マンション・アパティア・6

コールドスリープは前時代的な装置だった。
すでに宇宙船にもそんな装置を搭載したものはない。
現在の宇宙航行はまったく異なる原理で行われており
時間を管理する必要がなかったのだ。
何より、その装置が開発途中で廃れたには理由(ワケ)があった。
コールドスリープ解除後には記憶の欠落が見られたのである。
それなのに、今更なぜ。
「不治の病の人間をコールドスリープで未来へ送る。それなりに意義のあることだ」
イアソンは言った。
「それに未来にかけたい死にそうな金持ちは五万といるからな。
きっと冷たいベッドは早晩予約であふれかえることになることだろう」
ニコリともせずにイアソンは付け加えた。

「あんた、永遠の命って・・・どう思う?」
リキはクラヴィスに言った。
「永遠?」
クラヴィスは、ふと笑ったように見えた。
「くだらんな」
聞こえるか聞こえなきかの小声。
「あんたの水晶球。未来とかは読めないのか」
リキは恐る恐る聞いてみた。
リキは先日のショッピングの成果を確かめにクラヴィスの部屋にやって来たのだった。
クラヴィスは特に嫌がる風でもなくリキを招き入れ
膝の高さほどの小さな木製テーブルに置かれたポットを見せた。
ポットの上部には小さな皿が置かれ、下にはアルコールランプが。
いわゆるアロマポットという品物だ。
白檀が探せなかったため、リキが奨めて購入させた1セットだった。
「悪くないな、この香り」
「ふ、そうか。ラベンダーだそうだ。よく眠れるらしい」

「私の水晶球は、今はある一つのものしか映しださぬ」
クラヴィスの表情はわずかに曇ってみえた。

その夜、自分の寝室でリキは思いを巡らせた。
ひとまず、気になっていたことは確認できた。
お笑いといえばお笑いだ。
そんなことをするようなヤツじゃないのは、はなから分かっていたような気もした。
「一体、何を映してるっていうんだ」
リキは次なる疑問に捕らわれている。
だが、それは聞いてはいけないことのような気がした。
今晩もリキは一人だった。イアソンは来ない。
しかし、どんなに忙しくてもビデオホンで
きちんと連絡を入れてくるところは感心といえるほどだったが。
「タナグラ一のエリートが・・・なんで」
と言いつつも悪い気はしなかった。
リキが逃げる素振りを見せなくなって、
イアソンも随分、落ち着き、以前のようにひどい目に合わせることもなくなった。
それなりにリキには自由も与えられていた。
それでも、ここにいる間はお構いなしに四六時中、おもちゃにされるのはかなわなかったが。
何といっても相手は疲れることを知らないセクサロイドだ。
イアソンは温もりを感じさせる肌をしていた。
十分な肩幅のある後ろ姿、しなやかな筋肉を感じさせる背中から腰に掛けての稜線。
リキは決して嫌いではなかった。
思い出しては、赤くなる自分が滑稽な気もした。
そこにビデオホンが鳴った。
もはや、深夜と言ってよい時間だった。

アパティアからリキが姿を消した。

「こいつか」
「ああ、軍務尚書の見込みには間違いはあるまい」
「こいつを餌にあのブロンディをおびき出すわけだな」
「こんな小さな惑星だが、科学力は恐ろしいものがある。同盟の前に叩いておくのは正解だ」
リキはイアソンの名で簡単に騙され、
アパティアを出たところで待ちかまえていた偽装車に拉致された。
後ろから殴打され、舌打ちをする暇もなかった。

つづく