クラヴィスの憂鬱<番外編>

「それでは、そろそろ始めましょうか」
ディアがにこやかに守護聖と二人の女王候補に声をかけると、
それまで、にぎやかだった聖殿内集いの間のざわめきは一瞬のうちに収まり、
総勢11人の表情に一斉に緊張の色が走った。
「始める・・って・・・もしかしたら・・・また・・ですか?」
恐る恐る聞いたのは、ランディだった。
「ええ、もちろんです。今回の公演もおかげさまで大好評。女王陛下も飛空都市で働くみなさんも大喜びでしたものね」

(その数分前のこと)

集いの間では、盛大な打ち上げパーティーが行われていた。
正面の横断幕にまぶしく光り輝く
「祝・第1回守護聖一座 〜クラヴィスの憂鬱〜 公演成功祝賀会」
の大文字。守護聖一座の座長に祭り上げられたジュリアスは苦々しい思いで眺めていた。
飛空都市で働く人々を慰労しようと、ディアの発案で始まったこの舞台、
ジュリアスは反対はしなかったが、練習がスタートしてすぐに後悔した。
まず、タイトルが気にくわん。
クラヴィスの憂鬱?・・・。
憂鬱なのはわたしだ・・・。
「なぜ、あやつが生き残って、私が死ぬ役回りなのだ」
セリフも多いし、何といってもやったことのない立ち回りまでやらされた。
執務が終わって、夜な夜な練習を重ねた自分の姿が・・・
ああっ(泣)。
ならば、せめて得意の乗馬場面を入れてほしかった・・・と思うジュリアスだった。

ジュリアスは女王陛下からオスカーをプレゼントされた。
(あのオスカーではありませんよ、念のため)
「最優秀助演男優賞」なのだそうだ。
ますます気に食わん。
助演男優賞がではない。あのほとんどな〜んもしなかったクラヴィスが「なぜ・・・なぜ主役扱いなのだ」

「しかし、わたしは3役演じたぞ」
ジュリアスの心を見透かすようにクラヴィスが言った。
・・・クラヴィスと・・・ダウスと・・・ジュリアスは心の中で指を折った。
・・・もう一人は・・・・。んむむ・・・・もう、ひとり・・・は・・・。
「新しい、ほれ・・・」
クラヴィスは促すように言った。
「新しい?・・・。おお・・・新しい闇の守護聖か」ポンとジュリアスは手を打った。

しかし、ジュリアスはしばらくして気づいた
あれは・・・確か・・・一言もセリフがなかったはず・・・。

「では、前回と同じように、守護聖のみなさま方はあみだくじで
女王候補二人はじゃんけんで・・・主役を決めましょうね」
暗い表情の11人とは裏腹に、ディアは楽しそうに言った。
前回、負けたロザリアとジュリアスはそれぞれ手を打っていた。
昨夜のうちに、占いの館に寄って、サラにおまじないをしてもらってきたのだ。
「ジュリアスの心、あみだくじの神さまへ届け。ラブラブフラーッシュ!!」
「ロザリアの心、じゃんけんの神さまへ届け。ラブラブフラーッシュ!!」
相性は5ポイントはアップしているはずだった。

見事、ジュリアスとロザリアは主役の座を勝ち取った。

聖殿の自分の居間でディアは新しい公演のシナリオづくりに余念がなかった。
「これは、すごい・・・絶対にいけるわ」
ディアは一心不乱にワープロに向かい、翌朝には1冊の台本が完成していた。
とても満足そうなディア。
「一度、見てみたかったのよね・・・あのお二人の・・・」
ディアはこらえきれず含み笑いをした。

翌日からさっそく全員を巻き込んで、次なる公演へ向けて、ハードな舞台練習が開始された。
その公演のタイトルは・・・『緋のジュリエット』・・・。
ロミオにとり憑かれた闇の守護聖とジュリエットにとり憑かれた光の守護聖の悲劇のラブロマンスだった。
クラヴィスの腕の中で石像のように固まるジュリアス・・・。
誰か、ディアを止めてくれ(泣)
ジュリアスはそう願うばかりだった。

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