大好き!クラヴィスさま 妄想編・2

〜王宮に咲く華〜

焦土作戦とともに勝ち得た勝利。
わきかえる宮殿の大広間にあって
私は華やぎと裏腹の孤独と絶望にとらわれていた。
ここ数年、昼夜なくさいなまれていた怨念は晴らした。
敵国の王の首は討ち取った。しかし…私はこれから…。
「どうなされた、王子。そのように深刻な顔をされて」
話しかけてきたのは、遙か異国から訪れた使者。
長い黒髪に神秘的な紫の瞳。
明らかに武官ではない優雅さが宮殿の中で異彩を放っていた。
こちらを見つめる瞳に目を移すと
懐かしいものが背中を走る。
穏やかな闇色の瞳。
その奥に秘められた優しさが私の胸を揺さぶった。
「似ている…」

二年前、隣国の王宮の広間で私はその運命の人と出会った。
「ここはラベンダー城と呼ばれているのですよ。この堀を渡ると一面にラベンダーの咲く丘があって」
そう言いながら、隣国の王子は私のグラスに手を伸ばすと
紫の花びらを幾片か浮かべた。
「どうぞ」
「…」
「恐いですか?大丈夫ですよ。今夜ぐっすり眠れるように。ふふ。今はまだラベンダーの季節ではありませんからね。こうして乾燥させたものを使っているのです」
「…」
「しかたがありませんね」
躊躇している私を口の端で笑うと王子はそのグラスを手に取り半分ほど空けた。
「これなら、安心でしょう。王子、あなたが思っているほど我々は身の程知らずではありません。隣国にまで名を馳せるあなたの武勇。私たちは同盟こそすれ、逆らう気持ちなど毛頭ありませんからね」
私はグラスに手をかけた。
ラベンダーのきつい香りが鼻を突く。
一気にあおる。
「…まずい」
王子は華が咲いたようにけらけらと笑った。

私はその夜、人目を避け王宮の奥へと進んだ。
行く先々で甘いラベンダーの香りが私の道案内を務める。

宮殿の奥深く、見事なまでに造り込まれた寝室。
王子はいた。
薄ものをまとい、ベッドに片膝をたて優雅な姿で座していた。
私の姿を見ると嫣然とした微笑みを浮かべる。
「来ると思っていました」
私はベッドの側へ歩み寄ると片膝をつき王子の手をとり口づけた。
「ラベンダーは役に立ちましたか。外の衛兵を眠らせておいたのは私です」
艶やかな瞳が、燭台の明かりを映して
えもいわれぬ色香を発散している。

私たちはその日初めて会い、初めて恋に落ち、初めての一夜を過ごした。

王子は美しかった。
金の髪のはしからのぞく瞳は穏やかで
艶やかな知性の輝きを放っていた。
しかし、武勇をもって長らえるこの時代にあっては
そのような王国は周辺諸国の格好の餌食でしかない。
それから数ヶ月後
同盟を結んだ我が国が急を聞きつけて隣国に至ったとき
すでに、王宮は制圧され、王子は還らぬ人となっていた。

涙に暮れた数日のことは何も覚えていない。
ただ、わかるのはきりきりと私を苛む後悔と燃えさかる復讐心だけだった。

しかし、それも果たしてしまった今、抜け殻とはよく言ったものだ。
何を見ても何も感じることのできない空っぽの自分を
見つけただけだった。
「ラベンダー城と呼ばれているのだそうですね」
その使者は何を考えているのかうかがい知れぬ表情で言った。
私はゆっくりと我に返った。
私は取り返したのだった、敵国からこの王宮を。
王子との思い出のこの場所を、二年の歳月をかけて。
この王国を滅ぼしたのは、さらにこの東にある強大な国であった。
その国に刃を向けるのは狂気とまで
人々に言わしめたが、
もはや私を動かすのは狂気以外何者でもなかった。
悪魔と契約を交わしてもかまわない、この切り刻まれた心が癒やされるなら。
邪を喰らい、魔を飲み下して、私はその敵国へ攻め入った。

穏やかな紫の瞳。
私はグラスを傾けながら、酒の味がぴりぴりと脳髄を刺激する心地よさに
久しぶりに浸っていた。
「これは…」
長い間、忘れていたものが血流となって流れ始めるのを感じる。
ようやく次のことへと目を転じることができる。

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