マンション・アパティア

タナグラシティでもっとも高級だといわれるマンションの1つ
「アパティアハウス」。
シティ中心部に近く、しかも眼下には市民の憩いの杜・セントラ・パークを望むここには、
郊外に家を持つ金持ちの愛人をはじめワケありの住人が多い。
最上階に居を構えるリキもそんな一人だ。
彼をここに囲っているのは、金持ちは金持ちでもシティ一のエリート、
タナグラ市長のイアソン・ミンクであった。
泣く子も黙らせると、とかく陰での悪評にことかかない人物であったが、
その手腕は従来の市長の概念を破るものであり、
金髪をなびかせた優美な姿態に憧れるものも多く
カリスマの称号を欲しいままにしていた。

「リキ、どうした。ぼんやりして」
帰宅したイアソンは手袋を外しながら、
窓際のソファにもたれ、心ここにあらずといった様子のリキに近づいた。
「オレがどうしてたってあんたにゃ関係ないだろ?
オレだって考え事をしたいときだってあるんだ」
「ほほう、考え事とは珍しい。どうだ、それはこれより大切なことか」
と無理矢理押さえ込んで例によって例のごとく、早くもコトを強要しようとする。
「ま、待ってくれ」
慌てて、イアソンの腕からすり抜けるリキ。
「今日は24時間ここにいるんだろう?
そ、そんなにあせるこたないってイアソン。オレは逃げも隠れもしねぇ」
「何を考えていたか当てて見せようか。・・・また、あの隣の男のことだろう」
「・・・」
リキはびくとする。
「何にせよ、変わった奴らしい。私の情報網でもってしてもどこから現れたのか分からない。
保証人には文句なしの一流が名を連ねている。
もっとも金を積めば幾らでも保証人になる奴などいるが。
きっとどこかの辺境の星から来たんだろうが、それにしては金回りがよすぎるのは気にかかる」
「そ、そこなんだイアソン。どっかのじいさんの遺産が転がり込んだのか・・・何か悪いことでもやってやがるのか」
「そんなに気になるか?」
「そんなこたねぇけど。あいつ、自分は莫大な年金があるから・・って話してたらしいんだ。
あの若さで年金だなんて、おかしな話だと思わないかイアソン」
「ほお、それは誰から聞いたんだ?」
「アパティアに出入りしている宝石商さ。あのオリヴィエ・シェリダンとかいう」
「ああ、あの黒髪で細身の男か」
「あいつも隣りに出入り始めたらしいんだ」
「そうか・・・。それで?あの男・・・名は何といったか」
「クラヴィス」
「そうそう。そうだった。一度ここへ招待してみたらどうだ?
お前、よほど関心がありそうだし、私も、気になる。
コトと次第ではこのアパティアで暮らしてもらうのを遠慮してもらわねばならんからな」
アパティアは入居者を選別するために
あえて、オーナー制を採らず、全住戸を高額賃貸にしたマンションだ。
ここへ入居するにはなにより金、が必要なのだ。
しかし、イアソンは金と力に飽かせて、何でもやる男だ。
アパティアからの退去命令をなんの不審も抱かせずに発効することぐらい
わけなく、やってのけてしまうだろう。

「あら、ごきげんよう。リキくん」
「な、なんだ帰蝶か」
「なんだはごあいさつだね。ところでお宅の金髪の帝王様はお帰りになった?」
「その言い方はやめてくれ」
「あら、つい。ごめんなさい。褒め言葉なんですけどね」
「ああ、いましがたな。帰蝶は今日は公演は休みなのか?」
「いえいえ、私なしでは始まりませんよ、うちのステージはね」
「おい帰蝶。あんた、また新しいヤツ買っただろう」
「え?・・・ああ、これ?私たちの世界ではいかに自分を表現するかが命ですからね。装飾品もあたしの一部なんですよ。それにあの宝石商はいいものを奨めてくれるからね、つい。だけどリキくんが私のアクセサリーに興味を示してくれるとはね」
「カワゾエ ハルカ・・・」
「ああ、その部屋には住人はいまんせんよ。なんでも日本の大金持ちのわけありの御曹司らしいけど。ここで暮らすのを嫌って、ソーホーのアパートに住んでいるらしいですからね。なんでもカメラマンだとか」
「何でも良く知ってるんだなー、帰蝶は」
「はい。私は南の海賊から、北の刑務所の看守まで知り合いだけは多ございますからね。情報網はお宅の帝王様にも負けませんよ」
「じゃあ、あの新しく越してきたクラヴィスってやつのことは知ってるのか?」
「まあ、お目が高い。あのお方はですね」
「うん」
「実は・・・何にも知らないんですよ。まるである日、ふっとこの世に現れたようなお方ですねー」

つづく