ふと思い出せば、もうすぐ、彼の命日です。
私は彼自身を知りませんが、当時、魂をえぐるような悲しみの中にいた
ご家族の思いを代弁するため、書いたものがあります。
息子さんに寄せての追悼文集とご家族の方の思いをつづった小冊子が手元に残っています。
今更ではありますが、もう一度、彼のために。彼のお父様のために。
今振り返れば、想いのすべてを表わせたとはとてもいえませんが、
子を思う親の心を読んでみてくださいませ・・・。


 

 

TWELVE

十二年
他の者には長く思えるだろうこの歳月を
今ほど短く思ったことはない
あまりにも短い
この短い歳月をどう表せばよいのか
また思い出せばよいのか

ふと気がつけば 知らないうちにその心を思い
知らないうちにその姿を探そうと
必死の自分がいる

いくら探しても
いくら思い出しても彼はいない

何をしても 何を思っても
ふとしたひょうしに溢れ出す
この想いをどうすればよい
この世にこれほどの悲しみや絶望があろうとは・・・

十二年
この歳月はいったいなんだったのだろうか


 

素晴らしい友達に

ぼうっとした意識の下で ふと気づく
この人の多さは何だろう
同じ年頃の子供はもちろん
小さい子 お年寄り お母さんたち
みんな皆 目を赤くして 手をあわせてくれる

私の知らないところで
なんと人々に愛されていたのか
わが息子の幸せと
それ故の不憫さが心にしみる

弱い者には手をさしのべろ
強いものには立ち向かい
自分の幸せは自分の努力でつかめ
いつも他の人の心になって考えろ
人の優しさ 思いやりのわかる人間であれ

そんな我が思いを体中で表現しての結果なのだ
私はそんな息子に感心すると同時に
そんな息子の友人となってくれた人々の心のあたたかさに感服する

心優しい息子を理解し
受け入れてくれた人々の
心優しい気持ちが嬉しくてたまらない

いつまでも憶えていてあげてほしい
そして いつまでも元気で生きてほしい

息子のなしえなかった人生の分まで

ありがとう ありがとう


 

どうしようもない哀しみに

どうしようもない哀しみに
どうしようもない憤りに
どうしようもない愛しさに

半身を引き裂かれたこの身を
誰が思い知るだろう
自分自身が死を迎えるその日まで
この言い表しようのない想いを
ずっと抱いてゆかねばならない

さみしくはないか
寒くはないか
苦しんではいないか!

ついて行きたい!
いっしょに歩いてあげたい!

なのに何故人は生きられる
何故 この口は物を食う
何故 この鼻は息をする
何故 この眼は我が子のいない風景を見つめている
ここにいるわが身はいったい何者か

心優しき我が息子
病と戦い 必死に生きようとしていた息子
誰がその命を奪った
何が彼を連れて行った
私は今 この世のすべてを憎みたい
今生きている我が身さえ

それほど 私は愛していた
私の夢 我が息子


 

ごめんね

あれは小学校2年の秋だった
助けてくれと言わんばかりに
我が胸に飛び込んできた君

「パパ 救急車」

そう言ったきり意識のない体
青ざめ冷えていく心

どれほどの絶望 どれほどの恐怖

死ぬな!戻ってこい!

固くなる君に必死の思いで叫ぶ
骨も折れんばかりに胸をさする

死ぬな!いってしまうな!

叫びが届いたかのように目を開ける君
あれほどの絶望と希望を私は知らない
そう君を失うまでは

365日ある一年の中で
何故9月15日なのか・・・
何故 この日に限ってそばにいなかったのか

あの時のようにそばにいれば・・・
君を助けることができたかもしれない・・・
自分の手をすり抜けていった魂よ
そばにいてあげられなかったパパを許しておくれ

今 どうしようもなく 自分が悔しい・・・!

ごめんね ごめんね

 

息子のファイト

夢がしぼんでしまった
今まで築き上げてきたすべてがむなしく見えるほど
なくした夢は大きい

けれども これから人生の海を渡る君たちよ
なにかつまずくこや 負けそうな時があったら
どうか息子のファイトを思い出してほしい

病弱だったあの子は いつもぜんそくで苦しんでいた
小さい時からスポーツ好きの彼にとって
それは最大の苦しみだったに違いない

サッカーの試合 運動会 陸上大会
どれをとっても彼には練習はなかった

いつも本番だった

一回きりの勝負だから いつも一生懸命だった
いつも失敗と背中あわせの成功だった
あの小さな体で すでに真剣勝負を知っていた

子供たちよ
人生にはいろんな勝負がある

勝ち負けは問題外としても
成功するんだという力強い信念のもとチャレンジしていた
息子を思い出してほしい

彼はどんな時でも 結果にこだわらず頑張った
その結果を君達は知っている
だから 息子のファイトを思い出して
自分達のそれぞれの壁を乗り越えてほしい

そうすれば 夢は必ずその手に入る

私は思い出す 息子のファイトを
失くした夢は大きい
けれど 私は思い出す


 

思い出

きっと一生思うだろう
今 生きていればこうだな などと

子供時代の幸せだけで死んでしまった君
生きていれば
 自分の夢を見つけ
 同じ夢を追いかけてくれる友を見つけ
 自分の人生をわかちあえる恋人を見つけ
楽しいことが山ほどあるのに・・・
言ってみても仕方がない
わかっている わかっている・・・

しかし忘れることなどできない
忘れることなどできはしない

今はただ 時が過ぎるのを待つだけ
時が過ぎれば 思い出が本当の思い出になる

だから 今はもう少し息子をいつも思い出していたい


 

息子の友達へ

命とは なんとはかなく
なんとかけがえのないものか・・・
自分ひとりで大きくなった顔をして
何もかも自分ひとりでできるようなことを言って
多くの我がままをあたりまえと思いこんで・・・

一人の魂がなくなるだけで
こんなにも多くの人が悲しむのだ
一人の魂がいなくなるだけで
人生まで捨ててしまいたくなる人もいるのだ

だから子供達
君達の命 決して粗末にせず生きてほしい
どんな人生でも どんなことがあっても
君たちの命は親の愛でもあるのだ
生きたいと願いながら死んでいく者がいる
ほとばしる叫びの中死んでいく者がいる

生きていれば苦しみも哀しみもある
けれども生きていれば それだけで誰かが幸せでいられる
君たちの命は確かに君たちのものだ
けれども君達だけのものでもない
この世に生きとし生けるすべてのものでもあるのだから

大切にしてほしい
どんな命でも愛してほしい
この世になくていい命などありはしないから


Tちゃん

Tちゃん
そう呼んだら「なに?」と返事がかえってきそう

あんまりママが泣いていると
優しかったTちゃんがきっと困ってしまうね
それにママのお友達もいろいろ励ましてくれるんだよ
だから なるべく泣かないようにと
笑顔でいるんだけど

一人になるとさみしいね
夜になるとTちゃんが帰ってこないから
ああ やっぱりもういないんだなって・・・泣けてくるの

ごめんね ママこんなに泣き虫なんて

ねぇ Tちゃん
あなたはここにはいないけど・・・
それでもきっとそばにいてくれるね
ママそう思うと嬉しいんだ

よその人はいつまでも思い出していちゃいけないってなぐさめてくれるけど
でもね Tちゃん
ママはいつでも思っているの
生きている時よりもっと ずっと Tちゃんがここにいるって
だから 声に出して話しかけるね

Tちゃん ママは今日も 生きているのヨ


 

思い出にできない思い出

思い出すなぁ
お兄ちゃんの手を引いて あなたがママのおなかにいた頃
おっぱいを飲んで 眠っているあなた
パパに抱かれているあなた
お兄ちゃんとケンカしているあなた
イタズラして笑っているあなた
スキーを得意満々でしていたあなた

なんだか楽しいことばかり思い浮かぶんだけど
でもあなたの笑顔がステキであればあるほど
ママは後悔してしまうこともある

あなたは優しい子だったkら
イタズラやケンカも多かったかわりに
ママのお手伝いもよくしてくれた
だから ママはあなたと一緒になってできるのが楽しくって
ゴミ捨てなんか模してもらったっけ

ぜんそくで苦しいのに 体力もあまりないのに
どんなことでも進んでするから・・・
ゴミなんてママいくらでも捨てに行くのに・・・
その分ゆっくり休ませてあげれば良かった

そんな優しさがたくさんあってママの心には
あなたの大きな優しさがいっぱいあるんだよ
なのにこんなに早くいってしまうなんて

だからね
あなたのこと ママは思い出にしたくないの
いつまでも ずっと一緒に生きていると思うから


お兄ちゃんへ

Tちゃんに負けないくらい優しいお兄ちゃん
パパやママを気遣って明るく振る舞ってくれる
ありがとうね

人前では絶対に涙を見せないけれど
一人の時はTちゃんのために泣いているのと思う

受験で大変なのに 自分のことで精一杯だろうに・・・
でもね
ママはそんなお兄ちゃんが可愛くて そして頼もしい
ママやパパに頼らずに必死で自分と戦っているあなたを見ていると
ママも頑張らなきゃ と思えるのよ

でもね
どうしてもこらえきれないときは・・・泣いてもいいのよ
だって ママやパパにとってTちゃんと同じくらいお兄ちゃんが可愛くて大好きだから
ママたちの前で泣いたって何も困ることはないから
そりゃ ママも一緒になってなくかもしれないけれど
その時は抱きあってワンワン泣こうよ ね

お兄ちゃんへ
大切な時期なのに いろんなところへ気を使い優しい心の持てるあなた
自分の力で今の現実を乗り越えようとしているあなた
ママはそんなふうに大きく成長したあなたを誇りに思っています


 

ケンカ相手がいなくなった

誰よりも仲が良かった
なのにいつもケンカしていた
もとはと言えば僕よりTの方が悪い
なのに怒られるのはいつも僕だっけ

僕のものをほしがったり やってることをしたがったり 友達を連れてっちゃったり
やることなすころ「も〜〜〜!」と思うことばかりだったな

いなくなって初めて知った
誰よりも仲が良かった
どんなにケンカしても無条件で仲直りできるのは
Tしかいない

そう だってさ ケンカもよくしたけれど
一番仲の良い 心の友達だったもんな

あ〜あ

ばかやろうっ!なんで死ぬんだよ!ケンカできないじゃないか!
ごめん どなってごめん
イチバンツライノハ Tダヨナ

戻ってこいよ
T!どこ行ったんだよ


司とすごす夜

司は同い年の幼なじみ
司には弟がいないから Tを弟みたいにしていた
だから司もショックだったと思う

あいつとは黙っていてもわかりあえるところがあるから
あれからも司はよく遊びに来る
これといって何もしない
ゲームしたり 音楽聴いたり いろいろ

時々 コーラなんか飲む時
Tの分もコップを用意する

そんな時は二人してふと黙ってしまうことがある
言葉では表わせない
でも ぼくたち二人にはわかりあえる沈黙

つらいなあ
ん さみしいよな
悲しいなあ
ん 悔しいよな
そうだよな
司ありがと
なに言ってる

そんなことも黙っていても通じている

だってTは僕の弟でもある

司 そう言うか

司とすごす夜は少しだけ心が軽い
軽いけど・・・


一人歩き

もし パパとママがいなくなっても
僕は寿命の来る日まで生きていくだろう

つらいし 悲しいし さみしいよな きっと
でも僕は歩いて行くと思う

もし パパとママがTのあとをついていっても
僕はたぶん行かない
パパとママを連れて行ったTを 僕を置いていったパパとママを
少しだけうらみながら
たぶん僕は生きていくだろう

何になるのかわからない
何をしたいのかわからない
でも 何かになるために
何かをするために
たぶん僕は生きていく
Tの分まで生きていく

だって僕は
Tが パパとママが大好きだ
大好きだ!

だから

ん だから
僕は生きていく
一人で歩いていく
僕の人生を


愛よりも深い愛

愛するなんて言葉よりももっと愛している
決して過去形にしたくない愛
とても深く穏やかな それでいて激しい愛

Tへの愛



11年経って、またその社長の下で仕事をしています。
いろいろありますが、以前と同じようにバイタリティーあふれる姿に感心してしまいます。
けれど、時々お疲れになった時によく言う台詞があります。
「俺って、よく頑張るよな。なんでこんなに頑張るんだろう。」って。
そんな時、私は決まってT君のことを思い出します。
社長の後ろで「パパ、頑張って!」と微笑んで励ましているT君が見えるのです。
そうして私は答えます。
「だって、社長。二人分ですよ。T君と社長の二人分の力があるんだから。」
だから、人よりずっと頑張れるんじゃないかなって。
さて、私自身どこまで頑張れるかわかりませんが、
生きていること、生きていられることに感謝しつつ
自分なりの精一杯で頑張ろうと思います。

T君。不思議な縁ですね。君のことは何も知らないけれど。
でも、君のお父さんは今日も頑張っていますよ。
平成14年9月10日。

フュシスTOPへ

music by Sora Aonami