マンション・アパティア・特別編

「クラヴィス」
ようやく面会を許された者が、病室に入って行く。
クラヴィスは寝台の上で身体を起こしてはいたが
呆然とした様子で、瞳はあらぬ方向を眺めているようだった。
研究員が、女をクラヴィスのもとに案内する。
クラヴィスの瞳がその金色の髪の少女を認める。
いや、いまはもう少女ではない、美しく成長した一人前の女性であった。
「クラヴィス」
女性は喜びをかみしめるように、もう一度その名を呼んだ。
「お前は・・・誰だ」
クラヴィスが戸惑った表情で尋ねる。
記憶は保証できぬと研究員が言った。
女性はあらかじめ覚悟が出来ていたようで、
決して驚くことはなかった。
「あなたを探しました」
クラヴィスの寝台に近づくと
その上におかれた彼の手をそっと取り、自分の両手でしっかりと暖めるように握った。
「あなたが私をお忘れになっても、私は・・・。
もう、二度と離れません」
と微笑んだ。
クラヴィスはしげしげと女性を見つめた。
「それは私が言うはずの言葉だ、アンジェリーク」
女性の肩が一瞬震えたように見えた。
「私の水晶球が映していたものはやはりお前のサクリアだったのだな」
クラヴィスが問う。
「ええ、ええ。そうです。クラヴィス。私は宇宙の女王だったんですよ。
それくらい造作もないことです」
みるみる瞳からポタポタと涙がこぼれた。

アンジェリークとクラヴィスがラボを後にしようとするとき
新たなコールドスリープ装置が作動を開始したらしかった。
研究員が慌ただしく動いている。
その装置には不思議にナンバーもネームもうたれていなかった。
このラボ内に保管されるということは
それなりに意味・意義がなければならない。
普通の装置なら、大陸の専用施設に数えられないほど用意されているからだ。
しかも、担当者名のところにだけはくっきりとラウールの名が。
クラヴィスは、しばらくそこに立ち止まったが、
思い直したようにアンジェリークの手を携え、玄関へと向かった。

<完>

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