ジュリアスは気絶することなく何とか面目を保った。
「ひゃー、なんかリアルだったよな、ゼフェル」
「おー、まるでホントにしてるみたいだったぜ、ランディ」
「二人とも、やめてよ。そんな話」
あるまじき会話を交わす守護聖たち。
とはいえ、不幸中の幸いはあの場面を見た者がまねごとだったと信じていることだった。
☆
「あれ以来どうもクラヴィスと会うと調子が悪い」
クラヴィスの顔、表情、所作などにあのときの情景が浮かんで、
ジュリアスには我慢ならない不愉快さでつきまとった。
ふっと冷笑を浮かべるその唇に目が止まったときなど
意に反して顔が赤らむのを感じる。
そんな自分をジュリアスは決して許すことができなかった。
それに、
「ほかの守護聖や飛空都市の人々はいい」
問題はオスカーとリュミエールだった。
あの日から二人のジュリアスを見る目が違うような気がしてならない。
特に・・・
リュミエールの斜め45度の流し目には油断がならないものがあった。
☆
「こんなことでは、大切な女王試験が・・・」
とにかく、全てさりげなく流すしかない。意識すればするほどおかしな具合だ・・・。
クラヴィスにもリュミエールにもオスカーにも平常心で対応するのだ。
「そう・・・・」
人の噂も四泊六日と言うではないか・・・。
(それはハワイ旅行だ)
こうして、ジュリアスの執務室の壁にはさらにオスカーとリュミエールの写真が加わった。
☆
「ジュリアス」クラヴィスはジュリアスの寝顔を見てクスと笑う。
艶やかな髪が波打ち、顔の半面をおおっている。
ゆるやかに閉じられた瞳。誘うようにうすく開いた唇からはかすかな寝息が漏れ聞こえる。
「日頃の怒声とはうらはらだな。そうしていると、お前はなかなか愛しい・・・」
そう言いながら、ベッドから立ち上がり、窓へ向かいカーテンを開けた。
まぶしい朝の光が射し込む。
☆
「うわっ!」ジュリアスは大きな声を立てて目を覚ました。
肩でぜいぜいと息を吐く。
「な、何だ今のはっ」
辺りを見回すとそこは執務室。ジュリアスは己の執務室の椅子で居眠りをしていたのだ。
ゆ・・夢だったのか。
・・・よかった。
ひとまず、ほっと息をつく。
ふと、後ろに気配を感じて目をやるとリュミエールが立っていた。
心臓が口から飛び出すジュリアス。
「随分、よくお眠りのようでしたが・・・」
「な、何用だ」
背後から・・・と喉まで出かかった言葉をかろうじて飲み込んだ。
「オスカーの代わりに頼まれた書類をお届けに参ったのですが、よくお休みのようでしたので・・・しばらくここで待たせていただきました」
「・・・」
しばらく・・・とは一体どのくらいなのか。つくづく何を考えているか分からぬやつだ。
「随分、うなされておいででしたが・・・・確か、クラヴィスと何度も叫ばれて・・・」
「・・・わたしが・・・か?」
☆
そういえば、最近よく執務室で居眠りをするようになった。
ジュリアスはハッとする。
「ま、まさかクラヴィスが」
執務室のドアを荒々しく開けて、クラヴィスの執務室へと向かう。
☆
クラヴィスはびっくりしたような表情をみせた。
「何事だ・・・」
いつにも増して恐い顔をして・・・と言いたいところをクラヴィスはぐっとこらえた。
「そなたに訊きたいことがあるのだ」ジュリアスはクラヴィスに詰め寄る。
「まさかと思うがそなた自分のサクリアを個人的なことに使ってはいないだろうな」
「・・・」
「クラヴィスっ!」
「なんだ、そんなことか。どうせならもっと面白い話題にしてくれぬか」
「私の質問に答えろ!」
ジュリアスはさらに怒気を強める。
「・・・最近、私の顔を見ると避けておったくせに・・・今日は大した勢いだな」
「ええい、うるさい。とにかく、万一にも心当たりがあるとするなら、今日、この場限りで改心し二度と決してするな」
「二度と・・・決して・・・か」
「その通りだ。個人的に力を使う。それは禁忌だ。たとえ女王陛下がお許しになっても私が許さん。未来永劫に」
「・・・ほお、そこまで言うか」
「ああ!分かれば今日は退散してやる。やめると言え」
「・・・ああ、分かった・・・やめよう」
「よし」
ジュリアスはクラヴィスを睨み付けると再び、足音も高く執務室の外へ向かった。
ドアが壊れんばかりの勢いでバンと閉まった。
☆
呆然とするクラヴィス。
「なんと、元に戻ったか」
最近、廊下ですれ違ってもこちらを見ずに通り過ぎる。
話しかけようとしても、さっと後ろを向いて逃げるように去る。
そんなジュリアスの態度にさすがのクラヴィスも閉口していた。
確かに安らぎのサクリアを送り続けたのは自分だった。
「私が持つサクリアはそれしかないのだから・・・仕方がなかろうジュリアス」
様子のおかしいジュリアスのためにサクリアを送る。
クラヴィスの精一杯の気持ちではあったのだ。
☆
しばらくしてクラヴィスは呆然から立ち直る。
「ふう」とため息を付く。
翳りのあるお前の表情など見たくはない。
「久しぶりの怒りのサクリア・・・」
クラヴィスはクスと満足の笑みを浮かべた。
「心地よかったぞ・・」
完