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この秋、涸沢
梓川の瀬音を聞き 落葉松の落葉を踏んで
一足ごとに今年の秋を読みながら歩く
夏の名残りのトリカブト
その細工の細やかさ
ひょうたんぼくの赤い実
その発色のみごとさ
草木の造形や季節の移ろいを
一行一行 精読するわたしも
秋の陽にゆっくり読まれている
千年の風と光と影のなかで――
明神・徳沢・横尾と初めてたどる友が
秋色の景色となって前を行く
梓川を横切り 横尾本谷を渡り
ナナカマドの涸沢をあえいで登ると――
とつぜんわたしたちに降りそそぎ
圏谷(カール)に積もる 2万年の刻(トキ)
雨と氷と太陽に研がれた稜線で
鋭く空を斬る 170万年の山の貌(カタチ)
ここでは時間の姿がよく見える
東陵からのびるゴルジュの上の
あれが 北穂
ザイテングラードをたどった先の
あれが 奥穂
そして吊り尾根から立ち上がる前穂T峰
あれが あれが と友に指をさし
辿らなかった谷と峰を数えながら
つづきは自分に語りかける
もう踏むことはないだろう
北穂の向こうに隠れている滝谷やキレット
浮き石だらけの涸沢岳と涸沢槍
そして逆スラブの西穂から奥穂への尾根の道
自分の内部からときどき鮮やかに立ち上がる
忘れられないあの一瞬この一瞬は
わたしとともにやがて倒れて消えるだろう
初雪の槍連峰から息をつめてみた紫紺の常念も
北穂から眺めた美しい槍の姿も
鏡平に逆さに映るその穂先も
岳沢の岩稜にしがみついていたイワギキョウも
けれどあのとき そしてあのとき 千年の光と影と交わりながら
根かぎりの力でわたしは
まぎれもなく生きていることを証したのだ 万年の中を通過する一点として
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岳の響き('91.8 北穂山行、撮影は同行の若松郁夫氏)
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