マンション・アパティア・2

リキはイアソンの商売の右腕と言えるカッツェに仕事をもらって
人並みに働いていた。
でなければ、リキは退屈で死んでしまいそうだった。
それでも、今日のような休日は、所在なさのあまり苛つくリキなのだ。
イアソンは今夜は、仕事で帰らない。
どこかの惑星と商売上の新たな取り引きを結ぶと言っていた。

「帰蝶?」
帰蝶は外出中のようだった。
カワゾエハルカはむろん不在。
あとは隣のクラヴィスしかいない。
アパティアの各フロアは広い。
さらに最上階は住居数が少ないため
それぞれの住居の入り口が離れている。
従って、隣りといっても
それなりに歩かなければならないのだ。

「私に何か用か」
クラヴィスの部屋の前で、後ろからかかった声にびくりとする。
振り返ると案の定、そこにはこの部屋の住人であるあの背の高い男が立っていた。
周りにはここ以外の入り口はないからごまかしようもない。
にしても、このフロアには大きな男が多い。
帰蝶も女のようななりはしているが、スラリと背が高い。
ついでに、見事な体躯をしているに違いないのがリキにはわかる。
イアソンは・・・。これは言うまでもない。
が、この男も。
「べ、別に用というワケじゃねぇ」
といいながら、その男が今日は珍しくきちんとスーツを着込んでいるのに驚いた。
「そ、その服は?」
「あ、ああこれか。私も人並みに職についたからな」
「職?だって・・・。あ、あんた年金で何不自由ない暮らしをしてるんじゃないのか」
「ほ、ほう、良く知っているな。
お前は隣に住んでいる、たしかリキ・・・くんといったな。
お前だってあの市長のお陰で働く必要もないのに、職は持っているだろう」
「!!」
(な、なんで知っているんだ?ほとんど、口を利いたこともないのに・・・)
「さては、帰蝶のヤツ」
「帰蝶?それは違うな。私は・・・。まあいい。
よければ部屋に入るか?今日は私の就職祝いだ。茶でもふるまうが、どうだ、リキくん」
「あんたにリキくんと呼ばれるのは、何かそぐわない気がする。リキと呼んでくれていいぜ」
「そうか。では、リキ。私の部屋へ来てみるか?」

一人暮らしには贅沢すぎるほどの広さと豪華さで彩られた部屋にリキは招き入れられた。
このマンションにはもとより家族で暮らす者などいない。
そういった人々はこんな都心では暮らさず、
もっと環境の良い郊外に庭のある家を持っているものだ。
「突っ立っていずに、そこに腰掛けたらどうだ」
クラヴィスはリキにサンテラス風に作られた明るい窓際の椅子を勧めた。
テーブルに酒らしいものが注がれたグラスが置かれる。
「こ、これがあんたの言うお茶なのか?」
「ふ、いやなら、いいぞ。なにかデリバリーを頼もうか?」
「い、いや、これでいい」
リキは恐る恐る口をつけてみる。
強くはあるが、普通の酒には違いない。
上着を取ってくつろいだ男はリキと反対に光の届かぬカーテンの引かれた一角に腰を据え、
リキの様子を眺める。
「ふふ、別に毒が入っているワケではないから、安心するがいい。
それとも、何かそんな心当たりでも?」
リキは内心ドキッとした。
リキはともかく、イアソンを逆恨みしているヤツは五万といるからだ。
中には毒の一つも盛って暗殺してやろうというヤツだっているかも知れない。
だけど、イアソンには悪運ってヤツがついている。
「んなことはねぇけど。あんた、どっか遠くの辺境の惑星から来たんだろ?
オレもいろんな星から来たヤツを見たことがあるけど、
見た目変わらなくても、みんな恐ろしく生活習慣が違うからな」
「ほお。私が辺境の星から来たと?」
「違うのか?それよりあんたこそ、どうしてイアソンやオレのことを知っているんだ?」
男はそれに答えるように視線を部屋の片隅に転じた。
リキは驚く。
そこには妖しいジャンク屋で見かけそうな
白く輝く水晶球があったのだ。

つづく