クラヴィスの憂鬱<番外編・2> 〜メイキング・オブ・緋の・・・エット〜

「ねえねえ、見た?ゼフェル」
「あ、ああ。見てしまったぜ、マルセル」
「ジュリアスさま、真っ青じゃなかった?」
「真っ青どころか、コチンコチンに固まってて、もう少しで卒倒するんじゃないかと思った」ランディも声は低いながらも同調。
そして「ああいうのは、クラヴィスの方が全然上だよな」ゼフェルが言っちゃならないセリフをしみじみ付け加えた。

『緋のジュリエット』の舞台稽古が繰り広げられていた。
そして、物語は佳境に向かいロミオ・クラヴィスがジュリエット・ジュリアスをその腕にとらえたところで様子が急変した。
二人はにらみ合ったまま、動かなくなったのだ。
いや、にらみ合っていたわけではない、ジュリアスが一方的に固まったように動かなくなったのだ。
しばらくは様子が測れなかったディアがようやく異変に気づき、
二人にブレイクを掛けたとき、すでにジュリアスは白目をむいていた。

「お気づきになられましたか」
オスカーが心配そうに見つめている。
「まったくディアさまのご酔狂にもあきれるばかりですね」と同情。
「ジュリアスさまのお相手はこのオスカーと決まっているのに」

ジュリアスはあのとき、立ったままで失神していた。
かろうじて立っていたのは、さすが光の誇りがなせる最後の究極ワザといえる。
急いで駆けつけた炎の守護聖の力で、失神を知られることなく無事場外となった。

「何とかしなければ・・・」
あとに引くのは光が司る誇りが許さなかった。
「きっと、この試練乗り越えてみせる。おのれ、クラヴィス」
悠然とかまえていたクラヴィスを思い出すだけで、あのとき傷ついたプライドがじんじんと疼いた。

「クラヴィスさまは大丈夫でしたか」
そうリュミエールは問う。
「ふっ・・・。なかなか面白かったぞ・・・」
クラヴィスは余裕の笑みを浮かべた。
「次の稽古が楽しみだ」とジュリエット・ジュリアスの金の髪を思い浮かべた。
「・・・」
「なにか言ったか、リュミエール」
「いえ、なにも・・・」

そのころジュリアスは執務室にクラヴィスの顔写真を貼りつけ、
できるだけ顔を近づけるという、見るも恐ろしい特訓を続けていた。

こうして数千人の観客を迎えて『緋のジュリエット』の幕は上り
いよいよその場面を迎えた。
みなが固唾をのんで見守る中、
クラヴィスの大きな腕がジュリエット・ジュリアスを抱き寄せた。
『まねごとだけでよいですよ・・・あくまで失神などなさらないように・・・』
心配そうなディアが最後に言った。
ジュリアスはすでに目が泳いでいた。
口元は絶えず動き、なにか呪文のようなものを唱えている。
「私は常に冷静だ」「私は常に冷静だ」・・・・・
「クッ・・・」クラヴィスは笑った。
そして、うるさい蠅のようにぶんぶんと呪文をとなえるジュリアスの口元に向かってぐいと顔を近づけ・・・
ちゅーーっと吸った。

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