マンション・アパティア・10
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クラヴィスの部屋のインターホンが鳴る。
手近な受話器を取るクラヴィスは今日はくつろいだ服装だった。
「リキか、入るがいい」
そして、解錠キーを押した。
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クラヴィスは珍しく光の射し込む明るい窓際に座していた。
「どうした、寂しくなったかリキ」
「なに言ってんだ。まだあれから何日も経っていない。
カッツエはしばらく休めって言うし、ちょっと退屈してるところだな」
「そうか。どうだ、茶でも飲むか?」
「いや、遠慮しとくよ。あの酒はオレには強すぎる。
それより、あんたにはいろいろ世話になったからな。ちゃんと礼を言っていなかったし。
あの水晶球で占ってくれたんだろ?オレとイアソンの居場所」
クラヴィスはそばにあったグラスをとって口元に運んだ。
こくりと上手そうに液体を飲み下すと
「ふ、大したことではない」
と言った。
「占い、できるようになったのか?」
「ああ。お前のお陰かも知れんな。
そうすると、私こそ、礼を言わねばならない、ということになる」
クラヴィスがわずかに唇の端を上げて微笑む。
リキは所在なげに立っていた。
「お前もそこに座ったらいい。たまにはこうしてゆっくり話をするのも悪くはない」
と、クラヴィスが椅子を勧める。
背の高いこの男は今日は深い色の長い衣装を身にまとい、くつろいだ姿で座っていた。
いつもと比べて一層神秘的な雰囲気だ、とリキは思った。
「あんたって、不思議な人だな。
なんだか、この世のものじゃないってのか、イアソンもそうだけど。
みんな、普通は自分のことで、目の前のことで精一杯なんだ。それが人間ってモンだよな。
だけど、あんたもイアソンも少し違っている。
ときどき、オレの解らない遠くを見つめている、ってのかな。
うまく言えねーけど」
リキはうつむいた。
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「だけど、今までずっとあんたの水晶球が映していたってのは、一体なんだったんだ?」
クラヴィスは考える風に顎に指を当てた。
「さて、何だったのだろう。
水晶球は私がある場所を離れてから何も映さなくなったのだ。
形あるものは何も・・・」
「形あるもの?」
「そうだ」
「じゃ、形のないもの?」
クラヴィスはくく、と笑った。
サクリア・・・これを常人に説明しようとしても無理であった。
「きっと、私の心の迷いと後悔が産んだ代物だったんだろう」
「迷い?後悔?
あんた、一人きりだと言ったけど、これまでどこに居たんだ?知り合いとかは?」
リキは思いあまって問う。
「私は、お前の知らない遠いところから来た。知り合いはすべてそこにいる。
だが、そこへは二度と戻ることは出来ないのだ」
「なんで!オレにはさっぱりわからねぇ。
何か悪いことでもしでかしたのか?」
「ふふ。特に、目立った悪いことはしていないな。職務怠慢となじられてはいたが・・・。
私は後悔していた、その地を離れたその時からずっと。
リキ、お前も気をつけることだな」
言葉には揶揄が含まれているとも思えた。
「クラヴィス。イアソンのことならほっといてくれ。
オレたちはこれ以上どうにもならね。
違いすぎるんだ。
あいつはタナグラ一のエリート、オレはスラムの雑種で、ペット同然。
あいつは支配する。でも、オレは支配されるのはまっぴらだ。
それに、それに、あいつは半永久的に生きてゆけるアンドロイドなんだぜ」
最後の言葉には哀しみの入り交じった吐き捨てるような響きが含まれていた。
「リキ・・・。
あの宝石屋を覚えているか。
あのとき、彼は。いや、彼らは消えた。
あの亀裂に身を投げたお前たちを救ったのは彼らだからな」
「あの・・・金色の獣?・・・夢じゃなかったのか」
「彼らもきっとお互いにかけがえのない存在なのだ。
言えるのは、自分にとって大切なものを見失うな、ということだ。
私も、もう少し早くこのことに気づけば・・。
だが、私はもう一度やり直せる方法を見つけた」
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